西遊記龍華伝

百はな

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第伍章 美猿王と悟空、2人の王

式神 渡し守り

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美猿王が降臨している中、風鈴の作った結界内に閉じ込められた三蔵達はー



猪八戒ー

三蔵に無理をさせる訳にはいかない。

それと、悟空達の方も心配だ。

結界の中だから外がどんな風になっているのかも、分からない。

ドドドドドドドッ!!!

がしゃどくろが大きな手を振り上げた。

俺は三蔵の手を掴み、がしゃどくろの攻撃を避けるように高く飛び上げた。

ビュンッ!!

「うわっ!?」

「しっかり、捕まってろ!!」

「え?!」

「逃すか!!」

がしゃどくろはそう言って、手を伸ばして来た。

俺は鉄扇を振り上げ暴風を起こした。

ブォォォォォォォ!!

バキバキバキバキ!!

暴風を受けたがしゃどくろの手が粉々に砕け、暴風と共に舞った。

バラバラになった骨が再び集まり、すぐに再生してしまう。

これも牛魔王の血の力なのか?

「ッチ!!」

舌打ちをした後、紫洸を構え銃弾をひたすら放った。

パンパンパンッ!!

パンパンパンッ!!

バキバキバキバキ!!

「やったか?!」

タンッ。

俺は近くの家の屋根に着地し、粉々になったがしゃどくろに視線を向けた。

だが…。

「ギャハハハハハハ!!何度やっても同じ事!!妾にはそのような攻撃は通用せんぞ!!」

がしゃどくろは笑いながら骨の破片を飛ばした。

ビュンッ!!

「猪八戒!!危ない!!」

グサッ!!

三蔵が俺の前に出て、代わりにがしゃどくろの骨の破片が三蔵の腕に刺さった。

「っ、三蔵!?何で前に出たんだ!?」

「痛ってぇ…、体が勝手に動いたんだよ。」

三蔵はそう言って、腕に刺さった骨の破片を抜いた。

「お前、無茶したら駄目だろ!!」

「ごめんって!!」

「おらおらおら!!」

がしゃどくろはお構いなしに骨の破片を飛ばして来た。

ビュンッ!!

このっ…、骸骨のくせに!!

俺は鉄扇を一回り大きくし、大きく振り上げた。

ブォォォォォォォ!!

がしゃどくろをぶっ倒すには…、"アレ"を使うしかないな…。


羅刹天の屋敷に滞在していた時の事であるー

「お前等、妖の力を使いこなせ。」

羅刹天はそう言って、俺と沙悟浄を指差した。

「妖の力…って?」

「妖を食った時に、妖の姿になって暴れただろ?俺達、妖は本来の力を使いこなして戦ってんだよ。今の姿だと本来の力すら出してないだろ。」

俺の問いに羅刹天が答えた。

「悟空が良い例だ。観音菩薩から貰った水晶で、お前等と哪吒達の戦いの時、悟空が炎の中から出て来た時があっただろ?あれは妖の力、美猿王になり妖の本来の姿に戻ったんだ。凄まじい力だったろ?あれが妖の力だ。」

あの時…。

確かに、悟空から放たれていたオーラは凄かった。

あれが、妖の力…。

「羅刹天はどうやって、妖の力をコントロールしてるんだ?」

「己を見失うな、飲まれるからな。目の前にぶっ殺したい奴がいたら、腹が立つだろ?妖の力を出すには怒りの感情にならなければならない。怒りで我を身失わないように、己の精神が強くならないといけない。飲み込まれたら、戻れなくなるぞ。」

その時の羅刹天の言葉は、凄く怖く感じだ。

妖と言うのは恐ろしい存在なんだと、感じさせられた。

「妖の力を使ってでも、守りたい者を忘れなければ飲み込まれない。お前等にはそんな存在がいるだろ。」

その言葉聞いた瞬間、三蔵と悟空、沙悟浄の顔が浮かんだ。

それは沙悟浄も同じなようだった。

「人間は死んだら生き還らない。判断を間違えるな。」

「分かった。もう、失わせねぇ。」

俺はそう言って、羅刹天に視線を向けた。



三蔵を守れるのは俺しかいねぇ。

俺はもう、失わせねぇ。

ドクンッ!!

俺の心臓が強く脈を打った。

ドクドクドク!!

身体中の血が沸騰したみたいに熱い。

ボロボロになった服の間から、蓮の花の入れ墨が浮き上がった。

「ちょ、猪八戒…?その、姿は…?」

三蔵は俺の姿を見て驚いていた。

俺の額からは真っ赤な角(ツノ)が2本生え、髪も少し伸びた感じがした。

爪も長くなり、早くがしゃどくろを殺したいと言う感情が心を支配した。

がしゃどくろが大きな手を伸ばして来た。

「死ねぇぇぇぇ!!!」

「猪八戒!!」

ガシッ!!

俺はがしゃどくろの手を片手で掴み、握り潰した。

バキバキ!!

がしゃどくろは驚きながらもう、片方の手を伸ばして来た。

ビュンッ!!

タタタタタタタ!!

俺はがしゃどくろの手に飛び移り、腕の上を走った。

がしゃどくろの頭上に飛び上がり、頭上に踵を落とした。

ドゴォォォーン!!

がしゃどくろが地面に強く叩き付けられた。

「わぁお。」

風鈴は猪八戒の姿を見て声を出した。


源蔵三蔵 二十歳

猪八戒の姿が変わった途端、見えない速さでがしゃどくろを叩き付けた。

地面から煙が立ち、猪八戒とがしゃどくろの姿が見えなくなった。

「猪八戒!!!」

猪八戒の名前を呼んでも反応がない。

ビュンッ!!

煙の中から出て来たのはがしゃどくろだった。

がしゃどくろは後退りするように、後ろに飛んだが猪八戒が追い掛けるように飛んだ。

「こいつ、急に素早くっ?!」

「後ろに行きたいなら、俺が連れてってやるよ。」

ガシッ!!

猪八戒ががしゃどくろの腕を掴み後ろに飛ばした。

ガシャーンッ!!

飛ばされてたがしゃどくろは、何個か家を破壊した。

「さっきまでの威勢はどうした!?あ?」

そう言って、猪八戒は紫洸を出して銃弾を放った。

バキバキ!!

パンパンパンッ!!

バキバキバキバキ!!

「ギャアアアアア!!!」

がしゃどくろが痛恨の悲鳴をあげた。

猪八戒はがしゃどくろの骨の破片が刺さって、血が出ているのに笑っている。

粉々になった骨が再生しても、猪八戒が破壊するの繰り返し。

「ギャハハハハハハ!!」

目の前にいる猪八戒は、猪八戒じゃない。

あれは"妖"だ。

どうして、あんな姿になったのか分からない。

だけど、猪八戒を止めないといけない!!

重たい体に鞭を打ち、屋根をゆっくり降りた。

ドサッ!!

「ゔっ!!」

尻から思いっきり落ちた…。

「しっかりしろ、猪八戒!!!」

ピタッ!!

俺の叫び声を聞いた猪八戒が動きを止めた。

「はぁ…、はぁ…。猪八戒っ、ゔっ。」

俺はその場に蹲ってしまった。

身体中が痛いくて、何かが身体の中を走っている感触がした。

「三蔵!!」

猪八戒が俺の方に向かって走って来た。

だが、粉々になったがしゃどくろの方が早かった。

「お前から殺してやるぅぅぅう!!」

再生したがしゃどくろは口を大きく開け、俺を飲み込もうとした。

猪八戒は紫洸を構え銃弾を放とうとしたが、風鈴が現れた。

「退け!!」

「えー、やだ。」

パチンッ。

風鈴はそう言って、指を鳴らすと猪八戒が地面に押
し付けられた。

その姿はまるで重力に押し潰されているようだった。

「やめろ!!」

ブォォォォォォォ!!

俺の目の前に青い炎が現れた。

「グァァァァァァァアイァァア!!!」

がしゃどくろは青い炎に怯えて、バタバタと暴れていた。

何が、起こったんだ…?

スッ。

俺のポケットから札が飛び出した。

その札には鹿の絵と青い炎の絵が描かれていた。

お師匠から貰った札がどうして…っ?

式神の札が光出した。

俺はあまりの眩しさに目を瞑るしかなかった。

「和尚が可愛がってるってのは、お前の事?」

聞き慣れない声がした。

目を開けて見ると、見知らぬ人物が立っていた。

ミントカラーがベースの長いウルフヘアにマカメッシュが入っていて、色白な肌にミント色の瞳。

鹿のような耳と角、尻尾と着崩されたチャイナ服。
パタパタと尻尾揺らしながら俺に近付いた。

「聞いてる?」

生意気な声を出し俺の顔を覗き込んだ。

少女のような見た目だが、胸を見たら少年だと分かる。
ん?

今、和尚って言わなかった?

「え、え?何で、お師匠の事を知ってるの?!」

「和尚は前の主人だったからな。」

「前の主人…って、まさか!?式神なの!?君?」

少年は綺麗な青色の提灯を揺らした。

ブォォォ!!

提灯が揺れると同時に青い炎が動き、生き物のように見えた。

「ひ、ひぃ!!」

がしゃどくろが火に怯えてる?

「嫌な奴を従えてたんだね?」

いつの間にか宙に浮いていた風鈴が、上から声を掛けて来た。


「嫌な奴…って、この子が?」

「いや、だってその子は式神でしょ。それも"渡し守り"だろ。」

*渡し守りとは、三途の川の船を漕ぎ導く者。死者の魂をあの世に導く者。*

「この青い炎は妖達は嫌ってる。」

「いやぁ、その炎に焼かれたら僕達は死んじゃうからなぁー。」

この炎は妖にとっては、脅威なのか。

「君、仮にも僕の主人なんだからしっかりして下さい。その呪いはここから出たら解けるヤツでし
ょ。」

渡し守りはそう言って、青い炎を大きくした。

「三蔵!!平気か!?」

正気に戻った猪八戒は、青い炎を避けながら俺の側まで来た。

「猪八戒こそ、大丈夫なのか!?」

「悪い、力の制御が出来なかった。」

力の制御?

「とりあえず、あのデカイ骸骨は燃やしちゃって良いですよね。」

渡し守りは俺の方を振り返り言葉を放った。

「そんなサラッと言うけど…、出来るの?」

「主人様の命令だったら、何とかします。」

生意気な口調だけど、俺の事を主人だと認めているようだ。

早くここから出ないと、俺の体が持たない。

それに林杏さん達の呪いも早く解かないと。

「渡し守り、源蔵三蔵の名において命じる。がしゃどくろを燃やし尽くせ。」

俺の言葉を聞いた渡し守りはフッと軽く笑い「御意。」と返事をした。

「嫌、嫌じゃ、妾は死にたくない!!風鈴、どうにかせい!!」

がしゃどくろは風鈴に助けを求めるように叫んだ。

「え、嫌だけど。君が吹っ掛けた勝負でしょ?僕には関係ないから。」

ビュンッ!!

風鈴はそう言って消えてしまった。

渡し守りは提灯を小さく降り、青い炎の龍を作った。

結界空間もいつの間にか消え、元の白虎嶺の街並みに戻っていた。

「嫌、嫌じゃ、嫌…。」

「可哀想。君は死んでも地獄だよ。」

青い炎の龍が口を開けてがしゃどくろを飲み込んだ。

「ギャアアアアアア!!」

がしゃどくろの叫び声が響き、青い炎ががしゃどくろの体を焼き尽くしている。

俺達の体にあった呪いの跡は消えていた。

風鈴がいなくなったから、自動的に呪いが解かれたのか?

「あ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ!!!」

がしゃどくろが暴れながら叫んだ。

グラッ。

視界が揺れた。

あ、れ?

「三蔵!!」

倒れそうになった俺の体を猪八戒が受け止めた。

意識が…。

俺の意識がブツッと切れた。



「危なかったぁー。」

三蔵達の様子を宙に浮きながら眺めていた。

「渡し守りを持っていたとは思っても見なかったなぁ。まぁ、三蔵に呪術は掛かったままなのは良かったかな。別のね…。」

風鈴はそう言って、姿を消した。
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