冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル

Karasumaru

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赤備え

必殺技

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「始め!」
審判の号令とともに、京都市剣道競技会決勝戦の副将戦が始まった。両選手ともオーソドックスな中段構えだ。

先手を取ったのは京仙院大学のネイサン・ミラーだ。ルーカスの面を目指して豪快に竹内を振り下ろす。ルーカスの竹刀が弾く。ネイサン・ミラーは距離を取ると、ルーカスの攻撃を待った。ルーカスはネイサンのリクエストに応えるように攻めに転じた。

面、小手、胴、面、小手、小手・・・。ルーカスの多彩な攻撃がネイサンを襲う。会場からどよめきの声が上がった。

巨体からは想像できないスピーディーな攻撃が繰り出されていく。

すると、劣勢を跳ね返すように今度はネイサン・ミラーが攻撃にまわった。面、面、
面、小手、面・・・。ネイサンは面打ちにこだわる姿勢を見せている。

しかし、油断は禁物だ。松竹寺道場での一戦でルーカスはネイサンのしたたかさを身をもって経験している。面を意識させて、本当は胴打ちや小手で勝負を決めようとしている可能性もある。

至近距離の打ち合いに続き、鍔迫り合いが始まる。ネイサンの狼のような獰猛な目が、ルーカスをとらえる。
「やるじゃないか。腕を上げたな」

ルーカスはネイサンの問いかけには答えずに、竹刀をネイサンの竹刀に押しつけた。

単純な力比べでは勝てないと思ったのか、ネイサンは距離を取った。

「あいつと会ったことがあるのかな」
私は時代祭で初めてネイサン・ミラーを見たときから気になっていたことを口に出し
た。
「え?アメリカで会ったことがあるっていうこと?」
隣でルーカスに声援を送っていた佐々木由紀が驚いて訊いた。
「うん。僕は会っていないかもしれないけど、ルーカスを見たときのあいつの目って
いったら・・・」
私は一呼吸置き、
「恨みに満ちていた」
「恨み?ルーカス君、あの人に悪いことでもしたのかな」
佐々木由紀は首をかしげた。
「いや、ルーカスはああ見えて平和主義者だ。剣道とスポーツを除けば、人と争うようなことはしない」
「それなら、剣道の試合でルーカス君にこっぴどくやられたとか」
佐々木由紀が尋ねた。
今度は私が首をかしげた。
「剣道の試合だったら、僕も覚えていると思うんだ」
「ということはスポーツ?ルーカス君、スポーツ万能だったよね?」
私は少し嫉妬を感じたが、
「そうだよ」
と正直に答えた。
「それじゃ、昔、スポーツで対戦した相手かな」
佐々木由紀は腕を組んで考えた。私は心の底から『カワイイ』と思った。私は佐々木
由紀が必死で考えていることを良いことに、唇を擬視した。
『この唇に触れたい』
私は無意識で唇を突き出していた。

「ルーカス君、高校の時、野球部だったんでしょ?」
突然の問いに私は慌てて尖った唇を引っ込めた。
「そ、そうだよ。四番バッターで大活躍してたよ。たしか、州の高校生のホームラン記録を持ってるはずだよ」
「すごい!」
佐々木由紀は目を大きく開いて驚いた。私は嫉妬心に駆られ、竹刀を試合中のルーカスに投げてやろうかと思った。隣で聞き耳を立てていたダンディーは額に青筋を立てている。
「ということは、ルーカスにホームランを打たれたやつかな?」
私は高校生時代を思い出そうとした。

その時、会場で再びどよめきが起きた。力では敵わないと悟ったネイサン・ミラーがスピードで勝負をしかけ、ルーカスを翻弄し始めたのだ。ルーカスは辛うじて竹刀でネイサンの怒涛の攻撃をしのいでいたが、徐々に身体に当たり始めている。私は急いでルーカスにホームランを打たれた投手を思い出そうとしたが、思い出せない。それもそのはずだ。私は高校の野球部の試合など興味もないし、見に行ったことがないのだ。
「思い出した?」
佐々木由紀の期待に溢れた視線が私に突き刺さる。
『まずい。さっぱり分からない』
そのとき、会場で応援していた、ある人物が私の視界に入った。特徴のあるキノコのようなヘアースタイル。そう、キスバーガーで私とルーカスに色々と有益な情報をくれた、マッシュルーム君だ。マッシュルーム君はスマートフォンで試合を撮影していた。私は急いでマッシュルーム君のそばに駆け寄ると、
「貸してくれ」
と言って、スマホを取り上げた。
「ちょ、ちょっと困るよ」
マッシュルーム君の非難の声に耳を貸さず、私は検索サイトで出身高校の野球部のホームページを開いた。そして、過去の成績が掲載されているセクションを見つけた。

ルーカスが所属していた年の記録をたどると、州で優勝していることが分かった。そして、テキサス州のナンバーワンを決める決勝戦のハイライト動画を見つけた。私は迷わず動画を視聴した。
「何をしているんだい?」

マッシュルーム君の疑問には答えず、私は動画に見入った。ルーカスが三打席連続で
豪快にホームランを放っている。相手のピッチャーは三打席とも同じだ。九回裏に飛
び出した四本目のホームランはサヨナラホームランとなり、ホームに帰るや否やルー
カスは仲間にもみくちゃにされている。

そして、ホームランを打たれた相手のピッチャーの顔がアップで映る。

ネイサン・ミラーだった。

私はマッシュルーム君にスマホを返すと、ルーカスの視線に入る場所まで移動し、大声でルーカスに呼びかけた。
「ルーカス!」
しかし、近くにいた係員から冷たい視線を浴び、沈黙した。

私はたった今仕入れた情報をルーカスに伝える方法を必死に考えた。そして、地団駄を踏んだ。冷泉堂大学陣営は、私の奇妙な行動に困惑していた。
「何をやってるの、武田君は?」
松尾女史が先ほどまで私と話し込んでいた佐々木由紀に質問した。
「分かりません」
佐々木由紀は首を横に振った。私は構わず地団駄を踏みまくった。
「お前の大学の大将はバカか」
私の行動に気づいたネイサンが呆れてルーカスに言った。ルーカスはネイサンが一呼吸置いた瞬間に私の地団駄に注目すると、にやりと笑った。
『モールス信号とは、やるじゃないか信夢。師匠の教え通り、やはり持つべきものは友なり』

ルーカスは不敵な笑みを浮かべると、中段構えを解いた。その後、身体を横に開き、膝を少し曲げた。片方の脇を閉め、もう片方の脇を開き、竹刀を真上に向けた。まるで、野球のバッターのように。

ネイサン・ミラーの顔が青ざめる。
「や、やめろ」
ネイサン・ミラーの肩が震える。
「九回裏。ツーアウト。冷泉堂大学は京泉院に3点をリードされています。しかしランナーは満塁」

ルーカスがネイサン・ミラーにだけ聞こえる声の大きさで言う。
「やめろ!」
ネイサンが叫ぶ。
「カウントはツー・ストライク、スリー・ボール。次の一球で全てが決まります。バッターはアメリカからの留学生、ルーカス・ベイル。そして、対する京泉院大学のピッチャーもまたアメリカからの留学生のネイサン・ミラー」

ルーカスは距離を取ると竹刀の先端をネイサンの顔に向けた。

さながら、予告ホームランだ。

「やめろって言ってんだろうがーーーー!!」
挑発に耐え切れなくなったネイサンが、金切り声を上げ、一気に間合いを詰め、竹刀を振り下ろす。

ルーカスはネイサンを十分に引き付けてからフルスイングした。

ネイサン・ミラーの身体は白球のように吸収されると、快音とともに10メートルほど吹き飛んだ。

審判はルーカスの奇抜な戦法に触発されたためか、
「ホームラン!」
と宣告した。

会場が沈黙に包まれる。

異変を悟った審判は、その後、咳払いを一つすると、
「勝負あり、白!」
と言い直した。

今度は、大きな歓声が上がった。
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