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百はな

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第4章 Jewelry Pupil 狩り

43.狩られる者達 V

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九条家本家ー

九条家本家の周辺には、数台のパトカーに救急車、消防車が止まっていた。

運び込まれている組員や、事情聴取をされている組員がちらほら見えた。

タタタタタタタッ!!

「八代(やしろ)警部補、槙島(まきしま)警部補、こちら異常ありません!!負傷者は全員、病院に搬送しました!!」

「了解、市民の避難誘導を引き続き頼む。」

「分かりました!!」

警察官は八代和樹(かずき)に向かって、敬礼をして行った。

「和樹さんって、面倒見良いですよねぇ。」

「は?急に何だよ。」

「いや、警官達が和樹さんの事をよーく慕ってるなと思いまして。」

槙島ネネはそう言って、ポッキーを口に運ぶ。

「おい、お菓子を食うな。一応、ここは現場なんだぞ。」

「良いじゃないですか。それに、使うと甘いものが欲しくなるんです。」

「はぁ…、仕方ないな。アイツから連絡は来たのか?」

槙島ネネの隣に移動した八代和樹は、ポケットから
煙草を取り出した。

「来てない。けど、九条美雨ちゃんの所に辰巳零士達が到着したみたい。後、矢野薫は大丈夫そうね。」

「"見えたのか"。」

「うん。和樹さんも、ちょっとは見えるようになったでしょ。まだ、Jewelry Wordsは使えないみたいだけど。」

「変な感覚だ、脳に映像がフラッシュバックするような…。どう説明したら良いか分からない。」

カチッ。

煙草の火を付けた八代和樹は、煙を吐いた。

「思いの外、早く第1段階に進めて良かったです。和樹さん、私の事を信用してくれてるんですね。」

「第一段階?何だ、それ?」

「あ、ちゃんと説明していなかったですね。覚醒段階の事。」

槙島ネネはそう言って、八代和樹の顔を見つめた。

「騎士(ナイト)との関係性が深くなる事を言います。まず、0段階はJewelry Pupilだけが能力を使える事。第1段階はパートナーとの信頼関係を作り、Jewelry Wordsの力を体に流させる事です。今、和樹さんの体に私のJewelry Wordsの力を体に流しています。」

「今、槙島が俺の体に流してるのか?ど、どうやって?」

「キスしたじゃないですか?それです。」

槙島ネネの言葉を聞いた八代和樹は、納得した。

「キスだけで、Jewelry Wordsを使えるようになるのか?」

「だからこそ、信頼関係が大事なんです。話を続け
ますね?第2段階は騎士に好意を向けられた時、私達のJewelry Wordsの能力が増幅し、騎士だけでも
使えるようになります。」

「好意…。Jewelry Wordsの力が増幅し、俺にも使えるようになるって事か。」

「はい、そうです。最後の第3段階は騎士との想いが繋がった時、Jewelry Pupilは覚醒する。覚醒したJewelry Pupilと騎士は、運命共同体になる。つまり死と隣合わせになります。それと引き換えにJewelry Wordsの力は神の領域に行きます。」

その言葉を聞いた八代和樹は、思わず煙草を落としてしまった。

「ちょ、ちょっと待て。神の領域って何だ!?お伽話か何かでしか聞いた事ないぞ!?」

「え、驚く所はそこ?死と隣合わせの所はスルー?」

「もう、訳が分からん…。」

「まぁ…、最初はそうですよね。私もアイツから聞いただけですから。でも、実際に和樹さんは少しずつ使えるようになってきます。それに、九時美雨と
辰巳零士は第3段階に行きますよ。」

槙島ネネはそう言って、ポッキーを噛み砕いた。


CASE 四郎

「四郎、倉庫の中に美雨ちゃんと誰かいる。」

「どうする?辰巳さんは、あの男の相手してるし。」

三郎とモモが俺に意見を求めて来た。

倉庫から嫌な感じがする。

それは三郎やモモも感じているようだった。

「美雨ちゃん以外にもJewelry Pupilの気配を感じるね。倉庫に入ったら右に避けて、攻撃が来る。」

「了解。」

カチャッ。

トカレフTT-33を構え、モモの手を引き倉庫の中に突入した。

入った瞬間、俺はモモを抱き上げ右に避けた。

ビュンッ!!

赤いレイザーが俺達に向かって放射された。

キィィィン!!!

三郎が近くにあった物を投げ、レイザーの放射を塞いだ。

足元をよく見ると、赤いレイザーのセンサーが幾つか配置されていた。

「やぁ、よう来たなぁ。」

聞き覚えのある声がした。

声のした方に視線を向けると、玉座に座らされている美雨の隣に二見瞬とガキがいた。

「美雨ちゃんに何したの。」

血だらけの美雨を見たモモは、声を震えさせながら呟いた。

ドゴドゴドゴ!!

モモの髪がフワッと浮き上がると、倉庫内の物が音
を立てて浮き始めた。

「おっと、そんな事して大丈夫か?」

二見瞬はニヤニヤしながら言葉を放つと、双葉が美雨に触れた。
フワッ。

眠っている美雨の体が宙に浮いた。

「双葉が手を下ろしたら、この子落ちちゃうよ?そしたら、レーザーに当たって死んじゃうね。」

「どうしたら良いか、モモちゃんなら分かるやろ?この子が大事やもんなぁ?」

二見瞬と双葉は嫌な言葉をモモに聞かせる。

「この…、糞野郎。」

「四郎、ちょっとやってみたい事があるんだけどさー。良い?」

三郎が子供みたいな顔をしてくる時は、やりたくて仕方ない時だ。

こうなった三郎は、俺の意見を絶対に求めくる。

それがどんな答えだろうが、三郎は従う。

もう、何年も前からそうなっている。

「二見瞬を止めて来い、三郎。」

「フッ、了解。」

三郎は一呼吸し、刀を構え直した瞬間だった。

ビュッ!!!

三郎が走り込むと、一瞬にして二見瞬の目の前まで到着した。

「はぁ!?三郎君、普通の人間やろ!?」

「あははは!!驚いてる、驚いてる。そのまま、死んでくれ。」

笑顔を消した三郎は刀を振り下ろした。

グサッ!!

「なーんちゃって。」

三郎が斬ったのは、壁に貼り付けにされていた死体だった。

「瞬!!お前、殺す!!!」

双葉はそう言って、カッと目を見開いた。

その瞬間、モモが双葉に向かってドラム缶を飛ばした。

「危ないなぁ…。」

バッ!!

二見瞬が双葉を浮かせ、自分の方に寄せて三郎から距離を取った。

「美雨!!!」

振り返ると、辰巳さんが立っていた。

「待てやぁあぁぁぁぁぁああ!!!」

辰巳さんの後ろから、血だらけの男が叫んで走って来た。

俺は男に向かって、何発か撃ち動きを止めようとした。

ブシュッ、ブシュッ!!!

男は銃弾を撃たれても足を止めずに走って来た。

「俺を無視してんじゃねぇぅぇ!!」

「た、つみ…。」

男の声で目を覚ました美雨は辰巳さんに手を伸ばした。

「お嬢!!!」

「美雨!!!」

辰巳さんと男の声が合わさった。

「お嬢を下せ、二見。」

「えー、嫌。だって、美雨ちゃんは必要やもん。あーでも、椿から伝言を預かっとる。」

二見瞬は咳払いをし、言葉を放った。

「美雨ちゃんの騎士はどちらかはっきりしてもらうってさ。」

「どう言う意味だ。」

「言葉のまんま、蘇武か辰巳君のどちらかが先に美雨ちゃんを迎えにこれるか。ゲームだよ。」

それが椿の目的なのか?

美雨を攫った理由はこれだけなのか?

何かが引っ掛かる。

どうして、椿はあっさり姿を消したんだ?

「僕は見届け人として、ここに残ったんや。どや?やるやろ?」

「あははは!!!どっちが本当の騎士か決めようぜぇ!?」

男はゲラゲラ笑いながら、美雨を見上げた。

「辰巳、ダメだよ!!そんな事したらダメ!!!」

「お嬢、大丈夫です。」

「辰巳…、ダメなの。」

美雨は何か言いたそうにしている。

だが、それが何なのか分からない。

「なら、四郎君達は壁の端に移動した方がええで?」

「は?」

「君等の事は今日は襲うつもりはないで?椿の命令やからな。観客は大人しく端により。」

二見瞬は何を訳の分からない事を言っているんだ?

俺達を襲うつもりはないだと?

この状況は二見瞬にとっては良い機会の筈だ。

「四郎、端に寄った方が良い。あのセンサー、機械ごと動くみたい。」

三郎がコソッと耳打ちして来た。

成る程、だから辰巳さんとこの男を戦わせようとしてるのか。

辰巳さんと男、もしくは両方死ぬ可能性がある。

これを椿は計画していたのか。

辰巳さんが死ねば美雨を好きに出来ると踏んだのか。

「双葉、美雨ちゃんを座らせて。」

「分かった。」

双葉はゆっくりと美雨を下ろし、玉座に座らせた。

ガガガガガガガッ!!!

ウィーン。

レイザーのセンサーは美雨に当たらないように作動された。

「成る程、椿の野郎は俺達両方を消すつもりか。」

「辰巳…。」

美雨は辰巳さんの方を見て泣きそうになっていた。

「お嬢、体は大丈夫ですか?すいません、こんな目に合わせてしまって。」

「辰巳、お願い…。お願いだから、死なないで…。」

「大丈夫です、お嬢。俺は死にません。迎えに行きますから、待ってて下さい。」

「辰巳…。」

辰巳さんはそう言って、動くセンサーの間を潜り抜けた。

ウィーン、ウィーン。

「このセンサー、かなり精度が良いよ。髪の毛一本でも反応するよ、辰巳さん。」

「だろうな。」

三郎の言葉を聞いた辰巳さんは、返事をしながら前に進んでいた。

ビー!!

ブジャァ!!

「は、は?」

「な、何で…。動けんだあの男。」

俺と三郎は目を疑った。

何故なら、センサーに当たり体に小さな穴が空いているのに男は動いているからだ。

「ゾンビかよ、あの男。」

「ドラック決めてるだろ、蘇武。」

「あははは!!椿が飲ませた薬、やべーよ!?全然、痛くねぇんだよ!!あははは!!」

男は狂ったように大きな声で笑い出す。

「背中がガラ空きなんだよ!!」

グサッ!!

男が笑いながら辰巳さんの背中に向かって、ナイフを刺した。

「グハッ!!」

辰巳さんの口から血が吐き出た。

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!辰巳、辰巳!!!」

美雨が手を伸ばし、男の体を赤い鎖で拘束しようとした時だった。

ビュンッ!!

ブシャッ!!

手を伸ばした指先に赤いセンサーが当たり、美雨の指先から血が噴き出た。

「お嬢!!駄目だ!!力を使うな!!!」

「嫌だ、嫌だ…!!」

「美雨!!」

「っ!!」

辰巳さんの大声を聞いた美雨は、ビクッと体がビク付いた。

「美雨、俺が約束を破った事は…ないだろ?」

「ヒック、ヒック…。ないよ、ないけど…。」

「俺は大丈夫です。」

「余裕そうだなぁ、辰巳!!!」

グサッ!!!

男は容赦なく辰巳さんの体を切り付ける。

「やめて、やめて!!!」

「やめねぇよ、美雨。コイツがいたら、美雨はいつまでも俺の物にはならないだろ?」

この男はどこまでも、気持ち悪い男だな。

ギュッ…。

モモが俺の手を握る手を強くした。

辰巳さんは切られながらも前に進んでいる。

「辰巳は負けるんだよ、俺に俺になぁ!!あはは
は!!!」

「…けない。」

「あ?」

美雨は泣きながら男を睨み付けた。

「っ!?み、美雨?何で、俺を睨むんだよ?そ、そんな顔をした事ないだろ?なぁ…。」

「負けない…、負けないもん!!」

「み、美雨?辰巳はほら、見てみろよ?血だらけだ
ろ?お、俺はこんな風なのに動けてるんだ…。だ、だから辰巳はこのままだと、死ぬんだよ?」

男の言う通りだ。

辰巳さんは今、立ってるだけで精一杯の筈だ。

もう、センサーが体に掠っても気にしていない。

辰巳さんの瞳には美雨しか映っていないのだから。

何だよ、これ。

胸が苦しい。

俺は自分の胸を押さえた。

「四郎?」

「何だ、この重い感じは…。」

「四郎…、私と同じ気持ちを感じてるの?」

「同じ…気持ち?」

モモはそう言って、俺の顔を覗き込んだ。

「四郎、その気持ちは私もしてるんだよ?」

ドクンッ!!

心臓が高鳴った。

こんな気持ちは俺は知らない。

知らない筈なんだ。

美雨は泣きながら何度も叫ぶ。

「辰巳はお前になんか負けない!!辰巳は、辰巳は負けないんだから!!」

「な、何で?何でだよ、美雨!!?どうして、どう
してコイツが良いんだよ!?なぁ!!?」

「美雨は…、美雨は…っ、辰巳が好きなの!!」

ガクッ!!

辰巳さんの体が大きく揺れ、膝が崩れ落ちる。

「ほ、ほら!?辰巳は死ぬぞ!?死んだら俺を好き…。」

「辰巳、死なないで…!!!美雨を置いて死なないで…。辰巳、勝って…。勝って、辰巳!!!」

「な、何でだよおおおおお!!!」

「うるせぇ…。」

グサッ!!!

「ガハッ!!」

「お前には負けねぇ。これからもこの先も美雨は俺のものだ。」

辰巳さんはそう言って、男の首筋に刀を振り下ろした。
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