上 下
18 / 67

17神子と神官長

しおりを挟む
 召喚された後、魔力を測定されたが大した反応がない。神官長の表情からは、何を考えているか読めない分、なんと言えば正解なのか分からない。二葉にとって、三年も早くゲームの世界に呼び出された弊害としか、言いようがなかった。

「あの、魔法のない世界にいたので……今すぐに使えないのかも知れません」
「そうかも知れませんね」

 冷ややかな神官長の口振りに、文句をいいたくなったが、後ろ盾を得る為にはにしておくべきだ。

 やり直しはもう出来ない。

「異世界に召喚されて、まだ数日しか経っていません。これからこの世界に慣れて行くしかありません。だって元の世界には、戻れないのですよね?」

 涙ぐみ、辛い顔を見せて少しでもの振りをする。


 ──だが。


「神子様は、第二王子殿下に言いましたよね?」
「え?」

 (何か言ったっけ?)

「召喚の日。『いいよ。そんな汚れた物を欲しいなんて、君変わってるね。私の物みたいだから欲しいのかな?』そう言ったんですよ」

 そんなこと、よく覚えているなと二葉は、舌打ちしそうになる。

「二葉様は、神子として選ばれた自覚が最初からありましたよね? 特別な力を持っていて隠しているのではありませんか?」

 どう言えば、今の魔力の少なさを納得して貰えるのだろう?ゲームは十八歳からですなんて、意味不明過ぎて伝わる気がしない。魔法を補うのは魔導書グリモアールだけど、それが手に入るのはゲームが始まってからだ。

 魔導書グリモアールは王家にもあるはずだし、今なら神殿から手配してもらってもいいはずだ。守護者ガーディアン付きは、それこそゲームが始まり攻略対象との好感度が増す必要がある。

 軽く二年以上先の話で、頭が痛い。

 約二百年に一度しか召喚の儀式が出来ないのだ。俺を神子として育てる選択する方が、厄災の備えになると思う。見た目も神子に該当するのだから王国民の理解を得やすいはず。一体どうしたら納得させられるかと考えている。

 そうか……この先数年の出来事なら分かる。未来予知を売りにすればそれらしいのではないか?二葉は、神子である可能性の高さを訴えていくことにした。



「──私の世界では、魔法はありません。ですが、突然違う世界に連れて行かれ、こつ然と姿を消す人がいるのです。私の国ではそれを神隠しと言います」

「神子様以外に、そう言うことがあったと?」
「実際、私は神に会ってここに来るように言われたんです」

 二葉が指定した世界に来ただけで、神に頼まれた訳じゃないけど、それっぽく話を作っていく。未来予知……先見さきみって言い方がそれっぽい気がする。


「神に会ったのですか?」
「炎に包まれ、これから起こることを記憶して行くようにと言われたんです」

「浄化だけでなく、先見が出来るのですね?」
「先見なら自信があります。体力的に不出来のせいか、ここに召喚される時に魔力を多く失ったようですが、ある時期になれば回復するようです。今の魔力では信じてもらえそうもありませんが。信じられないなら、元の世界に帰る方法を一緒に探して頂けませんか?」


 火事の炎から救い出し、二葉が行きたいと思った世界へ転移させてくれたのは、結果的に神様だ。神様の加護があると思わせればいい。

「神子様を呼び出して起きながら、神子様を元の世界へ戻す力はありません。そこは、この世界の為にどうか許していただきたい。召喚の際に魔力を奪ってしまったのかも知れません。魔力が戻るまで、お手伝いをさせて下さい」
「神子……と認めて下さるのですか?」

 二葉は、ホッと胸を撫で下ろした。帰る場所もなく、神子として覚醒するまでまだ先だ。今捨てられて、神殿から追い出されたくはない。平民とか、貧乏な暮らしをするくらいなら……現代にいた方がマシだ。泣き落とししか方法はないが、魔法の訓練をさせてくれれば、きっとこの世界を救う神子になれるはずだ。

「召喚されて、この世界に来たのは、間違いなく二葉様です。魔力が全くない訳ではありません。神子として、この世界のために魔法の訓練を受けていただけますか?」

 思った通りになってニヤケそうな顔を抑えつつ、二葉は潤んだ瞳で神官長に微笑んだ。

「はい。私の国でも、十八歳になれば大人として認めてもらえます。それまで、魔法を学ぶ機会を私に下さい」

「異世界から呼んだ、大切な黒髪黒目の神子様です。誠心誠意ご指導させていただきます」


 

 訓練に参加し、仮の魔導書で学びながら二葉は、ゲームのスタートまでで過ごした。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

処理中です...