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あふたーすとーりー

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 天気がいいある日の午後。

「ねぇ、アイン。この状況はなに?」

 そう尋ねてくるのは我らが姉様。
 日の光を浴びて黄金に輝くドリルツインテールは今日も健在だ。

 あのダンスパーティーから数日が経っているが、僕らの間に特に大きな変化はなかった。
 というより、前より距離が遠くなった気がするのは何故だろうか?

「この状況? なんのこと」

「なんのことって、この周囲の人だかりにきまってるじゃない!」

 姉様に言われて初めて周りを見る。
 僕らが今いるのは学園の中庭にある、日当たりのいいベンチだ。中庭には、噴水や季節ごとに花が植え替えられる花壇などがある。

 そんな中庭にいる僕らを、好奇の目が取り囲んでいた。
 取り囲むといっても包囲されるとかじゃなくて、通り過ぎる人がチラチラこっちを見てきたり、他のベンチに腰掛けいる女生徒がこっちを見ながら何かを言い合っている。

「何か物珍しいものでもあるのかな?」

「あ・な・た・よ! この手を離しなさい」

 ぺしっ、と姉様の肩に回していた手が払われてしまった。

「えー、なんで?」

「ここは学校よ。わたしたちは礼儀作法や学問を学びに来ているの。その場所で、ふしだらな行動は避けるべきだと思うの」

 聞き分けのない子供を諭すように姉様が入ってくる。
 でもさ、肩に手を回して抱きよせるくらい別にいいんじゃないのかな? 他のカップルの中には平然とキスしたり、人気のないところであられもない行為に及んでるわけだし。

 なおもお話を続ける姉様に対して僕は一つ爆弾を落としてみた。

「じゃあ、家に帰ったらさっきよりもっと凄いことしてあげる」

「なっ…………」

 陶磁器のように白くて美しい肌が驚愕で固まり、言葉の意味を理解したあとで赤に染まっていく。
 ヤバい。うちの姉様が可愛すぎるんだけど、撫で回していいかな? 抱きしめてくんかくんかしていいかい?

「まぁ、冗談は置いといて。みんながこっちを見てくるのは僕の頭じゃないのかな?」

 今の僕は十年以上愛用してきた金髪のカツラを外して、惜しげもなく地毛をさらけ出している。
 白銀の髪。この国が誕生したときから代々王族に受け継がれてきた身体的特徴である。

 最初は珍しい髪だなぁ~、くらいにしか思ってなかったが、まさか王族であることを証明する基準になってるとは思ってもなかった。

「茶髪とか黒髪はそれなりにいるけど、この学校だと僕とルークスくらいだからね」

 もう一人の銀髪の王子は、ここ最近学校に来ていない。
 なんでも、そうとうご立腹な国王に呼び出されて王城にいるとかなんとか。当然の報いだと思うよ? こんなにも完璧な姉様をフってどこの馬の骨ともわからない平民の娘と結婚するとか言ったんだから。

 ………ただ、自業自得とはいえ、リリアとルークスが恋人になるのはゲーム的には間違いじゃないんだよな。姉様と婚約できたのもルークスが姉様よりリリアを選んだからだし。

 開発者としてはちょっと罪悪感があるし、今度会ったら食事でも奢ってあげよう。僕は血縁的にルークスの叔父にあたるんだから。
 そういえば、そう。ルークスときたら、

「リリアってあれからどうなったの?」

「リリアさん? あぁ、彼女なら普通に学校に出てきてるわ。ルークスがいないのと、この間の一件のことで大分大人しくなってるみたいだし」

 ザマァ返しの影響は主人公にもあったみたいだな。これを期に男漁りや姉様に対する当てつけをやめてくれると有り難いんだが、いかんせ僕が作ったキャラクターだ。一筋縄ではいかないような気もするけど………。

「心配だなぁ」

「ふーん。アインはあの子のことが心配なのね」

 おや? 僕の呟きを聞いてうちの姉様が頬を膨らませているぞ。これはいいね。

「うん。心配だよ。だって男子にはとても人気があったしね。僕も男の子だし。初めてリリアを見たときから気になっていたんだよね」

 無論、要注意危険人物として。

「へー、そうなの。アインもあの女がね。ならいっそ、わたしじゃなくてあの女をルークスから奪い取ればよかったんじゃない」

 指先をツインテールに絡ませてぐるぐる回す姉様。カッ、カッと靴音が鳴る。

「もしかして、妬いてる?」

「…………ふんっ!」

 顔を背けられてしまった。
 これ以上は姉様の機嫌が悪くなりすぎて悪役令嬢様モードになるかもしれないから、意地悪するのは止めてあげよう。
 でも、拗ねる姉様もまた可愛い。こう、背筋に快感がゾクゾクくるね。

「こっち向いて」

「嫌よ」

 仕方ない。
 僕はそっぽを向く姉様のアゴを掴んで、強引にこちらを向かせた。

「ステラ。僕がずっと金髪のカツラを被っていたのはね、ステラとお揃いだからなんだよ。血の繋がりのない二人の共通点を作るために。 そんな風にステラ一筋の僕が他の子を好きになるわけないじゃないか」

「でも、リリアさんが気になってたって」

「ステラにヤキモチを妬いてもらうための冗談に決まってるよ」

「なんで、アインはそんな意地悪するの?」

 うおっ。上目遣いの弱々しい姉様とかマジ天使。お持ち帰りしていいですか? あぁ、帰る家同じだったは。

「だって、僕は十年以上ステラにヤキモチしてたんだから。ステラがルークスの話をする度に、僕は嫉妬してたんだから」

 何かを好きになる姉様は輝いていた。

 誰かの話をする度に一喜一憂していた。

 誰かに気に入って貰えるように努力してた。

 そいつだけをずっと見つめていた。

「だから、これはその仕返しだよ」

 物語の進行上、仕方がないことだからと割り切っていたかった。
 でも、そんなことできるはずもなく。何度あのバカ王子を抹消してやろうかと考えたことか。
 婚約破棄されるかもしれないと理解したあとに、夜な夜な枕を濡らしていたときに慰めてあげれずにどんなに苦しかったか。

 でも、そんな思いを姉様にはさせない。ただ、ちょっとだけ。ほんの少しだけ、僕の気持ちを理解して欲しかった。

「アイン……」

「この話はここまで。せっかく婚約者同士になれたんだ。これからは湿っぽい話じゃなくて、明るい話をしよ?」

「そうね。わたしたちのこれからはまだまだ長いものね」

「そうそう。その通り」

 よし、と頷いて復活した姉様がベンチから立ち上がる。
 僕の姉様はきちんと立ち直れる、強い人だってわかってるから。

「そうだわ、アイン」

「ん? なに」




 ちゅ。




「そろそろ教室に戻らないと授業始まるわよ」

 それだけ言って姉様は、顔を真っ赤にして脱兎の如く走り去ってしまった。

「あー、やられた。誰だよ学園内でふしだらの行為はダメとか言ったやつ」

 まぁその、なんだ。

「やっぱり、姉様には敵わねーよ」

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