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24.ジェイドの想い

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 ベッドの上に顔色を悪くした神使様がいた。思わず傍によると、涙が流れ落ちる。触れたい。抱きしめたい。そんな衝動に襲われる。

 異世界から召喚した方だ。エドワード殿下が、お前がこの世界に呼んだんだと言った。
 初めて会う方のはずなのに、どうしてこんなに胸が苦しいのか? 何処かで会っていたのか? これも記憶の欠如のせいなのかも知れない。この人を忘れているのか?

 記憶の欠如の件は、侯爵家の者としても、王家に使える身としても緘口令かんこうれいを敷かれている。一部の護衛に来ていた騎士達には、誓約魔法で口外出来ないようにされた。

 聖女はそれを治すと言い張るが、そばに来て欲しくないのだ。治す力もなかったが。

 女が気持ち悪いとは、言えない。今までも得意では無かったが、何か嫌な気持ちにしかならないのだ。色んな変化が自分の中にありすぎて、理解が追いつかない。

 神使様が不安気な表情をしながら、こちらに手を差し出した。この手を離してはいけない。それだけだった。思わず抱きしめると、シャツを握る手が自分を求めてくれたとしたんだ。

「──神使様」
 その時、しっかり掴んでいた神使様の手が緩んでいくのが分かってしまった。

「ユイ」

 誰かの名前を呼んだのは、神使様だ。愛おしそうに。切なくなるような声でだ。思わず抱きしめていた事に、我に返り距離を置く為に自分の手も離した。

 ユイとは、誰なのだろう? その方を探している様だ。何故こんなに苦しいのか? 
「神使様」そう呼んだ後は、気を許してくれたと思えた神使様が、拒み始めた。

 召喚ではなく、自身から望んでここに来たのだ。だから自立したいと訴えてくる。

 ──そんな事は無理だ。神使様は気が付いていない。どれだけ目を惹く容姿なのか分かっていないのだ。こんなに美しい人が、この世界に馴染んでもない状態なら誘拐、人身売買、奴隷だって有り得る。他国に連れて行かれでもしたら……。

 かなりの魔力持ちである事は報告を受けている。
 水晶に触れ、その力を見せつけたと聞いた。聖女の僅かな能力では、守る騎士達の負担が大きいとの報告もあるくらいだ。きっと、神使様がこの世界に来るべき人だったのだとカークもミカエルも思っている。
 聖女をこの世界の象徴にしたい神官長だけが、チートと言う特殊能力を待ちわびているのだ。聖女が王子の子を産むと言うシナリオを描いているのだろう。

 もし、チートがあるのなら、更に神使様の力は凄いのではないのか?

 男としては華奢な姿。肩より少し長いサラサラの黒髪。少しだけ青みを帯びた黒目の大きな美しい人だ。
 話しながら見てしまう。その唇に触れたら駄目だろうか? そして細い首元に跡を付けて自分のものにしたい。

 そんな浅ましい考え方を、悟られ無いようにしなければいけない。

 だんだん落ち着いてきた神使様が、俺の護衛を受け入れてくれた。命令でと言った言葉に落ち込んだのを見て、自分の言葉選びが失敗した事に気が付いた。

 誰にもこの役目を譲りたくない。

 突然、頬に触れられた指。その手が今度は俺の手に重なった。聖女は弱々しさを。女のあざとさがある。
『自立する。男だから平気だ』と強がる琥珀様の方が、守ってあげたくなるのだ。
 敬語も不要。名前で呼んで欲しい。しかもお願いされてしまえば、嬉しくなってしまう。本当に単純だ。


年齢の話になった。
二人だけの時は、敬語をやめて欲しいとも。中々難しいお願いだ。

「琥珀様。年上って本当に?十五歳くらいかと……」

「小さいささと、年齢は関係ないから!これでも二十歳だよ。お酒も飲める」

あまりの必死さに、思わず笑ってしまう。なんて、居心地がいいのだろう。

「本当に年上だった。俺は十八です」

 寂しそうだった顔が、ふわりと笑顔になった。

 俺は、この人を誰にも渡したくないのだ。椅子から立ち上がり、琥珀様の目の前で膝を着いてその手をとる。手の甲にキスを落とし忠誠を誓った。

「命令されましたが、本心を言います。俺の最優先は、琥珀様です。貴方の護衛魔法騎士の座を誰にも渡したくありません」

 琥珀様に抱きつかれた。
この人を、守る。そうもう一度誓った。

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