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71.琥珀の記憶
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ジェイドに体を預けた。
「気持ちいい」
溶けて溶けて一つになった。そんな幸せな時間。
柔らかなお湯、ヒノキの香り。
そばに居る大切な人。この感覚、この気持ちに覚えがある。ずっと守られてきたんだね。
怯えて壊れそうになる心を、優しく包まれて実感してしまう。何よりも大切な人。
風呂から抱き上げられて、脱衣スペースで魔法を使って簡単に乾かして貰う。
程よい疲れのまま全てを、任せて甘えてしまう。
簡易な服を着せられて、ベッドへ運ばれいく。ずっと抱きかかえられていることに少し笑いがでた。
不思議そうなジェイドを見て、また笑うとチュッと唇が触れた。
テーブルにボトルとグラス。フルーツが用意されている。
口を開けるように促されて、ブドウのような実を口に押し込まれた。
「冷たい。甘い」
ジェイドが笑って、また実を薦めて来た。
カプッと口にすると飲み込んだ後に、キスをされた。ジュッと吸われてしまいそうなキスだ。
「──本当に甘い」
妙に明るくしてくれてる気がする。俺の忘れてる記憶。心配してくれてるんだ。
「琥珀?」
「ジェイド……俺は、ジェイドを置いて死んだの?」
ジェイドの顔が、一瞬歪んだ。
「そっか。寂しい思いをさせた?」
何も言わなくても、そうなんだと思う。
出会った時は……口喧嘩ばかりしてたような?
「──思い出した?」
「なんとなく……ね」
あの方から特別な加護もらった。
ジェイドの方を見ると、ちょっと拗ねてるみたいで可愛かった。
そう思っていたら、ジェイドもベッドに上がってきた。
「あの方が、特別を作ったから。巻き込まれた」
ジェイドは壁を背もたれにして、俺を抱えて肩のところに顎を乗せた。
「嫉妬に羨望……憎悪、ひどかった。あんなに傷つけられて」
「それでも、お仕えする事は楽しかったよ」
人は、簡単に悪意に染まっていく。平民の俺が、魔法に目覚めて神官としてお勤めして、加護を頂いた。最初は小さな嫌がらせだった。色んな事を思い出し始めた。
本を隠された位だった。
伝言などは、伝えられず部屋は荒らされ……嫌がらせはエスカレートして行った。
幼馴染のジェイドが何度も庇ってくれたのだ。魔法騎士のくせに……ちょこちょこ顔を出してくれて。本当に優しいよね。
そのうち、身体で男を誑かす魔性だと言われるようになり下賎の者のする事だと噂がたった。
襲われかけて、助けてくれたのもジェイドだった。それを指図した者が、罰せられ数日後命を絶ってしまったのだ。
自分より先に神官になっていた人だった。加護を貰うことを楽しみにしていたらしい。何よりも神官として誇りを持っていたと、教えてもらった。でも彼はもうこの世界から消えてしまった。
彼は魔法陣に何かを描いていたのだ。
後で分かったのは───自らを贄にした事だった。
「琥珀は何も悪い事はしてない」
「でも神に使える身で、ジェイドの手を取ってしまったもの」
襲われた時、抵抗して殴られた。魔法を使わないように口に何かを詰め込まれた。服を裂かれた時に、皮膚も切られた。恐怖に脅え、殺されるのだと覚悟をして。頭に浮かんだのは、ジェイドだった。
あの時、助けてくれたのだ。
ガタガタと震える自分を必死に宥めてくれた。高熱が出ても、誰も信じられず泣いて泣いて、傍にいてと泣き叫んだんだ。
そこから、ジェイドは友ではなくなり、唯一の人になった。彼だけに触れられたかった。彼だけが安心出来る場所で男同士で求め合う事が、神官として禁忌だったとしても、壊れかけた心を救ってくれた最愛の人だ。
「思い出さなくていい所まで、思い出した?」
痛々しく、見つめるそれが意味する所。
「過去だから……大丈夫」
俺が嫌な事まで思い出さないように、あの方が制限したのかな。
「俺は、ずっと愛されてきたんだね」
あの方にも、ジェイドにも。
憎悪の矛先は、俺。
その悪意を消すには、俺が一緒に消えるしか選択肢がなかったんだ。でも魂を残してくれたから、同じように……あの人も消え切れずに存在するのかも知れない。
俺がここに戻ってきたのは、あの人の悪意を終わらせる為?全てを終わらせる為に、また俺達二人を出会わせたのかな?
「ジェイド、終わらせよう」
「──今度は、一人で逝かせない」
それでも、ジェイドだけは生きてて欲しいと思うんだ。
「気持ちいい」
溶けて溶けて一つになった。そんな幸せな時間。
柔らかなお湯、ヒノキの香り。
そばに居る大切な人。この感覚、この気持ちに覚えがある。ずっと守られてきたんだね。
怯えて壊れそうになる心を、優しく包まれて実感してしまう。何よりも大切な人。
風呂から抱き上げられて、脱衣スペースで魔法を使って簡単に乾かして貰う。
程よい疲れのまま全てを、任せて甘えてしまう。
簡易な服を着せられて、ベッドへ運ばれいく。ずっと抱きかかえられていることに少し笑いがでた。
不思議そうなジェイドを見て、また笑うとチュッと唇が触れた。
テーブルにボトルとグラス。フルーツが用意されている。
口を開けるように促されて、ブドウのような実を口に押し込まれた。
「冷たい。甘い」
ジェイドが笑って、また実を薦めて来た。
カプッと口にすると飲み込んだ後に、キスをされた。ジュッと吸われてしまいそうなキスだ。
「──本当に甘い」
妙に明るくしてくれてる気がする。俺の忘れてる記憶。心配してくれてるんだ。
「琥珀?」
「ジェイド……俺は、ジェイドを置いて死んだの?」
ジェイドの顔が、一瞬歪んだ。
「そっか。寂しい思いをさせた?」
何も言わなくても、そうなんだと思う。
出会った時は……口喧嘩ばかりしてたような?
「──思い出した?」
「なんとなく……ね」
あの方から特別な加護もらった。
ジェイドの方を見ると、ちょっと拗ねてるみたいで可愛かった。
そう思っていたら、ジェイドもベッドに上がってきた。
「あの方が、特別を作ったから。巻き込まれた」
ジェイドは壁を背もたれにして、俺を抱えて肩のところに顎を乗せた。
「嫉妬に羨望……憎悪、ひどかった。あんなに傷つけられて」
「それでも、お仕えする事は楽しかったよ」
人は、簡単に悪意に染まっていく。平民の俺が、魔法に目覚めて神官としてお勤めして、加護を頂いた。最初は小さな嫌がらせだった。色んな事を思い出し始めた。
本を隠された位だった。
伝言などは、伝えられず部屋は荒らされ……嫌がらせはエスカレートして行った。
幼馴染のジェイドが何度も庇ってくれたのだ。魔法騎士のくせに……ちょこちょこ顔を出してくれて。本当に優しいよね。
そのうち、身体で男を誑かす魔性だと言われるようになり下賎の者のする事だと噂がたった。
襲われかけて、助けてくれたのもジェイドだった。それを指図した者が、罰せられ数日後命を絶ってしまったのだ。
自分より先に神官になっていた人だった。加護を貰うことを楽しみにしていたらしい。何よりも神官として誇りを持っていたと、教えてもらった。でも彼はもうこの世界から消えてしまった。
彼は魔法陣に何かを描いていたのだ。
後で分かったのは───自らを贄にした事だった。
「琥珀は何も悪い事はしてない」
「でも神に使える身で、ジェイドの手を取ってしまったもの」
襲われた時、抵抗して殴られた。魔法を使わないように口に何かを詰め込まれた。服を裂かれた時に、皮膚も切られた。恐怖に脅え、殺されるのだと覚悟をして。頭に浮かんだのは、ジェイドだった。
あの時、助けてくれたのだ。
ガタガタと震える自分を必死に宥めてくれた。高熱が出ても、誰も信じられず泣いて泣いて、傍にいてと泣き叫んだんだ。
そこから、ジェイドは友ではなくなり、唯一の人になった。彼だけに触れられたかった。彼だけが安心出来る場所で男同士で求め合う事が、神官として禁忌だったとしても、壊れかけた心を救ってくれた最愛の人だ。
「思い出さなくていい所まで、思い出した?」
痛々しく、見つめるそれが意味する所。
「過去だから……大丈夫」
俺が嫌な事まで思い出さないように、あの方が制限したのかな。
「俺は、ずっと愛されてきたんだね」
あの方にも、ジェイドにも。
憎悪の矛先は、俺。
その悪意を消すには、俺が一緒に消えるしか選択肢がなかったんだ。でも魂を残してくれたから、同じように……あの人も消え切れずに存在するのかも知れない。
俺がここに戻ってきたのは、あの人の悪意を終わらせる為?全てを終わらせる為に、また俺達二人を出会わせたのかな?
「ジェイド、終わらせよう」
「──今度は、一人で逝かせない」
それでも、ジェイドだけは生きてて欲しいと思うんだ。
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