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時戻り後の世界
62.契約の印
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それは、美しい魔法陣だった。
ノエルと、ライナが二人で術式を組むように重ねていく。
前に見た時も美しい金色だった。
でも、もっと複雑な魔法陣は……神がかり……神聖なものに見えた。
あの日。あの時。
兄たちを置いていくしかなくて、泣きながら誓ったのだ。必ず過去を変えると……。
サフィラのせいで、失った大切な人達。Ωの自分をどれだけ恨んだだろう。
一人残されるのが嫌で、命を差し出すのに躊躇いはなかった。
───でも今は違う。
二人が作る神聖な魔法陣を、エリオスに抱きしめられたまま見ている。
腕から降ろしてくれたものの、背中側から守るように、サフィラのお腹の辺りに両手が回されていた。
もう抵抗するのはやめて、エリオスの胸に少し寄りかかるような形で、美しい陣に魅入ってしまう。
ノエルが集めてきた儀式の宝珠を、一つ一つ指定されているのか配置していく。全部置き終わった時、さらに魔法でそれらが繋がっていった。
金の陣に、サフィラの血を加えた時は、朱金に輝いた。でも、今は金色から深い深緑の光が浮かび始めている。
「サフィ……俺は」
そこで、一度言葉が止まる。
「エリオス様?」
「記憶があるんだ。サフィを失った後に、残された朱金の魔法陣と雪が少し窪んだような人型があって」
「あ……」
前のサフィラの儀式の時のことだと、そう理解する。
「ずっと、サフィを探したんだ……。古の魔女の存在を知り、望みを叶えたいなら、彼の望みも叶えて欲しいと言われて。今ここにある物と同じ物を集めたんだよ。だから、場所を知っていた。あの時、きっと役に立つそう言われた意味が分かったよ」
「どう言うことですか?僕をずっと探していたんですか?前の世界で?」
「何十年もかかった。サフィが時を戻ったというなら、同じ所に行きたかった。同じ君でなければ意味がないからだ」
ようやく、エリオスの愛の深さを思い知る。
皇太子である彼の特別な名前ロナを、サフィラに呼んで欲しいと言った彼の思いが、全て自分に向けられていたのだ。
「──ロナ様」
後ろにいるエリオス様が、震えているように思う。サフィラの肩にエリオスの重みがかかる。
泣いているのかも知れない。
「──許されるのなら、ずっと傍にいてもいいですか?」
「サフィが嫌がっても、逃がす気はない。ずっと変わらず、愛してる」
「どうか、クロノスの魔女様……この方の傍に居させて下さい」
サフィラとエリオスの願いに反応して、魔法陣は美しいサフィラの瞳の色に輝いた。
眩しさに目をつぶってしまったが、しばらくして光が落ち着いたので、ゆっくりと目を開ける。
そこは、深緑の草原が広がり奥には美しい木々が見えた。
キラキラと、光が反射している。ライナもノエルも、エリオスの姿もない。
ただ一人草原の中に、あの時に会った魔女がいる。
今も、ライナに似ていると思った。
「誰の命も奪わないなんて……ねぇ、あれだけの酷いことをされて殺そうと思わなかった?」
突然の質問に、思考を巡らせて口を開いた。
「まだ何の罪を犯してないのに、命を奪う訳にはいきません。それにどんなに憎くても、彼らにも大切な護るべき人がいるかもしれない。あんな苦しい思いをさせたくなくて。それでも許せなかった人だけには、深い傷をつけてしまいました」
どうしても彼だけは許せなかった。
兄たちがどれだけ、苦しかったかその痛み位は、背負って欲しかった。
「すごいね。仲間を殺されて……憎悪で、私は耐えられなかったのに」
その声色と沈痛な面持ちからも、後悔の念が伝わってくる。その思いにサフィラは、彼の元へ行き抱きしめる。
「貴方には、ライナもノエルもいます」
「ああ、そうだね。君からたくさんのものをもらったよ。君の優しさに世界が反応している。自然の中では、君の生命の時間なんてちっぽけで、彼らが補ってくれるみたいだ」
魔女の手が、サフィラの印の所に触れると少し痛みが走る。
「もう、君との契約は終わったよ──ありがとう。君に会えて良かった」
◇◇◇
「サフィラ!サフィ!!」
意識を失っていたサフィラは、エリオスの腕の中にいたようだった。
「──ロナ様?」
「良かった……」
「サフィラ様……どうでしたか?会えましたか」
「ライナ、会えたよ。皆が僕を助けてくれたんだ」
「じゃあ……契約は?」
ノエルが心配そうに、サフィラの顔を覗き込んできたのに、エリオスがサフィラを隠すよう抱え直す。
「心が狭すぎ……」
「煩いっ、ライナ」
「生きて、いいみたい。胸にある……印消えてると思う」
その言葉に、エリオスがサフィラのシャツのリボンを解き、シャツまで脱がしそうになる。慌てたノエルにペシンと頭を叩かれていた。
「お前っ」
「私とライナがサフィラ様のお胸を見てもいいなら、どうぞ」
「──それはダメだ。サフィ転移門でスノーリル王国へ行こう」
「は、はい」
そのまま抱きかかえられて、魔の森を後にする。
もう一度、振り替えると……金の双眸の魔女が優しく笑って消えていった。
ノエルと、ライナが二人で術式を組むように重ねていく。
前に見た時も美しい金色だった。
でも、もっと複雑な魔法陣は……神がかり……神聖なものに見えた。
あの日。あの時。
兄たちを置いていくしかなくて、泣きながら誓ったのだ。必ず過去を変えると……。
サフィラのせいで、失った大切な人達。Ωの自分をどれだけ恨んだだろう。
一人残されるのが嫌で、命を差し出すのに躊躇いはなかった。
───でも今は違う。
二人が作る神聖な魔法陣を、エリオスに抱きしめられたまま見ている。
腕から降ろしてくれたものの、背中側から守るように、サフィラのお腹の辺りに両手が回されていた。
もう抵抗するのはやめて、エリオスの胸に少し寄りかかるような形で、美しい陣に魅入ってしまう。
ノエルが集めてきた儀式の宝珠を、一つ一つ指定されているのか配置していく。全部置き終わった時、さらに魔法でそれらが繋がっていった。
金の陣に、サフィラの血を加えた時は、朱金に輝いた。でも、今は金色から深い深緑の光が浮かび始めている。
「サフィ……俺は」
そこで、一度言葉が止まる。
「エリオス様?」
「記憶があるんだ。サフィを失った後に、残された朱金の魔法陣と雪が少し窪んだような人型があって」
「あ……」
前のサフィラの儀式の時のことだと、そう理解する。
「ずっと、サフィを探したんだ……。古の魔女の存在を知り、望みを叶えたいなら、彼の望みも叶えて欲しいと言われて。今ここにある物と同じ物を集めたんだよ。だから、場所を知っていた。あの時、きっと役に立つそう言われた意味が分かったよ」
「どう言うことですか?僕をずっと探していたんですか?前の世界で?」
「何十年もかかった。サフィが時を戻ったというなら、同じ所に行きたかった。同じ君でなければ意味がないからだ」
ようやく、エリオスの愛の深さを思い知る。
皇太子である彼の特別な名前ロナを、サフィラに呼んで欲しいと言った彼の思いが、全て自分に向けられていたのだ。
「──ロナ様」
後ろにいるエリオス様が、震えているように思う。サフィラの肩にエリオスの重みがかかる。
泣いているのかも知れない。
「──許されるのなら、ずっと傍にいてもいいですか?」
「サフィが嫌がっても、逃がす気はない。ずっと変わらず、愛してる」
「どうか、クロノスの魔女様……この方の傍に居させて下さい」
サフィラとエリオスの願いに反応して、魔法陣は美しいサフィラの瞳の色に輝いた。
眩しさに目をつぶってしまったが、しばらくして光が落ち着いたので、ゆっくりと目を開ける。
そこは、深緑の草原が広がり奥には美しい木々が見えた。
キラキラと、光が反射している。ライナもノエルも、エリオスの姿もない。
ただ一人草原の中に、あの時に会った魔女がいる。
今も、ライナに似ていると思った。
「誰の命も奪わないなんて……ねぇ、あれだけの酷いことをされて殺そうと思わなかった?」
突然の質問に、思考を巡らせて口を開いた。
「まだ何の罪を犯してないのに、命を奪う訳にはいきません。それにどんなに憎くても、彼らにも大切な護るべき人がいるかもしれない。あんな苦しい思いをさせたくなくて。それでも許せなかった人だけには、深い傷をつけてしまいました」
どうしても彼だけは許せなかった。
兄たちがどれだけ、苦しかったかその痛み位は、背負って欲しかった。
「すごいね。仲間を殺されて……憎悪で、私は耐えられなかったのに」
その声色と沈痛な面持ちからも、後悔の念が伝わってくる。その思いにサフィラは、彼の元へ行き抱きしめる。
「貴方には、ライナもノエルもいます」
「ああ、そうだね。君からたくさんのものをもらったよ。君の優しさに世界が反応している。自然の中では、君の生命の時間なんてちっぽけで、彼らが補ってくれるみたいだ」
魔女の手が、サフィラの印の所に触れると少し痛みが走る。
「もう、君との契約は終わったよ──ありがとう。君に会えて良かった」
◇◇◇
「サフィラ!サフィ!!」
意識を失っていたサフィラは、エリオスの腕の中にいたようだった。
「──ロナ様?」
「良かった……」
「サフィラ様……どうでしたか?会えましたか」
「ライナ、会えたよ。皆が僕を助けてくれたんだ」
「じゃあ……契約は?」
ノエルが心配そうに、サフィラの顔を覗き込んできたのに、エリオスがサフィラを隠すよう抱え直す。
「心が狭すぎ……」
「煩いっ、ライナ」
「生きて、いいみたい。胸にある……印消えてると思う」
その言葉に、エリオスがサフィラのシャツのリボンを解き、シャツまで脱がしそうになる。慌てたノエルにペシンと頭を叩かれていた。
「お前っ」
「私とライナがサフィラ様のお胸を見てもいいなら、どうぞ」
「──それはダメだ。サフィ転移門でスノーリル王国へ行こう」
「は、はい」
そのまま抱きかかえられて、魔の森を後にする。
もう一度、振り替えると……金の双眸の魔女が優しく笑って消えていった。
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