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Main Story
名前を呼んで
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夜が明けました。
約束通り、マリィはリリシーと日の光で動くものを探していました。
マリィの体は大きいですし、手で大抵のものは掴めましたので、これまでリリシーが届かなかったり、持ち上げられなかったりしたものを、どんどん取っていきました。
マリィは品の良いブラウスとスカートを着ていましたが、惜しみなく汚れた手をなすりつけているのをリリシーは見ました。
「ねぇ、あれは?」
マリィが指したのは、あの毛布にくるまれたアンドロイドでした。
「そいつは起きてこねぇ。まだ見てくれはいいけどな」
「ふーん」
そう返事しながらも、マリィはアンドロイドに近づいていきました。
毛布から見えるのは胸から上の左半分だけですが、大人の女性サイズというのはわかります。
頭には布切れがまかれていました。マリィがそっと取ると、緩やかにウェーブのかかった黒髪が現れました。
リリシーもマリィと並んでアンドロイドの顔を見ました。
じっと見つめた後、無言でマリィに視線をやりました。
「ねぇ、毛布も取ってみましょう」
リリシーの返事より早く、マリィはアンドロイドのボディを起こしはじめました。
下半身は上半身の倍以上重くできており、持ち上げるのは一苦労でした。
なんとか立たせると、包んでいた毛布がはらりと落ちました。現れた下半身は黒い機械の箱でした。
マリィがスカートを整えてあげると、箱はすっかり見えなくなりました。
「あら?ブラウスの後ろが開いているわ」
リリシーも後ろに回ってみました。
「何か差し込んで抜いたあと、そのままにしたんだな」
「文字が書いてあるわ。……ド、ル、チェ?名前みたいね」
マリィはアンドロイドに話しかけました。
「ねぇ、ドルチェ!」
すると、今まで反応のなかったアンドロイドの目が開かれたのです。伸びていた肘が曲がり、指先がスカートをつまんで持ち上げました。
「はい、お嬢さま。お呼びでしょうか」
返答と同時に、ヴィヴァルディの「四季」より「春」のメロディが流れました。
美しいピアノアレンジです。
それが指導型ピアノ演奏支援アンドロイド、ドルチェシリーズの起動音でした。
外部スピーカーと接続されていない場合はドルチェ自身のスピーカーから音が再生されるのでした。
優雅なメロディにマリィは目を輝かせ、リリシーは翼を二度羽ばたきました。
「うわぁ!起きてくれたのね!」
「おはようございます」
ドルチェがマリィと目を合わせました。
「あなたは何がお仕事なの?」
「わたくしはピアノの弾き方をお教えするアンドロイドにございます」
「ピアノ……ねぇ、リリシー」
リリシーはもう学習していました。
マリィが、ねぇ…と言い出すと、結果自分の仕事が増えるのです。
「あーー知らん!動くピアノがここにあるわけねぇ!」
「わたし、ここに来たとき見たわ!あっち!」
言うや否や、マリィは走り出しました。
リリシーは「フンッ」とマリィが行った方とは反対側に首を振りましたが、段々と体が揺れ始め、数秒後にはマリィを追いかけはじめたのでした。
約束通り、マリィはリリシーと日の光で動くものを探していました。
マリィの体は大きいですし、手で大抵のものは掴めましたので、これまでリリシーが届かなかったり、持ち上げられなかったりしたものを、どんどん取っていきました。
マリィは品の良いブラウスとスカートを着ていましたが、惜しみなく汚れた手をなすりつけているのをリリシーは見ました。
「ねぇ、あれは?」
マリィが指したのは、あの毛布にくるまれたアンドロイドでした。
「そいつは起きてこねぇ。まだ見てくれはいいけどな」
「ふーん」
そう返事しながらも、マリィはアンドロイドに近づいていきました。
毛布から見えるのは胸から上の左半分だけですが、大人の女性サイズというのはわかります。
頭には布切れがまかれていました。マリィがそっと取ると、緩やかにウェーブのかかった黒髪が現れました。
リリシーもマリィと並んでアンドロイドの顔を見ました。
じっと見つめた後、無言でマリィに視線をやりました。
「ねぇ、毛布も取ってみましょう」
リリシーの返事より早く、マリィはアンドロイドのボディを起こしはじめました。
下半身は上半身の倍以上重くできており、持ち上げるのは一苦労でした。
なんとか立たせると、包んでいた毛布がはらりと落ちました。現れた下半身は黒い機械の箱でした。
マリィがスカートを整えてあげると、箱はすっかり見えなくなりました。
「あら?ブラウスの後ろが開いているわ」
リリシーも後ろに回ってみました。
「何か差し込んで抜いたあと、そのままにしたんだな」
「文字が書いてあるわ。……ド、ル、チェ?名前みたいね」
マリィはアンドロイドに話しかけました。
「ねぇ、ドルチェ!」
すると、今まで反応のなかったアンドロイドの目が開かれたのです。伸びていた肘が曲がり、指先がスカートをつまんで持ち上げました。
「はい、お嬢さま。お呼びでしょうか」
返答と同時に、ヴィヴァルディの「四季」より「春」のメロディが流れました。
美しいピアノアレンジです。
それが指導型ピアノ演奏支援アンドロイド、ドルチェシリーズの起動音でした。
外部スピーカーと接続されていない場合はドルチェ自身のスピーカーから音が再生されるのでした。
優雅なメロディにマリィは目を輝かせ、リリシーは翼を二度羽ばたきました。
「うわぁ!起きてくれたのね!」
「おはようございます」
ドルチェがマリィと目を合わせました。
「あなたは何がお仕事なの?」
「わたくしはピアノの弾き方をお教えするアンドロイドにございます」
「ピアノ……ねぇ、リリシー」
リリシーはもう学習していました。
マリィが、ねぇ…と言い出すと、結果自分の仕事が増えるのです。
「あーー知らん!動くピアノがここにあるわけねぇ!」
「わたし、ここに来たとき見たわ!あっち!」
言うや否や、マリィは走り出しました。
リリシーは「フンッ」とマリィが行った方とは反対側に首を振りましたが、段々と体が揺れ始め、数秒後にはマリィを追いかけはじめたのでした。
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