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最終章 Alice in Wonderland
Alice Zero
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ゼロside
チュチュチュッ…。
肌に冷たい風が当たっている感触がした。
耳に届いたのは小鳥の鳴き声だった。
眩しい光が目に差し込み、ボクは嫌々ながらも瞳を開けた。
目の前に広がったのは物が少なく、木の良い匂いがする部屋だった。
ボクは木で出来たベットに横になっていた。
ここは…、どこなんだ?
この部屋は一体…。
さっきまでアリスの世界にいて、それからどうなった?
コンコンッ。
そんな事を考えていると部屋のドアをノックされた。
「アリスー、起きてる?あんまり遅いから見て来いってマッドハッターに言われたのよ。」
部屋のドアをノックしたのはインディバーだった。
ボクの事を"アリス"って言ったか?
「ちょっとアリス?まだ寝てるの?」
「あ、え、起きてる!!今、起きた!!」
ボクは慌てインディバーに返事をした。
「アリスが寝過ごすって珍しいわね。じゃあ、待ってるからゆっくりいらっしゃい。」
カツカツカツ…。
インディバーはそう言って、廊下を歩いて行った。
何がどうなってるんだ?
とりあえず、ベットから出るか。
ギシッ…。
この部屋…、どこかで見た覚えがあるような…。
椅子に黒い長めのジャケットが掛かってあった。
ジャケットを手に取って見ると、デザインは襟元の部分に2本のベルトが付いいて、両腕の袖口も同じ
ようにベルトが付いていた。
それと、左の胸元にNight'sと書かれていた。
Night's!?
確かにこの部屋、ボクが大怪我した時に寝ていた部屋だ。
ここはNight'sのアジトか?
何でNight'sのアジトにいるんだ?
とりあえずこの部屋から出た方が良さそうだな。
クローゼットの中を開くと、動きやすいカジュアルな服が入っていた。
フリフリな物が1つもない…。
適当に選んだ服に着替えジャケットを羽織った。
部屋を出ると、ボクと同じジャケットを着た人達が目に入った。
「あ!!アリスさん、おはようございます。皆さん
ランチルームに揃ってますよ?」
ボクの存在に気付いた1人の男がボクに声を掛けて来た。
「あ、あぁ…。おはよう。」
「それじゃあ失礼しますね。」
男はそう言って頭を下げて歩き出した。
ボクはNight'sの組織に入っている…?
廊下を歩けば次々にボクに挨拶をして来る。
どうなってるんだ?
暫く廊下を歩いていると、大きなエレベーターの乗り場が目に入った。
エレベーターのボタンの横にMAPが貼られていた。
ボクはMAPに目を通して見た。
今、ボクがいる場所は30階にある上層部達の寝室の階らしい。
そして、目的地のランチルームは5階。
ここは以前居た屋敷ではなく、ビルは全部で30階あるようだ。
Night'sはかなり大きな組織になっているみたいだな。
チーン。
どうやら下の階に行くエレベーターが到着したようだ。
ボクはエレベーターに乗り込み5階のボタンを押した。
5階ー
5階に着くとランチルームには多くの人が朝食を取っていた。
ここがランチルームか…。
高級レストランのような内装だな。
「アリス!!」
ランチルームを見渡していると声を掛けてられた。
声のした方に視線を向けると、ヤオが手を振っていた。
ヤオの顔に傷はある…。
全てが変わった訳ではない…のか?
ボクは混乱したままヤオの所に向かった。
「おはようアリス。寝坊なんて珍しいな。」
ヤオはそう言って、椅子を引いてくれた。
席には帽子屋とインディバー、そしてロイドが座っていた。
「あ、あぁ…。」
「ん?どうした?」
そう言ってボクの事を不思議そうに見て来たのは帽子屋だった。
あっちの世界の帽子屋とは違って、帽子屋は被って
おらずボクと同じジャケットを着ていた。
それはヤオとインディバー、ロイドも同様だ。
「な、何でもない。」
「それにしてもジャックも寝坊かしら?」
「っ!?」
インディバーの言葉を聞いて驚いた。
ジャックもここにいるのか?!
「俺が起こして来たからもうすぐ来るだろ。」
ロイドはそう言ってコーヒーを口に運んだ。
ドタドタドタドタッ!!
暫くすると誰かが走って来る足音が聞こえて来た。
「ど、どうなってんだ?」
現れたのはジャックで、困惑している様子だった。
その様子はボクと同じで状況を上手く理解していな
いようだ。
「ドタドタ走るんじゃねーよジャック!!さっさと来い!!」
ヤオはジャックを見るなり怒鳴り付けた。
ジャックはとぼとぼとこちらに歩いて来た。
「ったく。さ、朝飯食うか。」
ヤオはそう言って店員らしき人物を呼んで注文していた。
ジャックは恐る恐るボクの隣に座った。
ボクはジャックの耳元で小声で囁いた。
「ジャックもこの状況を理解してないようだな?」
ボクがそう言うとジャックは驚いた顔をした。
「ゼロもなのか?」
「あぁ。とりあえず後で話さそう。」
「そうだな…。」
ジャックはそう言って目の前に置かれたコーヒーを口に運んだ。
「今日はジャックとアリスが寝坊なんだってー?」
ウェイトレスの格好をしたマリーシャがワゴンで朝食を運んで来た。
「アリス?」
ジャックはマリーシャの言葉を聞いて思わず声に出てしまったようで、すぐにハッとした。
「アリス以外に誰がいるのよ。おはよーロイド♡今日も愛してるわ。」
チュッ。
そう言ってマリーシャはロイドの頬にキスをした。
「「っ!?」」
ボクとジャックは絶句した。
「おい、人前ではやめろって言ってるだろマリーシャ。」
ロイドはそう言っていても嫌そうではなかった。
「え、な、何?お前等…、つ、付き合ってんのか?」
ジャックは言葉を詰まらせながら2人に尋ねた。
その言葉を聞いたボクとジャック以外はキョトンとしていた。
「は、はぁ?ロイドとマリーシャが付き合ってもう1年ぐらい経つぞ?」
帽子屋はそう言ってボクとジャックの顔を交互に見つめた。
「おかしな2人ね。まだ、目が覚めてないのかしら。」
マリーシャは机にモーニングセットを置きながら呟いた。
ボクとジャックは落ち着かないまま朝食を頂いた。
ボクとジャックは、今日は非番の日らしく2人で行
動しても怪しまれない日だった。
帽子屋とインディバー、ロイドは仕事があるらしく
ボク達より先にランチルームを後にした。
ボクとジャックはとりあえず、ランチルームを出ようとした時だった。
「ジャック、アリス。少し良いか。」
ヤオがボクとジャックを呼び止めた。
「え?あー、構わないよ。」
「場所を変えるぞ。ここじゃ、出来ない話だからな。」
ボクとジャック、ヤオはランチルームから出てエレ
ベーターに乗り込んだ。
エレベーターの中にはボクを含む3人しかいなかった。
「おいヤオ!!これはどう言う事だ!?」
ボクは我慢出来ずにヤオに尋ねた。
「やっぱりな。俺達以外、アリスとミハイルに関す
る記憶がなくなってんだな。」
「やっぱり…って。」
チーン。
ボクとヤオが話しているとエレベーターの扉が開かれた。
到着した階は30階で、ヤオはただ真っ直ぐ歩いた。
ボクとジャックはとりあえずヤオの後を歩いた。
会議室と書かれた扉を開けたヤオはボクとジャック
を中に入れた。
「良かったー!!ちゃんと目を覚ましたんだね。」
そう声を掛けて来たのは猫耳がないCATで、CATの隣にいたのは耳なしのエースだった。
「エースにCAT!?お前等、生きてたのか。」
「ちょっと勝手に殺さないでよジャック!!僕達の魂が無事な限り死ぬ事はないよ。」
「そう言う物かよ。じゃあ、今の体も人形なのか。」
「ま、そう言う事。」
ジャックとエースが話している間にCATが入って来た。
「じゃあ、ゼロとジャックにちゃんと理解出来るように今の状況を説明するぞ。とりあえず座れよ。」
ボクとジャックはヤオの近くの空いていた椅子に腰掛けた。
「今、俺達のいるこの世界は本当の世界であってる。俺達以外はアリスとミハイルに関する記憶もなければ、ハートの城やハートの騎士団の記憶も無くなってる。」
「ハートの騎士団が無くなったのか?ハートの城もか?」
「アリスに関わった物が全部丸ごと無くなってんだよ。マレフィレスはモデルとして生きているし、ズゥーは医師として生きてる。ディとダムは普通に学生をしてる。それで、ハートの城の代わりに俺の組織が大きくなってた。」
アリスに関わった物の記憶や人物の記憶が無くなっていると言う事か。
死んだはずのマレフィレスも普通に生きて生活を送っているのか。
それはディとダムもだが。
「それと、俺達以外はゼロをアリスとして認識してる。ま、ゼロはこの世界の住人でアリスだったから深刻な問題じゃない。アリスとミハイルがいなくなった事でこの世界が正しい時間軸で動いてるって事。今の所は大丈夫そうか?」
ヤオはそう言ってボクとジャックの顔を見つめて来た。
「理解は出来た。だけど、あまりにも実感が湧かな過ぎて…。」
「俺もゼロと同じだ。こんなに世界が変わってる事に驚いたし、ミハイルとアリスはやっぱり死んだのか。」
ジャックはそう言って悲しい顔をした。
ボクはジャックの手を握った。
ジャックはボクの手に視線を落としてから手を握り返した。
「で、今から話す事が本題だ。結論から言うと、ミハイルとアリスは生きてる。エースとCATの調査で明らかになってる。」
「「えぇぇ!?生きてるのか!?」」
ヤオの言葉を聞いたボク達の声が合わさった。
「生きてるって事は死んでないんだよな!?は…、
良かった。」
そう言ったジャックの顔は、少し安心していた様子だった。
やっぱりミハイルには生きていて欲しいよな。
ボクもそれは同じだ。
アリスとミハイルにも幸せになる権利はある。
「生きてて欲しかったの?ゼロを不幸にした奴等だよ?マスターの命令じゃなかったら俺は動かなかったけど。ジャックはどう思ってんの?アリスとミハイルを恨んだりしてない訳?」
CATはそう言ってジャックに尋ねた。
ジャックはボクの手を強く握り締めた後に口を開いた。
「恨んだ事はあった。ゼロを異世界に飛ばした事や俺とゼロを引き離した2人を。」
「だったらー。」
「でも、ミハイルの事を恨み切れない自分がいるんだ。ミハイルの事、やっぱりまだ好きなんだよな俺。ゼロは嫌だよな?」
そう言ってジャックはボクを見つめた。
ジャックがこう言うのは分かっていた。
だが、その気持ちを不快には思わない。
「ボクは不快には思っていないよ。それに、ボクもアリスやミハイルは幸せになるべきだと思っている。ボクのように幸せになるべきなんだあの2人は。」
「ゼロ…。」
ギュッ…。
ジャックに握らせれていた手から温もりが伝わった。
「まー、ゼロとジャックはそう言うだろうなって検討は付いてたけど。」
「CATも意地悪だよねー。ジャックとゼロの為に頑張ってたのにねー。」
「なっ!?馬鹿!!」
パシッ!!
CATは照れながらエースの背中を叩いた。
「CATとエースはゼロ達がアリスとミハイルの事を気にしているだろうと思って壊れた世界に欠片の状態で探さしてたんだよ。」
「アリスとミハイルはいたのか?」
ヤオの言葉を聞いたボクは、ヤオに尋ねた。
「壊れた世界で2人は眠ってる。CATとエースと同じ欠片の状態で。」
「欠片…。死んではないよね?」
「魂自体は死んでないよ。体の機能が死んでるだけで。」
「え?それって死んでる事じゃないの?」
ボクはそう言ってヤオに尋ねた。
「魂が無事なら再生出来るんだよ。CATとエースのように人形に魂を入れればいい。」
「じゃあ、2人を助けられるって事だよな?」
「で、2人に確認する事がある。」
ジャックの言葉聞いたヤオは再びボク達の顔を見た。
「壊れた世界に行くのはかなり危険だ。俺も壊れた世界に行った事がないからどんな状況になってるか分からない。CATとエースが言うには、あの時いた大きな怪物が壊れた世界を徘徊してミハイルとアリスの欠片を守ってる状況だ。」
「つまり、ミハイルとアリスの欠片を取るには怪物を倒さないと行けないって事か。」
「その通り。それと、壊れた世界に行けるのは4人だ。ゼロとジャック、それからいつも俺と連絡が取れるようにCATとエースを連れて行く。どうする?」
ボクとジャックはお互いの顔を見つめた。
未知な世界に飛び込むのか、飛び込まないのか。
ジャックはフッと軽く笑ってから、ボクの空いている片方の手を握った。
ボクとジャックには不要な質問だ。
「「行くに決まってる。」」
「迷わないのかよ。ま、そう言うと思ってた。俺とCAT達で準備をするからそれまでは2人で過ごせよ。こっちでは2人は付き合ってる事にもなってるからな。」
ヤオはそう言ってニヤニヤしていた。
こ、こいつ…。
「じゃ、じゃあ少し外に出るか?」
ジャックは頬を桃色に染めながらボクに尋ねて来た。
不用意にもジャックの顔を見てときめいてしまった。
「う、うん。」
ボクとジャックは会議室を後にした。
エレベーターに乗り込み、とりあえず外に出る事にした。
外に出て見ると、街並みがガラリと変わっていた。
高層ビルが沢山立っていて、普通に車とか走ってる。
アリスとミハイルが作ったような世界はファンタジーみたいな感じで、目の前に広がっているのはボクがいた世界と似ていた。
「全然、違うな。」
「ここまで世界が変わるとは思ってもいなかった。」
ボク達はNight'sのアジトから少し離れた所にある大きな公園に来ていた。
近くにあったベンチに腰掛け、歩いている人々や風景を眺めていた。
「アリスとミハイルが作った世界はある意味、理想の世界だったのかもな。」
ジャックはそう言ってポケットから煙草を取り出し口に咥えた。
「絵本に出て来る店や人物を作って、自分達が主役の世界を作ってさ。実際はファンタジーみたいな世界じゃないよな。この世界を見ると。」
スッ。
ジャックは自分が持っていた煙草を差し出して来た。
ボクは煙草を1本だけ貰い口に咥えた。
カチッ。
ボクが煙草を咥えた事を確認したジャックが火を付けてくれた。
「こっちの世界にいる皆んなは幸せそうだ。ボクはそれは嬉しい事だと思う。ボクの側に皆んながいて、ジャックがいて。ジャックが側にいてくれたからボクはまた、心を取り戻せた。」
「ゼロ。」
「何?」
ジャックはボクの名前を呼んでからポケットを探り始めた。
ポケットから出て来たのは、小さな箱だった。
そして、隣に座っていたジャックがボクの前で膝を付き小さな箱を開けた。
箱から出て来たのはボクの瞳の色をした宝石がついた指輪だった。
「え、え?この指輪…、どうしたの?」
「俺の部屋に置いてあったんだ。きっと、元の世界の俺がゼロの為に用意した物だと思う。Night mareの話を聞いてコレをゼロに渡そうと思ったんだ。」
ボクの為に用意していた…?
ジャックがボクの為に?
「俺のわがままを聞いて一緒に壊れた世界に行ってくれるだろ?だけど、無事に帰って来れるか分からない。俺はゼロにはずっと死ぬまで側にいて欲しい。ゼロを愛してる。」
「っ…。」
「ゼロを誰にも渡すつもりもないし、どこにも行かせるつもりもねぇ。だから俺のモノになってくれ。俺をゼロのモノにしてくれないか?」
ジャックの真剣な眼差しが心をギュッと締め付けられる。
ジャックとボクは出会う運命だった。
離れていもまた、出会う運命だった。
ボクの事を忘れていたジャックはボクを思い出して愛してくれた。
ボクも、ボクもジャックを愛してる。
きっと、アリスの作った世界に来て初めて会った時から好きだった。
好きになるのは必然だった。
だって、ボクとジャックは小さい頃からずっと一緒
にいたんだから。
ボクの瞳から初めて涙が流れた。
この涙は悲しからじゃなく、嬉しくて流れたもの。
「ゼロ?泣いてるのか?」
ジャックの大きくて細い指がボクの頬に触れる。
「ジャック、ジャック…。」
「うん。」
「ジャックを愛してる…。愛してる。」
「うん、俺も愛してる。この世で1番ゼロを愛してる。」
「ジャックをボクのモノしてもいいのか?」
「何…言ってんだよ。俺は最初からお前のモノだろ?」
そう言ってジャックは、ボクの頭を優しく触り口付けをして来た。
今までに感じた事のない幸福感に体を支配された。
キスをされるだけでこんなにも嬉しいなんて初めてだ。
ボクはジャックともう一度、会えて本当には良かった。
「返事はOKって事で良い…よな?」
「うん。」
「はぁぁぁぁぁあ…。良かった。」
ギュッ。
ジャックは安心したように溜め息吐き、ボクを抱き締めた。
「断られると思ったのか?」
「い、いや…。半々?」
「ボクがジャックを拒む訳がないだろ。」
そう言ってボクはジャックの背中に手を回した。
「「「お、めでとー!!!」」」
パンパンパンパンッ!!!
「「っ!?」」
クラッカーの音とマリーシャやインディバー達の声が聞こえて来た。
「おめでとうアリスー!!やっと、婚約したのね!!」
「いやぁぁぁ!!今日はお祝いよぉぉおお!!」
インディバーとマリーシャは興奮しながら話していた。
「ど、どうしてお前等がここにいるんだよ!?仕事じゃなかったのか!?」
ジャックは顔を真っ赤にしながらインディバー達に尋ねた。
「仕事の途中だったんだよ。だけど、マリーシャから連絡を受けて集まったって感じ。悪いなジャック。」
ロイドは全く申し訳なさそうに謝罪した。
「だって、神妙な雰囲気だったんだもの。プロポーズするだろうなって思うでしょ!?キャー!!おめでとう!!」
マリーシャはそう言ってボクは抱き付いて来た。
「うわ!?マリーシャ!?」
「おい、ジャック。」
帽子屋は少し怖い顔してジャックを呼んだ。
「泣かせたら速攻で殺す。秒で殺す。」
「泣かせる訳ないだろ。」
「アリスをお前に渡すのは癪だが、アリスはお前が好きだから仕方なく許してやる。」
「ハッ、癪なのかよ。」
「アンタも妹離れしなさいよね?」
ジャックと帽子屋の会話にインディバーが入っていた。
その夜はヤオも誘って夜ご飯を食べに行った。
皆んなお酒はかなり強いらしくボク達は何軒も梯子をして、お開きになったのは夜明けだった。
皆んなボクとジャックの事を心の底からお祝いしてくれた。
ジャックも口では嫌と言っていたが、本当は嬉しそうだった。
これがこの世界でのボク達の日常だ。
誰も不幸じゃなくて、皆んなが普通の生活を送ってる。
ボクが望んでいた世界でボクは生活を送る。
アリスとボクの望んだ世界。
だから、アリスとミハイルもこの世界にいないと駄目だ。
それはジャックも思っている事。
壊れた世界に行く日が決まった。
2日後の夜、Night'sのアジトの地下で壊れた世界へ
の入り口を開く事になった。
ボクとジャックは出来るだけお互いの時間を作って一緒に過ごした。
ジャックは呑気に「ちょっとした旅行に行くみたいだな。」って隣で話してる。
ジャックの部屋のベットは2人で寝るには少し狭い。
だけど、こうして手の届く所にジャックがいるのは安心する。
「アリスとミハイルを迎えに行くだけだからな。」
「俺とゼロなら出来ない事はないだろ。あの世界でだって戦ったんだし。」
月夜に照らされたジャックの指にはめられた指輪が光る。
壊れた世界に行く事に全く不安がないボク達は変わり者かもしれない。
怖いもの知らずと言った方が正しいか。
「ゼーロ。こっち。」
少し甘えた声を出したジャックはボクの体を抱き寄せた。
お互いの温もりを確かめるようにボク達は抱き合って眠った。
壊れた世界に行く当日。
ボクとジャック、ヤオとCAT、エースは地下に向かっていた。
「こっちの世界でも、壊れた世界でもTrick Cardは使えるからな。」
「そうなのか?」
「そこは変わってなかったようだ。こっちしては助かったよ。」
ボクとヤオが話しているとエレベーターは地下に着いた。
チーン。
エレベーターが開き、ボク達はエレベーターから降りた。
ヤオが真っ直ぐ歩いたのでボク達もヤオの後を歩いた。
大きなシャッターの近くに大きなバイクが2台止まっていた。
「運転は出来るよなジャック。」
「当たり前だろ。」
「このバイクで行くのか?」
「まぁ、運転の仕方は普通のバイクと同じだ。これに乗って行け。」
「バイクで行けるのかよ…。」
ジャックはそう言いながら、ヤオから鍵を受け取りエンジンをかけた。
「ゼロにはこれを渡しとく。アリスとミハイルの欠片を入れるカプセル。」
ヤオはカプセルが入っている袋を渡して来た。
「これに入れれば良いんだな。」
ブゥンブゥンッ!!
「準備出来たぞ。」
ジャックの言葉を聞いたヤオはCAT達の方に振り向いた。
「ゼロはジャックの後ろに。後の1台はCATが運転しろ。」
「了解ー。」
CATは慣れた手付きでバイクにエンジンをかけた。
ボクはジャックに後ろに乗り込んだ。
エースもCATの後ろに乗り込んだ事を確認したヤオは、大きなシャッターを開けた。
ガシャンガシャン!!
大きな音を立てながらシャッターは少しずつ開き始めた。
「ちゃんと帰って来いよゼロ。」
そう言ったヤオは少し心配そうにボクを見つめた。
ボクはヤオにフッと笑かけ、「すぐに戻る。」と言った。
「んじゃ、少し留守にするからな。」
「行ってくる。」
ブゥンブゥン!!
ボク達はシャッターが開いたと同時にバイクを走らせた。
アリスとミハイルを迎えにー
チュチュチュッ…。
肌に冷たい風が当たっている感触がした。
耳に届いたのは小鳥の鳴き声だった。
眩しい光が目に差し込み、ボクは嫌々ながらも瞳を開けた。
目の前に広がったのは物が少なく、木の良い匂いがする部屋だった。
ボクは木で出来たベットに横になっていた。
ここは…、どこなんだ?
この部屋は一体…。
さっきまでアリスの世界にいて、それからどうなった?
コンコンッ。
そんな事を考えていると部屋のドアをノックされた。
「アリスー、起きてる?あんまり遅いから見て来いってマッドハッターに言われたのよ。」
部屋のドアをノックしたのはインディバーだった。
ボクの事を"アリス"って言ったか?
「ちょっとアリス?まだ寝てるの?」
「あ、え、起きてる!!今、起きた!!」
ボクは慌てインディバーに返事をした。
「アリスが寝過ごすって珍しいわね。じゃあ、待ってるからゆっくりいらっしゃい。」
カツカツカツ…。
インディバーはそう言って、廊下を歩いて行った。
何がどうなってるんだ?
とりあえず、ベットから出るか。
ギシッ…。
この部屋…、どこかで見た覚えがあるような…。
椅子に黒い長めのジャケットが掛かってあった。
ジャケットを手に取って見ると、デザインは襟元の部分に2本のベルトが付いいて、両腕の袖口も同じ
ようにベルトが付いていた。
それと、左の胸元にNight'sと書かれていた。
Night's!?
確かにこの部屋、ボクが大怪我した時に寝ていた部屋だ。
ここはNight'sのアジトか?
何でNight'sのアジトにいるんだ?
とりあえずこの部屋から出た方が良さそうだな。
クローゼットの中を開くと、動きやすいカジュアルな服が入っていた。
フリフリな物が1つもない…。
適当に選んだ服に着替えジャケットを羽織った。
部屋を出ると、ボクと同じジャケットを着た人達が目に入った。
「あ!!アリスさん、おはようございます。皆さん
ランチルームに揃ってますよ?」
ボクの存在に気付いた1人の男がボクに声を掛けて来た。
「あ、あぁ…。おはよう。」
「それじゃあ失礼しますね。」
男はそう言って頭を下げて歩き出した。
ボクはNight'sの組織に入っている…?
廊下を歩けば次々にボクに挨拶をして来る。
どうなってるんだ?
暫く廊下を歩いていると、大きなエレベーターの乗り場が目に入った。
エレベーターのボタンの横にMAPが貼られていた。
ボクはMAPに目を通して見た。
今、ボクがいる場所は30階にある上層部達の寝室の階らしい。
そして、目的地のランチルームは5階。
ここは以前居た屋敷ではなく、ビルは全部で30階あるようだ。
Night'sはかなり大きな組織になっているみたいだな。
チーン。
どうやら下の階に行くエレベーターが到着したようだ。
ボクはエレベーターに乗り込み5階のボタンを押した。
5階ー
5階に着くとランチルームには多くの人が朝食を取っていた。
ここがランチルームか…。
高級レストランのような内装だな。
「アリス!!」
ランチルームを見渡していると声を掛けてられた。
声のした方に視線を向けると、ヤオが手を振っていた。
ヤオの顔に傷はある…。
全てが変わった訳ではない…のか?
ボクは混乱したままヤオの所に向かった。
「おはようアリス。寝坊なんて珍しいな。」
ヤオはそう言って、椅子を引いてくれた。
席には帽子屋とインディバー、そしてロイドが座っていた。
「あ、あぁ…。」
「ん?どうした?」
そう言ってボクの事を不思議そうに見て来たのは帽子屋だった。
あっちの世界の帽子屋とは違って、帽子屋は被って
おらずボクと同じジャケットを着ていた。
それはヤオとインディバー、ロイドも同様だ。
「な、何でもない。」
「それにしてもジャックも寝坊かしら?」
「っ!?」
インディバーの言葉を聞いて驚いた。
ジャックもここにいるのか?!
「俺が起こして来たからもうすぐ来るだろ。」
ロイドはそう言ってコーヒーを口に運んだ。
ドタドタドタドタッ!!
暫くすると誰かが走って来る足音が聞こえて来た。
「ど、どうなってんだ?」
現れたのはジャックで、困惑している様子だった。
その様子はボクと同じで状況を上手く理解していな
いようだ。
「ドタドタ走るんじゃねーよジャック!!さっさと来い!!」
ヤオはジャックを見るなり怒鳴り付けた。
ジャックはとぼとぼとこちらに歩いて来た。
「ったく。さ、朝飯食うか。」
ヤオはそう言って店員らしき人物を呼んで注文していた。
ジャックは恐る恐るボクの隣に座った。
ボクはジャックの耳元で小声で囁いた。
「ジャックもこの状況を理解してないようだな?」
ボクがそう言うとジャックは驚いた顔をした。
「ゼロもなのか?」
「あぁ。とりあえず後で話さそう。」
「そうだな…。」
ジャックはそう言って目の前に置かれたコーヒーを口に運んだ。
「今日はジャックとアリスが寝坊なんだってー?」
ウェイトレスの格好をしたマリーシャがワゴンで朝食を運んで来た。
「アリス?」
ジャックはマリーシャの言葉を聞いて思わず声に出てしまったようで、すぐにハッとした。
「アリス以外に誰がいるのよ。おはよーロイド♡今日も愛してるわ。」
チュッ。
そう言ってマリーシャはロイドの頬にキスをした。
「「っ!?」」
ボクとジャックは絶句した。
「おい、人前ではやめろって言ってるだろマリーシャ。」
ロイドはそう言っていても嫌そうではなかった。
「え、な、何?お前等…、つ、付き合ってんのか?」
ジャックは言葉を詰まらせながら2人に尋ねた。
その言葉を聞いたボクとジャック以外はキョトンとしていた。
「は、はぁ?ロイドとマリーシャが付き合ってもう1年ぐらい経つぞ?」
帽子屋はそう言ってボクとジャックの顔を交互に見つめた。
「おかしな2人ね。まだ、目が覚めてないのかしら。」
マリーシャは机にモーニングセットを置きながら呟いた。
ボクとジャックは落ち着かないまま朝食を頂いた。
ボクとジャックは、今日は非番の日らしく2人で行
動しても怪しまれない日だった。
帽子屋とインディバー、ロイドは仕事があるらしく
ボク達より先にランチルームを後にした。
ボクとジャックはとりあえず、ランチルームを出ようとした時だった。
「ジャック、アリス。少し良いか。」
ヤオがボクとジャックを呼び止めた。
「え?あー、構わないよ。」
「場所を変えるぞ。ここじゃ、出来ない話だからな。」
ボクとジャック、ヤオはランチルームから出てエレ
ベーターに乗り込んだ。
エレベーターの中にはボクを含む3人しかいなかった。
「おいヤオ!!これはどう言う事だ!?」
ボクは我慢出来ずにヤオに尋ねた。
「やっぱりな。俺達以外、アリスとミハイルに関す
る記憶がなくなってんだな。」
「やっぱり…って。」
チーン。
ボクとヤオが話しているとエレベーターの扉が開かれた。
到着した階は30階で、ヤオはただ真っ直ぐ歩いた。
ボクとジャックはとりあえずヤオの後を歩いた。
会議室と書かれた扉を開けたヤオはボクとジャック
を中に入れた。
「良かったー!!ちゃんと目を覚ましたんだね。」
そう声を掛けて来たのは猫耳がないCATで、CATの隣にいたのは耳なしのエースだった。
「エースにCAT!?お前等、生きてたのか。」
「ちょっと勝手に殺さないでよジャック!!僕達の魂が無事な限り死ぬ事はないよ。」
「そう言う物かよ。じゃあ、今の体も人形なのか。」
「ま、そう言う事。」
ジャックとエースが話している間にCATが入って来た。
「じゃあ、ゼロとジャックにちゃんと理解出来るように今の状況を説明するぞ。とりあえず座れよ。」
ボクとジャックはヤオの近くの空いていた椅子に腰掛けた。
「今、俺達のいるこの世界は本当の世界であってる。俺達以外はアリスとミハイルに関する記憶もなければ、ハートの城やハートの騎士団の記憶も無くなってる。」
「ハートの騎士団が無くなったのか?ハートの城もか?」
「アリスに関わった物が全部丸ごと無くなってんだよ。マレフィレスはモデルとして生きているし、ズゥーは医師として生きてる。ディとダムは普通に学生をしてる。それで、ハートの城の代わりに俺の組織が大きくなってた。」
アリスに関わった物の記憶や人物の記憶が無くなっていると言う事か。
死んだはずのマレフィレスも普通に生きて生活を送っているのか。
それはディとダムもだが。
「それと、俺達以外はゼロをアリスとして認識してる。ま、ゼロはこの世界の住人でアリスだったから深刻な問題じゃない。アリスとミハイルがいなくなった事でこの世界が正しい時間軸で動いてるって事。今の所は大丈夫そうか?」
ヤオはそう言ってボクとジャックの顔を見つめて来た。
「理解は出来た。だけど、あまりにも実感が湧かな過ぎて…。」
「俺もゼロと同じだ。こんなに世界が変わってる事に驚いたし、ミハイルとアリスはやっぱり死んだのか。」
ジャックはそう言って悲しい顔をした。
ボクはジャックの手を握った。
ジャックはボクの手に視線を落としてから手を握り返した。
「で、今から話す事が本題だ。結論から言うと、ミハイルとアリスは生きてる。エースとCATの調査で明らかになってる。」
「「えぇぇ!?生きてるのか!?」」
ヤオの言葉を聞いたボク達の声が合わさった。
「生きてるって事は死んでないんだよな!?は…、
良かった。」
そう言ったジャックの顔は、少し安心していた様子だった。
やっぱりミハイルには生きていて欲しいよな。
ボクもそれは同じだ。
アリスとミハイルにも幸せになる権利はある。
「生きてて欲しかったの?ゼロを不幸にした奴等だよ?マスターの命令じゃなかったら俺は動かなかったけど。ジャックはどう思ってんの?アリスとミハイルを恨んだりしてない訳?」
CATはそう言ってジャックに尋ねた。
ジャックはボクの手を強く握り締めた後に口を開いた。
「恨んだ事はあった。ゼロを異世界に飛ばした事や俺とゼロを引き離した2人を。」
「だったらー。」
「でも、ミハイルの事を恨み切れない自分がいるんだ。ミハイルの事、やっぱりまだ好きなんだよな俺。ゼロは嫌だよな?」
そう言ってジャックはボクを見つめた。
ジャックがこう言うのは分かっていた。
だが、その気持ちを不快には思わない。
「ボクは不快には思っていないよ。それに、ボクもアリスやミハイルは幸せになるべきだと思っている。ボクのように幸せになるべきなんだあの2人は。」
「ゼロ…。」
ギュッ…。
ジャックに握らせれていた手から温もりが伝わった。
「まー、ゼロとジャックはそう言うだろうなって検討は付いてたけど。」
「CATも意地悪だよねー。ジャックとゼロの為に頑張ってたのにねー。」
「なっ!?馬鹿!!」
パシッ!!
CATは照れながらエースの背中を叩いた。
「CATとエースはゼロ達がアリスとミハイルの事を気にしているだろうと思って壊れた世界に欠片の状態で探さしてたんだよ。」
「アリスとミハイルはいたのか?」
ヤオの言葉を聞いたボクは、ヤオに尋ねた。
「壊れた世界で2人は眠ってる。CATとエースと同じ欠片の状態で。」
「欠片…。死んではないよね?」
「魂自体は死んでないよ。体の機能が死んでるだけで。」
「え?それって死んでる事じゃないの?」
ボクはそう言ってヤオに尋ねた。
「魂が無事なら再生出来るんだよ。CATとエースのように人形に魂を入れればいい。」
「じゃあ、2人を助けられるって事だよな?」
「で、2人に確認する事がある。」
ジャックの言葉聞いたヤオは再びボク達の顔を見た。
「壊れた世界に行くのはかなり危険だ。俺も壊れた世界に行った事がないからどんな状況になってるか分からない。CATとエースが言うには、あの時いた大きな怪物が壊れた世界を徘徊してミハイルとアリスの欠片を守ってる状況だ。」
「つまり、ミハイルとアリスの欠片を取るには怪物を倒さないと行けないって事か。」
「その通り。それと、壊れた世界に行けるのは4人だ。ゼロとジャック、それからいつも俺と連絡が取れるようにCATとエースを連れて行く。どうする?」
ボクとジャックはお互いの顔を見つめた。
未知な世界に飛び込むのか、飛び込まないのか。
ジャックはフッと軽く笑ってから、ボクの空いている片方の手を握った。
ボクとジャックには不要な質問だ。
「「行くに決まってる。」」
「迷わないのかよ。ま、そう言うと思ってた。俺とCAT達で準備をするからそれまでは2人で過ごせよ。こっちでは2人は付き合ってる事にもなってるからな。」
ヤオはそう言ってニヤニヤしていた。
こ、こいつ…。
「じゃ、じゃあ少し外に出るか?」
ジャックは頬を桃色に染めながらボクに尋ねて来た。
不用意にもジャックの顔を見てときめいてしまった。
「う、うん。」
ボクとジャックは会議室を後にした。
エレベーターに乗り込み、とりあえず外に出る事にした。
外に出て見ると、街並みがガラリと変わっていた。
高層ビルが沢山立っていて、普通に車とか走ってる。
アリスとミハイルが作ったような世界はファンタジーみたいな感じで、目の前に広がっているのはボクがいた世界と似ていた。
「全然、違うな。」
「ここまで世界が変わるとは思ってもいなかった。」
ボク達はNight'sのアジトから少し離れた所にある大きな公園に来ていた。
近くにあったベンチに腰掛け、歩いている人々や風景を眺めていた。
「アリスとミハイルが作った世界はある意味、理想の世界だったのかもな。」
ジャックはそう言ってポケットから煙草を取り出し口に咥えた。
「絵本に出て来る店や人物を作って、自分達が主役の世界を作ってさ。実際はファンタジーみたいな世界じゃないよな。この世界を見ると。」
スッ。
ジャックは自分が持っていた煙草を差し出して来た。
ボクは煙草を1本だけ貰い口に咥えた。
カチッ。
ボクが煙草を咥えた事を確認したジャックが火を付けてくれた。
「こっちの世界にいる皆んなは幸せそうだ。ボクはそれは嬉しい事だと思う。ボクの側に皆んながいて、ジャックがいて。ジャックが側にいてくれたからボクはまた、心を取り戻せた。」
「ゼロ。」
「何?」
ジャックはボクの名前を呼んでからポケットを探り始めた。
ポケットから出て来たのは、小さな箱だった。
そして、隣に座っていたジャックがボクの前で膝を付き小さな箱を開けた。
箱から出て来たのはボクの瞳の色をした宝石がついた指輪だった。
「え、え?この指輪…、どうしたの?」
「俺の部屋に置いてあったんだ。きっと、元の世界の俺がゼロの為に用意した物だと思う。Night mareの話を聞いてコレをゼロに渡そうと思ったんだ。」
ボクの為に用意していた…?
ジャックがボクの為に?
「俺のわがままを聞いて一緒に壊れた世界に行ってくれるだろ?だけど、無事に帰って来れるか分からない。俺はゼロにはずっと死ぬまで側にいて欲しい。ゼロを愛してる。」
「っ…。」
「ゼロを誰にも渡すつもりもないし、どこにも行かせるつもりもねぇ。だから俺のモノになってくれ。俺をゼロのモノにしてくれないか?」
ジャックの真剣な眼差しが心をギュッと締め付けられる。
ジャックとボクは出会う運命だった。
離れていもまた、出会う運命だった。
ボクの事を忘れていたジャックはボクを思い出して愛してくれた。
ボクも、ボクもジャックを愛してる。
きっと、アリスの作った世界に来て初めて会った時から好きだった。
好きになるのは必然だった。
だって、ボクとジャックは小さい頃からずっと一緒
にいたんだから。
ボクの瞳から初めて涙が流れた。
この涙は悲しからじゃなく、嬉しくて流れたもの。
「ゼロ?泣いてるのか?」
ジャックの大きくて細い指がボクの頬に触れる。
「ジャック、ジャック…。」
「うん。」
「ジャックを愛してる…。愛してる。」
「うん、俺も愛してる。この世で1番ゼロを愛してる。」
「ジャックをボクのモノしてもいいのか?」
「何…言ってんだよ。俺は最初からお前のモノだろ?」
そう言ってジャックは、ボクの頭を優しく触り口付けをして来た。
今までに感じた事のない幸福感に体を支配された。
キスをされるだけでこんなにも嬉しいなんて初めてだ。
ボクはジャックともう一度、会えて本当には良かった。
「返事はOKって事で良い…よな?」
「うん。」
「はぁぁぁぁぁあ…。良かった。」
ギュッ。
ジャックは安心したように溜め息吐き、ボクを抱き締めた。
「断られると思ったのか?」
「い、いや…。半々?」
「ボクがジャックを拒む訳がないだろ。」
そう言ってボクはジャックの背中に手を回した。
「「「お、めでとー!!!」」」
パンパンパンパンッ!!!
「「っ!?」」
クラッカーの音とマリーシャやインディバー達の声が聞こえて来た。
「おめでとうアリスー!!やっと、婚約したのね!!」
「いやぁぁぁ!!今日はお祝いよぉぉおお!!」
インディバーとマリーシャは興奮しながら話していた。
「ど、どうしてお前等がここにいるんだよ!?仕事じゃなかったのか!?」
ジャックは顔を真っ赤にしながらインディバー達に尋ねた。
「仕事の途中だったんだよ。だけど、マリーシャから連絡を受けて集まったって感じ。悪いなジャック。」
ロイドは全く申し訳なさそうに謝罪した。
「だって、神妙な雰囲気だったんだもの。プロポーズするだろうなって思うでしょ!?キャー!!おめでとう!!」
マリーシャはそう言ってボクは抱き付いて来た。
「うわ!?マリーシャ!?」
「おい、ジャック。」
帽子屋は少し怖い顔してジャックを呼んだ。
「泣かせたら速攻で殺す。秒で殺す。」
「泣かせる訳ないだろ。」
「アリスをお前に渡すのは癪だが、アリスはお前が好きだから仕方なく許してやる。」
「ハッ、癪なのかよ。」
「アンタも妹離れしなさいよね?」
ジャックと帽子屋の会話にインディバーが入っていた。
その夜はヤオも誘って夜ご飯を食べに行った。
皆んなお酒はかなり強いらしくボク達は何軒も梯子をして、お開きになったのは夜明けだった。
皆んなボクとジャックの事を心の底からお祝いしてくれた。
ジャックも口では嫌と言っていたが、本当は嬉しそうだった。
これがこの世界でのボク達の日常だ。
誰も不幸じゃなくて、皆んなが普通の生活を送ってる。
ボクが望んでいた世界でボクは生活を送る。
アリスとボクの望んだ世界。
だから、アリスとミハイルもこの世界にいないと駄目だ。
それはジャックも思っている事。
壊れた世界に行く日が決まった。
2日後の夜、Night'sのアジトの地下で壊れた世界へ
の入り口を開く事になった。
ボクとジャックは出来るだけお互いの時間を作って一緒に過ごした。
ジャックは呑気に「ちょっとした旅行に行くみたいだな。」って隣で話してる。
ジャックの部屋のベットは2人で寝るには少し狭い。
だけど、こうして手の届く所にジャックがいるのは安心する。
「アリスとミハイルを迎えに行くだけだからな。」
「俺とゼロなら出来ない事はないだろ。あの世界でだって戦ったんだし。」
月夜に照らされたジャックの指にはめられた指輪が光る。
壊れた世界に行く事に全く不安がないボク達は変わり者かもしれない。
怖いもの知らずと言った方が正しいか。
「ゼーロ。こっち。」
少し甘えた声を出したジャックはボクの体を抱き寄せた。
お互いの温もりを確かめるようにボク達は抱き合って眠った。
壊れた世界に行く当日。
ボクとジャック、ヤオとCAT、エースは地下に向かっていた。
「こっちの世界でも、壊れた世界でもTrick Cardは使えるからな。」
「そうなのか?」
「そこは変わってなかったようだ。こっちしては助かったよ。」
ボクとヤオが話しているとエレベーターは地下に着いた。
チーン。
エレベーターが開き、ボク達はエレベーターから降りた。
ヤオが真っ直ぐ歩いたのでボク達もヤオの後を歩いた。
大きなシャッターの近くに大きなバイクが2台止まっていた。
「運転は出来るよなジャック。」
「当たり前だろ。」
「このバイクで行くのか?」
「まぁ、運転の仕方は普通のバイクと同じだ。これに乗って行け。」
「バイクで行けるのかよ…。」
ジャックはそう言いながら、ヤオから鍵を受け取りエンジンをかけた。
「ゼロにはこれを渡しとく。アリスとミハイルの欠片を入れるカプセル。」
ヤオはカプセルが入っている袋を渡して来た。
「これに入れれば良いんだな。」
ブゥンブゥンッ!!
「準備出来たぞ。」
ジャックの言葉を聞いたヤオはCAT達の方に振り向いた。
「ゼロはジャックの後ろに。後の1台はCATが運転しろ。」
「了解ー。」
CATは慣れた手付きでバイクにエンジンをかけた。
ボクはジャックに後ろに乗り込んだ。
エースもCATの後ろに乗り込んだ事を確認したヤオは、大きなシャッターを開けた。
ガシャンガシャン!!
大きな音を立てながらシャッターは少しずつ開き始めた。
「ちゃんと帰って来いよゼロ。」
そう言ったヤオは少し心配そうにボクを見つめた。
ボクはヤオにフッと笑かけ、「すぐに戻る。」と言った。
「んじゃ、少し留守にするからな。」
「行ってくる。」
ブゥンブゥン!!
ボク達はシャッターが開いたと同時にバイクを走らせた。
アリスとミハイルを迎えにー
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