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第1章

16.弟子。

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「宰相閣下。お忙しい中、時間を──」

サッと、手で発言を止められる。

「レイリア。あの護衛のことは気にしなくていいから。」

宰相閣下は、護衛騎士の方に手を振り、ウィンクをしてみせた。
なんか、全て格好良くて見惚れてしまう。



途端に、護衛騎士の方もニヤリと笑う。

「俺の学園時代からの友人なんだよ。口も固い。だから、レオンもレイリアも口調を崩していーから。宰相になってから、もう、媚びる奴とか、腹黒の奴に囲まれてしんどいんだよ。

頼む。口調を崩してくれ。家族枠って事でさ。まぁ、それ以上の枠に入れてもらっても歓迎だけどね。

それでも、心配なら、このソファの辺りを防音するけど?」

「いえ。あの。」

「俺の魔法の師匠は、ヴァーミリオン侯爵家のサフィア様だよ?そのサフィア様のご子息だ。家族みたいに大切に扱うのは当然。
そして、レイリアは…俺に魔法を習いたい。そうだろう?本来なら、サフィア様が教えたかっただろうしね。」

なんて言うか、嬉しい。幼な過ぎてちゃんと教えてもらった記憶は無いし。多分、遊びで習った程度なんだと思う。

「私…俺は、ハリス様に転移の魔法と回復の魔法を教わりたいんです。」

「レイリア…」
兄様が、俺の名前を呟いた。

「サフィア様は──《転移》と《回復》が得意だったからね。その才能は、レイリアにあると思う。師匠から弟子へ伝える…いい機会かな。
ジェイス様というかヴァーミリオン侯爵家は攻撃・防御とか実戦的なもの得意だったね。それは、レオンが継いでるな。」

一口紅茶を飲んで、護衛騎士の方に目をやり、「ごめん。ちょっとだけ防音な。」
騎士は頷く。

手のひらに四角い氷のようなものが現れてあっという間に大きくなってその中に閣下と兄様と俺を飲み込んでしまう。
苦しい訳でもない。水槽の中のような空間。透明なので景色は変わらない。

「レオンは、転移は出来たよね?」

いつもと違い、閣下の前だと兄様も幼く感じてしまう。
年齢差もあるからか、先生と生徒みたいに見える。

「──不安定です。軸がブレるのか、ポイントがズレたりします。魔力もごっそり抜けますので…1日に最大で2度。それも距離が遠くなれば、1度が限界です。
2、3日空けないと、次は使えません。」

「十分だよ。まだ17だろう?
ジェイス様も必要以上に使わないはずだ。回復薬で補ったり、相性の良い相手からの魔力補充に頼ったり必要になるからね。頻繁に使うのはきついだろう。

サフィア様が別格だったんだ。俺も今の年齢になって毎日は使えるようになったが、回復薬をいざと言う時のために持っている。決まったが入れば、魔力補充も楽だからね…そんな相手が欲しいんだけどね。」

クツクツと笑う。独り身の閣下には、好きな方とか居ないのかな?
恋人じゃなくても、相性が良ければ、補充も出来るはずだけど…

魔力譲渡の相手。
想像して、赤面する。
粘膜摂取は、回復薬がない時の緊急対応だ。キスとか、アレとかだよね?
でも、恋人や伴侶だったら、回復薬よりも、粘膜摂取の方が効率が良いとも聞くけど。興奮した後の処理…鎮める為に…

だ、だめ。恥ずかしい。


「顔が赤いけど?大丈夫かい?」
分かってて、俺に聞く──?

「だ、大丈夫です!」

揶揄い過ぎです。笑ってるし。
美形は、何しても格好いいから羨ましいですけど、ね!

「ごめん。──でも、レイリアはサフィア様の血が濃いんだろうな。魔力量が多い。成長すれば、転移は楽勝に使えそうだな。だが、転移と回復魔法を同時に扱うには、まだ身体が未成熟だから、一緒にするのは厳しいね。
まずは回復薬の作り方をしっかり頭に入れて、回復薬自体は念の為常時持ち歩いて欲しい。
1人の時では魔力譲渡も不可だしな。回復薬に頼り過ぎるのも問題だが、魔法はさらに自然治癒力が削られる。いざと言うときの為に使うように。それで、いいかい?」

抗生物質みたい。多用すれば、利かなくなるんだろうな。
基本は、自然治癒。


「はい。」

「回復薬、転移、回復魔法の順で。他は、そうだな、教えてもらったもので役に立ちそうなものを教えて行こうか。俺に弟子が出来るのか…こんな可愛い弟子なら最高だな。昼間は、忙しいからな…夕方か夜になるが大丈夫かい?」

「お願いします!」
思いっきり頭を下げた。

「閣下!」それと同時に兄様が、声をかけて、

「どうしたの?レオン。」

「理由を聞かないのですか?
それに、閣下は多忙です。レイリアを弟子にするなんて。」

閣下がにっこり、笑う。

「ジェイス様に、習わないんだ。何か理由がある。まぁ、転移を使いたいのなら、俺ってのも分かる。レイリアだって多忙の中、教わりたいんだ。それには覚悟があるんだろう?無謀は困るが、悩みや隠し事くらいある年頃だしなぁ。それに、師匠になってやりたいんだよね。だから、構わない。」

兄様は、それ以上何も言わなかった。

そして、宰相閣下──ハリス様に弟子入りが決まった。
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