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ワンワンと聖域
閑話 ワンワンの拾い物1
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――ジェノスが来る少し前の話。
まだ勉強もしてなかった頃。ナエとクロが農作業や狩りに勤しんでいる時に、ワンワンは一人で回収した宝物を並べたり、【廃品回収者】の回収可能の一覧を眺めてひたすら回収していた。
ある日、狩りから戻ったクロは、世界樹に背中を預けてご機嫌なワンワンを見かける。
長い金髪を揺らしながら「わうっ♪ わうっ♪」と歌っていた。間違いなくご機嫌だった。
「ワンワンくん嬉しそうだね? どうしたの?」
「良いもの拾ったんだ!」
「良い物? また何かの骨?」
ワンワンの宝物の多くは魔物の骨。それも集めるだけでなく、骨を噛むのが好きなのだ。
この行為をナエが知った時、始めは注意していた。だが、もはやワンワンの習慣のようになっていて、仕方なく噛む前と噛んだ後に《ミソロジィ・キュア》で綺麗にする事を条件に許したのである。
「ううん、違うよ!」
「? 違うの? じゃあ、いったい……綺麗な石とか……危ないものじゃないよね? 錆びた剣でも危ないよ」
「違うよ! そんなんじゃないもん!」
「じゃあ……何?」
「わうっ! これだよ!」
ワンワンは回収済みの一覧を出してクロに見せる。
一見見慣れたものが並んでいるだけだったが、視線を下へ下へと移していくと途中に他とは異質なものがあった。
・オーパーツ×1
「おーぱーつ……?」
「うん! なんか凄い感じがするの!」
「う、うーん……?」
クロにはオーパーツがどういったものか分からなかった。そもそもワンワンの感性がやや特殊で、集めたもののほとんどがナエやクロにとっては、価値なんてまるでないようなもの。
これもその類なのかもしれないが……明らかにいつも回収しているものとは違う。
「それじゃあ出すね!」
「ちょ、ちょっと待って!」
「わうっ? どうしたの?」
「えっと……あ、うぅ……ちょっとナエちゃんと相談してみないと駄目かなぁ……」
クロはオーパーツを出そうとするワンワンを止めて、ナエと相談すると伝える。するとワンワンは悲しそうな顔をして首を横に振る。
「うぅぅぅっ……ナエは駄目って言いそう……」
「い、いやぁ……それは分からないよ、うん」
「駄目だよ、きっと……ねえ、クロお願い。出してもいいでしょう?」
ワンワンは既にナエが駄目と言うであろうと感じて、クロにお願いを始める。
一度駄目と言われれば許可を得なければ出さないようだが、ナエから許しが得られなくても、クロから許しが出れば問題ないという認識のようだ。
ナエの性格を考えると、誰にも分からないものであれば、決して回収済みの一覧から出す事を許さないだろう。クロに許可を得ようとする判断は間違いではない。ナエより断然チョロい。しかし、ワンワンにとっても危険がある事なので、クロもそう簡単には首を縦に振らない。
ここは自分の方ではっきりと駄目だと言うべきだ。年長者としてそうあるべきだと、クロは思った。だが、いざ口に出そうとした時、不意に服を控えめに引っ張られる。
「クロぉ……」
「うっ……」
服を引っ張っているのは当然ワンワン。まるで少女のようにも見える可愛らしい顔。更に、瞳を潤ませ上目遣いと来ればクロの心が揺らぐには充分だった。だが、なんとか踏みとどまるが、そこに追撃を受ける。
「ねえ、駄目? クロぉ……出して、いいでしょ……」
「ぐうっ……!」
服を引っ張るのをやめて、クロの手をワンワンの小さな両手が包み込む。そしてお願いをしながらワンワンは手の甲に頬ずりを始める。
ワンワンの柔らかく、しっとりとした頬、そしてサラサラとした肌を撫でる髪の感触…………クロの心はこれ以上ないほどに揺らいで、そして折れた。
「い、いいよ……出して、も……」
「やったー! ありがとう、ナエー!」
ワンワンは許しを得られて喜び、クロに抱き着いた。
抱き着かれたクロは嬉しそうに頬を緩ませたが、すぐに条件を出した。それは今ここで、自分の前で出す事。そして格納鞄に必ずしまうようにして、誰にも見られないように、出したらすぐにしまう事。そうワンワンに約束して貰う。
そして、ワンワンはオーパーツを取り出す。出て来たのは手のひらに乗るほどの小さい金色の何か。羽らしいものがついていて、魔物か何かの形のようであったが、クロには見覚えがなかった。
ワンワンは約束したように眺めてからすぐに格納鞄にしまってしまう。
せめて《シーカー・アイ》で何かは見て貰おうと思ったが、ナエが農作業を終えて近付いて来たのでオーパーツの事は、クロは一度考えるのをやめてしまう。
そうしてジェノスやレイラが家族に加わった時には、クロはすっかりオーパーツの事を忘れていた。
今もそのオーパーツというものは、ワンワンの格納鞄に入ったままである……。
まだ勉強もしてなかった頃。ナエとクロが農作業や狩りに勤しんでいる時に、ワンワンは一人で回収した宝物を並べたり、【廃品回収者】の回収可能の一覧を眺めてひたすら回収していた。
ある日、狩りから戻ったクロは、世界樹に背中を預けてご機嫌なワンワンを見かける。
長い金髪を揺らしながら「わうっ♪ わうっ♪」と歌っていた。間違いなくご機嫌だった。
「ワンワンくん嬉しそうだね? どうしたの?」
「良いもの拾ったんだ!」
「良い物? また何かの骨?」
ワンワンの宝物の多くは魔物の骨。それも集めるだけでなく、骨を噛むのが好きなのだ。
この行為をナエが知った時、始めは注意していた。だが、もはやワンワンの習慣のようになっていて、仕方なく噛む前と噛んだ後に《ミソロジィ・キュア》で綺麗にする事を条件に許したのである。
「ううん、違うよ!」
「? 違うの? じゃあ、いったい……綺麗な石とか……危ないものじゃないよね? 錆びた剣でも危ないよ」
「違うよ! そんなんじゃないもん!」
「じゃあ……何?」
「わうっ! これだよ!」
ワンワンは回収済みの一覧を出してクロに見せる。
一見見慣れたものが並んでいるだけだったが、視線を下へ下へと移していくと途中に他とは異質なものがあった。
・オーパーツ×1
「おーぱーつ……?」
「うん! なんか凄い感じがするの!」
「う、うーん……?」
クロにはオーパーツがどういったものか分からなかった。そもそもワンワンの感性がやや特殊で、集めたもののほとんどがナエやクロにとっては、価値なんてまるでないようなもの。
これもその類なのかもしれないが……明らかにいつも回収しているものとは違う。
「それじゃあ出すね!」
「ちょ、ちょっと待って!」
「わうっ? どうしたの?」
「えっと……あ、うぅ……ちょっとナエちゃんと相談してみないと駄目かなぁ……」
クロはオーパーツを出そうとするワンワンを止めて、ナエと相談すると伝える。するとワンワンは悲しそうな顔をして首を横に振る。
「うぅぅぅっ……ナエは駄目って言いそう……」
「い、いやぁ……それは分からないよ、うん」
「駄目だよ、きっと……ねえ、クロお願い。出してもいいでしょう?」
ワンワンは既にナエが駄目と言うであろうと感じて、クロにお願いを始める。
一度駄目と言われれば許可を得なければ出さないようだが、ナエから許しが得られなくても、クロから許しが出れば問題ないという認識のようだ。
ナエの性格を考えると、誰にも分からないものであれば、決して回収済みの一覧から出す事を許さないだろう。クロに許可を得ようとする判断は間違いではない。ナエより断然チョロい。しかし、ワンワンにとっても危険がある事なので、クロもそう簡単には首を縦に振らない。
ここは自分の方ではっきりと駄目だと言うべきだ。年長者としてそうあるべきだと、クロは思った。だが、いざ口に出そうとした時、不意に服を控えめに引っ張られる。
「クロぉ……」
「うっ……」
服を引っ張っているのは当然ワンワン。まるで少女のようにも見える可愛らしい顔。更に、瞳を潤ませ上目遣いと来ればクロの心が揺らぐには充分だった。だが、なんとか踏みとどまるが、そこに追撃を受ける。
「ねえ、駄目? クロぉ……出して、いいでしょ……」
「ぐうっ……!」
服を引っ張るのをやめて、クロの手をワンワンの小さな両手が包み込む。そしてお願いをしながらワンワンは手の甲に頬ずりを始める。
ワンワンの柔らかく、しっとりとした頬、そしてサラサラとした肌を撫でる髪の感触…………クロの心はこれ以上ないほどに揺らいで、そして折れた。
「い、いいよ……出して、も……」
「やったー! ありがとう、ナエー!」
ワンワンは許しを得られて喜び、クロに抱き着いた。
抱き着かれたクロは嬉しそうに頬を緩ませたが、すぐに条件を出した。それは今ここで、自分の前で出す事。そして格納鞄に必ずしまうようにして、誰にも見られないように、出したらすぐにしまう事。そうワンワンに約束して貰う。
そして、ワンワンはオーパーツを取り出す。出て来たのは手のひらに乗るほどの小さい金色の何か。羽らしいものがついていて、魔物か何かの形のようであったが、クロには見覚えがなかった。
ワンワンは約束したように眺めてからすぐに格納鞄にしまってしまう。
せめて《シーカー・アイ》で何かは見て貰おうと思ったが、ナエが農作業を終えて近付いて来たのでオーパーツの事は、クロは一度考えるのをやめてしまう。
そうしてジェノスやレイラが家族に加わった時には、クロはすっかりオーパーツの事を忘れていた。
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