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第陸章 花は咲いて枯れ、貴方を
愛してる 参
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孫悟空ー
黒い長い髪が俺達に向かって、一斉に飛んで来た。
ビュンッ!!
シュルルルッ!!!
「下がれ、悟空。」
如意棒に巻き付こうとした髪を、雷龍が雷を放ち蹴散らした。
バチバチバチバチバチバチ!!!
だが、髪は鉄の様に硬いらしく、雷を弾き飛ばした。
シュルルルッ!!!
俺は如意棒を構え、飛んで来た髪を弾く。
キィィィンッ!!
「くっそっ!!馬鹿みたいに硬ねぇなっ!!」
「悟空、あの女を始末せねばならないのでは?この髪の動きが止まるだろう。」
「行くか。」
タンッ!!
如意棒を地面に叩き付け、長くなった如意棒は一気に縮み、元の長さに戻る。
高く飛んだ俺は向かって来る髪の毛の上に着地し、
そのまま女の所に向かう。
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!!
向かって来る髪の毛は、無理に相手しなくて良い。
本体を殺せば、動きは止まる。
タタタタタタタッ!!!
「オンキリク・シュチリビリタカナダ・サタヤサタンバヤ・ソワカ。」
シュンッ!!
俺がそう言うと、如意棒の先に刃が現れた。
ただの棒だった如意棒を槍へと早変わりさせた。
「よせ、悟空!!」
「悪りぃな、爺さん。」
爺さんが他にも何か叫んでいたが、関係ない。
目の前にいる脅威、牛鬼とこの女を殺さねぇといけない。
「死ね。」
俺は女の顔に向かって、刃を突き刺そうとした時だった。
ビュンッ!!
黒い影が俺の方に伸び、体に巻き付いた。
「ッチ、邪魔くせぇ!!」
グルンッ!!
グッと如意棒を持つ手に力を入れて、ぐるっと体ごと捻じ曲げながら、影から脱出する。
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!
シュンッ、シュンッ、シュンッ!!
影から抜け出したばかりの俺に向かって、髪の毛と
影が一斉に飛んで来る。
「次から次へと、鬱陶しいなっ。」
「あははは!!実に面白いな、悟空。殺す事を躊躇してるだろ。」
俺の目の前に現れた牛鬼は、言葉を吐く。
正直な所、明確な殺意がある訳じゃない。
爺さんだって、攻撃をしようとはしていない。
ただ、攻撃を受け流し、2人を傷付けさせないようにしている。
それもそうだ。
爺さんは、家族を傷付ける事は出来ないだろう。
自分の妻を化け物にしてでも、生きさせたのだから。
ただ、これだけは分かった。
「全ての元凶は、お前だったんだな…、牛鬼!!」
牛鬼に向かって、槍の先を突き刺す。
キィィィンッ!!
ウヨウヨと動く影が、如意棒を弾き飛ばした。
牛鬼が影を硬化したのか。
「元凶だと?ハッ、笑わせるな。美猿王、お前と俺は、どれだけの輪廻転生を繰り返していると思うんだ?」
「何を言ってんだ、お前はっ!!」
そう言って、力を込めながら如意棒を振るう。
ブンッ!!
キンッ!!
だが、牛鬼は容易く如意棒を影で弾き飛ばす。
変だ。
力が思った様に出せねぇ。
もしかしてだが、ここでは牛鬼を倒せない?
俺がいるのは、過去の世界だ。
目の前で起きている事は、過去の出来事だとして、過去を変える事は今更出来ない。
だったら、今は牛鬼を殺せないんじゃないのか?
力の殆どが出せない状況は、そう言う理由じゃないのか。
思考を巡らせていると、牛鬼は言葉を続けていた。
「あぁ、今は悟空だったか。教えてやるよ、俺と美猿王は何百年…いや、何千年だったか?」
「は?」
「俺が美猿王に殺され、美猿王が俺に殺され、その繰り返しだったなぁ。俺と美猿王は決められた運命の上を歩いている。誰が決めた運命だと思う?」
グサッ!!
その瞬間、目の前が真っ赤に染まった。
「ゴフッ!!」
牛鬼の手には影で作られた剣が握られており、俺は体を斬られたようだった。
「悟空!!離れろ!!」
グイッ!!
爺さんは俺の手を引き、牛鬼から距離を離した。
「大丈夫か!?今、医療を…っ。」
黒い何かが、爺さんに向かって飛ばされているのが見えた。
「そんな事しなくて良い、退いてろ!!」
「なっ!?」
俺は爺さんの体を押し、前に出る。
キィィィン!!!
飛んで来た影の棘を弾き飛ばす。
次々と降り注ぐ棘を弾き続けながら弾き流した棘が体に刺さる。
グサッ、グサッ、グサッ!!!
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!!
向かってくる鉄の様な髪の毛を避け、体制を整える。
「はぁ、はぁ…っ。」
傷の治りが遅せぇ…、どうなってんだ。
この空間、異様だ。
「雷龍、ここから早く出た方が良さそうだな。」
「ここはもはや、彼奴の空間なのだろう。記憶と言う名の異空間。だが、出口となる場所が見当たらぬ。我も思う様に力が出ぬ。」
もしかしたら、この瞬間から牛鬼の過去へと変わった?
宇轩は死んで、宇轩の記憶はここで止まる筈…。
「お前だけが、何で特別扱いされるんだろうなぁ。昔からそうだった、お前は俺の存在すらも愚弄(グロウ)する。」
牛鬼はそう言うと、黒い影が大きく増幅して行く。
「何言ってんだよ、お前。」
「良いよなぁ、良いよなぁ。輪廻転生を繰り返す度に記憶を失えてなぁ!?」
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!
ドコドコドコドコドコーンッ!!
影の棘と髪の毛が一斉に降り注ぐ。
空中を高く飛び、如意棒を構え、牛鬼に向かって突き刺す。
「ごちゃごちゃとうるせぇ。何がしてぇんだよ、テメェは!!!」
キィィィン!!
牛鬼は易々と俺の攻撃を止める。
それだけでも腹立たしいのに、牛鬼の訳の分からない話を聞かされてうんざりする。
だが、牛鬼の言ってる事は満更、嘘でも無い気がしている。
「悟空、お前は作られた存在だ。その男が名前を付け、生まれた存在。俺と美猿王は、神々が最初に産んだ人種なんだよ。」
「は、はぁ?!何を言って…っ。」
グサッ!!
足の甲に痛みが走る。
よく見ると、足の甲に棘が刺さっていた。
「あははは!!ここは、俺の空間だ。作られたお前は、黙って殺されろ。」
牛鬼の言葉を聞いてふと、あの言葉を思い出した。
「二度目の死を迎える。」
糸目の男が言っていた言葉だ。
それはこの事だったのか?
「殺させないぞ、牛鬼。」
後ろを振り返ると、霊魂銃を構えている爺さんが目に入った。
「宇轩を殺されて、妻まで…。お前は、ここで止め
る。いや、止めないといけない。」
「ほう?お前は自分の息子に引き金を引けるのか?」
「引かなければならない。お前を滅しない限り、私の気持ちは治らぬ!!」
パァァアン!!!
爺さんは牛鬼に向かって、引き金を引いた。
だが、弾は牛鬼の横を通り過ぎ、当たる事は無かった。
「殺せ。」
「あ、あがあがぁがぁぁあぁあ!!!」
シュシュシュシュッ!!
化け物の女は、爺さんの体に髪の毛を巻き付けた。
「や、めろっ、やめてくれっ。」
「キィエエエエエー!!!!」
爺さんはされるがままに、化け物の女に触られている。
「何やってんだよ、あのじじい!!!」
ブチッ!!
俺は足の甲に刺さった棘を抜き、化け物の女に向かって投げる。
ブンッ!!
グサッ!!
投げ飛ばした棘は、化け物の女の頭に刺さった。
「ギィエエエエエー!!!」
ブンッ!!
痛みで暴れ出した化け物の女は、爺さんを投げ飛ばした。
ドゴォォォーン!!
「がはっ!!」
大きな木に叩き付けられた爺さんは、気を失ってしまった。
「殺す気も無いのに、中途半端は良くねーよなぁ?」
牛鬼はニヤリと笑いながら、頬から流れている血を指で拭き取った。
「お前をここで潰したら、美猿王は復活する。だから、死んでくれるよなぁ?」
「音爆螺旋。」
ジャキンッ!!!
牛鬼と化け物の女の体に、光の鎖が巻き付いた。
俺は攻撃をしながら、この術を使う為に札をばら撒
いていた。
動きを止めて、奴を斬る。
深傷を負わせれば、この世界から抜け出せるかもしれねぇ。
「へぇ、この為にチョロチョロと動き回ってたのか。」
俺は牛鬼の問いには答えずに、如意棒の先を向け、強く突き刺した。
グサッ!!!
「悟空!!」
雷龍は俺の姿を見て驚いた。
それもそうだ。
俺の体には、沢山の影の棘が刺さっているからだ。
「ガハッ!!」
込み上げて来た血の塊を吐き出す。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ。
心臓の音が耳に響く。
この感じ、この感覚。
あぁ、またこの感覚を味わえるとは思わなかった。
いや、寧ろ感じたく無かった。
500年前、俺が牛魔王に斬られ死に掛け、不老不死の術を掛けられた日の事。
脈拍の音が耳に響く、体が死を実感してる音だ。
身体中の血が流れ、傷の治りが遅い。
傷の再生よりも先に、奴が攻撃して来てる。
そうか、俺はまだ弱いのか。
術に頼っていた所は、確かにあった。
不老不死は、俺が持っていた能力では無いからだ。
「あははは、あははは!!!」
「何、笑ってんの?頭でもおかしくなった?」
「あ?おかしくねぇよ。俺もまだ、未熟者だったって事だ。」
「は?ぐっ!?」
俺は如意棒に付けた刃を上に向け、牛鬼の足元から上に上げた。
ブシャッ!!
奴の体から、赤黒い血が噴き出す。
「悟空!?動けるのか!?」
雷龍は驚きながら、俺の周りをウロウロしている。
「なめられんのは、嫌いなんだよ。俺はな、お前みてぇな、気色の悪い奴は嫌いなんだよ!!」
「グハッ!!」
俺は更に如意棒の先に着いた刃を、牛鬼の体に突き刺さす。
「この体では、血を流し過ぎると死ぬな。だが、俺の方が早い。」
ビュンッ!!
大きな黒い影が、猛スピードで爺さんの方に向かった。
「ッチ!!この糞野郎が!!」
タンッ!!
如意棒を地面に強く叩き付け、如意棒の長さを変える。
伸ばして、縮ませ、その衝撃で体が宙に浮く。
シュシュシュシュッ!!!
長い髪の毛が俺を追って、飛んで来る。
それよりも早く、爺さんの所に行かねーと!!
「うぉおおっらっ!!!」
急いで着地し、如意棒を乱暴に振り回す。
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!!!
弾き飛ばせなかった髪の毛や影の棘が、体を貫く。
俺の血が飛び散り、視界が揺れる。
「よせ、悟空!!それ以上やれば、お前が…っ。」
雷龍の言葉に答えず、ひたすら如意棒を振るう。
「やめろと言っている!!!」
バチバチバチバチバチバチ!!!
ドゴォォォーン!!!
雷龍が叫ぶど、大きな雷が幾つか落ちて来る。
凄まじい落雷は、化け物の女にも落ち、女はその場
に倒れた。
「悟空、何故にその男を助ける。お前を突き動かすのは何だ。」
雷龍の言う事は、ごもっともだ。
こんなに血を流し、ボロボロになっても、爺さんを守るのか。
情けない姿を見ても、禁忌を起こしていた事、花妖怪達を殺していた事。
爺さんは側からしたら、悪人と思われる行為をした。
「雷龍、俺は…。どうしても、爺さんを軽蔑する事は出来ねぇ。あの人は俺に名前をくれた。牛鬼の言う通りなら、俺は爺さんに作られた存在なのだろう。名前には言霊が宿ってるって、爺さんから聞いた事がある。」
「奴は、お前にとって大事な存在なのか。」
「あの人が、俺を息子だと言ってくれた。こんな事、言うのは恥ずかしいが、嬉しかったんだ。」
そうだ。
俺は、嬉しかったんだ。
爺さんが息子だと言って、可愛がってくれた事。
周りの人間に俺の事を誇らしげに話していた事。
そんな些細な事が嬉しかった。
「だから、俺は爺さんを守る。俺を息子だと言ってくれたこの人を。」
「あははは!!!須菩提祖師が好きそうな子だよ、君は!!」
そう言って、牛鬼は巨大な影の中から現れた。
「美猿王とは、真逆だよ。アイツはそんな言葉を吐かないし、他人に興味なんて無い。あーあ、君の言葉を聞くだけで、虫唾が走る。」
ドドドドドドドッ!!!
影の中から、影で出来た様々な武器が現れた。
「あー、腹が立つ。君みたいな偽善者はよぉ!?死ねよ、何で死なないかなぁ!?」
牛鬼は乱暴に髪を掻きながら叫ぶ。
「俺はお前に殺されねぇ、俺がお前を殺すからな。」
如意棒を構え、勢いを付けて高く飛ぶ。
ビュンッ!!!
「死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!」
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!!
牛鬼が叫ぶと、一斉に影の武器が飛んで来る。
傷が治って来てる、動くなら今だ。
「雷龍!!」
俺の声を聞いた雷龍は、大きな雷を落とす。
ドゴォォォーン!!
雷に当たった武器達は、焼け焦げて地面に落ちる。
残りの武器は、俺が弾き飛ばす。
キンキンキンッ!!!
「うぉおおおっらぁぁぁああ!!!」
キンキンキンッ、キンキンキンッ!!!
牛鬼の目の前まで近付き、如意棒を振り下ろそうとした時だった。
「悟空!!!」
グサッ、グサッ!!
「グハッ!!」
弾き飛ばした筈の武器達が、俺の体に突き刺さっている。
「惜しかったなぁ?悟空。」
そう言って、牛鬼は不敵に笑いながら近付いて来る。
やべぇ…、力が入らねぇ…。
「俺を斬ったまでは良かったが、あの爺さんを助けに行かなかったらなぁ?勝てたかもな。」
喋る気力もねぇ…、体が動かねぇ…。
「さてと、これでお前の心臓を突き刺さしたら…、どうなるかなぁ。」
ズズズズッ…。
牛鬼は、影の中から剣を取り出す。
「安心しろよ、お前を殺してからアイツも殺してやる。先に逝ってろ。」
「悟空っ!!!」
雷龍の叫び声が聞こえるが、体が動かない。
「お前は俺には勝てない、俺を殺せるのは美猿王だけだ。」
そう言って、牛鬼は剣を突き刺そうとした時だった。
俺と牛鬼の間から、大きな光が現れた。
「な、何だ!?この光は!!?」
牛鬼は目を押さえながら、光から距離を取った。
「悟空、お前まで失わせない。大丈夫だ、わしがお前の為に怪物になる。」
光の中から手が伸び、俺の体を掴み引き寄せた。
黒い長い髪が俺達に向かって、一斉に飛んで来た。
ビュンッ!!
シュルルルッ!!!
「下がれ、悟空。」
如意棒に巻き付こうとした髪を、雷龍が雷を放ち蹴散らした。
バチバチバチバチバチバチ!!!
だが、髪は鉄の様に硬いらしく、雷を弾き飛ばした。
シュルルルッ!!!
俺は如意棒を構え、飛んで来た髪を弾く。
キィィィンッ!!
「くっそっ!!馬鹿みたいに硬ねぇなっ!!」
「悟空、あの女を始末せねばならないのでは?この髪の動きが止まるだろう。」
「行くか。」
タンッ!!
如意棒を地面に叩き付け、長くなった如意棒は一気に縮み、元の長さに戻る。
高く飛んだ俺は向かって来る髪の毛の上に着地し、
そのまま女の所に向かう。
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!!
向かって来る髪の毛は、無理に相手しなくて良い。
本体を殺せば、動きは止まる。
タタタタタタタッ!!!
「オンキリク・シュチリビリタカナダ・サタヤサタンバヤ・ソワカ。」
シュンッ!!
俺がそう言うと、如意棒の先に刃が現れた。
ただの棒だった如意棒を槍へと早変わりさせた。
「よせ、悟空!!」
「悪りぃな、爺さん。」
爺さんが他にも何か叫んでいたが、関係ない。
目の前にいる脅威、牛鬼とこの女を殺さねぇといけない。
「死ね。」
俺は女の顔に向かって、刃を突き刺そうとした時だった。
ビュンッ!!
黒い影が俺の方に伸び、体に巻き付いた。
「ッチ、邪魔くせぇ!!」
グルンッ!!
グッと如意棒を持つ手に力を入れて、ぐるっと体ごと捻じ曲げながら、影から脱出する。
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!
シュンッ、シュンッ、シュンッ!!
影から抜け出したばかりの俺に向かって、髪の毛と
影が一斉に飛んで来る。
「次から次へと、鬱陶しいなっ。」
「あははは!!実に面白いな、悟空。殺す事を躊躇してるだろ。」
俺の目の前に現れた牛鬼は、言葉を吐く。
正直な所、明確な殺意がある訳じゃない。
爺さんだって、攻撃をしようとはしていない。
ただ、攻撃を受け流し、2人を傷付けさせないようにしている。
それもそうだ。
爺さんは、家族を傷付ける事は出来ないだろう。
自分の妻を化け物にしてでも、生きさせたのだから。
ただ、これだけは分かった。
「全ての元凶は、お前だったんだな…、牛鬼!!」
牛鬼に向かって、槍の先を突き刺す。
キィィィンッ!!
ウヨウヨと動く影が、如意棒を弾き飛ばした。
牛鬼が影を硬化したのか。
「元凶だと?ハッ、笑わせるな。美猿王、お前と俺は、どれだけの輪廻転生を繰り返していると思うんだ?」
「何を言ってんだ、お前はっ!!」
そう言って、力を込めながら如意棒を振るう。
ブンッ!!
キンッ!!
だが、牛鬼は容易く如意棒を影で弾き飛ばす。
変だ。
力が思った様に出せねぇ。
もしかしてだが、ここでは牛鬼を倒せない?
俺がいるのは、過去の世界だ。
目の前で起きている事は、過去の出来事だとして、過去を変える事は今更出来ない。
だったら、今は牛鬼を殺せないんじゃないのか?
力の殆どが出せない状況は、そう言う理由じゃないのか。
思考を巡らせていると、牛鬼は言葉を続けていた。
「あぁ、今は悟空だったか。教えてやるよ、俺と美猿王は何百年…いや、何千年だったか?」
「は?」
「俺が美猿王に殺され、美猿王が俺に殺され、その繰り返しだったなぁ。俺と美猿王は決められた運命の上を歩いている。誰が決めた運命だと思う?」
グサッ!!
その瞬間、目の前が真っ赤に染まった。
「ゴフッ!!」
牛鬼の手には影で作られた剣が握られており、俺は体を斬られたようだった。
「悟空!!離れろ!!」
グイッ!!
爺さんは俺の手を引き、牛鬼から距離を離した。
「大丈夫か!?今、医療を…っ。」
黒い何かが、爺さんに向かって飛ばされているのが見えた。
「そんな事しなくて良い、退いてろ!!」
「なっ!?」
俺は爺さんの体を押し、前に出る。
キィィィン!!!
飛んで来た影の棘を弾き飛ばす。
次々と降り注ぐ棘を弾き続けながら弾き流した棘が体に刺さる。
グサッ、グサッ、グサッ!!!
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!!
向かってくる鉄の様な髪の毛を避け、体制を整える。
「はぁ、はぁ…っ。」
傷の治りが遅せぇ…、どうなってんだ。
この空間、異様だ。
「雷龍、ここから早く出た方が良さそうだな。」
「ここはもはや、彼奴の空間なのだろう。記憶と言う名の異空間。だが、出口となる場所が見当たらぬ。我も思う様に力が出ぬ。」
もしかしたら、この瞬間から牛鬼の過去へと変わった?
宇轩は死んで、宇轩の記憶はここで止まる筈…。
「お前だけが、何で特別扱いされるんだろうなぁ。昔からそうだった、お前は俺の存在すらも愚弄(グロウ)する。」
牛鬼はそう言うと、黒い影が大きく増幅して行く。
「何言ってんだよ、お前。」
「良いよなぁ、良いよなぁ。輪廻転生を繰り返す度に記憶を失えてなぁ!?」
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!
ドコドコドコドコドコーンッ!!
影の棘と髪の毛が一斉に降り注ぐ。
空中を高く飛び、如意棒を構え、牛鬼に向かって突き刺す。
「ごちゃごちゃとうるせぇ。何がしてぇんだよ、テメェは!!!」
キィィィン!!
牛鬼は易々と俺の攻撃を止める。
それだけでも腹立たしいのに、牛鬼の訳の分からない話を聞かされてうんざりする。
だが、牛鬼の言ってる事は満更、嘘でも無い気がしている。
「悟空、お前は作られた存在だ。その男が名前を付け、生まれた存在。俺と美猿王は、神々が最初に産んだ人種なんだよ。」
「は、はぁ?!何を言って…っ。」
グサッ!!
足の甲に痛みが走る。
よく見ると、足の甲に棘が刺さっていた。
「あははは!!ここは、俺の空間だ。作られたお前は、黙って殺されろ。」
牛鬼の言葉を聞いてふと、あの言葉を思い出した。
「二度目の死を迎える。」
糸目の男が言っていた言葉だ。
それはこの事だったのか?
「殺させないぞ、牛鬼。」
後ろを振り返ると、霊魂銃を構えている爺さんが目に入った。
「宇轩を殺されて、妻まで…。お前は、ここで止め
る。いや、止めないといけない。」
「ほう?お前は自分の息子に引き金を引けるのか?」
「引かなければならない。お前を滅しない限り、私の気持ちは治らぬ!!」
パァァアン!!!
爺さんは牛鬼に向かって、引き金を引いた。
だが、弾は牛鬼の横を通り過ぎ、当たる事は無かった。
「殺せ。」
「あ、あがあがぁがぁぁあぁあ!!!」
シュシュシュシュッ!!
化け物の女は、爺さんの体に髪の毛を巻き付けた。
「や、めろっ、やめてくれっ。」
「キィエエエエエー!!!!」
爺さんはされるがままに、化け物の女に触られている。
「何やってんだよ、あのじじい!!!」
ブチッ!!
俺は足の甲に刺さった棘を抜き、化け物の女に向かって投げる。
ブンッ!!
グサッ!!
投げ飛ばした棘は、化け物の女の頭に刺さった。
「ギィエエエエエー!!!」
ブンッ!!
痛みで暴れ出した化け物の女は、爺さんを投げ飛ばした。
ドゴォォォーン!!
「がはっ!!」
大きな木に叩き付けられた爺さんは、気を失ってしまった。
「殺す気も無いのに、中途半端は良くねーよなぁ?」
牛鬼はニヤリと笑いながら、頬から流れている血を指で拭き取った。
「お前をここで潰したら、美猿王は復活する。だから、死んでくれるよなぁ?」
「音爆螺旋。」
ジャキンッ!!!
牛鬼と化け物の女の体に、光の鎖が巻き付いた。
俺は攻撃をしながら、この術を使う為に札をばら撒
いていた。
動きを止めて、奴を斬る。
深傷を負わせれば、この世界から抜け出せるかもしれねぇ。
「へぇ、この為にチョロチョロと動き回ってたのか。」
俺は牛鬼の問いには答えずに、如意棒の先を向け、強く突き刺した。
グサッ!!!
「悟空!!」
雷龍は俺の姿を見て驚いた。
それもそうだ。
俺の体には、沢山の影の棘が刺さっているからだ。
「ガハッ!!」
込み上げて来た血の塊を吐き出す。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ。
心臓の音が耳に響く。
この感じ、この感覚。
あぁ、またこの感覚を味わえるとは思わなかった。
いや、寧ろ感じたく無かった。
500年前、俺が牛魔王に斬られ死に掛け、不老不死の術を掛けられた日の事。
脈拍の音が耳に響く、体が死を実感してる音だ。
身体中の血が流れ、傷の治りが遅い。
傷の再生よりも先に、奴が攻撃して来てる。
そうか、俺はまだ弱いのか。
術に頼っていた所は、確かにあった。
不老不死は、俺が持っていた能力では無いからだ。
「あははは、あははは!!!」
「何、笑ってんの?頭でもおかしくなった?」
「あ?おかしくねぇよ。俺もまだ、未熟者だったって事だ。」
「は?ぐっ!?」
俺は如意棒に付けた刃を上に向け、牛鬼の足元から上に上げた。
ブシャッ!!
奴の体から、赤黒い血が噴き出す。
「悟空!?動けるのか!?」
雷龍は驚きながら、俺の周りをウロウロしている。
「なめられんのは、嫌いなんだよ。俺はな、お前みてぇな、気色の悪い奴は嫌いなんだよ!!」
「グハッ!!」
俺は更に如意棒の先に着いた刃を、牛鬼の体に突き刺さす。
「この体では、血を流し過ぎると死ぬな。だが、俺の方が早い。」
ビュンッ!!
大きな黒い影が、猛スピードで爺さんの方に向かった。
「ッチ!!この糞野郎が!!」
タンッ!!
如意棒を地面に強く叩き付け、如意棒の長さを変える。
伸ばして、縮ませ、その衝撃で体が宙に浮く。
シュシュシュシュッ!!!
長い髪の毛が俺を追って、飛んで来る。
それよりも早く、爺さんの所に行かねーと!!
「うぉおおっらっ!!!」
急いで着地し、如意棒を乱暴に振り回す。
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!!!
弾き飛ばせなかった髪の毛や影の棘が、体を貫く。
俺の血が飛び散り、視界が揺れる。
「よせ、悟空!!それ以上やれば、お前が…っ。」
雷龍の言葉に答えず、ひたすら如意棒を振るう。
「やめろと言っている!!!」
バチバチバチバチバチバチ!!!
ドゴォォォーン!!!
雷龍が叫ぶど、大きな雷が幾つか落ちて来る。
凄まじい落雷は、化け物の女にも落ち、女はその場
に倒れた。
「悟空、何故にその男を助ける。お前を突き動かすのは何だ。」
雷龍の言う事は、ごもっともだ。
こんなに血を流し、ボロボロになっても、爺さんを守るのか。
情けない姿を見ても、禁忌を起こしていた事、花妖怪達を殺していた事。
爺さんは側からしたら、悪人と思われる行為をした。
「雷龍、俺は…。どうしても、爺さんを軽蔑する事は出来ねぇ。あの人は俺に名前をくれた。牛鬼の言う通りなら、俺は爺さんに作られた存在なのだろう。名前には言霊が宿ってるって、爺さんから聞いた事がある。」
「奴は、お前にとって大事な存在なのか。」
「あの人が、俺を息子だと言ってくれた。こんな事、言うのは恥ずかしいが、嬉しかったんだ。」
そうだ。
俺は、嬉しかったんだ。
爺さんが息子だと言って、可愛がってくれた事。
周りの人間に俺の事を誇らしげに話していた事。
そんな些細な事が嬉しかった。
「だから、俺は爺さんを守る。俺を息子だと言ってくれたこの人を。」
「あははは!!!須菩提祖師が好きそうな子だよ、君は!!」
そう言って、牛鬼は巨大な影の中から現れた。
「美猿王とは、真逆だよ。アイツはそんな言葉を吐かないし、他人に興味なんて無い。あーあ、君の言葉を聞くだけで、虫唾が走る。」
ドドドドドドドッ!!!
影の中から、影で出来た様々な武器が現れた。
「あー、腹が立つ。君みたいな偽善者はよぉ!?死ねよ、何で死なないかなぁ!?」
牛鬼は乱暴に髪を掻きながら叫ぶ。
「俺はお前に殺されねぇ、俺がお前を殺すからな。」
如意棒を構え、勢いを付けて高く飛ぶ。
ビュンッ!!!
「死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!」
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!!!
牛鬼が叫ぶと、一斉に影の武器が飛んで来る。
傷が治って来てる、動くなら今だ。
「雷龍!!」
俺の声を聞いた雷龍は、大きな雷を落とす。
ドゴォォォーン!!
雷に当たった武器達は、焼け焦げて地面に落ちる。
残りの武器は、俺が弾き飛ばす。
キンキンキンッ!!!
「うぉおおおっらぁぁぁああ!!!」
キンキンキンッ、キンキンキンッ!!!
牛鬼の目の前まで近付き、如意棒を振り下ろそうとした時だった。
「悟空!!!」
グサッ、グサッ!!
「グハッ!!」
弾き飛ばした筈の武器達が、俺の体に突き刺さっている。
「惜しかったなぁ?悟空。」
そう言って、牛鬼は不敵に笑いながら近付いて来る。
やべぇ…、力が入らねぇ…。
「俺を斬ったまでは良かったが、あの爺さんを助けに行かなかったらなぁ?勝てたかもな。」
喋る気力もねぇ…、体が動かねぇ…。
「さてと、これでお前の心臓を突き刺さしたら…、どうなるかなぁ。」
ズズズズッ…。
牛鬼は、影の中から剣を取り出す。
「安心しろよ、お前を殺してからアイツも殺してやる。先に逝ってろ。」
「悟空っ!!!」
雷龍の叫び声が聞こえるが、体が動かない。
「お前は俺には勝てない、俺を殺せるのは美猿王だけだ。」
そう言って、牛鬼は剣を突き刺そうとした時だった。
俺と牛鬼の間から、大きな光が現れた。
「な、何だ!?この光は!!?」
牛鬼は目を押さえながら、光から距離を取った。
「悟空、お前まで失わせない。大丈夫だ、わしがお前の為に怪物になる。」
光の中から手が伸び、俺の体を掴み引き寄せた。
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