Leaf〜紅茶の聖女〜

prologue

プロローグ

「本日のおすすめ、春摘みダージリンとストロベリーのタルトです」

　磨かれた銀のトレイから、ケーキ皿、ティーカップとソーサー、ポット、シュガー、ミルク、そしてカトラリーが洗練された手つきでセッティングされていく。

　紅茶をサーブするのは、白いエプロンをまとい、フリルのカチューシャをつけた、ティーレディと呼ばれる女性。
　背筋を伸ばし、光が差し込むティーハウスの中を優雅に歩いていく彼女らは、茶学さがくに通じ、心と生活を整えるプロフェッショナルでもある。

　櫨取はぜとり美観地区。
　その多くが明治初期に建てられた街並みで、今、文化と観光の中心となっているのがティーハウスと呼ばれるいくつもの喫茶店である。

　そこは非日常の空間。

　カウンターには多種多様な紅茶や焼き菓子が並び、食器棚にはアンティークのティーセットが鎮座する。
　壁にかけられた絵画には湖の風景。チェストにはキャンドルやテディベアが飾られ、ソファ席には暖かなキルトが掛けられている。店内にはクラシックの名曲が流れ、窓辺からは美しいイングリッシュガーデンが見渡せた。

　国も時代も超えて、古きよきイギリスのティータイムがそこにあった。



　そしてまた、新たな時代のティーレディとなる、一人の少女が町に訪れる――