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リスタート

10.

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  少し落ち着いて、熱も上がりそうにない。このまま下がっていきそうだ。

流石にこの部屋で二人よりはと、テラス前の窓際のスペースに案内された。
庭が見えるウッドデッキにも、可愛らしいテーブルが設置されている。
外は少し暑そうだった。

室内のソファから外を眺める。カフェ気分を味わえる場所。密室では無いので、多少会話は、誰かに聞こえるかも知れない。それでも、この家の人達なら馬鹿にしないはずだ。


何があったのかを漸く寧々子は、口にした。
夢か現実か分からない。そんな体験。
両親に会えた事は、嬉しかったのだとも伝えた。それは間違いなく優しい二人の姿だった。
そして璃桜は、黙って聞いてくれた。

「結局、夢だった気がして。猫が虎になって、欲しかった手紙を持ってた。最後に逃げられましたけどね」

「白い虎だった?」

「そうですよ。真っ白の大福がもっと艶々な毛並みで大きくて、そのでかい肉球で頭をぐりぐりしてくるんですよ」

「なるほど。あれはあれで気持ちいいよね」

「そうそう。不思議な感触って……あれ?」

「俺にも見えるよ。白虎」

「白虎……って。知ってるんですか? 見えるの?本当に本物?」
「付き合い長いから」

まさか本物だとか。なら手紙も本物だったのかも知れない。

「手紙。大福は、どこですか? あの、探してください」

指の示す方向から、てとてとと大福が歩いてくる。

にゃーん。

立ち上がった瞬間に腕を掴まれて、璃桜の方を見る。
「手紙を、璃桜さん離して」
「こっちに向かって来てるから」

大福の歩くスピードが上がる。いつの間にかソファの上に乗っていた。

「手紙を……下さい。お願いします。お願いします。お願いします。読ませて」

頭を何度も下げると、璃桜に止められた。
「ほら、座って。大福がここまで来て見せないはずがない。たぶん……一人で読むなって事だよ」

その言葉通り、大福はいつの間にか銜えていた手紙を璃桜の膝の上に置く。

その手紙を璃桜が受け取り、寧々子に差し出した。

「一緒にいるよ」

頷き、受け取った手紙を胸に当てる。
「お母さん。お父さん……」

ゆっくりと開封した。

◇◇◇


寧々へ
この手紙が届く頃、君はどうしているのだろう?可愛くて、愛おしくて。宝物の寧々は、泣いてないだろうか?

縁さんが、きっと私達の宝物である寧々を大切に慈しんでくれているはず。優しくて、可愛い子にきっと育っている。その姿を見られなくて、悔しくて悲しい。

寧々が生まれたすぐ後にね。
美結みゆの病気が見つかった。母親として、絶対克服するのだと、頑張ってくれてたんだよ。

寧々の前では、ずっと彼女は笑顔だった。
私は仕事ばかりで、もっと早く美結の不調を見つけてあげれたのではと後悔をしていた。

でも、美結は首を振った。
早く見付からなくて良かったのだと。寧々が生まれてくる前にこの病気が分かっていたら、治療で子供が産めなかったと言っていた。

こんな可愛い子を抱く日が来なかったかも知れない。

そう言って、愛おしそうに寧々を抱きしめていた。

この話をすれば、寧々は生まれて来た事を後悔するのではと思ったんだ。

でも、あの時熱を出した寧々を看病しなかった事を美結は後悔していた。

ようやく取れた予約だったんだ。海外をメインにしていた先生なんだ。この機会を逃せば次の診察の可能性は無かった。

寧々……誰も悪くないんだ。
事故に巻き込まれたのも、君のせいじゃない。美結の発病も、誰のせいでもないんだ。

事故は手遅れで、救急車も間に合わなかったはずだ。

何の痛みの感覚も麻痺した状態で死を覚悟したよ。寧々を遺して逝こうしてる美結の痛みを初めて知った。

遺される側の痛みももちろんだったけれど。美結は、ずっと……寧々に謝っていたんだ。

父親失格かも知れないが、美結を一人逝かせたくなかった気持ちもあったんだ。だから、自分を責めないで欲しい。

寧々。

天涯孤独だった私の最愛の二人と出逢えた事。幸せだったよ。
一人にしてしまった私が言う事じゃないけれど。

寧々を心から支えてくれる人が現れて欲しい。心から寧々の幸せを願っている。



最愛の娘へ
と、締めくくられていた。

優しい父親の面影が脳裏に浮かぶ。
そして、寧々子はもう一つの手紙を広げた。








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