79 / 129
第9章☆アルとルナ
4ダンス特訓①
しおりを挟むディオは、根気強く丁寧に僕に指導していく。
それは、申し訳ないくらいに。
学園でも従者として、僕の側にいてその都度必要な事を教えてくれる。2人の時はグランデ語、もちろんアルともグランデ語で話して確認を取っていく。
姿勢、会話の時の視線、挨拶、食事の作法、細かくて……普段使わない筋肉を使うのか筋肉痛で。
「間に合うかな……」
そんな、呟きを聞かれていた。
「大丈夫、綺麗に出来てきてますよ」
ニコッと笑った。
「はい。最初からやって見ましょう!」
──鬼だ。
日常的なものから社交の場合等、細かい指導に慣れてきた頃、ダンスの練習が週末に本格的に始まった。
カストル様のローランド別邸を借りる事になったのは、スピカがダンスを苦手にしているから。ダンスの練習場もあるし、寮からも近い。
スピカの目標は卒業パーティーでのダンスだ。
僕達がいたら、逃げ回るスピカも刺激を受けて頑張るはずって事みたい。もちろん、グランデ語(王族が使う方をメインに)を学びたいカストル様の知識欲も大きい。
レグルス殿下やシリウス兄様まで、グランデ国の王族との交流を兼ねて、学びの場として参加してきた。
僕の下手なダンスを本当は見に来たとか?じゃないよね?
子供頃から習ってたから、環境的にもスピカよりは上手だと思う。
思うけど。リードのおかげかも知れない、自分で出来てたと勘違いしてたのかもって位、今はぎこちない。
とにかく、細かいのだ。
指先まで神経を使う。美しさを求められる。
ダンスって、こんなに緊張感あったのかな。
ちょっと、辛い。ディオは、全く悪くないのだ。指導も、もっと怒っていいのに、優しすぎると思う。
「ルナ様。引き攣ってますよ」
「ルナ様。指先まで気をつけて」
「ルナ様。ズレてますよ。音楽に合わせて」
ルナ様、ルナ様、ルナ様。
──辛い。分かっているけど。こんなに下手だった?
「ルナ様───休憩しましょう」
音楽を何度も止めてしまう。
息もあがる。やっと休憩。嬉しい。
「アル……ご、ごめんなさい」
「ルナ、大丈夫だよ。焦らないで」
そう言って、窓際の方へ連れて行かれる。
「ディオール。アルファルド殿下とダンスして見せてくれないか?
ルナに手本見せてやった方がわかりやすいと思う」
そう言ったのは、カストル様だ。
「ルナ、イメージを頭に入れたら?スピカ、お前は、見てばっかりじゃなくて練習するぞ」
カストル様に手を引かれて、少し中央から離れた場所で手を取り合っている。スピカ、恥ずかしそう。可愛ぃ。
だめだ……僕は、アル達のダンスを見なきゃ。
「アル。ディオとダンスして見せて。ちゃんと、覚えるから」
2人は、なんとなく気まずそうだったから、僕からもお願いしてみた。
「分かった」
そう言ってフロアの中央に2人が移動して行き、向かい合って手を重ねた。
立ち姿が綺麗。
曲が流れて、アルのリードが本当に自然で、ディオの流れるようなステップに……無駄な力は入ってなくて、指先まで綺麗。
見つめ合って……?
何か呟いた?
アルの口角が少し上がって、ディオも微笑んで。
綺麗な、ダンス。
あ、スピカも立ち止まって見てる。
ふふ。カストル様に怒られてる。
綺麗な2人のダンスが、素敵過ぎて、胸が痛い。
違う。
そうじゃなくてこんなの、2人みたいに、出来るのかな?
出来なきゃ駄目だ。
間に合うの?出来る?
そんな不安でいっぱいになった。2人のダンスが終わる。
「ルナ」
後ろからシリウス兄様に声をかけられて……慌てて振り返った。
「あ、シス兄様。えっと、アルとディオって、息ぴったりだし、本当に指先まで綺麗で……見惚れちゃった。で、きる……かな?」
元々自信なんて無いのに。不安が募っていく。
大丈夫。大丈夫。練習を沢山したら良いんだから。
「レグルス殿下。護衛から外れても構いませんか?ソレイユ……殿下を頼む。少し休憩をください」
え?シス兄様?
「後で、俺とも変われよ?」
レグルス殿下が、そんな事を言った。変わるって何?
シス兄様に手を引かれて……フロアの中央に立つ。
「え?どうして?」
僕の方は見ずに、窓際に戻るディオとアルの方を見た。
アルは、何か言いたそうだったけど。
「休憩中だから、構いませんよね?アルファルド殿下。
ディオール、ルナに息抜きをさせてくれ」
僕を見て、笑う。
「ダンスは、楽しめって昔言ったろ?ルナは、下手なんだから、俺達のリードに合わせて楽しめば良いんだよ」
あ。
子供の頃、練習を一緒にしてきた。
『ルナ大丈夫だよ。身を任せて、笑ってて』
顔を上げて、シス兄様をもう一度見る。
2つほど3人で練習した曲があって、そのうちの1つの曲が始まった。
身を任せてみる?休憩中なら、怒られない?このステップ……良く足踏んでしまって。
『踏まれて無い、痛く無い』
そう、言ってくれた。
「上手くなってるよ」
優しく、声をかけられて、
「ほんと?」
思わず、笑みがこぼれた。
なんか、楽しい。下手だけど、全部カバーしてくれる。ガチガチだった身体から変な力が抜けて、ステップがスムーズに出来る。
もう少し踊るのかと思っていたら、動作がゆっくりになって……レグルス殿下の前に連れて行かれる。いつの間にか、アルとディオも殿下の側にいたみたい。2人は黙ったままだ……なんだろう?
「ルナ。息抜きに付き合って」
ええ?レグルス様とダンス??
あ、──この曲って。
思わず、笑う。
このステップ難しかったよね?何度も練習したもう1つの曲だ。
「肩の力が抜けたな。リズムが分かるな?ディオを気にし過ぎだ。お前が不安になるから、姿勢も視線も変になるんだよ。リードに頼れば良いんだ」
2人とも、励ましてくれるの?
楽しい。
あの頃、必死になって教えてもらったダンスだ。
ああ、そっか。
アルとディオも、幼馴染になるんだよね。2人で踊ってたはず。きっとダンスしやすいのは、僕のクセとか知っていてくれるから。アル達もそうだよね。
アルが笑ったの、それを思い出しただけ、かも。
ありがとう、シス兄様、レグルス様。
17
お気に入りに追加
5,749
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる