101 / 132
101 群れ集う者たち
しおりを挟む
「長距離巡航ミサイルの照準をイ=ルグ=ルに合わせているエリアは、現時点でエージャン、トルファン、レイクス、バレー。すべてこちらの判断で発射できる」
高く高く上昇する弾道旅客機の客室内、音声回線のつながっている手元の小さなモニターに向かって、ジュピトル・ジュピトリスは現状を告げた。相手側からは、感情のこもらぬ抑揚のない声が応える。
「アマゾンはまだか」
「いまのところは、まだ反応がない」
一呼吸置いて、3Jの声は言う。
「マヤウェル・マルソには気を許すな」
「この期に及んで何か仕掛けてくるんだろうか」
「知能の高いヤツが論理的であるとは限らないし、論理的であっても常に道徳的である訳ではない。世界には天才的破滅主義者も超人的狂人もいる」
それはあまり気持ちの良いとは言えない指摘であった。
「当面はエリア・アマゾンを戦力と考えない方がいいみたいだね」
「いや」
声は否定した。
「敵だと思え」
「二正面で戦えと?」
「アマゾンを正面に回す必要はない。だが振り返らずに殴る準備はしておけ」
つまりは気付かれないように攻撃の用意を整えろという事だろうが、よくもまあ、そんな難しい事を簡単に言えるものだ。ジュピトルは呆れるよりも感心した。
デルファイの南端外側には、エーゲ海から運河が引かれ、古い港湾設備がある。神魔大戦が終わり、魔人たちがデルファイに封じられて以降、浚渫もされずに放置された運河はもう、大型船が入れる状態にはなかったが。
その運河に面した壁面、高さ四千メートルの壁の一部に、亀裂が走った。ごうごうと機械音が響くと、亀裂は大きくなって行く。砕け落ちるコンクリートと湧き起こる土煙。その向こう側に、巨大な黒い鋼鉄の門扉が見えた。外側から門を開ける者が現われないように、壁の中に埋め込まれていたのだ。
機械音が大きく激しくなった。黒い門が、内側に向けて重々しく顎を開いて行く。隙間から漏れ出す光。逆行の中、蠢くのは人の影。聖域の住人たちが我先に飛び出して来た。
「ひゃはーっ!」
「うおぉ、マジか、マジで出られたぜ」
「やったぞ、故郷に戻れる!」
「エージャンのクソ野郎ども、ぶち殺してやる」
解放された者たちは、みな口々に自分なりの歓喜の声を上げたが、それもつかの間、門の奥から聞こえてきた音に青ざめて振り返る。門を押し開く機械音をかいくぐるように届く、低い無数の震動音。曲がりなりにもデルファイの中で暮らしてきたのだ、その音が何を意味するかは察しが付く。
聖域の住人たちが、開いた門の下端を通り抜けるのと対照的に、振動音は上端を通り抜けて外に出た。幾つも幾つも、幾つも幾つも幾つも幾つも。振動音の正体は羽音。羽根を震わせて飛ぶ昆虫人の群れが、雲霞の如く空を黒く覆っていた。
「おい、何だよこれ」
「冗談じゃねえぞ、アイツらが外に出て来るなんて、聞いてねえ」
悲鳴にも似た声が上がる。それはそうだろう。聖域の中にいれば昆虫人になど関わらずに暮らせたのだ。だがいま昆虫人は、文字通り野に放たれた。デルファイの外で生きようとするなら、無関係ではいられない。
バッタ、トンボ、ハチ、カマキリ、チョウにコガネムシ。様々な姿の昆虫人が外の世界に拡散するのを見送りながら、聖域で暮らしていた者たちの何割かは、外の世界に背を向け、肩を落として門の内側に自ら戻って行った。
絶望の悲鳴が響く、オーストラリア大陸のエリア・エインガナ。蜂人部隊は拡散し、黒いイトミミズを湧かせた人食いどもを葬ってはいるのだが、ビルの上で黄金の鳥が羽ばたけば、建物の中にいる者がまとめて人食いになる。駅の上で羽ばたけば、列車の中が人食いだらけになる。そして人食いはイ=ルグ=ルの餌となり、その輝きが増すばかり。手の打ちようがないかに見えた。しかし。
イ=ルグ=ルは気付いた。ビルの屋上に巨人の影がある。獣王ガルアムは低くかがむと屋上を蹴り、コンクリートの破片を撒き散らしながら、邪神に向かって跳んだ。空を裂く鋭い爪。けれど黄金の鳥は悠々とそれをかわして上昇した。ガルアムは別のビルの屋上に降り立ち、振り返ってさらに跳ぶ。
宙で回転し、蹴りを放つが、それもまたイ=ルグ=ルにかわされる。ガルアムは高層ビルの外壁にしがみついた。そこからまた跳び上がる。
四枚翼の黄金の鳥は、黒い思念波を放った。対するガルアムは咆吼と共に、白い思念波を繰り出す。ぶつかり合い、中和される二つの思念波。だがそこでイ=ルグ=ルは前に出た。ガルアムが攻撃をするよりも先に、ジャンプのピークに達するよりも前に四枚の翼で魔人を打ち落としたのだ。
獣王は降り立つ屋上も、つかまる壁もなく、頭から地面に叩きつけられる、と見えたそのとき。
地面を割って伸び上がる物。緑の要塞。密集した樹々が真っ直ぐに星空を突く。空中で身軽にくるりと回ったガルアムは、まるで重さがないかのように樹冠の上に降り立つと、さらに伸びる樹々の勢いに乗って、砲弾のように跳び上がった。
そのスピードにイ=ルグ=ルは、爪の一撃をかわすので精一杯。すべての意識がそちらに向き、背後の動きになど気付かない様子。そこに音もなく飛来した黒い輪が首に嵌まる。首を絞められた鳥の声が空に響いた。
「捕まえたよ!」
ダラニ・ダラが手を伸ばし叫んだ。イ=ルグ=ルは暴れるが、黒い輪はギリギリと回転しながら締めつけて行く。落下したガルアムは、また下から伸びた樹々に助けられ、再度樹冠から跳び上がった。
獣王の右手の爪が、黄金の鳥の胸元に下から突き刺さる。舞い散る黄金の羽毛。左手で鳥の頭をつかむと、そのまま重力に引かれて地面へと降下した。下では大きく大きく口を開いたケレケレが待ち受けている。そこにイ=ルグ=ルを放り込めれば、すべては終わりなのだ。だが。
イ=ルグ=ルの目が赤く輝いた。放たれる閃光。それはケレケレの首を切断した。
そして落雷。無数の、エリア・エインガナ全体が一瞬昼間のように明るく輝くほどの放電が、宙を走る。これにより、空中にいた者はすべて、イ=ルグ=ル以外は叩き落とされた。
黄金の鳥が胸を張る。首の黒い輪は弾け飛び、からからからと高笑いの如き鳴き声を上げていた。
聖域の南端にある『港』の門は開かれた。それに関わる承認書類も世界政府に送信済みだ。これで心置きなくイ=ルグ=ル退治に精が出せる。リキキマは焦っていた。自分が居ない間に戦いがどう展開しているのか、気になって仕方がなかった。それが隙を呼ぶとは気付かずに。
迷宮の入り口が開く。普段は外側から見えないその奥から、リキキマが飛び出して来た。迷宮の内側からでは、空間が何層にも折り畳まれているためダラニ・ダラに連絡がつかないからだ。
「お嬢様、そうお慌てになられては……」
背後から諫めるハイムの声が、突然途切れる。けれどリキキマは振り返れない。目の前には黄金の三面六臂が立っていた。
「てめえ」
「ここで会うのは何度目だったかな」
微笑むヌ=ルマナの視界の中、リキキマの向こう側では、ハルハンガイがハイムを迷宮の中に押し込んでいた。
「聞こえるぞ」
ハルハンガイはハイムの首をつかまえて、片手で持ち上げている。
「思念結晶の『声』が聞こえる」
「そちらは任せた」
そう声をかけると、六本の戦斧を構えてリキキマにこう言った。
「そなたは、このヌ=ルマナが相手をしよう」
「光栄だね、クソが」
リキキマの脳裏には、3Jの顔がよぎった。この失態、あの野郎に何て言われるだろうか、また馬鹿にしやがるんだろうな、と。
エリア・エージャンから世界政府の空港まで、弾道旅客機で十五分。空港から庁舎まで専用列車で十分。徒歩移動や待ち時間を含めても、大統領執務室までは四十五分程度で到着する。
夕暮れの刻を過ぎ、夜に包まれている世界政府庁舎。その建物を明かりが照らす。上からの照明。ロケットエンジンの噴射音。見上げる必要もない。パンドラが降下しているのだ。ジュピトル・ジュピトリスはムサシ、ナーガ、ナーギニーを引き連れ、ガラス張りの渡り廊下を進んだ。
黄金の鳥は四枚の翼を羽ばたかせた。打ち下ろすたびに羽毛が散る。狂ったように羽ばたけば、まるで雪のように幾千もの羽毛が宙を舞った。それが静かにゆっくりと地面に落ちる。その途端、羽毛は人の姿になった。いや、人と言って良いのかどうか。それは紛れもない、黄金の神人。だが小さい。身長百五十センチほどの小さな神人が、何千体も現われたのだ。
キラー・ホーネッツはデルファイオオスズメバチを神人の群れに向けた。だが神人には毒針が刺さらない。
からからから。高笑いするかのように、黄金の鳥は鳴いた。神人の群れが魔人たちに迫る。
「さあ、こりゃ困ったぞ」
ズマがつぶやいた。
「物量作戦か。厄介だな」
ジンライも同意する。だが二人には緊迫感がない。その視線はダラニ・ダラに向けられている。魔女は当惑したように眉を寄せた。
「……人間が避難してない状態で使うのは、オススメしないんだが」
それは一応の言い訳であった。
「この後に及んでは仕方あるまい」
と、ガルアムも言う。
「これ以上被害を拡大させるのもね」
ドラクルは小さくため息をついた。ダラニ・ダラはニヤリと笑った。
「んじゃあ、連帯責任って事でいいね」
そう言って早速両手を振り上げると、頭上に巨大な黒い空間を広げた。
「さあ出ておいで、おまえたち!」
闇の中から、聞こえてくるのは低い羽音。最初の影がビュッと一つ飛び出たかと思うと、次から次へと続いて無数の影が、途切れることなく飛び出して来る。わんわんわん、あっという間に周囲は羽音で埋め尽くされた。
延々と飛び出し続ける影の中から、一体がダラニ・ダラの前に進み出て片膝を突く。人に似たシルエットをしているものの、その体を支えるのは外骨格。大きな複眼に工業機械を思わせる口。そして背中には長い羽根。紛れもない人型の巨大バッタであった。
「我ら飛蝗軍団『ローカスツ』、ただいま参上つかまつりました」
低く太い声にダラニ・ダラはうなずく。
「神様に本物の物量作戦ってのを見せてやりな」
「はっ、命にかえましても」
そして巨大バッタは振り返り、数万単位の群れに向かって一言命じた。
「喰らい尽くせ!」
高く高く上昇する弾道旅客機の客室内、音声回線のつながっている手元の小さなモニターに向かって、ジュピトル・ジュピトリスは現状を告げた。相手側からは、感情のこもらぬ抑揚のない声が応える。
「アマゾンはまだか」
「いまのところは、まだ反応がない」
一呼吸置いて、3Jの声は言う。
「マヤウェル・マルソには気を許すな」
「この期に及んで何か仕掛けてくるんだろうか」
「知能の高いヤツが論理的であるとは限らないし、論理的であっても常に道徳的である訳ではない。世界には天才的破滅主義者も超人的狂人もいる」
それはあまり気持ちの良いとは言えない指摘であった。
「当面はエリア・アマゾンを戦力と考えない方がいいみたいだね」
「いや」
声は否定した。
「敵だと思え」
「二正面で戦えと?」
「アマゾンを正面に回す必要はない。だが振り返らずに殴る準備はしておけ」
つまりは気付かれないように攻撃の用意を整えろという事だろうが、よくもまあ、そんな難しい事を簡単に言えるものだ。ジュピトルは呆れるよりも感心した。
デルファイの南端外側には、エーゲ海から運河が引かれ、古い港湾設備がある。神魔大戦が終わり、魔人たちがデルファイに封じられて以降、浚渫もされずに放置された運河はもう、大型船が入れる状態にはなかったが。
その運河に面した壁面、高さ四千メートルの壁の一部に、亀裂が走った。ごうごうと機械音が響くと、亀裂は大きくなって行く。砕け落ちるコンクリートと湧き起こる土煙。その向こう側に、巨大な黒い鋼鉄の門扉が見えた。外側から門を開ける者が現われないように、壁の中に埋め込まれていたのだ。
機械音が大きく激しくなった。黒い門が、内側に向けて重々しく顎を開いて行く。隙間から漏れ出す光。逆行の中、蠢くのは人の影。聖域の住人たちが我先に飛び出して来た。
「ひゃはーっ!」
「うおぉ、マジか、マジで出られたぜ」
「やったぞ、故郷に戻れる!」
「エージャンのクソ野郎ども、ぶち殺してやる」
解放された者たちは、みな口々に自分なりの歓喜の声を上げたが、それもつかの間、門の奥から聞こえてきた音に青ざめて振り返る。門を押し開く機械音をかいくぐるように届く、低い無数の震動音。曲がりなりにもデルファイの中で暮らしてきたのだ、その音が何を意味するかは察しが付く。
聖域の住人たちが、開いた門の下端を通り抜けるのと対照的に、振動音は上端を通り抜けて外に出た。幾つも幾つも、幾つも幾つも幾つも幾つも。振動音の正体は羽音。羽根を震わせて飛ぶ昆虫人の群れが、雲霞の如く空を黒く覆っていた。
「おい、何だよこれ」
「冗談じゃねえぞ、アイツらが外に出て来るなんて、聞いてねえ」
悲鳴にも似た声が上がる。それはそうだろう。聖域の中にいれば昆虫人になど関わらずに暮らせたのだ。だがいま昆虫人は、文字通り野に放たれた。デルファイの外で生きようとするなら、無関係ではいられない。
バッタ、トンボ、ハチ、カマキリ、チョウにコガネムシ。様々な姿の昆虫人が外の世界に拡散するのを見送りながら、聖域で暮らしていた者たちの何割かは、外の世界に背を向け、肩を落として門の内側に自ら戻って行った。
絶望の悲鳴が響く、オーストラリア大陸のエリア・エインガナ。蜂人部隊は拡散し、黒いイトミミズを湧かせた人食いどもを葬ってはいるのだが、ビルの上で黄金の鳥が羽ばたけば、建物の中にいる者がまとめて人食いになる。駅の上で羽ばたけば、列車の中が人食いだらけになる。そして人食いはイ=ルグ=ルの餌となり、その輝きが増すばかり。手の打ちようがないかに見えた。しかし。
イ=ルグ=ルは気付いた。ビルの屋上に巨人の影がある。獣王ガルアムは低くかがむと屋上を蹴り、コンクリートの破片を撒き散らしながら、邪神に向かって跳んだ。空を裂く鋭い爪。けれど黄金の鳥は悠々とそれをかわして上昇した。ガルアムは別のビルの屋上に降り立ち、振り返ってさらに跳ぶ。
宙で回転し、蹴りを放つが、それもまたイ=ルグ=ルにかわされる。ガルアムは高層ビルの外壁にしがみついた。そこからまた跳び上がる。
四枚翼の黄金の鳥は、黒い思念波を放った。対するガルアムは咆吼と共に、白い思念波を繰り出す。ぶつかり合い、中和される二つの思念波。だがそこでイ=ルグ=ルは前に出た。ガルアムが攻撃をするよりも先に、ジャンプのピークに達するよりも前に四枚の翼で魔人を打ち落としたのだ。
獣王は降り立つ屋上も、つかまる壁もなく、頭から地面に叩きつけられる、と見えたそのとき。
地面を割って伸び上がる物。緑の要塞。密集した樹々が真っ直ぐに星空を突く。空中で身軽にくるりと回ったガルアムは、まるで重さがないかのように樹冠の上に降り立つと、さらに伸びる樹々の勢いに乗って、砲弾のように跳び上がった。
そのスピードにイ=ルグ=ルは、爪の一撃をかわすので精一杯。すべての意識がそちらに向き、背後の動きになど気付かない様子。そこに音もなく飛来した黒い輪が首に嵌まる。首を絞められた鳥の声が空に響いた。
「捕まえたよ!」
ダラニ・ダラが手を伸ばし叫んだ。イ=ルグ=ルは暴れるが、黒い輪はギリギリと回転しながら締めつけて行く。落下したガルアムは、また下から伸びた樹々に助けられ、再度樹冠から跳び上がった。
獣王の右手の爪が、黄金の鳥の胸元に下から突き刺さる。舞い散る黄金の羽毛。左手で鳥の頭をつかむと、そのまま重力に引かれて地面へと降下した。下では大きく大きく口を開いたケレケレが待ち受けている。そこにイ=ルグ=ルを放り込めれば、すべては終わりなのだ。だが。
イ=ルグ=ルの目が赤く輝いた。放たれる閃光。それはケレケレの首を切断した。
そして落雷。無数の、エリア・エインガナ全体が一瞬昼間のように明るく輝くほどの放電が、宙を走る。これにより、空中にいた者はすべて、イ=ルグ=ル以外は叩き落とされた。
黄金の鳥が胸を張る。首の黒い輪は弾け飛び、からからからと高笑いの如き鳴き声を上げていた。
聖域の南端にある『港』の門は開かれた。それに関わる承認書類も世界政府に送信済みだ。これで心置きなくイ=ルグ=ル退治に精が出せる。リキキマは焦っていた。自分が居ない間に戦いがどう展開しているのか、気になって仕方がなかった。それが隙を呼ぶとは気付かずに。
迷宮の入り口が開く。普段は外側から見えないその奥から、リキキマが飛び出して来た。迷宮の内側からでは、空間が何層にも折り畳まれているためダラニ・ダラに連絡がつかないからだ。
「お嬢様、そうお慌てになられては……」
背後から諫めるハイムの声が、突然途切れる。けれどリキキマは振り返れない。目の前には黄金の三面六臂が立っていた。
「てめえ」
「ここで会うのは何度目だったかな」
微笑むヌ=ルマナの視界の中、リキキマの向こう側では、ハルハンガイがハイムを迷宮の中に押し込んでいた。
「聞こえるぞ」
ハルハンガイはハイムの首をつかまえて、片手で持ち上げている。
「思念結晶の『声』が聞こえる」
「そちらは任せた」
そう声をかけると、六本の戦斧を構えてリキキマにこう言った。
「そなたは、このヌ=ルマナが相手をしよう」
「光栄だね、クソが」
リキキマの脳裏には、3Jの顔がよぎった。この失態、あの野郎に何て言われるだろうか、また馬鹿にしやがるんだろうな、と。
エリア・エージャンから世界政府の空港まで、弾道旅客機で十五分。空港から庁舎まで専用列車で十分。徒歩移動や待ち時間を含めても、大統領執務室までは四十五分程度で到着する。
夕暮れの刻を過ぎ、夜に包まれている世界政府庁舎。その建物を明かりが照らす。上からの照明。ロケットエンジンの噴射音。見上げる必要もない。パンドラが降下しているのだ。ジュピトル・ジュピトリスはムサシ、ナーガ、ナーギニーを引き連れ、ガラス張りの渡り廊下を進んだ。
黄金の鳥は四枚の翼を羽ばたかせた。打ち下ろすたびに羽毛が散る。狂ったように羽ばたけば、まるで雪のように幾千もの羽毛が宙を舞った。それが静かにゆっくりと地面に落ちる。その途端、羽毛は人の姿になった。いや、人と言って良いのかどうか。それは紛れもない、黄金の神人。だが小さい。身長百五十センチほどの小さな神人が、何千体も現われたのだ。
キラー・ホーネッツはデルファイオオスズメバチを神人の群れに向けた。だが神人には毒針が刺さらない。
からからから。高笑いするかのように、黄金の鳥は鳴いた。神人の群れが魔人たちに迫る。
「さあ、こりゃ困ったぞ」
ズマがつぶやいた。
「物量作戦か。厄介だな」
ジンライも同意する。だが二人には緊迫感がない。その視線はダラニ・ダラに向けられている。魔女は当惑したように眉を寄せた。
「……人間が避難してない状態で使うのは、オススメしないんだが」
それは一応の言い訳であった。
「この後に及んでは仕方あるまい」
と、ガルアムも言う。
「これ以上被害を拡大させるのもね」
ドラクルは小さくため息をついた。ダラニ・ダラはニヤリと笑った。
「んじゃあ、連帯責任って事でいいね」
そう言って早速両手を振り上げると、頭上に巨大な黒い空間を広げた。
「さあ出ておいで、おまえたち!」
闇の中から、聞こえてくるのは低い羽音。最初の影がビュッと一つ飛び出たかと思うと、次から次へと続いて無数の影が、途切れることなく飛び出して来る。わんわんわん、あっという間に周囲は羽音で埋め尽くされた。
延々と飛び出し続ける影の中から、一体がダラニ・ダラの前に進み出て片膝を突く。人に似たシルエットをしているものの、その体を支えるのは外骨格。大きな複眼に工業機械を思わせる口。そして背中には長い羽根。紛れもない人型の巨大バッタであった。
「我ら飛蝗軍団『ローカスツ』、ただいま参上つかまつりました」
低く太い声にダラニ・ダラはうなずく。
「神様に本物の物量作戦ってのを見せてやりな」
「はっ、命にかえましても」
そして巨大バッタは振り返り、数万単位の群れに向かって一言命じた。
「喰らい尽くせ!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので
との
ファンタジー
この度主人公の片割れに任命された霧森花梨⋯⋯グロリア・シビュレーです! もうひとりの主人公は、口が悪くて子供に翻弄されてるゲニウス・ドールスファケレで通称ジェニ。
人違いと勘違いで殺されて強引に転生させられた可哀想な生い立ちで、ちょっと前まで『役立たず』と言われながら暮らしてました。
全てを思い出した今は、全部忘れていた時からず〜っとそばにいてくれた仲間と共に盛大なざまぁを敢行する為に日夜努力中で、何故か『爆裂護符製造機』『歩く地雷』と呼ばれています(〃ω〃)
数千年前から続く戦いに巻き込まれていたのにはビックリだけど、能天気に盛大にやらかしま〜す。
『モフモフパラダイスがあれば生きてける!』
『あ、前世の母さんのコロッケが〜』
ジェニとその家族&私⋯⋯気合十分で戦いはじめま〜す。応援よろしく♡
『ま、待ちんちゃい! グロリアが思いついたらロクなことにならんけん』
『どうせなら校舎丸ごと爆破とかで退学が良かったのになぁ』
【間抜けな顔で笑ってるくせに⋯⋯鬼畜の女王、悪魔をペットにする異世界人、あのロキを掌で転がしフェンリルにヘソ天させる⋯⋯俺、怖すぎて漏らしそう】
『え〜、冤罪はんた〜い。ちょっと無能鴉にしてあげようかって聞いただけなのになぁ』
『ちんまいちゃんがいちばんつおいでちゅね』
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
ファンタジーに変更しました。
言葉遣いに問題ありの登場人物がちょこちょこいます。
神話の解釈や魔法・魔術その他⋯⋯疑問がでた時は『ありえない世界のお話だもんね』と優しいお心でお読みいただけると幸いです。
あちこちに『物申す!』と思われる内容がおありの方は緩〜く読み流していただくか、そっとページを閉じていただけると嬉しいです。
R15は念の為・・
タイトル時々改変_φ(・_・
ロマン砲主義者のオーバーキル
TEN KEY
SF
彼は、その日まではただ自己実現のために身内でひっそりとゲームを楽しむ一人の名も無きプレイヤーに過ぎなかった。
【Another:Necronomicon(アナザーネクロノミコン)】
MMORPGにトレーディングカードゲームとアクションの要素を組み合わせたフルダイブVRゲーム内で、彼は今日も一つの対人試合を終えた。
それは本来なら、外には出ない身内戦。だがその試合を偶然目にした高ランクプレイヤー「μMeow(ミューミュー)」は、彼の非凡な才を発見する。
二人は出会い、そして滞っていたゲーム世界の流れを大きく変えて行く。
「ちょっと待った」
名も無きプレイヤーは、己の信念を曲げず、無数の「当たり前」と「常識」をなぎ倒しながらその力を見せつけた。
多くの伝説的試合が紡がれ、誰もが彼を見た。観た。――魅た。
「待てって」
そして後に生まれた数多くのフォロワー達によって、彼の意思とプレイスタイルは敬意を持ってこう呼ばれた。
『ロマン砲主義者』と。
「……これ、誰の話?」
「やだなぁ師匠の事に決まってるじゃないですか」
「虚偽!!」
海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?
月城 友麻
SF
キリストを見つけたので一緒にAIベンチャーを起業したら、クーデターに巻き込まれるわ、月が地球に落ちて来るわで人類滅亡の大ピンチ!?
現代に蘇ったキリストの放つ驚愕の力と、それに立ちふさがる愛くるしい赤ちゃん。
さらに、自衛隊を蹴散らす天空の城ラピ〇タの襲撃から地球を救うべく可愛い女子大生と江ノ島の洞窟に決死のダイブ!
楽しそうに次元を切り裂く赤ちゃんとの決戦の時は近い! 愛は地球を救えるか?
◇
AIの未来を科学的に追っていたら『人類の秘密』にたどり着いてしまった。なんと現実世界は異世界よりエキサイティングだった!?
東大工学博士の監修により科学的合理性を徹底的に追求し、人間を超えるAIを開発する手法と、それにより判明するであろう事実を精査する事でキリストの謎、人類の謎、愛の謎を解き明かした超問題作!
この物語はもはや娯楽ではない、予言の書なのだ。読み終わった時、現実世界を見る目は変わってしまうだろう。あなたの人生も大きく変貌を遂げる!?
Don't miss it! (お見逃しなく!)
あなたは衝撃のラストで本当の地球を知る。
※他サイトにも掲載中です
https://ncode.syosetu.com/n3979fw/
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
蒼空のイーグレット
黒陽 光
SF
――――青年が出逢ったのは漆黒の翼と、紅蓮の乙女だった。
桐山翔一は雨の降る夜更け頃、異形の戦闘機を目撃する。漆黒のそれはYSF-2/A≪グレイ・ゴースト≫。操縦にESP能力を必要とする、真なる超能力者にしか操れない人類の切り札だった。
その戦闘機を駆る超能力者の少女、アリサ・メイヤードと出逢ったことで、彼の運命は急速に動き始める。人類が秘密裏に戦い続けていた異形の敵、地球へ侵攻を始めた謎の異星体『レギオン』。外宇宙からもたらされた重力制御装置『ディーンドライヴ』と、それを利用し大宇宙を駆ける銀翼・空間戦闘機。この世界は嘘だらけだった。嘘で塗り固めた虚構の中で、人々は生き続けて……いいや、生かされ続けてきたのだ。偽りの歴史の中で、何も知らぬままに。
運命に導かれるままに出逢いを果たし、そして世界の裏側と真実を知った翔一は、それでも飛びたいと願ったのだ。この蒼い空を、彼女となら何処までも飛べると感じた、この空を――――。
大いなる空と漆黒の宇宙、果てなき旅路に黒翼が舞い上がる。
SFフライト・アクション小説、全力出撃開始。
※カクヨムでも連載中。
新事記ミカド・ミライ
今田勝手
SF
西暦2118年、世界から旧人類が絶滅して30年が経った頃の話。
男子高校生の日向雅は山の中で不思議な力を使う少女を助ける。精密検査の結果、彼女は絶滅したはずの旧人類であることが発覚する。この物語は、いつか来るかもしれない未来を描いたオカルティックアクションである。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる