霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第3章 狂いし頂点

第20話 怒りの雷槌

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「ボクの大親友、カナルくんさ。」
 メイトは目の前の男を見てそう言う。ちょっと待て・・・これとメイトが・・・大親友だと?
「どっかに消えたかと思いきャア、こォんなガキのお守りしてるなンてよォ。同情はしてやるぜェ、メイトさんよォ」
 どういう事だ。タイプが全く違うこの二人が、知り合い・・・?
「大親友て・・メイト・・・」
 あまりに辻褄があわなさすぎる。メイトは見た目からして20代前半の青年の雰囲気を纏っている。それに対してこのカナルと呼ばれた男は・・どう考えても10代半ばの容姿をしている。
 それに・・・。
メイトはゴーストだ。人間、いや、生物が死んでからゴーストになるまで少しの時間はかかるはずだろう・・・そんな早くゴーストになるわけがない。
「メイト、お前は何歳で死んだんだ?」
 メイトはう~んと少し考えるふりをする。記憶を辿っていてもメイトはどんな問いにもすぐ答えるだろう。
「ボクは23歳で死んだんだぜ。短く儚い人生でボクは泣きそうなんだぜ」
 よくもまぁこんな思ってもいない嘘を安々と吐けるもんだ。そこらへんは呆れを通り越して感心すらしそうだよ。
「あ、あいつは・・・カナルってやつは何者なんだ?」
 このやり取りを聞いていたカナルが突如、腹を抱えて笑い出した。
「あぎゃははは!そォんな謎な顔しなくても俺ァ答えてやんよ!確かに俺はそこにいるメイトとはァ一緒に行動したことがある。いつの話かも覚えてねェくれェだよ。俺ァまだ90弱くらいの若輩者でよォ・・・。」
 90・・!?そんな年齢でこの容姿・・・人間とは思えない・・・
「あァ、その通りだよ。俺ァ人間じゃねェ。俺が風使いなのは種族のおかげでよォ、俺ァ、天狗だ。」
 天狗・・・Aランク級の妖怪。火の化け狐に対し風の天狗と言われるほどだ。
「お前らに・・・なにがあったんだ?」
 レントが疑問を持ったように二人の関係に質問をする。いったいなぜメイトはわずか23歳で死んだのだろうか・・・いったい過去になにがあったのだろうか・・そんなレントの問いに答たのはまたしてもメイトだった。
「戦いに敗れて死んだのは、人間だけだ。」
 そうメイトは告げる。戦い?いったいなんの戦いだろうか。
「ボクが死んだあの日、ボクとカナルくん。そしてもう一人の大親友は世界の破壊者、死神と戦った。」
 世界の破壊者・・・死神。
その名を聞いて頭に「?」を浮かべるやつはいないだろう。少なくとも、この世界に生きている生物は知っているはずだ。死神・・3神の一人とされている。世界を破壊するほどの力を持つそれと戦ったというのだ。驚かないはずがない。
「勿論、負けたさ、それもボロボロにね。カナルくん、生きてたんだね?」
 カナルの顔からは一瞬、笑みが消えて真顔になる。だが、すぐにまたその不気味な笑みは浮かび上がり、また笑い始めた。
「くっくく・・ァっはっは!そォだなァ、無様にやられちまったなァ・・」
 カナルは両手で顔を覆う。指と指の間から覗く細すぎる眼は、なぜか破壊を象徴しているようにも思えた。
「だがァ、俺はテメェとは違う。どうにか命を繋ぎとめた俺ァ、テメェとはちげぇんだよぉ!!そうだろう!?Sランクゥうう!!!」

「「「え、Sランク!?!?」」」

 僕、レント、アカネは同時にその声を吐き出す。驚かないわけがない・・・Sランク。それはトップであるはずのAランクを置き去りにしたすべてを超越する存在。それが目の前にいるのか・・・?メイトが、Sランク??
「あーあ、ばーれちゃったよ。ボクもボクでかくしてたんだけどねぇ。ま、隠す意味もないんだけどねぇ、Sランク、カナルくん。」
 な・・・っ。まさか、この男もSランクだというのか。目の前にSランクが二人だと?
「でもねぇ、ボクは大事にしていた秘密をばらされるのが大っ嫌いなんだよねぇ。」
 メイトは笑った。その口元には微笑を浮かべて笑う。だが・・・

 その眼は一片も、笑ってはいなかった。

「行け。赤性雷電。」
 バシュっと射出音と共に紅い雷がメイトの右手から繰り出される。その後、2、3発と連続で雷を射出していくが、一発たりともカナルには当たらない。
 風だ。カナルを守るように吹く風がすべて、メイトの雷の軌道をそらしているのだ。
「あ・・・?アギャハハハ!!んだァそれ!Sランク様様がまさかそんな程度の雷で終わりませんよねェ!?」
 ビュウウウ!!とカナルの目の前に小規模の竜巻が3つ発生する。カナルの身の丈ぐらいある3つの竜巻は静かにそのばに佇む。カナルはそのうち1つの竜巻の中に腕を入れる。
「そォら!八つ裂きにしてやんよォ!!」
 入れた腕を薙ぐ。端的に言えば、カナルは3つの竜巻を手刀で薙ぎ払っただけだ。無論、竜巻は少しその体を揺らせただけでまた何ともなかったようにそのばで回り始める。僕らはカナルが何をしたのか。次の瞬間までまるで分らなかった。
「皆!!!伏せるんだ!!!」
 突然、メイトが大声をだして僕らを呼びかける。それと同時にメイトは僕らの目の前に飛び込んできて能力を発動させた。
 バン!ボォン!!と爆発音が目の前で鳴る。五月蠅すぎるその音に鼓膜が揺さぶられるが、僕らはなにが起きたのか現状が把握できない。
「メイトさん?!手!右手が!!」
 アカネのその声に反応し、僕らはメイトの右手の方へ視線を投げる。すると、メイトの握りしめられた右手から赤い液体が数滴、地面に落ちて小さい刻印を刻み付けた。
「血・・・だと?」
 メイトが・・・血を流すなんて・・・そもそも何が起きたんだ。竜巻が発生してカナルがそれを手刀で薙ぎ払う・そしてメイトが赤い雷を出した途端空気が爆発して、それでメイトが血を流した。
 訳がわからない・・・追いつけない・・・。
「あれは、鎌鼬と呼ばれるカナルくんの技だ。3つのあの竜巻を手刀で薙ぎ払う。すると竜巻内の空気が刃の形になって飛んでくるようになっているんだ。二個までは雷で打ち消せたけど三個目は無理だったね。」
 だから・・・手で受け止めた時に切れて血が出てきたのか・・・。
「よォく受け止めれましたァ。さすがSランク様様だなァメイト。だけどよォ、さすがにこれは受け切れねェと思うぜ?ぁはっ!!!」
 シィン・・・とあたりが急に静かになる。別段、何が起きるわけでもない。
「何も・・・起きてない?」
「ほんとだ・・・あれ?」
 ツー・・と鼻に違和感を覚える。何かと思って鼻を拭った手には、血がべっとりとついていた。
「鼻・・血・・・?」
「おわぁ!?鼻血!?俺はなにも卑しい事は考えてねぇぞ!?」
「わ、私も・・なんで!?」
 全員、いきなり鼻血が出る・・?いったいなにが?
「ぃひぃひゃははは!!」
 次いで甲高い音が耳に響く。超音波かと錯覚するくらいの高い音に僕らは顔をしかめる。
「耳・・鳴り・・?!」
 なんだ・・どういう事だ?!
「これは・・・やばい!!」
 メイトが何かを察知したかのように声を荒げる。
「はぁああああ!!!!」
 メイトはその右手を天に向かって大きく突き上げる。
「みんな!!耳と目をふさいでもらうよ!!!」
「な・・・え??」
「はやく!!!!!!!!」
 何かを先に言うより先にメイトが声を上げる。聞いたことがないくらい、メイトにしては切羽詰まったような声だった。言われるがまま、僕らは耳と目を硬く塞いだ。

 刹那、すべての五感を置き去りにするくらいの雷撃音が聞こえる。自分で発した声すらも聞こえないようなその音と光が鳴りやんだ後には耳鳴りも、鼻血も、まるでなにもなかったように止んでいた。
「いったい何が・・・?」
「あれは、ボクらの周りの酸素濃度を濃くしていたんだ。」
 酸素??生きるのに必要不可欠な気体の名前がどうしてでてくる・・ 
「それは、僕らには影響ないんじゃないのか?」
「いや、濃すぎる酸素は逆に体に毒なんだ。あのままだったら次に頭痛、吐血、出血多量で命を奪われていただろう。」
 そんなこと・・あるのか?
「メイトはいったい、何をしたんだ?」
「この空気に雷を落として酸素を爆散させてあげたよ。」
 次元が・・違う・・・。
ぱちぱちぱち・・・と静かになったこの空間に、規則ただしいリズムで拍手が送られる。だれがやったかは感覚でわかる。カナルだ。
「スゴイスゴイ。あースゲェよメイトさんよォ。ナイスプレーだなぁ?でもよォ、メイトさんが少し頑張ってる間に、すこーし準備してましたァ。では行きましょう!!レッツ・ショータァイム!!」
 パチン!とカナルは指を鳴らす。その瞬間、メイトの近くでなにかが爆発した。もちろん、カナルが生み出した空気だろう。あまりに突然の攻撃でメイトは為す術もないまま、その体は中を浮き飛ばされる。
「ほらほらァ!!!」
 ドン!ドン!と連続してカナルはメイトに向かって風の球を繰り出す。暴発した空気にメイトは追い打ちをくらい、ついに沈黙した。
「次はてめえらダァ!!」
 先ほど生み出された竜巻がまた僕に襲い掛かる。鎌鼬だ。
「ラ・シールドォ!!!」
 レントが能力を発動し、どうにか一発目を食い止める。だが、弱い。
「あめェんだよぉ!!!」
 もう一度、カナルは鎌鼬を飛ばす。二発目を喰らった壁が脆くも甲高い音を立てて崩れ去った。
「はい!最後でェす!!! 
 スパっと、子気味の良い音をたてて、鎌鼬がアカネに当たる。
「アカネェ!!!」
「ぁ・・・・あ・・・」
 ポタ・・と血が流れる。
「く・・くび・・・」
 アカネは今にも擦り切れそうな声で言葉を発した。
「やばい!!止血しろ!!」
「わかってる!!でも時間がかかるんだ!!」
 レントがそういい魔導書を取り出してページをめくっていく。非科学的能力には治癒魔法もあるのだ。だが、レントの額には玉のような汗が大きく浮かび上がっている。もうレントも体力の限界が近づいてきてるのだろう。魔法陣が発するその光も今やよわよわしく光っていた。
「ほらァ、頑張れがんばれェ?」
「くっ・・殴ってやりたい顔だな・・・お前」
「あ?雑魚が希望論語るンじャアねェよ。」
 ヒュゴウ!と何度も命を取りに来た風の塊がまた生成される。もう、防ぎようがない・・・メイトを召喚している今、僕には為す術などないし、レントの能力が二つに反映できないこともしっている。
「大丈夫だ。痛みを感じる事すら忘れさせるくらい体を粉々にしてやっからよォ」
「全く・・なにが大丈夫なんだよ・・っ」
「今までお疲れ様でしたァ!!」
「レオォオン!!!」
 レントがボクの名を呼ぶ。だけど、もうどうしようもない。風の塊に飲み込まれて僕は死ぬ・・はずだった。
 パァン!!!と一筋の閃光がボクの隣を通過する。それは風の塊に当たり爆散させた。
「あ・・・?」
 カナルが何が起きたかわからないといった表情へと変化する。
「誰だよ・・・せっかく殺せるところだったのによォ!!」
 レントは・・能力が使えない。アカネだって、使えないはずだ。なら・・・一人だけ・・・
「全く・・・いい加減にしてほしいね。アカネちゃんは重症、ご主人くんも今、死の淵に立たされた。」
 その声の主は滑らかに言葉を紡ぐ。
「ボクは、仲間が死ぬのは大っ嫌いなんだよね。そんなボクを目の前にしてこの有様、君はボクを少しばかり怒らせちゃったようだ。」
 何度も僕の危機を助けてくれたパートナー・・・

「次は君の番だ、カナルくん。」

 メイト・・・。
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