西遊記龍華伝

百はな

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第参幕 仲間探し

いざ、流沙河へ

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三蔵と猪八戒となった天蓬は孫悟空の言葉を聞いて驚いていた。

「全ての…って、どう言う事!?」

「それは人だけなのか!?妖とか経文とかの場所も分かるのか!?」

三蔵と猪八戒は黒風に尋ねた。

「え、えっと……。2人同時に尋ねられても…、困ります…。」

「お前等、ガツガツし過ぎだろ…。黒風、頼むわ。」

おどおどしている黒風に孫悟空は話し掛けた。

「う、うん!!」

黒風は手のひらを広げた。

「天地羅針盤(テンチラシンバン)。」

そう言うと、手のひらから六角形の形をした羅針盤が現れた。

*羅針盤とは、針(=羅針)によって方位、特に船や船空機の進路を測る道具 *


「こ、これって羅針盤だよな?船とかのに使う…。」

三蔵はそう言って黒風に尋ねた。

「よく…、見て。」

黒風に促された三蔵と興味を持った猪八戒は羅針盤に目を向けた。

六角形の角のうち四角形に東西南北の字が彫られ、
残りの二つの角に人と妖の事が彫られていた。

そして真ん中に星と蓮の花、火、風、水、土、と言う字も彫られていた。

「船とかに使う羅針盤は丸い形だろ?黒風の使う羅針盤は天地羅針盤。」

悟空がそう言うと、三蔵はハッとした表情をした。

「天地羅針盤…。その天地って、天地天命(テンチテンメイ)の事…か?」

三蔵の言葉に黒風は軽く頷いた。

*天地天明とは、天と地地におわすあまねく神々。主に
「天地神明に誓って。」の表現で、全ての神々に誠実さを誓うと言った意味合いで用いられる*

「僕は妖だけど、別に人間や神を嫌っている訳じゃないんだ。だ、だからいつも太陽に手を合わせていたら、観音菩薩さんが…現れたんだ。」

「「観音菩薩が!?」」

三蔵と猪八戒は声に出して驚いていた。

声には出していないが驚いていたのは孫悟空も一緒だった。



数百年前のある日の事ー

黒風は牛魔王に出会う少し前に記憶は遡る。

黒風と言う妖は熊の姿に変え人間の金銀財宝や食糧を盗む妖と言われていたが、黒風本人はとても気弱な妖だった。

人や妖と話す事を苦手にしていて、妖からよく虐め
られていた。

黒風は古びた使われていない神社を住まいにしていた。

そんな黒風の日課は朝日に手を合わせる事だった。

今日もいつものように黒風が太陽に向かって手を合わせている時だった。

「妖なのに律儀だねー。」

「え?」

黒風の目の前に現れたのは煌びやかな衣装を着た観音菩薩だった。

「だ、だだだだだだだだれ!?」

突然の出来事に驚いた黒風は、腰を抜かしてしまい地面に座り込んだ。

「アハハハ!!腰抜かす奴って本当にいたのか!!はー!!面白い。」

観音菩薩は笑いながら黒風の前に腰を下ろした。

「あ、貴方は誰なのですか…?」

「言葉おかしくなってんぞ…。まぁー、観音菩薩って呼ばれてる。」

「か、かかか観音菩薩!?あの観音菩薩ですか!?」

黒風は神々の書かれた書物を読むのが趣味だった。

その書物の中に観音菩薩の事を書いた物があった事
を覚えていた黒風は、興奮していた。

「す、凄い凄い!!本物の観音菩薩さんに会えるなんて驚きです!!」

「そんな興奮する事か?」

「それは勿論!!天界の人に会える事なんて滅多にありませんから!!どうして下界に?」

「お前に会いに来た。」

「へ?」

「いつも太陽に手を合わせてるお前に会いに来た。」

観音菩薩の言葉に黒風は頭が追い付かなかった。

「ぼ、僕にですか!?な、何でまた…。」

 「あ?私の役に立つだろうって思ったから。」

「役に…って。どう言う事です…か?」

黒風はそう言って観音菩薩に尋ねた。

「何百年後かに天界と下界で大きな争いが起きる。」

「争い!?」

観音菩薩の言葉を聞いた黒風は驚愕した。

「世界が壊れるのか、それとも救われるのか。それを決める人物が5人現れる。その内の1人が破壊を齎(モタ)らす者であり、4人は救う者。お前には私の駒として役に立って貰わないと困る。」

黒風には話を理解するのに時間が掛かった。

あまりにも壮大な話に頭が追い付かなかったのだ。

「この世界が壊れるってどう言う事ですか?それはいつ起こるんですか?」

「まだ、2人は出会っていないからな。今すぐにって訳じゃない。お前もその2人に会うんだからな。」

観音菩薩の言葉に胸を強く打たれた。

「僕も会うんですか…?」

「あぁ、お前がどちらに付くのかも見ものだが。もう1人の方には付いて欲しくないものだな。それと、お前にこれを渡す。」

観音菩薩はそう言って黒風に六角形の羅針盤を渡した。

「こ、これは?」

「天地天命の加護だ。これは人と妖、全ての者の位置が分かる羅針盤だ。これをお前に使いこなせるようにして欲しい。」

「ぼ、僕にですか!?何の力も無いのに…、どうして?」

「んー。私の勘がお前に渡せと言っているからな。」

観音菩薩はそう言って軽く笑った。

黒風は観音菩薩の言葉をとても嬉しく思った。

神である観音菩薩から直接、任命されたのだから。

「ぼ、僕、頑張ります!!観音菩薩さんの役に立っ
てみせます!!」

「その心意気に感謝するぞ。この天地羅針盤を使いこなせるのは私だけだ。だから、天地羅針盤の扱い方を教えるぞ。」

「は、はい!!」

こうして、天地羅針盤を授かった黒風は観音菩薩から天地羅針盤の扱い方を習う事になった。

天地羅針盤から得た情報が頭に流れてくる為、莫大の量の情報量を効率良く頭で理解しなければならなかった。

黒風は天地羅針盤を使う度に、鼻血をよく流していた。

だが、黒風は数百年掛けて天地羅針盤を扱えるようになった。

観音菩薩は黒風の体の中に天地羅針盤を隠した。

妖である黒風が天地羅針盤を持っている事を神から隠す為だった。

それから数年後、牛魔王と出会い六大魔王の一員になるのだった。



黒風から話を聞いた悟空達は唖然としていた。

「黒風に観音菩薩が渡したのかよ…。アイツ、どんだけ先の事を読んでたんだよ。」

悟空はそう言って乱暴に頭を掻いた。

「観音菩薩さんは凄い人ですから!!」

「はいはい。じゃあ、捲簾の居場所を教えてくれ。」

「はい。」

悟空の言葉を聞いた黒風は天地羅針盤を持って目を閉じた。

パァァァァ…。

天地羅針盤から何百本の光が縦に光った。

「うわっ!?すっごい光の数…。赤、黄色、紫…、どう言う感じに光ってるのこれ?」

猪八戒はそう言って黒風に尋ねた。

「黄色の光が人間で、赤色の光が妖、紫は下界に落とされた者の居場所…です。」

黒風の言葉を聞いた悟空達は紫色の光を放っている
1つの場所に目を向けた。

「ここは確か…、流沙河(リュウサガ)か。」

「流沙河?どこだそこ?」

三蔵の言葉を聞いた猪八戒は三蔵に尋ねた。

「中国四川省を流れる長江の河だよ。ここからだと大分距離があるな…。」

「じゃあ、そこに捲簾がいるんだな!?」

「は、はい。この天地羅針盤が示しているので確実にいると思いますが…。」

猪八戒の声に驚いた黒風は答えた。

「よっしぁ!!早速、出発しよーぜ!!」

「荷造りは出来たのかよ猪八戒。」

「今からするんだろ!?ほら、悟空!!そこにある荷物を取ってくれ。」

「へーいへい。」

悟空はそう言って面倒臭そうに返事をした後、猪八戒と共に荷造りをしていた。

三蔵は紫色の光が放っている場所をジッと見つめていた。

何故なら、紫色とは違う青色の光が放っていたからだ。

「黒風。この青色の光は何だ?」

「この光は…、見た事がないですね。もしかしたら、経文がそこにあるのかもしれないです…。」

「っ!?ほ、本当か!?」

「お、恐らくですが!!」

「黒風の天地羅針盤を疑ってる訳じゃねーよ?驚いただけだから、気にするな。」

「は、はい。」

「おーい。お前等も手伝え!!」

黒風と三蔵が話していると、猪八戒が声を掛けて来た。

「分かったって!!黒風も手伝ってくれ。」

「は、はい!!」

猪八戒の言葉に促された三蔵と黒風は、悟空と共に
荷造りの準備を始めた。



同時刻 天界ー

「いつになったら天帝は目覚めるんだ!!」

「不治の病でも掛かってしまったのか!?」

「何とかして下さいよ!!観音菩薩様!!!」

天界では、観音菩薩を含む神々達で会議が行われていた。

数日前、天帝が朝になっても目覚目ない事を不思議に思った使用人が天帝の様子がおかしい事を観音菩薩に報告をした。

観音菩薩、如来(ニョライ)、明王(ミョウオウ)、天部(テンブ)が天帝の寝室に集まっていた。

如来は緋色の髪を無造作にセットした前髪から灰色の瞳を覗かせながら、天帝の白い肌に触れた。

「これは…。」

「おい!!どうなんだよ如来!!」

大きな声を出したのは紫色の短髪を立たせた目つき
の悪い男の明王だった。

「落ち着きなさい明王。如来が調べているのですから。」

そう言って、掛けている眼鏡を弄ったのは黄緑色の長髪を靡かせた青色の瞳をした男の天部だった。

「どうなんだ如来。」

観音菩薩は静かに如来に尋ねた。

「呪いが掛けられている。」

「はぁ!?呪いだぁ!?誰がやったんだよ!?」

如来の言葉を聞いた明王は、大きな声を出して如来に尋ねた。

「貴方は黙っていて下さい。」

天部はそう言って指を鳴らした。
パチンッ!!

「んー!!んー?!」

天部が指を鳴らした瞬間、明王の口が閉じた。

「誰かが天帝に呪いを掛けたって事か。かなり強力なのか?」

「あぁ、呪詛(ジュソ)使いが呪いを掛けたのか、はたまた違う人物が掛けたのか…。」

観音菩薩と如来が頭を悩ませていると、天部が口を開けた。

「何にせよ。この事は他の神々にも知らせなければなりませんよ。天帝の代わりをする者も必要ですし、呪いを解く方法も見つけなければなりません。」

「連絡は天部に任せる。私は如来と呪いを解く方法を調べる。」

「分かりました。ほら明王、行きますよ。」

「んんんん!!?」

観音菩薩の言葉を聞いた天部は、明王の腕を掴んで寝室から出て行った。

天帝の白い肌に紫色の蛇の痣が浮き上がって来た。

「この蛇は…、毒蛇か。」

「毒蛇使いの者の仕業…と言う事か。」

観音菩薩の言葉を聞いた如来は顎に手を置きながら呟いた。

「幸いな事に命を奪う呪いではないから、今の所は心配しなくて良い。」

「そうか…。」

「呪いを解く方法を見つけるのも大事だが、それと同時に天帝の代わりを誰がするのかで揉めそうだな…。」

如来の言葉を聞いた観音菩薩は嫌な予感がしていた。

天帝が眠ったと聞いた毘沙門天側の神々達は、ここぞとばかりに毘沙門天を天帝に押し上げる気だろう。

毘沙門天を天帝の座に押したのちに、観音菩薩達を神の座から引き摺り落とそうとするだろうと観音菩薩は読んでいた。

のちに、天帝を決める会議でこの予感は的中するのだった。


代理天帝会議ー

観音菩薩は、毘沙門天側の神々達の言葉を聞いてうんざりしていた。

「これも観音菩薩達の責任ではありませんか!?」

「あ?テメェ、何か言ったか?」

「落ち着きなさい明王。ここで貴方が怒ったら相手の思う壺ですよ。」

今にも暴れ出しそうな明王を天部は静かに宥めた。

「すみませんね。私を慕う者が失礼な事を言ってしまって。」

毘沙門天は少し嫌味の含んだ言葉を放った。

「心にも思ってない事を言うよな…。」

如来はボソッと小声で呟いた。

会議が始まって3時間が経過していた。

話は一方に進まぬ、お互い苛々が募っていた。

「私は天帝の代理をするのは観音菩薩が良いと思っています。彼なら頭が切れるし、適任かと。」

天部の言葉を聞いた神の1人が机を強く叩いた。

バンッ!!

「観音菩薩に任せる?!ハッ、笑わせないで下さいよ。そもそも、観音菩薩の行動は軽率過ぎるんですよ!?天界の人間であるにも関わらず、下界に行き来しているなどおかしいでしょう!?」

「そうですよ!!天帝の代理をするのなら毘沙門天殿が相応しい!!」

「はぁ!?こんな妖怪と連む奴を天帝にするだぁ!?ふざけた事言ってんじゃねーぞ!?」

神々の言葉を聞いた明王は乱暴な言葉を吐き捨てた。

「そこは明王と同感だ。俺も観音菩薩に任せた方が良いと思う。観音菩薩、お前が天帝になったらどうするのか話してくれ。」

そう言って、如来は観音菩薩を見つめた。

観音菩薩は少し溜め息を吐いた後、立ち上がった。

「私が天帝になったら天帝に掛かった呪いを最優先に解く方法を探すな。それから、私の指示には必ず従って貰う。」

「必ずって何ですか!?どこまで横暴なんですか!?」

「私の指示が今まで悪かった事はあるのか?」
観音菩薩がそう言うと、今まで文句を言っていた神々は口を閉じた。

「今、天界は疑心暗鬼の渦に入っている。市民達の安全と信頼を取り戻す為に天界の守りを強化する計画は密かに進んでいる。私の指示に従えば間違いは絶対に起きないとお約束します。」

観音菩薩の言葉を聞いた神々は納得した表情を浮かべた。

この雰囲気を見れば誰もが観音菩薩を代理にする流れだったが、雰囲気を壊したのは毘沙門天だった。

「天界の強化をするなら手っ取り早い方法がありますよ。」

毘沙門天の言葉を聞いた神々は驚きの声を上げた。

「そ、それはどう言う事ですか!?」

「観音菩薩よりも名案なのですか!?」

神々達は次々に毘沙門天に尋ねた。

毘沙門天は軽く笑った後に立ち上がった。

「悪妖(アクヨウ)退治。」

「なっ?!」

「悪妖退治だと!?」

毘沙門天の言葉を聞いた天部と明王は声を上げた。

*悪妖とは、下界に落とされ天界人が妖になった者の事。他にも天界を乗っ取ろうと考えている妖怪の事も言う*


悪妖が天界を乗っ取ろうと企み、天界に攻めてくる
妖達に神々達は頭を悩ませていた。

悪妖の力は神々達の力とほぼ互角の力の為、悪妖が
天界に攻めに来た後は悲惨な被害を天界は受けていたのだった。

「アンタが悪妖退治をするのか毘沙門天。武闘派じゃなかっただろ。」

観音菩薩はそう言って毘沙門天に尋ねた。

「はい。ですから私の作った部隊がやります。」

「部隊だと?」

観音菩薩の言葉を聞いた毘沙門天は指を鳴らした。




天界で会議が行われている中、三蔵達は船に乗り込んでいた。

ゆっくりと動き出した船の上から離れて行く福陵を猪八戒はジッと見つめていた。

「思い出に浸ってんのか。」

悟空はそう言って猪八戒に尋ねた。

「そりゃあ…ね。お前だって浸った事ぐらいあるだろ。」

「浸る暇なんてなかったよ。」

「あー。裁判とか色々あったもんな。」

悟空と猪八戒は話しながら福陵を見つめていた。

「俺は牛魔王を殺す事しか考えられなかった。今もその事しか考えてねぇ。」

そう言った悟空は怖い顔をしていた。

猪八戒は何も言わず黙って悟空の事を見つめた。

三蔵達は流沙河のある中国四川に省に向かったのだが、毘沙門天率いる部隊と戦う事になるとはこの時はまだ誰も知らない。
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