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2悪役令息なんてなりたくない
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しおりを挟む散々虐めのような扱いを受けて来たシェリルは、虐めを出来そうに無かった。あんな思いをさせなくてもいいはずだ。自分さえ居なくなればいいのだから。前日勇気を出して殿下に進言した。
「──虐めたくありません。私が学園から去ればいいのではないですか?」
その一言は殿下の逆鱗に触れた。シェリルは冷水を魔法で浴びせ続けられる。春先の花冷えの日。凍えて震えるシェリルに殿下は残酷な一言を告げた。
「お前が出来ないなら、お前の弟にさせるだけだ。弟を追放か処刑してもいいならやらなくていいよ」
絶望に染まるなか、やりますと答えた。
もう涙もでない。助けてと願っても誰にも届いたりしない。どうして自分は悪役令息なんだろう。
夜中から高熱が出たが、絶対に明日は行かないといけない。朝フラフラになりながらも殿下との大切な約束がありますと邸から学園に向かう。
校門近くの木の所で珍しい青髪の少年を待った。
美少年で聖魔法の使い手。子爵と平民の愛人の子。子爵の子と認められて貴族籍に入ったから……学園に入ってから皆その存在を知るらしい。美しく優しい彼と殿下が惹かれあって、シェリルが嫉妬のあまり嫌がらせをする。
そんなことしないのにと、泣きそうになる。
彼かな?綺麗な髪色が見えた。初めて会う人に何でこんな事をしないといけないのか。
高熱のせいで視界も歪んでブレていく。だめだ……立ってられない。でも、弟に何かあったらどうしよう。
右手を動かそうとして、意識が遠のいた。ぐらりと体が傾いていく。地面にぶつかると思った時誰かに受け止められた。
「熱がある?」
そう言われておでこが合わさる。
「──綺麗な髪」
青い髪に青い瞳。主人公ってこんなに格好いいんだと納得する。
「大丈夫か?熱があるね……治療室に連れていくから。そうだな、おれの首の所にしがみく感じになってくれる?」
言われるがまま、のそのそと手を伸ばして彼の肩のところに頬を寄せた。縦抱きにされた。彼よりは小柄とは言え、これでも男だ。重いのではと心配になる。
「──軽いな。それに細い。ちゃんと食べてないんじゃないか?綺麗だけど、ちょっと心配だな。スチルより細い気がするし」
スチル……?たまに殿下がそんなことを言っていた気がする。
もしかして、主人公と殿下は知り合いだったのかな?
シェリルは、朦朧として考えがまとまらない。彼に何をしたら良かったんだろう?出会いのイベント……って何したらよかったんだっけ。呼吸が浅く早くなってさらに辛くなっていく。ふっと目的を思い出す。
青い髪の人を虐めないと……いけなかったことが過ぎった。
「だめ、だ。殿下に……罰を与えられるから……言うこときかないと……」
ぴたりと彼の動きが止まる。
シェリルは殿下が前に来た事に焦った。
「──おいっ!お前は誰だ!!」
殿下の様子がおかしい気がした。
「どう言う意味ですか?」
先程の優しい声色からとてつもなく低い声が聞こえる。
第一王子殿下が声を荒らげた。
「この学園で青い髪は、ライラック・ブローディアだけだ」
彼が何か呟くと、何か膜の様な物に包まれ消えた。
「これ防音の魔法です。何か俺に言いたいことでも?」
仮にも第一王子殿下なのに、彼は面倒くさそうに話しかけた。
そして、何か納得した様にこう言った。
「もしかして、殿下も前世持ち?」
──前世?
「まさか、お前」
「俺、魔法チートなんだよね。こんなにシェリルがお前を怖がるとか。変だなって思ってお前が何して来たか視たよ」
「なんの、ことだ」
殿下の顔色が悪くなりはじめた。
「なるほど、シェリルが悪役令息だから?何でもしていいって虐めて来た訳か?そして、まさかの俺を狙ってた?」
身長は殿下よりも高い。何より筋肉がしっかりついていて、騎士みたいで格好いいとシェリルは思っていた。
「くそっ。なんでそんなに見た目が違うんだ!」
「俺は、婚約者がいながら浮気するヤツなんてごめんなんだ」
それに、と言いつつシェリルの背中に手を当て聖魔法を使う。
「このままだと肺炎になるね。これで少しは楽になったかな?魔法ばっかり頼るとだめなんだ。本当に自己治癒が一番だからね。完全には治癒しなくてごめんね」
「聖魔法……本当に主人公のライラックなのか?」
「悪いけど、俺はお前が嫌いだから。鍛えたんだよ。それに前世から悪役令息のシェリルは推しなんだ。本当健気で可愛い」
「え?」
その言葉に驚いたのはシェリルだ。
「なんか、体に傷痕があるみたいだね。それは綺麗に治療するよ」
聖魔法の使い手は、国賓並の扱いだ。
第一王子殿下の悪事が暴露され、国王陛下から殿下は王位継承権を奪われた。
陛下からの謝罪と共に婚約を白紙に戻された。それでも、心の傷が深く学園を休学し領地へ戻る事にしたシェリルを追いかけてライラックはやって来た。
ライラックからの溺愛を知るのは、もう少ししてから。
終
次は……迷い中。
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