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第3章 赤く黒く染まる
32.混乱
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CASE 四郎
「ゴホッ!!ゴホッ、!!」
九龍会の本家を出た俺は、思いっきり咳き込んだ。
「四郎、大丈夫?」
「ゴホッ!!あ、あぁ。車に戻るぞ。」
「う、うん。」
俺はモモの手を引き止めてある車に乗り込む。
車のドアを開けると、車内には七海しか居らず二郎がいなかった。
「四郎!!無事?」
「まぁ、何とかな。それより、モモに水を飲ませてやってくれ。」
「分かった。」
七海はそう言って、水のペットボトルの蓋を取りモモに渡した。
「二郎はどうした?」
「五郎を回収しに行ったんだけど…、途中で通話が切れちゃったんだ。」
「警察が集まって来たな。」
ウー!!
サイレンの音を聞いて、警察が九龍会の本家に集まって来たのが分かった。
二郎が幸いに、九龍会の本家から離れた距離に止め直したお陰で、警察と鉢合わせにならなかった。
バンッ!!
勢いよく後ろのドアが開かれた。
「はぁ、はぁ。急いで戻るぞ!!」
「五郎!?ボロボロじゃんっ、意識はあるの!?」
二郎に担がれている五郎は血塗れだった。
「今は意識は無いよ、それよりも急いで爺さんの所に行かないとヤバイ。四郎、五郎を寝かせて。」
「あ、あぁ。」
五郎の奴、ヤバイんじゃないか?
「ちょっと待ってよ、一郎と六郎はどうすんの?置いて行くの。」
七海は運転席に座った二郎に尋ねた。
俺達は六郎を助ける為にここに来た。
なのに、一郎と六郎を置いてここを離れると言う事は…。
「見捨てるの。」
「二郎、車を出せ。」
そう言ったのは、伊織だった。
車内で静かにしていた伊織が口を開いたのだ。
九龍彰宏は気絶しており、気絶している間に体を拘束させていたようだ。
「伊織さん!!僕達は六郎を助けに来たんですよ?!メンバーを見捨てて行くのは…っ。」
「その間に五郎が死ぬぞ。」
「っ…。」
「お前の選択1つで、五郎の生死が関わって来る。
俺はお前等を死なせる訳にはいかないんだ。一郎と六郎はここに置いて行く。」
バッ!!
モモが勢いよく九龍会の本家がある方向に視線を向けた。
「…いる。Jewelry Pupilが2人…いる。」
「え?」
「Jewelry Pupilが2人…?」
モモの言葉に伊織と二郎が反応した。
「うん、もう1人の方は…。すごい力を放ってる…。何かが…、変わろうとしてる。」
何を言っているのか理解出来なかったが、何かが起きている事だけは分かる。
「四郎、貸して。」
「あっ、おい!!」
モモが俺のポケットのズボンからナイフを出した。
服の袖を捲り、白い肌にナイフを突き立てた。
「モモちゃん!?何してるの!!」
「五郎に私の血を飲ませば大丈夫。」
ブシャッ!!
二郎の問いに答えたモモは、ナイフを引いた。
白い肌に真っ赤な血が浮き出で、腕から血を垂らし五郎に飲ませた。
ジュク、ジュクジュク…。
脇腹の大きな傷が音を立てて、塞がって行った。
ポタッ。
ポタ、ポタポタポタポタ…。
「もう、良い。」
俺はモモの腕を取り、タオルを巻いた。
ブー、ブー。
スマホが振動した。
俺のスマホが鳴ってんのか?
スマホを取り出すと、知らない番号からの着信だった。
画面を見た伊織が出ろっと、ジェスチャーをして来た。
黙って通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。
「誰だ、お前。」
「この声、聴き覚えないかな。」
スマホから聞こえて来た声に聞き覚えは確かにあった。
俺に賭博の招待状を渡して来た奴の声だった。
「嘉助…か、お前。」
「時間が無いから手短に言うよ。一郎君達は無事だ。だから、君達も早くここから離れろ。」
「は?何を言って…。」
「暫く一郎君達は僕達が預かる。安心してくれ、椿とは全く関係の無い人物達だ。それに三郎君は僕と一緒にいる。」
嘉助は淡々と言葉を吐く。
「椿と関係の無い人物だと何故、言い切る。俺からしたらお前が嘘を吐いているようにしか思えない。」
「もしもし、四郎。」
三郎の声がスマホから聞こえて来た。
「…、本当なんだな。」
「うん、ごめん。俺も行けなくて。」
「…。分かった。お前にも理由があんだろ。」
「四郎、ボスは僕達を利用する気だったんだよ。始めからね。」
「どう言う事だ?」
「ごめん、そろそろ行かないと。だけど、ボスの言う事をあんまり信じない方が良い。俺は四郎を守るからね。」
ブチッ。
そう言って、三郎は通話を終わらせてた。
「電話の相手は嘉助だったのか。」
伊織が通話が終えた事を確認した後、俺に尋ねて来た。
「あぁ、一郎と六郎は無事だからここを離れろって。」
「無事って…、何で?椿会の嘉助が…?助けたって事?」
「椿とは関係ない人物達と共に一郎達はいるって。それと、三郎も一緒にいるから嘉助の言っている事は嘘じゃない。」
二郎の問いに俺は答えた。
「…、分かった。二郎。」
「分かりました。七海も納得はした?」
「今は四郎の言葉を信じるよ。五郎の事も心配だし、お願い。」
「了解。」
七海の言葉を聞いた二郎は、車を走らせた。
ボスが俺達を利用する気って、どう言う事だ?
俺達を拾った事にも理由があるって事か?
いや、三郎が俺に嘘を付いてるってのは絶対に有り得ない。
ボスは、何か俺達に言っていない事がある…?
目的があって、俺達を集めた…のか?
三郎は何をどこまで知っているのだろうか。
1番、気になるのは嘉助だ。
椿の元にいながら、俺にコンタクトを取って来たんだ?
何故、三郎と共に行動を取っている?
もしかしたら、嘉助は椿の事を裏切ろうとしている?
何にせよ、俺もボスの事を調べてみる必要がありそうだ。
「四郎、眠い。」
モモが俺の腕を掴み、瞼を擦った。
「東京に着くのは、まだ先だから寝とけ。」
「うん。」
ゴソゴソ。
俺の膝に頭を乗せたモモはゆっくり瞼を閉じ、眠った。
ドサッ!!
佐助と伊助は、九龍会の本家から離れた場所に飛ばされていた。
「え、え!?どう言う事?僕、頭が追い付かないんだけど。」
「Jewelry Words の能力…。」
佐助はそう言って、伊助を見つめる。
「え!?Jewelry Words の能力って、あそこに佐助以外にもいたのか!?」
「そうじゃないと、この状況に説明が付かないよ。」
「嘘だろ?こんな、場所移動させれる能力もあるのかよ。」
「私よりも、強い力を持ったJewelry Pupilがいる…。どうしよう、椿様に嫌われる。」
その場にへたり込んだ佐助は涙を流した。
「佐助…。」
「佐助。」
伊助が泣いている佐助に手を伸ばそうとした時だった。
「椿…様?」
「無事だったね。良かった、良かった。」
「椿様!!ごめんなさい、私…また…。」
「何で、泣いてるの佐助。」
スッ。
椿は佐助の前に腰を下ろし、指で涙を拭った。
「今回は想定外の事ばかり起きてるみたいだね、嘉助。」
「はい、椿様。」
「嘉助の言う通り、ここで待機しといて正解だったね。佐助と伊助を拾えたし。警察の目も掻い潜れた。伊助、Jewelry Pupilの顔は見た?」
後ろにいる嘉助と会話を終わらせた椿が、伊助に尋ねた。
「顔は見ていません…。僕達が気付いた時にはここにいました。」
「成る程、伊助達が気付く前に能力を発動したのか。」
「申し訳ありません、椿様!!」
バッ!!
伊助は勢いよく椿に頭を下げた。
「良いよ、次は頑張ろうね。」
「は、はい。」
「佐助は相変わらず泣き虫だね。そろそろ、泣くのはやめなさい。」
「私の事、捨てないですか?」
佐助はそう言って、椿に抱き付いた。
「捨てないよ。今日は一緒に寝ようか、佐助。」
「ほ、本当ですか!!」
「あぁ、お前と眠るのは久々だね。だから、佐助。次はもっと頑張ろうな。」
「はい、椿様。」
伊助は椿と佐助の光景をジッと見ていた。
「伊助、その顔は閉まっとけ。」
「え、え?嘉助、どんな顔してた?僕。」
「嫉妬してるって、顔に出てたよ。椿様の前で、そんな顔をしたら駄目だよ。」
嘉助はフッと笑い、伊助の額を軽く叩いた。
「ごめんなさい。」
「伊助は佐助の事が好きだもんな。良いじゃん、別に。」
「な、な、な、な、な、な!?」
「お前は自分の気持ちには素直になれよ。僕みたいに、気持ちを押し殺して生きるな。」
「嘉助?急にそんな事言って、どうした?」
「何でもないよ。さっ、車に乗った、乗った。」
嘉助は伊助の背中を押し、車に乗せた。
「椿様、そろそろ…。」
「あぁ、悪いね嘉助。佐助、行くよ。」
「はい。」
椿は佐助の手を引き、車に乗せてから助手席に乗り込んだ。
「素直ならお前は羨ましいよ、伊助。僕はお前のように生きる事はやめたんだ。」
嘉助はそう言葉を吐き、運転席に座り車を走らせた。
九条家本家ー
「な、何だ…、これは。おい!!辰巳(たつみ)を呼んでこい!!」
グシャ!!
手に持っていた手紙を握りつぶす音が廊下に響く。
九条光臣(くじょうみつおみ)が、近くにいた組員に声を掛けた。
「わ、分かりました!!」
タタタタタタタ!!
辰巳零士(れいじ)は九条美雨(くじょうみう)の部屋にいた。
「スゥ…、スゥ…。」
九条美雨は小さな寝息を立て眠りに付いているのを、辰巳零士はジッと見ていた。
タタタタタタタ!!
廊下から足音が聞こえた辰巳零士は、スッと九条美雨の部屋を出た。
「辰巳さん!!」
「静かにしろ、お嬢が寝てんだろ。」
「す、すいません。親父が辰巳さんの事を呼んでいまして…。」
「親父が?分かった。」
「かなり怒ってるみたいでした。」
「…。分かった。」
組員から話を聞いた辰巳零士は、九条光臣が待つ自室に向かった。
トントン。
「失礼します。」
辰巳零士は襖を叩いた後、九条光臣の自室に入った。
「悪いな、辰巳。」
「どうかしましたか?」
「これを見てくれや。」
九条光臣はそう言って、辰巳零士に握り潰した手紙を見せた。
手紙の内容には、九条美雨に対しての恋愛感情を書いており、何十回も九条美雨の名前が書かれていた。
「これは…。」
「この字は蘇武(そぶえ)のだ。」
「蘇武の!?蘇武が送り付けて来たんですね。」
「だろうな。蘇武が脱獄してすぐに、この気持ち悪い手紙を送り付けて来やがった。あの野郎、美雨の事を諦めてねぇーようだな。」
辰巳零士はその言葉を聞き眉間に皺を寄せる。
「蘇武がまた、美雨を狙ってる事がこれで明確になった。辰巳、分かってるな。」
「はい、お嬢の事は命を掛けてもお守りします。登校の際も護衛を増やし車で送り迎えにします。」
「その方が良いな。いつ、蘇武が美雨の前に現れるから分からんからな。」
「はい。」
「蘇武の執着の強さには呆れる。」
そう言って、九条光臣は溜め息を吐いた。
「はぁ、はぁ…。」
男は荒くなった息を整え、九条家の本家を見つめていた。
「美雨、美雨、美雨。待ってろよ…。」
ニヤァッと嫌な笑みを浮かべた男は、九条家を後にした。
「ゴホッ!!ゴホッ、!!」
九龍会の本家を出た俺は、思いっきり咳き込んだ。
「四郎、大丈夫?」
「ゴホッ!!あ、あぁ。車に戻るぞ。」
「う、うん。」
俺はモモの手を引き止めてある車に乗り込む。
車のドアを開けると、車内には七海しか居らず二郎がいなかった。
「四郎!!無事?」
「まぁ、何とかな。それより、モモに水を飲ませてやってくれ。」
「分かった。」
七海はそう言って、水のペットボトルの蓋を取りモモに渡した。
「二郎はどうした?」
「五郎を回収しに行ったんだけど…、途中で通話が切れちゃったんだ。」
「警察が集まって来たな。」
ウー!!
サイレンの音を聞いて、警察が九龍会の本家に集まって来たのが分かった。
二郎が幸いに、九龍会の本家から離れた距離に止め直したお陰で、警察と鉢合わせにならなかった。
バンッ!!
勢いよく後ろのドアが開かれた。
「はぁ、はぁ。急いで戻るぞ!!」
「五郎!?ボロボロじゃんっ、意識はあるの!?」
二郎に担がれている五郎は血塗れだった。
「今は意識は無いよ、それよりも急いで爺さんの所に行かないとヤバイ。四郎、五郎を寝かせて。」
「あ、あぁ。」
五郎の奴、ヤバイんじゃないか?
「ちょっと待ってよ、一郎と六郎はどうすんの?置いて行くの。」
七海は運転席に座った二郎に尋ねた。
俺達は六郎を助ける為にここに来た。
なのに、一郎と六郎を置いてここを離れると言う事は…。
「見捨てるの。」
「二郎、車を出せ。」
そう言ったのは、伊織だった。
車内で静かにしていた伊織が口を開いたのだ。
九龍彰宏は気絶しており、気絶している間に体を拘束させていたようだ。
「伊織さん!!僕達は六郎を助けに来たんですよ?!メンバーを見捨てて行くのは…っ。」
「その間に五郎が死ぬぞ。」
「っ…。」
「お前の選択1つで、五郎の生死が関わって来る。
俺はお前等を死なせる訳にはいかないんだ。一郎と六郎はここに置いて行く。」
バッ!!
モモが勢いよく九龍会の本家がある方向に視線を向けた。
「…いる。Jewelry Pupilが2人…いる。」
「え?」
「Jewelry Pupilが2人…?」
モモの言葉に伊織と二郎が反応した。
「うん、もう1人の方は…。すごい力を放ってる…。何かが…、変わろうとしてる。」
何を言っているのか理解出来なかったが、何かが起きている事だけは分かる。
「四郎、貸して。」
「あっ、おい!!」
モモが俺のポケットのズボンからナイフを出した。
服の袖を捲り、白い肌にナイフを突き立てた。
「モモちゃん!?何してるの!!」
「五郎に私の血を飲ませば大丈夫。」
ブシャッ!!
二郎の問いに答えたモモは、ナイフを引いた。
白い肌に真っ赤な血が浮き出で、腕から血を垂らし五郎に飲ませた。
ジュク、ジュクジュク…。
脇腹の大きな傷が音を立てて、塞がって行った。
ポタッ。
ポタ、ポタポタポタポタ…。
「もう、良い。」
俺はモモの腕を取り、タオルを巻いた。
ブー、ブー。
スマホが振動した。
俺のスマホが鳴ってんのか?
スマホを取り出すと、知らない番号からの着信だった。
画面を見た伊織が出ろっと、ジェスチャーをして来た。
黙って通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。
「誰だ、お前。」
「この声、聴き覚えないかな。」
スマホから聞こえて来た声に聞き覚えは確かにあった。
俺に賭博の招待状を渡して来た奴の声だった。
「嘉助…か、お前。」
「時間が無いから手短に言うよ。一郎君達は無事だ。だから、君達も早くここから離れろ。」
「は?何を言って…。」
「暫く一郎君達は僕達が預かる。安心してくれ、椿とは全く関係の無い人物達だ。それに三郎君は僕と一緒にいる。」
嘉助は淡々と言葉を吐く。
「椿と関係の無い人物だと何故、言い切る。俺からしたらお前が嘘を吐いているようにしか思えない。」
「もしもし、四郎。」
三郎の声がスマホから聞こえて来た。
「…、本当なんだな。」
「うん、ごめん。俺も行けなくて。」
「…。分かった。お前にも理由があんだろ。」
「四郎、ボスは僕達を利用する気だったんだよ。始めからね。」
「どう言う事だ?」
「ごめん、そろそろ行かないと。だけど、ボスの言う事をあんまり信じない方が良い。俺は四郎を守るからね。」
ブチッ。
そう言って、三郎は通話を終わらせてた。
「電話の相手は嘉助だったのか。」
伊織が通話が終えた事を確認した後、俺に尋ねて来た。
「あぁ、一郎と六郎は無事だからここを離れろって。」
「無事って…、何で?椿会の嘉助が…?助けたって事?」
「椿とは関係ない人物達と共に一郎達はいるって。それと、三郎も一緒にいるから嘉助の言っている事は嘘じゃない。」
二郎の問いに俺は答えた。
「…、分かった。二郎。」
「分かりました。七海も納得はした?」
「今は四郎の言葉を信じるよ。五郎の事も心配だし、お願い。」
「了解。」
七海の言葉を聞いた二郎は、車を走らせた。
ボスが俺達を利用する気って、どう言う事だ?
俺達を拾った事にも理由があるって事か?
いや、三郎が俺に嘘を付いてるってのは絶対に有り得ない。
ボスは、何か俺達に言っていない事がある…?
目的があって、俺達を集めた…のか?
三郎は何をどこまで知っているのだろうか。
1番、気になるのは嘉助だ。
椿の元にいながら、俺にコンタクトを取って来たんだ?
何故、三郎と共に行動を取っている?
もしかしたら、嘉助は椿の事を裏切ろうとしている?
何にせよ、俺もボスの事を調べてみる必要がありそうだ。
「四郎、眠い。」
モモが俺の腕を掴み、瞼を擦った。
「東京に着くのは、まだ先だから寝とけ。」
「うん。」
ゴソゴソ。
俺の膝に頭を乗せたモモはゆっくり瞼を閉じ、眠った。
ドサッ!!
佐助と伊助は、九龍会の本家から離れた場所に飛ばされていた。
「え、え!?どう言う事?僕、頭が追い付かないんだけど。」
「Jewelry Words の能力…。」
佐助はそう言って、伊助を見つめる。
「え!?Jewelry Words の能力って、あそこに佐助以外にもいたのか!?」
「そうじゃないと、この状況に説明が付かないよ。」
「嘘だろ?こんな、場所移動させれる能力もあるのかよ。」
「私よりも、強い力を持ったJewelry Pupilがいる…。どうしよう、椿様に嫌われる。」
その場にへたり込んだ佐助は涙を流した。
「佐助…。」
「佐助。」
伊助が泣いている佐助に手を伸ばそうとした時だった。
「椿…様?」
「無事だったね。良かった、良かった。」
「椿様!!ごめんなさい、私…また…。」
「何で、泣いてるの佐助。」
スッ。
椿は佐助の前に腰を下ろし、指で涙を拭った。
「今回は想定外の事ばかり起きてるみたいだね、嘉助。」
「はい、椿様。」
「嘉助の言う通り、ここで待機しといて正解だったね。佐助と伊助を拾えたし。警察の目も掻い潜れた。伊助、Jewelry Pupilの顔は見た?」
後ろにいる嘉助と会話を終わらせた椿が、伊助に尋ねた。
「顔は見ていません…。僕達が気付いた時にはここにいました。」
「成る程、伊助達が気付く前に能力を発動したのか。」
「申し訳ありません、椿様!!」
バッ!!
伊助は勢いよく椿に頭を下げた。
「良いよ、次は頑張ろうね。」
「は、はい。」
「佐助は相変わらず泣き虫だね。そろそろ、泣くのはやめなさい。」
「私の事、捨てないですか?」
佐助はそう言って、椿に抱き付いた。
「捨てないよ。今日は一緒に寝ようか、佐助。」
「ほ、本当ですか!!」
「あぁ、お前と眠るのは久々だね。だから、佐助。次はもっと頑張ろうな。」
「はい、椿様。」
伊助は椿と佐助の光景をジッと見ていた。
「伊助、その顔は閉まっとけ。」
「え、え?嘉助、どんな顔してた?僕。」
「嫉妬してるって、顔に出てたよ。椿様の前で、そんな顔をしたら駄目だよ。」
嘉助はフッと笑い、伊助の額を軽く叩いた。
「ごめんなさい。」
「伊助は佐助の事が好きだもんな。良いじゃん、別に。」
「な、な、な、な、な、な!?」
「お前は自分の気持ちには素直になれよ。僕みたいに、気持ちを押し殺して生きるな。」
「嘉助?急にそんな事言って、どうした?」
「何でもないよ。さっ、車に乗った、乗った。」
嘉助は伊助の背中を押し、車に乗せた。
「椿様、そろそろ…。」
「あぁ、悪いね嘉助。佐助、行くよ。」
「はい。」
椿は佐助の手を引き、車に乗せてから助手席に乗り込んだ。
「素直ならお前は羨ましいよ、伊助。僕はお前のように生きる事はやめたんだ。」
嘉助はそう言葉を吐き、運転席に座り車を走らせた。
九条家本家ー
「な、何だ…、これは。おい!!辰巳(たつみ)を呼んでこい!!」
グシャ!!
手に持っていた手紙を握りつぶす音が廊下に響く。
九条光臣(くじょうみつおみ)が、近くにいた組員に声を掛けた。
「わ、分かりました!!」
タタタタタタタ!!
辰巳零士(れいじ)は九条美雨(くじょうみう)の部屋にいた。
「スゥ…、スゥ…。」
九条美雨は小さな寝息を立て眠りに付いているのを、辰巳零士はジッと見ていた。
タタタタタタタ!!
廊下から足音が聞こえた辰巳零士は、スッと九条美雨の部屋を出た。
「辰巳さん!!」
「静かにしろ、お嬢が寝てんだろ。」
「す、すいません。親父が辰巳さんの事を呼んでいまして…。」
「親父が?分かった。」
「かなり怒ってるみたいでした。」
「…。分かった。」
組員から話を聞いた辰巳零士は、九条光臣が待つ自室に向かった。
トントン。
「失礼します。」
辰巳零士は襖を叩いた後、九条光臣の自室に入った。
「悪いな、辰巳。」
「どうかしましたか?」
「これを見てくれや。」
九条光臣はそう言って、辰巳零士に握り潰した手紙を見せた。
手紙の内容には、九条美雨に対しての恋愛感情を書いており、何十回も九条美雨の名前が書かれていた。
「これは…。」
「この字は蘇武(そぶえ)のだ。」
「蘇武の!?蘇武が送り付けて来たんですね。」
「だろうな。蘇武が脱獄してすぐに、この気持ち悪い手紙を送り付けて来やがった。あの野郎、美雨の事を諦めてねぇーようだな。」
辰巳零士はその言葉を聞き眉間に皺を寄せる。
「蘇武がまた、美雨を狙ってる事がこれで明確になった。辰巳、分かってるな。」
「はい、お嬢の事は命を掛けてもお守りします。登校の際も護衛を増やし車で送り迎えにします。」
「その方が良いな。いつ、蘇武が美雨の前に現れるから分からんからな。」
「はい。」
「蘇武の執着の強さには呆れる。」
そう言って、九条光臣は溜め息を吐いた。
「はぁ、はぁ…。」
男は荒くなった息を整え、九条家の本家を見つめていた。
「美雨、美雨、美雨。待ってろよ…。」
ニヤァッと嫌な笑みを浮かべた男は、九条家を後にした。
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