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32.王都の古書店①

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 朝の騒動から、少し気まずい。ジェイドの準備は済んでいるようで、シャツにはシワひとつない。

 風魔法で髪を乾かしてくれて、少し伸びてきた髪を一つに纏めてくれた。事務的な会話しかしていない。まだ怒ってるみたいだ。

 食事も黙ったままだった。マナー的には、正解なのかも知れないけど。

 参った……。今日は、王都の古書店に連れて行ってもらう予定だ。正直、王宮の外なんて許可は下りないと思っていた。楽しみにしていた分、自分のやらかしに焦っている。

 聖女様の攻略対象者。男女間の恋愛小説だから、自分のいた所と変わらないと思っていた。

 ジェイドの『犯されてしまう』と言う言葉。王宮内に騎士団もあるから男の人が多いと思っていたけど……つまり、そう言う目で見られやすいのかな?  同性の恋愛も多いのだとしたら。 だから、エドワード王子も心配しているのかも知れない。

 エドワード王子に、『聖女様』そう最初に間違えられた。 いわゆる、BLでの受けのように見えるのかも知れない。 

 椅子に座り、ブーツの編み上げを手伝ってもらっていた。その手を見ながら思わず声がでた。

「気をつけよう……」
「何を気をつけるのですか?」

 まだ、怒ってる感じがする。

「こっちの常識が足りないってことだから、情報収集をしようかと」

「『裸で、お風呂に一緒に入ろう?』は、断じて有り得ません!!  恋人同士でもそこまでの仲になるのは、ずっと先です。まして神官様のような神に仕える方は、特に人前で肌を露出はしません。王族や身分が高い方もですが……」

「露出……」
 (言い方! 露出狂みたいに思われてる)

「騎士も訓練後着替えますが、着替える場所があります。王宮で務める者も、敷地内で肌は見せたりしませんよ」

「大浴場みたいな場所はない?」
 しまった。怖い。ジェイドの顔が怖いすぎる。

「ごめん。俺がいた所は、温泉って言って薬効?の高いお湯が湧くんだ。体調の悪い人を癒すお湯。傷とか皮膚病とかに効くんだよ。身分とかほぼないから、一般市民は一緒に湯船に浸かれるんだ」

 (温泉、好きだったのに)

「──温泉? 薬草湯が湧く所の事ですか?」

「そう。それ!」

「傷を癒す為に、騎士が入ることはありますが、服は着てますよ」

「そうなんだ……」
 確かに広い所とかは、薄いガウン見たいなの着てうろうろしてたかも。

「ジェイド、気をつけるね。まだ魔法初心者だから身を守れない。犯される……ってマジで怖い」

「──申し訳ありませんでした。怖がらせる気はなくて、危機感を分かって欲しくて。神使様の胸を……俺は、護衛失格ですね」

「待って。辞めるとか無し!! ジェイドが良い。俺が悪かったから。別にジェイドに触られても平気。一緒に寝るのも、誰よりも安心出来るから」

 そのセリフを言った途端、お互い真っ赤になった。

「い、言い方が、可笑しいね。やっとここに来て、安心出来る人に会ったんだ」

「本当に、貴方は……」
 ジェイドの困ったような、照れた顔が結と被った。

「今日、楽しみにしてたんだ。ジェイドとなら、護衛を減らして行けるって聞いてる」

「離れた所に護衛は付きますね。貴族にあまり見えないようにしますが、琥珀様を平民に見せるのは無理ですね」

「そうかな? こんな顔……ジェイド達に比べたら平凡そのものだけど」

 ため息をつかれた。

「無自覚過ぎ。 本当に離れないで下さい」

(いつも、見てた平凡顔だよ)

「でも古書店……楽しみだね」

 少しだけくすんだ色のシャツ。焦げ茶のベストとパンツにブーツ。斜め掛けのバックの中身は、護身用の魔道具だ。ジェイドは、黒系統の服を着てるので騎士と言うより、執事のようだ。

 ジェイド……全然平民に見えない。そっちの方が問題だと思う。
 王宮の裏口のような所に馬車が用意されていた。見た目は古い感じだけど、乗り心地はいい。異国の観光気分になるのは、本当に許して欲しい。馬車から見える景色を、ジェイドに説明してもらった。そして、その古書店は急に視界に入って来たのだ。
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