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第1章

7 オメガの俺②

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「ライラ、入るわね」

「母さん」

トレーの上のグラスに何か、とんでもない色の飲み物が乗っている。

「これ、試して欲しいんだけど」
差し出されて、少し頬が引き攣りそうになる。

「うわ。すごい匂い」
悪臭とかではなく甘ったるい匂いがする。

「効果が長いと思うの。味は我慢して、身体には良いものだから」

覚悟を決めて、一気に飲む。

甘い。まっずい。

「ん~。はは。独特の味だね。でもありがとう」

変な顔になりそうになるけどそれを我慢しながら、グラスを母さんに渡す。
それをテーブルの上のトレーに乗せてこちらにやってくる。


「治ればいいんだけど」
そう言いながら、ベッドに腰掛けて髪を撫でてくれる。


うちの家族は髪の毛を撫でるのが好きみたいで、俺はされるがままだ。

心配そうに覗き込んで来るから、胸が痛む。

「母さん。部屋に来てから落ち着いた気がするから、大丈夫だよ。この薬?も飲んだから。治まると思う」


「本当に?そんな簡単にヒートが治るかしら?不思議ね。もしかして、ただ誰かに反応しただけとか?」

あ。あの男。顔は確かに整っていたし、ローブは一般の冒険者より高級そうだった。貴族っぽいよね。

「あの、さ。店に来てた奴。ほら、最後までしつこかった…」

「あの、美形冒険者?ちょっと貴族ぽかったわよね?」

「うん」
美形?になるのか?
兄さんの方が母さんに似て、色気があって格好いいと思うんだけど。

「気になるの?」

気になるの、かな。


「最初に匂いことを言われたんだ。軟派かと思って、構われないように避けたんだけど…」

少し、母さんが嫌そうな顔をした。

「──もしかして、アルファ?」

「そんな気がするんだ」


「そう。ライラの匂いに気が付いたかも知れないのね?」

「うん」


「そう。どうしようかしら」

優しい口調の割に目が笑ってない。それどころか、獲物を見つけた猛禽類みたいだ。


「母さん?」
この場合の母さんは、怖い。
父さんが実はアルファで、それを狙ってた女が父さんを嵌めようとしたんだって…昔兄さんが教えてくれた。

母さんはS級冒険者で魔術師としてレベルがかなり高いんだ。
なのに、その女ばかだよね。報復はとんでもなくて数倍にしてやり返したって聞いたんだ。

俺達にとって優しい母さんでも浮気は絶対にあくらしい。浮気じゃなかったんだけど。
ほとんど巻き込まれ事故だと思う。

で、結果的に父さんと婚姻の時の誓約魔術式はとんでもないらしく、父さんは、全くフェロモンは分からないみたい。

まぁ、俺が父さんを誘惑しなくて済んだからいいけどね。

アルファは貴族が多いんだよね。母さんは、貴族が嫌いだから…容赦がないかも。アイツうちの店に来たら可哀想だな。


「ライラは、眠ってなさい。ちょっと調べてみるから。まだバレたりしてないとは思うけどね」


「うん」


もしバレたら…逃げるしかないのかな?変な圧力かけてきて店に何かあるのも困る。

それに、子作りの道具とかにされたら嫌だ。監禁とか…どうしよう?
その為に魔術も剣も身に付けて来たんだ。もっとレベル上げをしよう。兄さん付き合ってもらうしかないな。

だいたい運命の番とか、ある訳ないから。

「ライラ。大丈夫よ。貴方のこと守るから、今は寝なさい」

母さんの…魔術?
意識が沈み始める。この魔術は教えてくれないんだよね。
多分俺が勝手にいなくならないようになんだと思う。

家族眠らせて出ていくとか嫌だからねって母さん言ってた。

分かるけど。これも覚えて置かないと…今の魔術式覚えなきゃ。
まだ、寝ちゃ駄目だ。頭に入れろ。

母さん、本当に俺は迷惑にならない?

俺、なんでこんな風に産まれたんだろうね?
親に捨てられてたのかな?何か理由があるのかな?

俺、みんなに恩返ししたい。


それでも、ごめん。俺​───本当の両親に会ってみたいんだ。





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