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第4章(終章)
7愛すべき世界・終話
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ジェイに似た人が、円卓の中心にいる。上位のアルファで間違いない。この部屋にいる貴族もレベルが違ってもアルファなんだろう。
俺を見る哀れみの顔。好奇の目。舐め回すような視線。
「──そのローブを脱いでくれないか?」
その低い声が、自分に向けられたことに気付くのが遅れた。
「おい。陛下の言葉を無視するのか?これだから、平民のオメガは」
突き刺さる言葉に唇を噛んだ。
ジェイが、目の前に立ちフードを下げてくれた。
紫銀の髪を撫でられる。ローブはマジックバックの中へと押し込まれた。貴重な魔術式が織り込まれている。信用出来ない者には渡せない。それを組んでくれた形だ。
そして、ジェイは横に並び直した。
「殿下の手を煩わせるなん……て」
誰かの言葉が途中で消えた。
室内がざわつき始めた。慣れない貴族服を着せられている。なめられないようにと母さんが選んでくれたから、多分失礼は無いと思いたい。
「どういう事だ?紫銀の髪だ」
「あの髪色に染める技術は無いはず……ならば本物か?」
「静かにしろ」
一瞬で誰もが口を閉じた。
「ジェイク。紹介してくれ。君の番をね」
「な、番ですと?」
一番年配と思われる貴族が声を上げた。
陛下に睨まれて直ぐに口を閉じる。
「私の運命の番であり、王子妃になる者です。すでに番は成立しています」
「運命か……オメガで間違いはないのだな。しかし、紫銀の髪とは。細工でも魔術でもないな。発言を許可する。本当の名前を言いなさい」
「──ライリオラ……」
覚悟して言うんだ。真実の名を。
「ライリオラ・エーベルハルトと申します」
空気が変わった。
視線が更に痛い。
──怖い。
「何を馬鹿な!エーベルハルトは、数百年もの昔に滅んだ王国だ。その当時なら分からないが、今更末裔が生きていたなど証明など出来るはずがない!」
年配の貴族が声を荒らげる。その訴えに感化され、他の貴族も身を乗り出した。
「聞けば、魔女の血筋なのだろう?オメガの血と魔女の力を使って殿下を誘惑したのだろう……家畜以下め」
「なんと浅ましい。殿下その者は捨ておきなさい。アルファからの情けを貰わなければ直ぐに死ぬでしょう。毒杯の名誉を与えるのも惜しい」
ドンッ
殿下が魔術を壁に向かって放った。
「ジェイク……落ち着きなさい」
「やはり、平民に誑かされて……な」
黒い闇の中から手が伸びてきた。年配の貴族の首の所に剣を当てて背後に立ったままだ。顔は分からないようにしている。
「何者だ」
陛下の声が静かにその手の主に声をかけた。
一歩踏み出し、姿を現した姿に皆息を飲んだ。
「セリオライトの王か」
「そうだが、お前はいったい」
「──エーベルハルトの王より、末裔の王子を守護せよと命じられた者だ」
「人ではないな。魔族か?」
「そうだな。人間は、私の事を魔王と呼んでいた」
一気に室内が緊迫に包まれる。
「何故彼を守護するのか理由を聞きたい」
「人間は、恩を仇で返すのか?我らは約束を違えぬ。ライリオラ・エーベルハルトに危害をなす者があれば、魔族を敵にすると思え。また、その血族を守護する。害をなせば、人間界に干渉し滅びを与える。違えなければ和平を約束する」
父さん……涙がこぼれそうになる。
殿下が膝をつく。
「私、ジェイク・セリオライトは、生涯ライリオラ・エーベルハルトを愛し護ります。約束いたします。どうか人間界との和平をお願いしたい」
陛下が、皆を立たせた。そして騎士の誓いの礼をとる。
「並々ならぬ魔力、ライリオラ殿が居なければ我々全員今ここで簡単に処分されてもおかしくありません。我々もこの世界を護りたいのです。その架け橋に王子妃がなってくれるのであれば、歓迎致します」
いつの間にか、開放された貴族が地を這う形で陛下の後方へと移動したきた。
暗闇から現れた人外は、恐ろしく美しく笑った。
「約束を違えるな。ライリオラ……何かあれば私を呼びなさい」
そして、また消えた。
陛下が俺の前に立ち、また膝をつく。
「この国、いや人間界の為に力を貸してほしい。君を罵った者たちには、きちんと罰を与える」
「あの……そんな」
「君が許してくれても、かの方は許さないはずだ。任せて欲しい。それから、王妃もオメガだ。君と気が合うだろう会ってやって欲しい」
「は、い」
「陛下、私達の婚姻は認めて頂けますね?」
「反対の出来る者などいないだろう。和平へと繋がるなら、反対など絶対にさせない。それにお前達は運命なのだからひき剥がすことなど出来ない。それとも、反対する者はいるのか?」
「め、滅相もごさいません。お、おめでとうございます」
「おめでとうごさいます」
そして、俺とジェイの婚約は滞りなく進んでいく。
うさぎ亭はもちろんだが、薬剤には王宮御用達の印がつく事となった。
◇◇◇
一年の婚約期間を明けていよいよ、婚姻の儀が行われる。大きな神殿の祭司の前へと兄さんの手を取ってゆっくりと歩む。父さんは、魔王に悪いとそれを拒み、その役目を兄さんへと譲ったのだ。
扉が開く前に兄さんがギュッと抱きしめてくれた。この一年で兄さんの本当の気持ちに気が付いた。ずっと、見守ってくれていた大切な人。なんて言っていいのか迷っていた。そんな俺を見て、兄さんの唇がおでこに軽く触れた。
「ずっと変わらずライラを愛すよ。君が幸せならいい。魔王と同じで、ライラが泣かされるような事があったら……いつでも迎えに行く」
そして笑った。
歩む先にジェイの姿が見えた。みなの協力の元、認められた2人。それに滅びたとは言え王族とした扱われることになった。
2人手を取り合って、バルコニーへと並び立つ。
民衆の大歓声に包まれた。
「この先も変わらずに君を守り愛すことを、誓う」
「ジェイ、愛してる」
重なる唇に更に大歓声が起きたのだった。
本編おわり
最後まで、ありがとうございました。
おまけの巣作り2話(?)になりそうです。そちらをupして完結としたいと思います。
更新が遅くて申し訳ありませんでした。
また、別の作品でお会いできたら嬉しいです。
俺を見る哀れみの顔。好奇の目。舐め回すような視線。
「──そのローブを脱いでくれないか?」
その低い声が、自分に向けられたことに気付くのが遅れた。
「おい。陛下の言葉を無視するのか?これだから、平民のオメガは」
突き刺さる言葉に唇を噛んだ。
ジェイが、目の前に立ちフードを下げてくれた。
紫銀の髪を撫でられる。ローブはマジックバックの中へと押し込まれた。貴重な魔術式が織り込まれている。信用出来ない者には渡せない。それを組んでくれた形だ。
そして、ジェイは横に並び直した。
「殿下の手を煩わせるなん……て」
誰かの言葉が途中で消えた。
室内がざわつき始めた。慣れない貴族服を着せられている。なめられないようにと母さんが選んでくれたから、多分失礼は無いと思いたい。
「どういう事だ?紫銀の髪だ」
「あの髪色に染める技術は無いはず……ならば本物か?」
「静かにしろ」
一瞬で誰もが口を閉じた。
「ジェイク。紹介してくれ。君の番をね」
「な、番ですと?」
一番年配と思われる貴族が声を上げた。
陛下に睨まれて直ぐに口を閉じる。
「私の運命の番であり、王子妃になる者です。すでに番は成立しています」
「運命か……オメガで間違いはないのだな。しかし、紫銀の髪とは。細工でも魔術でもないな。発言を許可する。本当の名前を言いなさい」
「──ライリオラ……」
覚悟して言うんだ。真実の名を。
「ライリオラ・エーベルハルトと申します」
空気が変わった。
視線が更に痛い。
──怖い。
「何を馬鹿な!エーベルハルトは、数百年もの昔に滅んだ王国だ。その当時なら分からないが、今更末裔が生きていたなど証明など出来るはずがない!」
年配の貴族が声を荒らげる。その訴えに感化され、他の貴族も身を乗り出した。
「聞けば、魔女の血筋なのだろう?オメガの血と魔女の力を使って殿下を誘惑したのだろう……家畜以下め」
「なんと浅ましい。殿下その者は捨ておきなさい。アルファからの情けを貰わなければ直ぐに死ぬでしょう。毒杯の名誉を与えるのも惜しい」
ドンッ
殿下が魔術を壁に向かって放った。
「ジェイク……落ち着きなさい」
「やはり、平民に誑かされて……な」
黒い闇の中から手が伸びてきた。年配の貴族の首の所に剣を当てて背後に立ったままだ。顔は分からないようにしている。
「何者だ」
陛下の声が静かにその手の主に声をかけた。
一歩踏み出し、姿を現した姿に皆息を飲んだ。
「セリオライトの王か」
「そうだが、お前はいったい」
「──エーベルハルトの王より、末裔の王子を守護せよと命じられた者だ」
「人ではないな。魔族か?」
「そうだな。人間は、私の事を魔王と呼んでいた」
一気に室内が緊迫に包まれる。
「何故彼を守護するのか理由を聞きたい」
「人間は、恩を仇で返すのか?我らは約束を違えぬ。ライリオラ・エーベルハルトに危害をなす者があれば、魔族を敵にすると思え。また、その血族を守護する。害をなせば、人間界に干渉し滅びを与える。違えなければ和平を約束する」
父さん……涙がこぼれそうになる。
殿下が膝をつく。
「私、ジェイク・セリオライトは、生涯ライリオラ・エーベルハルトを愛し護ります。約束いたします。どうか人間界との和平をお願いしたい」
陛下が、皆を立たせた。そして騎士の誓いの礼をとる。
「並々ならぬ魔力、ライリオラ殿が居なければ我々全員今ここで簡単に処分されてもおかしくありません。我々もこの世界を護りたいのです。その架け橋に王子妃がなってくれるのであれば、歓迎致します」
いつの間にか、開放された貴族が地を這う形で陛下の後方へと移動したきた。
暗闇から現れた人外は、恐ろしく美しく笑った。
「約束を違えるな。ライリオラ……何かあれば私を呼びなさい」
そして、また消えた。
陛下が俺の前に立ち、また膝をつく。
「この国、いや人間界の為に力を貸してほしい。君を罵った者たちには、きちんと罰を与える」
「あの……そんな」
「君が許してくれても、かの方は許さないはずだ。任せて欲しい。それから、王妃もオメガだ。君と気が合うだろう会ってやって欲しい」
「は、い」
「陛下、私達の婚姻は認めて頂けますね?」
「反対の出来る者などいないだろう。和平へと繋がるなら、反対など絶対にさせない。それにお前達は運命なのだからひき剥がすことなど出来ない。それとも、反対する者はいるのか?」
「め、滅相もごさいません。お、おめでとうございます」
「おめでとうごさいます」
そして、俺とジェイの婚約は滞りなく進んでいく。
うさぎ亭はもちろんだが、薬剤には王宮御用達の印がつく事となった。
◇◇◇
一年の婚約期間を明けていよいよ、婚姻の儀が行われる。大きな神殿の祭司の前へと兄さんの手を取ってゆっくりと歩む。父さんは、魔王に悪いとそれを拒み、その役目を兄さんへと譲ったのだ。
扉が開く前に兄さんがギュッと抱きしめてくれた。この一年で兄さんの本当の気持ちに気が付いた。ずっと、見守ってくれていた大切な人。なんて言っていいのか迷っていた。そんな俺を見て、兄さんの唇がおでこに軽く触れた。
「ずっと変わらずライラを愛すよ。君が幸せならいい。魔王と同じで、ライラが泣かされるような事があったら……いつでも迎えに行く」
そして笑った。
歩む先にジェイの姿が見えた。みなの協力の元、認められた2人。それに滅びたとは言え王族とした扱われることになった。
2人手を取り合って、バルコニーへと並び立つ。
民衆の大歓声に包まれた。
「この先も変わらずに君を守り愛すことを、誓う」
「ジェイ、愛してる」
重なる唇に更に大歓声が起きたのだった。
本編おわり
最後まで、ありがとうございました。
おまけの巣作り2話(?)になりそうです。そちらをupして完結としたいと思います。
更新が遅くて申し訳ありませんでした。
また、別の作品でお会いできたら嬉しいです。
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