上 下
51 / 81

50.浄化同行 ③

しおりを挟む
 食獣植物カーニヴォラスは、土の中を移動する。先に蔦だけ伸ばし食料を拘束し、動けなくしてから丸呑みする形が多い。本体の頭の位置が、がま口の様に大きく開く。縁にはギザギザの歯状になっていて、飲み込み難いものは噛み砕かれる。

 馬が一頭丸ごと飲み込まれ、骨が砕けて行く音が聞こえてきた。

 吐き気がする。
 こんなの、うじゃうじゃ出てきたら対応仕切れない。

 土が盛り上がる所に、魔法師達が攻撃しても反応がない。無駄に魔力が失われて行くだけだ。

 囮になるのは……無謀だよね。飲み込まれた時に中から破壊出来る?
もしも、胃酸の様な液体で溶かされたら魔法なんて使う暇はない。

「ジェイド……あれの弱点はある?」
「土から引きずり出して、核を貫けばいい。でも、引きずり出すのがやっかいだ。それにサイズが大きすぎる」

 引きずり出す……なら、まずは広範囲で足止めをして土を凍らす?とか。

 聖女を見る。
 本当にチートはあるのか? 無かったら……どうなるんだろう。

「ジェイド……」
「囮はだめだ」

「まあ無理だよね。なら範囲が広いけど……地面を凍結させたい。次に土が盛り上がったら、氷の柱を四本アイツを囲むように突き立てられる?それを使って一気に凍結させるから」

「そうか……土の上に出て来ても簡単に潜れなくする。その時に皆で核を狙えばいい」

「うん」

「カーク、殿下、魔法師長……聞こえましたか!」

 皆が頷いて、ジェイドの合図で氷の柱が食獣植物カーニヴォラス囲むように四本突き刺さった。

 俺は、ジェイドの前に移動し背後から支えてもらう。
 両手を突き出して、魔力の塊をその氷柱を繋ぐようすると、一気に地面が凍結していく。

 気温が、ぐんぐん下がっていく。

「琥珀……」
 気温は下がっても背中から抱きしめられているので、そこまで寒くない。

「大丈夫、もうすぐ……出てくる。誰か!!食獣植物カーニヴォラスが出てきたら、核を狙って!」

 バキバキと、氷から押し出されるように、緑色の塊が姿を見せる。

 皆が一斉に攻撃をした。カークの氷剣とジェイドの雷光が核を同時に貫いた。

 一瞬静まり返ったものの、倒した事で歓声があがる。

 ジェイドに支えて貰っていなかったら、馬から落ちてたと思う。脱力している体をジェイドに包み込まれるように抱きしめられる。

「聖女様、食獣植物カーニヴォラスは、討伐出来ました。もう少し先で、皆を休ませましょう。野営も準備しないと、明日は目的の場所で浄化をお願いします」

 エドワード殿下が、声をかけると聖女がこちらにやって来た。

「ジェイド、相談したい事があるの。やっぱり、貴方に守って欲しいわ。その方が安心して浄化出来るでしょ?」

「聖女様、俺は琥珀様の専属です」
 抱きしめられている体が、さらに強く引き寄せられた。

「エドワード殿下。聖女は国賓で、その言葉は陛下よりも上ですよね?」

「それは、そうですが……神使様は貴方と同等で国賓です。それに神使様とジェイドは、既にペアを組まれています。私はそれを優先します」

 聖女様も引き下がらないが、その言葉を聞いたエドワード殿下も反論してくれた。

「神使……様。一度浄化に成功されていますよね? 初めての浄化に緊張する私の為に、明日はジェイド様を貸して下さい。それも駄目ですか?」

 魔法師長とミカエル様の視線を感じる。今、こんな状況で、チートが出なかった時……生命の危険がある。

 そっとジェイドの腕に手を重ねる。

「ジェイド……明日の浄化の時だけ、聖女様の護衛についてあげて」

 それが、精一杯の譲歩だった。



しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...