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66.眠れぬ日々
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あの光景を目の当たりにした時、これがチートなのだと確信した。物語の聖女として彼女はちゃんと目覚めたのだ。
ただ、聖女の力よりも……あの魔力に恐怖したのだ。いざと言う時に動けないなんて、神使でも何でもなかったのかも知れない。
何故かあの魔力に覚えがある。それだけは分かった。忘れている記憶の一つなのか、分からない。
王宮にある自分の部屋のベッドで、ただ横になっている。怖くて、夜眠れなくなった。
泣きながら、起きた事もあった。うなされて起こされる事もあった。
ジェイドに抱き締められても、ただ怖くて仕方がないのだ。震えが止まらない。
「琥珀。ここを出よう。侯爵家の別邸を用意した。魔法石や魔道具で結界も王宮以上にしている。だから護衛の人数も今より少なくても大丈夫だ。気兼ねなく過ごせる。聖女様が目覚めたのなら、神使の役目も休んで大丈夫だ」
少しクマの出来た目の下を指でなぞられる。
「ジェイド……そこなら、怖くないかな? 俺なんでこんなに弱ってんだろう?」
抱き締められると、また涙が溢れた。
「ここより、きっと安心だ」
「そうだね。もう、お役御免でいいかな」
ほら、俺は偽物。この世界のイレギュラーだったから、弾かれただけかも知れない。元の世界に戻っても良いのかも知れない。
でも、ジェイドとは離れたくない。どうしてこんなに、ぐちゃくちゃなんだろう?
「──兄さん。もう大丈夫だ」
「ごめん。何でだろう? 怖いんだ」
「禍々しい魔力のせいだ。俺でも怖かったから。琥珀が襲われなくて良かった」
「俺、ここから出たい」
苦しくて、辛くて、気が変になりそうだ。
「今、話合いをしている。ちゃんと琥珀の意思を伝えた。本当は今すぐにでも連れ出したいと思ってる。でも、もう少しだけ我慢して欲しい」
ジェイドの体温が気持ち良くて、すり寄ると優しく背中を撫でられる。
「いいよ。少しでも休んで。うなされたら起こすから」
「ごめん。こんなんで、本当にごめん……」
ジェイドの心臓の音が、聞こえてくる。安心出来る。生きてる。大丈夫、失ったりしない。俺も死んでなんかいない。離されたりしない。
「ジェイド……キスして」
体をずらして、ジェイドの口元に近づいた。
横になったまま、目をつぶる。優しく触れるだけのキスがもどかしかった。
「もっと、深く……欲しい」
グッと深くなったキスが、生きてる事を実感する。
執拗に絡められて、呼吸が苦しくなるほどのキスで、痺れるような感覚に落ちていく。
「ん……」
「少し眠った方がいい。そばに居るから」
「───うん」
力が抜けて、抱きしめてもらってようやく眠りについた。
ただ、聖女の力よりも……あの魔力に恐怖したのだ。いざと言う時に動けないなんて、神使でも何でもなかったのかも知れない。
何故かあの魔力に覚えがある。それだけは分かった。忘れている記憶の一つなのか、分からない。
王宮にある自分の部屋のベッドで、ただ横になっている。怖くて、夜眠れなくなった。
泣きながら、起きた事もあった。うなされて起こされる事もあった。
ジェイドに抱き締められても、ただ怖くて仕方がないのだ。震えが止まらない。
「琥珀。ここを出よう。侯爵家の別邸を用意した。魔法石や魔道具で結界も王宮以上にしている。だから護衛の人数も今より少なくても大丈夫だ。気兼ねなく過ごせる。聖女様が目覚めたのなら、神使の役目も休んで大丈夫だ」
少しクマの出来た目の下を指でなぞられる。
「ジェイド……そこなら、怖くないかな? 俺なんでこんなに弱ってんだろう?」
抱き締められると、また涙が溢れた。
「ここより、きっと安心だ」
「そうだね。もう、お役御免でいいかな」
ほら、俺は偽物。この世界のイレギュラーだったから、弾かれただけかも知れない。元の世界に戻っても良いのかも知れない。
でも、ジェイドとは離れたくない。どうしてこんなに、ぐちゃくちゃなんだろう?
「──兄さん。もう大丈夫だ」
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「禍々しい魔力のせいだ。俺でも怖かったから。琥珀が襲われなくて良かった」
「俺、ここから出たい」
苦しくて、辛くて、気が変になりそうだ。
「今、話合いをしている。ちゃんと琥珀の意思を伝えた。本当は今すぐにでも連れ出したいと思ってる。でも、もう少しだけ我慢して欲しい」
ジェイドの体温が気持ち良くて、すり寄ると優しく背中を撫でられる。
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「ん……」
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「───うん」
力が抜けて、抱きしめてもらってようやく眠りについた。
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