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『明るい家族計画《18》』
携帯電話の画面には、メールの受信ボックスが表示されている。ということは、画面いっぱいにずらりと並んでいるこれらの文字列は、メールの件名の一覧のようだ。それにしても、ずいぶん変わった件名だ。しかもよく見ると、メールの発信元と宛先のアドレスが同じときている。そしてこの受信メールには、誤って削除しまわないよう消去防止のロックが設定されている。
どうやら母は書いたメールを、あとで読み返す覚え書きとして自分自身に送ったらしい。この時代の携帯電話のメモ機能は貧弱で、文字数や件数の上限がとても少ない。多くの文字を携帯電話に残すためには、こういう方法を取るしかなかったのだろう。
件名に18という番号が振られているということは、これ以前にも同じ件名で十七通書いたということだ。受信ボックスを検索してみると、思った通り、通し番号が振られた『明るい家族計画』がいくつも見つかった。どのメールも最初に見つけたものと同じように、消去防止のロックが設定されている。
母はこんな面倒なことまでして、一体何をこの携帯電話に書き残したのだろう。ひどく疲れているというのに、好奇心がうずき始めてしまうともう止まらない。私は試しに、通し番号が最も若い『明るい家族計画《1》』を開いてみた。たちまち目が釘付けになる。予想外の文面に、息を呑まずにはいられない。
明るい家族計画《1》
確認のため産婦人科に行った。超音波で見るからと言われ、変な機械を入れられた。痛くはなかったけど変な感じ。結果、やっぱり妊娠してた。どうしよう。できれば、いや絶対に産みたい!
でも彼はきっと頷かない。ということは、好きなだけ抱いておいて子供ができたらポイ? ふざけんな。女を何だと思ってる。お前の抜くタイミングが遅いからこうなったんだろ。下手くそ。早漏。自業自得だ。
他のメールも読んでみたところ、この携帯電話の持ち主は母で間違いない。ならばメールの中で語られている妊娠とは、間違いなく私のことだ。
自分を産む前の、知る由もなかった母の胸の内。『明るい家族計画』の正体がわかると、私の胸はたちまち早鐘を打ち始めた。疲労と眠気のせいで重かった瞼はすっかり開いて、たった今まで自宅の布団を恋しく思っていたことが嘘のようだ。目と指は脳の指令を待たず、すでに次のメールに向かっている。私は否応なく、古い携帯電話の中で眠っていた家族計画書へと引き込まれていった。
明るい家族計画《2》
一晩寝て考えた。もし産んでも、彼は私のものにはならない。となると、生まれてくる子は間違いなく父無し子になる。本当にそれでいいのだろうか。今、私のお腹の中にいるこの子は、それでも許してくれるだろうか。
待て。この子がそうならずに済む方法は二つ。一つは、彼が今の家庭を捨てて、私と一緒になってくれること。まず無理だと思うけど、私もどうにか頑張って仮にそうなったとする。でもそれだと、彼の奥さんや子供は私たちのことをすごく恨むだろうし、それ以上にすごく悲しむと思う。それはできない。この子を、誰かの不幸と引き換えに産まれた子にしたくない。生まれながらに自分を恨む人間がいる世界になんて、あなたは生まれてきたくないでしょう?
父無し子を回避する二つ目の方法は、そもそも産まないこと。これもやっぱりできない。でも、彼や彼の家族が私の妊娠を知ったら、絶対こっちを押しつけてくるはず。何もなかったことになるわけだから、この解決策が最も簡単でシンプルでしょ、って。はあ? 簡単? シンプル? 馬鹿にすんな! 私にとっては全然簡単じゃないし、彼との複雑な関係、私が抱いている複雑な感情を、シンプルイズベストみたいな常套句で片づけるなっての!
考えるだけ無駄だった。ごめんね、やっぱりお父さんは諦めてもらうしかなさそう。でもその分、お母さん頑張るから。それで許してくれる? 許してくれるよね。だってお母さん、すでに命が宿っているあなたを殺す選択なんて、何があっても絶対にできないんだもん。
明るい家族計画《3》
妊娠を伝えたら、案の定黙り込んだ。だからこっちから言ってやった。産みたいって。
まさかあんなに取り乱すとは思わなかった。約束が違うって何? 誰がいつ、どんな約束をした? 不倫相手は子供を産まないなんて、ずいぶん都合のいい思い込みじゃない? 私がどうしてもこの子を産みたい理由、あなたは本当にわからないの?
どうして惚れちゃったんだろう。あんな薄情な目をする男が、私とお腹の子の幸せを考えてくれるわけがない。でも堕ろすなんて絶対に嫌。今もお腹の中で生きてるのに、可愛くてたまらないのに、あの人が私を愛した何よりの証なのに。
悔しい。あんなひどいこと言われたのに、それでも嫌いになれない。私は本当に馬鹿なのかもしれない。でもいい。馬鹿だとしても、この子の命を守りたいって気持ちは失っていないから。だって、自分の子なんだよ? あなたと私、一緒に汗水垂らして作ったじゃない? どうして簡単にいらないって言えるの? そんなこと言えるほうが、頭のネジが何本も足りてないんじゃないの?
画面から目を外して、何度も深呼吸を繰り返した。微かに手が震えている。胸が詰まって息苦しい。激しい鼓動が耳の奥で鳴り響いていて、まるで誰かが頭の芯を乱暴に打ち鳴らしているかのようだ。
私はこの携帯電話の中で、生死の境を彷徨っている──。若かりし日の母の苦悶が、ありありと目に浮かんだ。この先の展開に、恐怖を感じないわけにはいかない。しかしそれでも、指は勝手に家族計画の続きを開いていく。
明るい家族計画《5》
急に明日来てくれるって連絡がきたからちょっと面食らったけど、すごく嬉しい。あと、電話の声はかなり機嫌がよさそうだった。何かいい話でもあるのかも。最近全然良いことなくて、ずっと悩みっぱなしだったから、嫌な気分が吹き飛ぶような話だといいな。
もしかして離婚とか? あー、嬉しいけど、それを期待しちゃダメ。悲しむ人が出ちゃうから。私はそこまで望んでいない。そのことは、お腹の子もちゃんとわかってくれるはず。だから無理はせず、せめて私とこの子を末長く、温かく見守ってくれればそれでいい。
あと、できれば私のこと、今後もずっと愛してほしいかな。この子と二人で生きていくって決めてはいるけど、やっぱり二人だけじゃ辛かったり、寂しかったりすると思う。そんなとき、ちょっとだけ私のわがままを聞いてくれさえすれば、他には何もいらない。このささやかな願い、彼に伝わってくれるといいな。
明るい家族計画《6》
あいつマジでヤバい。さすがにこれ以上は無理かも。アザだらけになったから、しばらく外に出られないじゃん。メイクじゃ絶対ごまかしきれないだろ、これ。
怒りにまかせた出任せだと思うけど「死にたいんか!」はマジ引いた。ここまでキレられたのは初めてかも。しばらくは電話にも出ないほうがいい。
でもこれで覚悟ができた。やれるもんならやってみろ。この子は私が命に代えてでも守る。たとえ父親でも、そんな横暴は許さない。
種を流し込んだだけのくせに、偉そうな顔すんな。誰もお前に育ててくれなんて言ってない。この子は、私ひとりで立派に育ててみせる。文句あるか!
あーーーーイラつく! 今まで我慢していたものが全部、溶岩みたいになって喉まで上がってきてる! どうにかして思い知らせてやりたい! あいつをめちゃくちゃにしてやりたい!
明るい家族計画《7》
まだ胸がドキドキしてる。我ながらここまでやるとは思わなかった。でも、この子を否定されたままじゃ悔しすぎる。私は間違ってない。だから覚悟を見せておかないと。私はただ、この子を守りたいだけ。
あいつのところに乗り込んで、家族に話を聞いてもらった。奥さんは泣いてた。いつも怒鳴り散らすあいつも、今日ばかりは魂が抜けたみたいにおとなしかった。私が訪ねて来るなんて、想像もしなかったはず。それはそうだ。私だって自分の行動が最善だったとは思っていないし、自分の大胆さに自分で驚いている。
これで私たちの関係は大っぴらになった。もうあいつの独断で、この子を消し去ることはできない。あいつにまだ人の心が残ってるなら、この子を認知してくれる可能性も出てきた。家族はこんな忌まわしい事件を引きずりたくはないだろうけど、かといって素直に認知するのもプライドが許さないだろう。
お前に守るものなんてもうない。目を背けてばかりいないで、いい加減に現実を見ろ。奥さんと別れてほしいなんて言ってない。今後も絶対に言わない。でもこの子のために、せめて父親にはなってほしい。
そうしてくれないと、この子が大きくなって「お父さんは?」って訊いてきたとき、私はどう説明すればいい? 本当にいないなら仕方ないけど、本当はいるのにいないと答えるなんて、絶対におかしい。
この子の存在は、お父さんを取り上げられなければならないほど罪深い? 生まれる前のことなんて、この子には少しも関係ないじゃない。それなのにどうして自分の都合だけで、命と父親をこの子から奪おうとするの? あんたはそのくらい偉いってこと? 何様? 神様? 仏様?
明るい家族計画《9》
バカ! バカ! バカ! バカ!
やっぱり私は馬鹿だった。あんなやつの口車に乗って、ほいほいと部屋に入れたのが間違いだった。あいつは飼い犬に手を噛まれたことを心底恨んでる。でもそうなる前は、確かに私を愛してくれていた。こないだ数発殴られたけど、さすがにあいつも反省しているはず。だって子供まで作ったんだから、私のこと、心から嫌いってわけじゃないでしょう? だからもう、手だけは出さないって信じてた。
泥酔してたから嫌な予感はしていたんだけど、まさか部屋に入った途端殴りかかってくるとは思わなかった。私はあいつにとって、すでに人じゃないのかもしれない。
「お前がガキをやらないなら、俺がやってやる!」
あいつは完全に狂ってた。お腹を蹴られたのは一回だけだったけど、私の子は大丈夫だろうか。今のところ体調に変化はない。ただ、散々ぶたれたし蹴られたから身体中が痛くてたまらない。骨は折れていないと思う。でも顔はアザだらけ。今回の引きこもりは、前回よりさらに長引きそうだ。
最悪の気分だけど、早いうちにあれほど危ない男だと知ることができてよかったのかもしれない。何があっても二度と部屋には入れない。私のケガは治るけど、お腹の子は取り返しがつかない。酔いが醒めて謝りに来ても、絶対に油断しちゃダメだ。玄関前で騒ぐようなら、すぐに警察を呼んでやる。
携帯電話の画面には、メールの受信ボックスが表示されている。ということは、画面いっぱいにずらりと並んでいるこれらの文字列は、メールの件名の一覧のようだ。それにしても、ずいぶん変わった件名だ。しかもよく見ると、メールの発信元と宛先のアドレスが同じときている。そしてこの受信メールには、誤って削除しまわないよう消去防止のロックが設定されている。
どうやら母は書いたメールを、あとで読み返す覚え書きとして自分自身に送ったらしい。この時代の携帯電話のメモ機能は貧弱で、文字数や件数の上限がとても少ない。多くの文字を携帯電話に残すためには、こういう方法を取るしかなかったのだろう。
件名に18という番号が振られているということは、これ以前にも同じ件名で十七通書いたということだ。受信ボックスを検索してみると、思った通り、通し番号が振られた『明るい家族計画』がいくつも見つかった。どのメールも最初に見つけたものと同じように、消去防止のロックが設定されている。
母はこんな面倒なことまでして、一体何をこの携帯電話に書き残したのだろう。ひどく疲れているというのに、好奇心がうずき始めてしまうともう止まらない。私は試しに、通し番号が最も若い『明るい家族計画《1》』を開いてみた。たちまち目が釘付けになる。予想外の文面に、息を呑まずにはいられない。
明るい家族計画《1》
確認のため産婦人科に行った。超音波で見るからと言われ、変な機械を入れられた。痛くはなかったけど変な感じ。結果、やっぱり妊娠してた。どうしよう。できれば、いや絶対に産みたい!
でも彼はきっと頷かない。ということは、好きなだけ抱いておいて子供ができたらポイ? ふざけんな。女を何だと思ってる。お前の抜くタイミングが遅いからこうなったんだろ。下手くそ。早漏。自業自得だ。
他のメールも読んでみたところ、この携帯電話の持ち主は母で間違いない。ならばメールの中で語られている妊娠とは、間違いなく私のことだ。
自分を産む前の、知る由もなかった母の胸の内。『明るい家族計画』の正体がわかると、私の胸はたちまち早鐘を打ち始めた。疲労と眠気のせいで重かった瞼はすっかり開いて、たった今まで自宅の布団を恋しく思っていたことが嘘のようだ。目と指は脳の指令を待たず、すでに次のメールに向かっている。私は否応なく、古い携帯電話の中で眠っていた家族計画書へと引き込まれていった。
明るい家族計画《2》
一晩寝て考えた。もし産んでも、彼は私のものにはならない。となると、生まれてくる子は間違いなく父無し子になる。本当にそれでいいのだろうか。今、私のお腹の中にいるこの子は、それでも許してくれるだろうか。
待て。この子がそうならずに済む方法は二つ。一つは、彼が今の家庭を捨てて、私と一緒になってくれること。まず無理だと思うけど、私もどうにか頑張って仮にそうなったとする。でもそれだと、彼の奥さんや子供は私たちのことをすごく恨むだろうし、それ以上にすごく悲しむと思う。それはできない。この子を、誰かの不幸と引き換えに産まれた子にしたくない。生まれながらに自分を恨む人間がいる世界になんて、あなたは生まれてきたくないでしょう?
父無し子を回避する二つ目の方法は、そもそも産まないこと。これもやっぱりできない。でも、彼や彼の家族が私の妊娠を知ったら、絶対こっちを押しつけてくるはず。何もなかったことになるわけだから、この解決策が最も簡単でシンプルでしょ、って。はあ? 簡単? シンプル? 馬鹿にすんな! 私にとっては全然簡単じゃないし、彼との複雑な関係、私が抱いている複雑な感情を、シンプルイズベストみたいな常套句で片づけるなっての!
考えるだけ無駄だった。ごめんね、やっぱりお父さんは諦めてもらうしかなさそう。でもその分、お母さん頑張るから。それで許してくれる? 許してくれるよね。だってお母さん、すでに命が宿っているあなたを殺す選択なんて、何があっても絶対にできないんだもん。
明るい家族計画《3》
妊娠を伝えたら、案の定黙り込んだ。だからこっちから言ってやった。産みたいって。
まさかあんなに取り乱すとは思わなかった。約束が違うって何? 誰がいつ、どんな約束をした? 不倫相手は子供を産まないなんて、ずいぶん都合のいい思い込みじゃない? 私がどうしてもこの子を産みたい理由、あなたは本当にわからないの?
どうして惚れちゃったんだろう。あんな薄情な目をする男が、私とお腹の子の幸せを考えてくれるわけがない。でも堕ろすなんて絶対に嫌。今もお腹の中で生きてるのに、可愛くてたまらないのに、あの人が私を愛した何よりの証なのに。
悔しい。あんなひどいこと言われたのに、それでも嫌いになれない。私は本当に馬鹿なのかもしれない。でもいい。馬鹿だとしても、この子の命を守りたいって気持ちは失っていないから。だって、自分の子なんだよ? あなたと私、一緒に汗水垂らして作ったじゃない? どうして簡単にいらないって言えるの? そんなこと言えるほうが、頭のネジが何本も足りてないんじゃないの?
画面から目を外して、何度も深呼吸を繰り返した。微かに手が震えている。胸が詰まって息苦しい。激しい鼓動が耳の奥で鳴り響いていて、まるで誰かが頭の芯を乱暴に打ち鳴らしているかのようだ。
私はこの携帯電話の中で、生死の境を彷徨っている──。若かりし日の母の苦悶が、ありありと目に浮かんだ。この先の展開に、恐怖を感じないわけにはいかない。しかしそれでも、指は勝手に家族計画の続きを開いていく。
明るい家族計画《5》
急に明日来てくれるって連絡がきたからちょっと面食らったけど、すごく嬉しい。あと、電話の声はかなり機嫌がよさそうだった。何かいい話でもあるのかも。最近全然良いことなくて、ずっと悩みっぱなしだったから、嫌な気分が吹き飛ぶような話だといいな。
もしかして離婚とか? あー、嬉しいけど、それを期待しちゃダメ。悲しむ人が出ちゃうから。私はそこまで望んでいない。そのことは、お腹の子もちゃんとわかってくれるはず。だから無理はせず、せめて私とこの子を末長く、温かく見守ってくれればそれでいい。
あと、できれば私のこと、今後もずっと愛してほしいかな。この子と二人で生きていくって決めてはいるけど、やっぱり二人だけじゃ辛かったり、寂しかったりすると思う。そんなとき、ちょっとだけ私のわがままを聞いてくれさえすれば、他には何もいらない。このささやかな願い、彼に伝わってくれるといいな。
明るい家族計画《6》
あいつマジでヤバい。さすがにこれ以上は無理かも。アザだらけになったから、しばらく外に出られないじゃん。メイクじゃ絶対ごまかしきれないだろ、これ。
怒りにまかせた出任せだと思うけど「死にたいんか!」はマジ引いた。ここまでキレられたのは初めてかも。しばらくは電話にも出ないほうがいい。
でもこれで覚悟ができた。やれるもんならやってみろ。この子は私が命に代えてでも守る。たとえ父親でも、そんな横暴は許さない。
種を流し込んだだけのくせに、偉そうな顔すんな。誰もお前に育ててくれなんて言ってない。この子は、私ひとりで立派に育ててみせる。文句あるか!
あーーーーイラつく! 今まで我慢していたものが全部、溶岩みたいになって喉まで上がってきてる! どうにかして思い知らせてやりたい! あいつをめちゃくちゃにしてやりたい!
明るい家族計画《7》
まだ胸がドキドキしてる。我ながらここまでやるとは思わなかった。でも、この子を否定されたままじゃ悔しすぎる。私は間違ってない。だから覚悟を見せておかないと。私はただ、この子を守りたいだけ。
あいつのところに乗り込んで、家族に話を聞いてもらった。奥さんは泣いてた。いつも怒鳴り散らすあいつも、今日ばかりは魂が抜けたみたいにおとなしかった。私が訪ねて来るなんて、想像もしなかったはず。それはそうだ。私だって自分の行動が最善だったとは思っていないし、自分の大胆さに自分で驚いている。
これで私たちの関係は大っぴらになった。もうあいつの独断で、この子を消し去ることはできない。あいつにまだ人の心が残ってるなら、この子を認知してくれる可能性も出てきた。家族はこんな忌まわしい事件を引きずりたくはないだろうけど、かといって素直に認知するのもプライドが許さないだろう。
お前に守るものなんてもうない。目を背けてばかりいないで、いい加減に現実を見ろ。奥さんと別れてほしいなんて言ってない。今後も絶対に言わない。でもこの子のために、せめて父親にはなってほしい。
そうしてくれないと、この子が大きくなって「お父さんは?」って訊いてきたとき、私はどう説明すればいい? 本当にいないなら仕方ないけど、本当はいるのにいないと答えるなんて、絶対におかしい。
この子の存在は、お父さんを取り上げられなければならないほど罪深い? 生まれる前のことなんて、この子には少しも関係ないじゃない。それなのにどうして自分の都合だけで、命と父親をこの子から奪おうとするの? あんたはそのくらい偉いってこと? 何様? 神様? 仏様?
明るい家族計画《9》
バカ! バカ! バカ! バカ!
やっぱり私は馬鹿だった。あんなやつの口車に乗って、ほいほいと部屋に入れたのが間違いだった。あいつは飼い犬に手を噛まれたことを心底恨んでる。でもそうなる前は、確かに私を愛してくれていた。こないだ数発殴られたけど、さすがにあいつも反省しているはず。だって子供まで作ったんだから、私のこと、心から嫌いってわけじゃないでしょう? だからもう、手だけは出さないって信じてた。
泥酔してたから嫌な予感はしていたんだけど、まさか部屋に入った途端殴りかかってくるとは思わなかった。私はあいつにとって、すでに人じゃないのかもしれない。
「お前がガキをやらないなら、俺がやってやる!」
あいつは完全に狂ってた。お腹を蹴られたのは一回だけだったけど、私の子は大丈夫だろうか。今のところ体調に変化はない。ただ、散々ぶたれたし蹴られたから身体中が痛くてたまらない。骨は折れていないと思う。でも顔はアザだらけ。今回の引きこもりは、前回よりさらに長引きそうだ。
最悪の気分だけど、早いうちにあれほど危ない男だと知ることができてよかったのかもしれない。何があっても二度と部屋には入れない。私のケガは治るけど、お腹の子は取り返しがつかない。酔いが醒めて謝りに来ても、絶対に油断しちゃダメだ。玄関前で騒ぐようなら、すぐに警察を呼んでやる。
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★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
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