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【五ノ章】納涼祭

幕間 潜む敵意

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 ──ニルヴァーナ駅舎構内にて。
 一層強まった人のざわめきの中で男達が空を見上げていた。天窓の向こうでは赤黒い塊が浮かんでいる。

「始まったか……あれだけ強力な魔物モンスターをけしかけられるとは、魔剣の異能というのは凄まじいな」
「で、でも、いきなりこんな事して、警戒されないかな……」
「問題なかろう。元より今日は結界装置の整備で自警団とやらがうろついているが、騒ぎに乗じてまぎれてしまえばいい」

 平和な街中に、魔物が出現する異常事態を前に。
 細身の体を抱いて不安そうに俯いた一人の男へ、屈強な体格の男が腕を組んで答える。

「そっか……だけど、適合者とはいえたった一人の人間相手に、ここまでやる必要があるのかな……」
「あまりアカツキ・クロト──ネームレスを甘く見ない方がいい。実力こそファーストやセカンドほどとはいかないが、思考と胆力は化け物レベルの男だ。よしんば先手を読んで動きを潰しても、別の手段を取ってきて痛い目を見るのはこちらだ。……そこの新人はよく知ってるだろうが」

 横目で全身から殺気を滲ませる、外套のフードを目深に被った男を見た。
 ブツブツと何やら呟いているが、その腰には奇妙に明滅を繰り返す短剣をいている。
 魔科の国グリモワールで《デミウル》が崩壊した数日後に、カラミティのトップ──ジンが連れてきた魔剣の適合者。
 何やらネームレスに因縁があるらしく、その名を口に出す度に目は血走り、呪詛のようにうわ言を漏らす姿は気味が悪い。

「臭い臭い臭い……右も左も獣と人のまがい物だらけだ。ああっ、こんな地獄に身を落とすなんて……いいや、違う。これは試練だ……あの死神を殺せ、と。課せられた義務を果たし、復讐を完遂させる為の……っ!」

 唐突にフードを払払って、男は赤黒い何かに激突した影を見た。
 叫び声にも負けない、大砲が直撃したような重低音が響く中で。墜落する何かに追撃を仕掛けようとする人間の影を見た。
 見間違えるはずがない。積み上げた全てが砂塵と化した、あの日。
 思い出すのは、ビルの屋上で叩きのめされる父をただ黙って傍観していた──力の無い自分だった、あの時。
 もう迷わない、躊躇いはない、逡巡もしない。
 魔剣で得た力に踊らされたとしても。
 黒い思考に呑まれ、激情に身を焼かれたとしても。
 確固たる意志は誰にも渡さない。

「アカツキ・クロトォ……!」

 怨嗟を込めた声に呼応するように、魔剣が強く輝いた。
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