上 下
30 / 81

29.琥珀とジェイド①

しおりを挟む
 この世界の知識も欲しくて、王宮図書館の特別閲覧のカードをエドワード殿下から受け取った。
 
「ありがたいな。本当に特別対応だ」

 毎日触っていたスマホを、見る事のない生活。大学では翻訳機能がついていて助かっていたが、ここでは役立たずだ。
 
  スマホもこの世界に持って来たけれど、そのままバックに入れっぱなしだ。もう充電も切れたはずだ。
 結の写真は、この世界に来る前に全て消えた。あの写真を見せることが、ジェイドに出来たら。何か思い出してくれるのかもと、時々思う。

 今更だな。何か二人での思い出を、忘れられないものはなかったかな?
 俺自身の記憶も、おかしくなってる?記憶をたどって、書き留めておこう。

   それにしても、チートは本当にあった。翻訳機能が既に脳内にあるようなものなのだ。
 どの本も開いただけで読める。同じ文字だと思っていたのに、数カ国語を読み書き出来ている事になっていた。

「琥珀様は、すごすぎる」

 これが聖女の言ってたチートですよって言いたいが、どうも聖女はこの国の言葉しか分からないようだ。

「この世界、ヒロインに厳しくないか?」
 最近は、サポートしてやろうか? なんて気持ちになっている。彼女は、聖女としてこの世界を守るのだろうから。俺のやりたい事は、ただ結を取り戻す事だけだ。ジェイドと結が同じだと、確信したい。

「あの子が高校生……だからかな?  家庭教師感覚がこう……うずく?」

「どこか疼くのですか? やはり水晶の破片の影響があるのでは」

 手が伸びてきて、あの時の傷がついた場所を優しく触れられて。思わずその手を止めた。

「違う。独り言だから。水晶の影響なんてないから」
 心配症過ぎるのも問題だな。

 二人の時の敬語無しも、段々馴染んで来ているけど、呼び捨ては難しそうだ。ソファの横に座って、ジェイドも読書をしていた。
 本好きだからって言っていた、ミカエル様の言葉通りで今はのんびりと本を読んでいた。

 禁書までは、深入りしたくないので読んではいない。いつか読む必要があった時は、神使の特権を使う気ではいる。

 ソファの前のテーブルに本が積載していた。それでも、読む事に苦痛はない。
 元々本は速読が出来たから。そう言う特技的なものが、ここでは大きな力に反映されるのかも知れない。

 元の世界に戻ったら、この力を惜しいって思うんだろうな。

「それにしても、魔法の訓練も順調ですね。王宮図書館の本もかなり読まれていて知識も申し分ないし。司書官の羨望の的というか、熱い視線に少しハラハラする……」

 熱い視線? そんなのあったっけ?

「そんなに見られてた? 気にならなかったけど。ところで聖女様は、上手くいってる?」
 ジェイドの顔が、ピシリと固まった。

「琥珀様の顔を傷つけ女の事など、忘れて下さい」

「いやいや、この世界を守る子じゃん。ジェイド、二人の時は様呼びは止めてよ」
 体が大きくても、中身が可愛いと思う時点で、俺も重症だ。

「琥珀様! 次に何かあった時は、俺の事は気にしないで。最優先されるのは、琥珀様の存在なんだ」

 聖属性が、はっきりしたのだから、王国にとって必要には違いない。

「あまり大きなポジション……地位?には、いたくないんだよね。いつか帰りたくなると思うから」

「帰られるのですか!」
 その勢いに、思わずジェイドから身を引いた時、バランスを崩した。

「うわっ」
「琥珀……様」
 壁ドンではなくて、ソファドン。
 ジェイドの両手の間にいる。顔も近い。顔がいいとは思っていたけど、思わず赤面してしまう。

 ジェイドも、驚いたのか固まってしまった。

「──ジェイド?」
 慌てて体勢を戻して、起こされた。

「す、すみません。つい慌ててしまいました。王都の古書店も行きたいって言ってましたよね? その、どんな本を探しているのですか?」

 慌ててるのが、妙に可愛くて。頭をポンと触ってしまう。
 撫でたい。大型犬みたいだ。

「珍しいのないかな?って思っているんだ。歴代聖女の話とかもあるかも知れない。それにって所に行きたい。楽しそう」

 俺の顔くらい大した事ないのに。少し顔の赤い、ジェイドを見て思わず笑ってしまった。



しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...