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3.本
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「ここに来たんですね!」
倒した椅子を、慌てて戻した。
「ごめんなさい。それで、結はその後ここから帰ったのは何時ですか?」
その答えは、信じられないものだった。
「──琥珀君も、信じてくれるか分からないけど」
立ち上がり、俺を手招きして書棚の前についてくるように促される。たくさんの本が、隙間なく並べられていた。古そうなのに埃の一つ落ちていない本に、来瀬さんは愛おしそうに指で触れた。
「ここにある本の、どれか分からないんだけどね。一冊を選んで読んでいたのは、多分……結くん。でもね、しばらくしたらいなくなったんだ。いなくなったと言うより、消えた感じかな? 本棚の隙間が無いから、本は戻されたんだと思うんだ」
「消えた? じゃ、なんで警察っ」
思わずハッとした。店内を見渡しても、防犯カメラは一つも設置されていない。所狭しと本で埋め尽くされている店内だ。ここで、人がいなくなったって、警察に言ったところで信じて貰えるはずもない。気が付かないうちに外に出たのでしょうと、言われるだけだ。それか、記憶違いで終わりだ。
まして、結の行方不明届けも出ていないことに、拳をギュッと握りしめた。
それに本が盗まれた訳でもないなら、警察に言う理由もない。そんな風に思っていると、来瀬さん達も同じ考えだった。
「──消えたって言ったって、信じて貰えないよね?」
来瀬さんが、そう言って困ったように笑う。
「だけどね。琥珀くん……」
その話に入って来たのは、オーナーだ。
「ここの本達は、願いや答えを欲する人達を呼ぶんだよ」
意味深な言葉、不思議な古書店。こんなに素敵なのに、存在は曖昧。胸がざわついて、オーナーの言葉を待ってしまう。
「君に必要な一冊が、ある気がするんだ。結くんに繋がる手掛かりがあるかも知れないよね?」
すんなりと、その言葉が胸に染み込んでいった。
「──結くんを思って、選んでごらん」
この辺りの本を結は見ていた。一度目を瞑り、深呼吸をして目を開けた。一冊だけ気にかかった。濃紺の背表紙に思わず手が伸びる。
──結。逢いたいよ。
その本を開いた。登場人物紹介のページだった。
聖女……召喚。
異世界召喚の話?セーラー服の女の子。
攻略対象の王子、神官、魔法師……皆美形だ。
そして、一際目を引く魔法騎士……を見てガタガタと震えてしまう。涙が本に落ちて、慌ててしまう。
「ご、ごめんなさい。涙が、汚してしまいました。でも、これ! この人……結です。間違いありません」
オーナーが、優しく微笑んでいる。
「手掛かりがあるかもしれないね。大丈夫涙は消えるから落ち着いて、読んでみてごらん」
椅子のある方に手招きされる。
導かれるように椅子に座わった。俺は、震える指で続きのページを捲ったのだ。
倒した椅子を、慌てて戻した。
「ごめんなさい。それで、結はその後ここから帰ったのは何時ですか?」
その答えは、信じられないものだった。
「──琥珀君も、信じてくれるか分からないけど」
立ち上がり、俺を手招きして書棚の前についてくるように促される。たくさんの本が、隙間なく並べられていた。古そうなのに埃の一つ落ちていない本に、来瀬さんは愛おしそうに指で触れた。
「ここにある本の、どれか分からないんだけどね。一冊を選んで読んでいたのは、多分……結くん。でもね、しばらくしたらいなくなったんだ。いなくなったと言うより、消えた感じかな? 本棚の隙間が無いから、本は戻されたんだと思うんだ」
「消えた? じゃ、なんで警察っ」
思わずハッとした。店内を見渡しても、防犯カメラは一つも設置されていない。所狭しと本で埋め尽くされている店内だ。ここで、人がいなくなったって、警察に言ったところで信じて貰えるはずもない。気が付かないうちに外に出たのでしょうと、言われるだけだ。それか、記憶違いで終わりだ。
まして、結の行方不明届けも出ていないことに、拳をギュッと握りしめた。
それに本が盗まれた訳でもないなら、警察に言う理由もない。そんな風に思っていると、来瀬さん達も同じ考えだった。
「──消えたって言ったって、信じて貰えないよね?」
来瀬さんが、そう言って困ったように笑う。
「だけどね。琥珀くん……」
その話に入って来たのは、オーナーだ。
「ここの本達は、願いや答えを欲する人達を呼ぶんだよ」
意味深な言葉、不思議な古書店。こんなに素敵なのに、存在は曖昧。胸がざわついて、オーナーの言葉を待ってしまう。
「君に必要な一冊が、ある気がするんだ。結くんに繋がる手掛かりがあるかも知れないよね?」
すんなりと、その言葉が胸に染み込んでいった。
「──結くんを思って、選んでごらん」
この辺りの本を結は見ていた。一度目を瞑り、深呼吸をして目を開けた。一冊だけ気にかかった。濃紺の背表紙に思わず手が伸びる。
──結。逢いたいよ。
その本を開いた。登場人物紹介のページだった。
聖女……召喚。
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そして、一際目を引く魔法騎士……を見てガタガタと震えてしまう。涙が本に落ちて、慌ててしまう。
「ご、ごめんなさい。涙が、汚してしまいました。でも、これ! この人……結です。間違いありません」
オーナーが、優しく微笑んでいる。
「手掛かりがあるかもしれないね。大丈夫涙は消えるから落ち着いて、読んでみてごらん」
椅子のある方に手招きされる。
導かれるように椅子に座わった。俺は、震える指で続きのページを捲ったのだ。
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