上 下
20 / 66
京都医科大学VS冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル

審判。。。

しおりを挟む
「ナイスファイト!」
松尾女史が浦賀氏の肩をたたく。正直に言うと、浦賀氏の健闘は私の予想を遥かに超えていた。負けたことは残念であったが、称賛に値する戦いぶりであった。
「申し訳ない。負けてしまった」
浦賀氏がペコリと頭を下げた。すると、ルーカスが浦賀氏を剛腕で抱き寄せ、
「何を言っているんだ、ベストを尽くしたじゃないか!」
と言って、熱く、そして、強く抱擁した。疲弊が頂点に達していたためか、あるいは、感動したルーカスが力加減を忘れてしまっていたのか、浦賀氏はルーカスが抱擁を解くと、泡を吹いてその場で倒れてしまった。

「中堅、前へ!」

審判の声で、木田氏が気合いを自らに入れるかのように、両手で自分の頬を叩いた。しかし、あまりにも強く叩きすぎてしまったのか、口の中がきれてしまい、口許から血がたらりと流れた。
「木田君、いつもの調子でがんばって」
松尾女史は今度も作戦を思い浮かばなかったようで、ごくありきたりの言葉で木田氏を送り出した。

一方で京都医科大学の熊寺は、例のごとく中堅の木村に耳打ちし、作戦を授けていた。

浦賀氏をノープランで送り出した松尾女史の所業を間近で見ていた木田氏は事前に自分自身で作戦を練っていた。他のメンバーには言わなかったが、相手の木村のことを木田氏は知っていた。高校生のときに対戦経験があったのだ。

木田氏が所属していた高校の剣道部は、京都市内では強豪に数えられ、ある意味木村が所属していた高校をカモにしていた。そして、木田氏は木村の癖を把握していた。木村は連続攻撃を得意としているものの、攻撃を終えた後に面の防御ががら空きになる弱点があった。

両者は一礼後、開始線まで歩みを進めた。両者の目と目が合う。その瞬間、木村は明らかに動揺した。過去の対戦を思い出し、分が悪いことを一瞬にして悟ったようだ。

審判が大声で開始の号令をかける。

「試合はちめ!」

試合会場全体が凍りつく。間近で審判の言い間違えを耳にした木田氏のショックはとりわけ大きかった。
『ウソや、はちめって何やねん!』

審判は赤面して下を向いている。試合前から気持ちの面で劣勢に立たされていた木村だったが、木田氏の隙を逃さなかった。

木田氏は目の前に迫る木村に気づき、慌てて防御を固めようとしたものの、時すでに遅し。見事な胴打ちが決まり、審判が木村の勝利を告げた。

意気揚々と引き上げる木村とは反対に、木田氏は納得がいかず、審判に詰め寄った。
「審判、今、はちめって言いましたよね、はちめって!」
「言っていない。私はちゃんと、はち、いや、はじめと言ったぞ」
「ほら、今も間違えそうになってましたよ!再試合させて下さい!こんなんじゃ納得いきません!」
「いや、認めない」
審判が自分の言い間違えを認める気はなさそうだ。冷泉堂大学陣営から主将のルーカスが言い争いを続ける木田氏と審判の下に駆けつけ、木田氏を審判から引き離した。

「確かに、あの審判は「はちめ」と言ったが、しょうがない。気持ちを切り替えて、俺と信夢を応援してくれ。俺たちが絶対にリベンジの機会を用意するから」

ルーカスに諭された木田氏はしぶしぶ冷泉堂大学陣営に戻ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

初金星

淡女
青春
喘息持ちの女子高生、佐々木茜は何にも打ち込むことができなかった。心が震える瞬間をずっと待っていた。そんな時、剣道少女、宗則菊一と出会う。彼女の素振りはその場の空気を、私の退屈を真っ二つに断ち切ったようだった。辛くても息を切らしながら勝ちたい、誰かの為じゃない、自分のために。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...