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ワンワンと聖域
第13話 ワンワンはぐっすり寝ています
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「ワンワンが戦争に? おい、どういう事だよ?」
ジェノスに掴みかかる勢いで身を乗り出して、「ワンワンは戦争に利用されるかもしれねえ」という発言の意味を問いただす。
「ナエちゃん、落ち着いて。あくまで可能性があるってだけだから」
「いや、可能性があるってだけでもヤバいだろ!」
「その可能性も限りなく低い……だから落ち着け。声を抑えねえと、ワンワンが起きちまうだろ」
注意をして渋々といった様子だったがナエは口を閉じた。黙ったところで再びジェノスは語り出す。
「さっきも言ったが、ワンワンのあのステータスは最強の盾になる」
「それは分かったぜ。あのステータスだから戦争に利用されるって事か? だけどよ、あれだけ強かったら抵抗する事もできんだろ?」
「……それは分からん」
「え?」
ジェノスの言葉にナエは首を傾げる。ナエからしたら最もステータスの高いクロよりも、一部ではあるが圧倒的に高いステータスを持っているワンワンが抵抗する事ができない状況が考えられなかった。
ジェノスはワンワンのステータスが書かれた石板を見せながら説明する。
「いいか? 確かにワンワンの守備力なら傷付ける事はほぼ無理だろう。魔法もあるしな……一つは使った事がねえみたいだから詳しくは分からねえが、身を守る魔法であるのは間違いねえだろ」
使った事がない魔法というのは、エンシェントドラゴンから貰った《ミソロジィ・シールド》の事だ。
他の《ミソロジィ・キュア》や《シーカー・アイ》は使用した事はあるのだが、《ミソロジィ・シールド》は一度も使用した事がない。
使う機会がなかった事もあるが、意図的に使わないでいた。それはクロが指示した事だ。《ミソロジィ・キュア》と《シーカー・アイ》は彼女が来る前に使っていたが、《ミソロジィ・シールド》に関しては一度も使った事がなく、エンシェントドラゴンが使ったところさえ見た事がない。それを危険視したのだ。
魔法というものは、実際に魔法を見たりするなど、何らかの過程を経て覚えるものだ。だが、時にはいつの間にか覚えている事がある。このいつの間にか覚えた魔法は厄介なものが多く、使った者に危険が及ぶ場合があるのだ。
たとえば自身が睡魔に襲われどこでも眠り込んでしまったり、モンスターを呼び寄せてしまったりするものだ。エンシェントドラゴンがおかしな魔法をワンワンに渡すとは思っていなかったが、念の為にこれまで使わせなかった。自身は魔法を使わないものの、周りに魔法を使うものが複数いたからそのような判断を下したのだろう。
ただ、《〇〇・シールド》という魔法であれば、基本身を守る魔法で間違いないのだが、そこまではクロは知らなかったようだ。
「だがな、それだけだ。切ったり刺したりできなくても、いくらでもやりようがある。例えばワンワンの身柄を確保するだけだったら、それほど苦労はしねえ。攻撃力が低い……まあ、三桁も高いが、これぐらいなら腕っぷしの良い奴が十人ぐらいで取り囲めば、捕まえられんだろ。そんで拘束して戦場に連れて行かれて……。言う事を聞かなかったら奴隷にして無理矢理、言う事を聞かせんだろうさ…………だが、その可能性は低い」
「どうしてだよ?」
「ステータスを見られなければ問題ないからだ。聖域にいれば人が来る事はねえ」
「なんだ、それじゃあ大丈夫だろ。驚かせるなよな」
ワンワンが戦争に連れて行かれるかもしれないと聞いて、動揺していたナエだったが、ジェノスの言葉を聞いて安堵の息を吐く。だが、クロは浮かない顔のままだ。
「クロ? 何か気になる事でもあるのかよ?」
「あ、うん。ちょっとね……確かにナエちゃんの言う通り聖域にいれば問題ないけど……ワンワンくんはいずれ外に出たいと思っているから……」
「あっ……」
ワンワンが外に行く事を望む限り、この問題は避けては通れない。その事にナエは気付き、ジェノスも元々そこに気付いていたらしく無言で頷いた。
「そうだ。身を守れるようになったら……と、エンシェントドラゴンがワンワンと約束したのは救いだな。でなかったら泣かれようが、嫌われようが、ワンワンを聖域から力づくでも出さないようにしないといけなかっただろう」
「うん、そんな事したくないけど、最悪そうしてただろうね……。街に行けば身分証明書がない人は、必ずマジックアイテムでステータスを確認されるから必ずばれちゃうよ」
「で、でもよっ。この国の街だったら、中立だし国に徴兵される事なんてねえだろ?」
「確かに徴兵される事はない。……ないが、ステータスをどっかの人身売買の組織に流れて、金になると判断されるかもしれねえ。どちらも魔族、人間どちらの戦力も今じゃ傭兵や奴隷でなんとか維持してるんだ。使えんなら非合法な奴隷でも国は高い金を払うだろうさ」
ジェノスは元盗賊団の首領。言う事は現実味があり、本当にそうなってしまう恐れがある事を感じさせた。
実際、ナエもそういった人身売買の組織には心当たりがあった。スラム街で比較的若く、健康そうな男が突然いなくなる事がある。そんな時には決まってスラム街の住人ではない者がよく見かけ、スラムの住人はそういう時はこぞって戦争に買われたんだと口にしていた。
「そ、そんな事、絶対させねえぜっ!」
「当たり前だ。それと声を抑えろと言ってんだろ」
「むぐぅ!」
興奮するナエの顔をジェノスは口を押さえるようにして掴んだ。
すぐに離せとばかりにナエが腕を叩く。それでも放さないジェノスだったが、鼻まで抑えていたせいか苦しそうにもがき始めたので、「静かにしろよ」ともう一度注意してから放してやるのだった。
解放されたナエは肩を上下させて深呼吸を繰り返す。そしてジェノスを睨みつけながら怒声を上げる。
「はぁはぁ、いきなり掴むなオッサン! 息できねえだろ!」
「あん? お前が騒がしいからだろ!」
「騒がしいからって呼吸止めたら死ぬだろ!」
「馬鹿は死なねえと分からねえんだからちょうどいいだろうよ」
「あぁ?」
「また塞がれてえか?」
険悪の空気が流れる……すると、ナエは殴り掛かろうと、そしてジェノスは再び顔を掴もうと腕を振り被る。さすがにマズいと思ったようで、二人の間にクロが入った。
「ふ、二人とも喧嘩しちゃ駄目だって! ワンワン起きちゃうよ!」
「「……ちっ」」
ワンワンの名前を持ち出され、お互い怒りを舌打ちに留めた。二人ともワンワンが大好きなのだ。
そして話し合いを再開する。今後ワンワンをどうするかだ。今やっている勉強は引き続き行っていくにしても、いずれ外に行くなら、やはり戦闘面もどうにかしなければならない。ただ、エンシェントドラゴンの意を汲んで、誰かを傷付ける手段ではない自衛手段を身に付けさせる。それはナエたちの意思でもある。
だが、戦う事など経験のないナエと、自らが攻撃をして戦っていたクロには、相手を傷付けない自衛手段なんてものは想像つかなかった。
するとジェノスは思わせぶりな笑みを浮かべて立ち上がると、積まれた本の上の方から一冊の本を二人に見せた。
だが、文字が未だにほとんど読めないクロには、それが何の本なのか分からない。ただ、ナエもその本を見て首を傾げていた。
「オッサン、これ何だ? いつも習っている文字とまるで違うぜ」
「えっ、そうなの!?」
「クロ……せめて違う文字ってくらい気付けよ……。まあいい、この本は今の文字が使われる前…………三百年くれえ前に書かれた魔法書だ」
魔法書。何らかの魔法の手解きが書かれている書で、読む事によって魔法を習得する事ができる。ただし、魔力が少なかったり、素質がなければいくら読んでも意味がない。
「読めんのか?」
「いや、完全には読めない。だが、この時代の文字は少し知っている。それに他にもこの時代の本や、この時代について詳しく書かれた本もあったから解読はできそうだ……。それにしても、こんな貴重な本を捨てたのはいったい何処の馬鹿だ? ワンワンが回収した本のほとんどが、同一人物の所有物じゃないか? まあ、今回はおかげで助かったけどな」
紙自体貴重であり、本は高級品だ。そして三百年前の魔法書となれば、下手をすれば現代では使い手のいない魔法が記されている可能性すらある。ジェノスはこの本を捨てた人物は大馬鹿者だと笑った。
「まだどんな魔法が書かれてるか分からねえが、相手の動きを止める魔法なんかあればワンワンに覚えさせる。攻撃系の魔法は覚えられるか分からねえが、俺達で試してみるか」
「私も魔法が使えんのか?」
期待の目を向けるナエに、顔を顰めるジェノス。別にナエが魔法を覚えて自分に使うのではと心配をしている訳ではない。ナエが使える可能性が低いと考えたのだ。ナエの魔力は12。それぐらいでは魔法が一回使えるかどうか怪しいところだ。
だが、ワンワンより年上といっても、まだ子供。魔法は誰もが使える訳ではないので憧れもあるだろう。さすがのジェノスも期待に満ちた目を向ける子供に対して大人げない事はしない。
「まあ……もしかすると使えるかもな」
「マジかよっ! よしっ、頑ばっ」
「だから静かにしろって言ってんだろ」
「はふひっ……(悪い……)」
再びジェノスに口を塞がれたナエ。さすがに今のは彼女も自分の否を認めたのだった。
「それにしてもジェノスさん凄いね。昔の文字も読めるなんて」
「ん? 別に大した事はねえ。【鑑定】を使うと、ステータスとかの情報が、文字で視界に現れんだ。だから必然的に文字は覚えないといけなくてな。そんで本を読んだりして、文字を覚えるついでに、色々と覚えていったんだ。まあ、今では好きで本は読んでいるがな」
こうして一通り話すべき事を話し、今夜はお開きとなった。
ちなみにナエ達が小屋に戻ると、ワンワンはぐっすりと小さな寝息を立てて眠っていた。
ジェノスに掴みかかる勢いで身を乗り出して、「ワンワンは戦争に利用されるかもしれねえ」という発言の意味を問いただす。
「ナエちゃん、落ち着いて。あくまで可能性があるってだけだから」
「いや、可能性があるってだけでもヤバいだろ!」
「その可能性も限りなく低い……だから落ち着け。声を抑えねえと、ワンワンが起きちまうだろ」
注意をして渋々といった様子だったがナエは口を閉じた。黙ったところで再びジェノスは語り出す。
「さっきも言ったが、ワンワンのあのステータスは最強の盾になる」
「それは分かったぜ。あのステータスだから戦争に利用されるって事か? だけどよ、あれだけ強かったら抵抗する事もできんだろ?」
「……それは分からん」
「え?」
ジェノスの言葉にナエは首を傾げる。ナエからしたら最もステータスの高いクロよりも、一部ではあるが圧倒的に高いステータスを持っているワンワンが抵抗する事ができない状況が考えられなかった。
ジェノスはワンワンのステータスが書かれた石板を見せながら説明する。
「いいか? 確かにワンワンの守備力なら傷付ける事はほぼ無理だろう。魔法もあるしな……一つは使った事がねえみたいだから詳しくは分からねえが、身を守る魔法であるのは間違いねえだろ」
使った事がない魔法というのは、エンシェントドラゴンから貰った《ミソロジィ・シールド》の事だ。
他の《ミソロジィ・キュア》や《シーカー・アイ》は使用した事はあるのだが、《ミソロジィ・シールド》は一度も使用した事がない。
使う機会がなかった事もあるが、意図的に使わないでいた。それはクロが指示した事だ。《ミソロジィ・キュア》と《シーカー・アイ》は彼女が来る前に使っていたが、《ミソロジィ・シールド》に関しては一度も使った事がなく、エンシェントドラゴンが使ったところさえ見た事がない。それを危険視したのだ。
魔法というものは、実際に魔法を見たりするなど、何らかの過程を経て覚えるものだ。だが、時にはいつの間にか覚えている事がある。このいつの間にか覚えた魔法は厄介なものが多く、使った者に危険が及ぶ場合があるのだ。
たとえば自身が睡魔に襲われどこでも眠り込んでしまったり、モンスターを呼び寄せてしまったりするものだ。エンシェントドラゴンがおかしな魔法をワンワンに渡すとは思っていなかったが、念の為にこれまで使わせなかった。自身は魔法を使わないものの、周りに魔法を使うものが複数いたからそのような判断を下したのだろう。
ただ、《〇〇・シールド》という魔法であれば、基本身を守る魔法で間違いないのだが、そこまではクロは知らなかったようだ。
「だがな、それだけだ。切ったり刺したりできなくても、いくらでもやりようがある。例えばワンワンの身柄を確保するだけだったら、それほど苦労はしねえ。攻撃力が低い……まあ、三桁も高いが、これぐらいなら腕っぷしの良い奴が十人ぐらいで取り囲めば、捕まえられんだろ。そんで拘束して戦場に連れて行かれて……。言う事を聞かなかったら奴隷にして無理矢理、言う事を聞かせんだろうさ…………だが、その可能性は低い」
「どうしてだよ?」
「ステータスを見られなければ問題ないからだ。聖域にいれば人が来る事はねえ」
「なんだ、それじゃあ大丈夫だろ。驚かせるなよな」
ワンワンが戦争に連れて行かれるかもしれないと聞いて、動揺していたナエだったが、ジェノスの言葉を聞いて安堵の息を吐く。だが、クロは浮かない顔のままだ。
「クロ? 何か気になる事でもあるのかよ?」
「あ、うん。ちょっとね……確かにナエちゃんの言う通り聖域にいれば問題ないけど……ワンワンくんはいずれ外に出たいと思っているから……」
「あっ……」
ワンワンが外に行く事を望む限り、この問題は避けては通れない。その事にナエは気付き、ジェノスも元々そこに気付いていたらしく無言で頷いた。
「そうだ。身を守れるようになったら……と、エンシェントドラゴンがワンワンと約束したのは救いだな。でなかったら泣かれようが、嫌われようが、ワンワンを聖域から力づくでも出さないようにしないといけなかっただろう」
「うん、そんな事したくないけど、最悪そうしてただろうね……。街に行けば身分証明書がない人は、必ずマジックアイテムでステータスを確認されるから必ずばれちゃうよ」
「で、でもよっ。この国の街だったら、中立だし国に徴兵される事なんてねえだろ?」
「確かに徴兵される事はない。……ないが、ステータスをどっかの人身売買の組織に流れて、金になると判断されるかもしれねえ。どちらも魔族、人間どちらの戦力も今じゃ傭兵や奴隷でなんとか維持してるんだ。使えんなら非合法な奴隷でも国は高い金を払うだろうさ」
ジェノスは元盗賊団の首領。言う事は現実味があり、本当にそうなってしまう恐れがある事を感じさせた。
実際、ナエもそういった人身売買の組織には心当たりがあった。スラム街で比較的若く、健康そうな男が突然いなくなる事がある。そんな時には決まってスラム街の住人ではない者がよく見かけ、スラムの住人はそういう時はこぞって戦争に買われたんだと口にしていた。
「そ、そんな事、絶対させねえぜっ!」
「当たり前だ。それと声を抑えろと言ってんだろ」
「むぐぅ!」
興奮するナエの顔をジェノスは口を押さえるようにして掴んだ。
すぐに離せとばかりにナエが腕を叩く。それでも放さないジェノスだったが、鼻まで抑えていたせいか苦しそうにもがき始めたので、「静かにしろよ」ともう一度注意してから放してやるのだった。
解放されたナエは肩を上下させて深呼吸を繰り返す。そしてジェノスを睨みつけながら怒声を上げる。
「はぁはぁ、いきなり掴むなオッサン! 息できねえだろ!」
「あん? お前が騒がしいからだろ!」
「騒がしいからって呼吸止めたら死ぬだろ!」
「馬鹿は死なねえと分からねえんだからちょうどいいだろうよ」
「あぁ?」
「また塞がれてえか?」
険悪の空気が流れる……すると、ナエは殴り掛かろうと、そしてジェノスは再び顔を掴もうと腕を振り被る。さすがにマズいと思ったようで、二人の間にクロが入った。
「ふ、二人とも喧嘩しちゃ駄目だって! ワンワン起きちゃうよ!」
「「……ちっ」」
ワンワンの名前を持ち出され、お互い怒りを舌打ちに留めた。二人ともワンワンが大好きなのだ。
そして話し合いを再開する。今後ワンワンをどうするかだ。今やっている勉強は引き続き行っていくにしても、いずれ外に行くなら、やはり戦闘面もどうにかしなければならない。ただ、エンシェントドラゴンの意を汲んで、誰かを傷付ける手段ではない自衛手段を身に付けさせる。それはナエたちの意思でもある。
だが、戦う事など経験のないナエと、自らが攻撃をして戦っていたクロには、相手を傷付けない自衛手段なんてものは想像つかなかった。
するとジェノスは思わせぶりな笑みを浮かべて立ち上がると、積まれた本の上の方から一冊の本を二人に見せた。
だが、文字が未だにほとんど読めないクロには、それが何の本なのか分からない。ただ、ナエもその本を見て首を傾げていた。
「オッサン、これ何だ? いつも習っている文字とまるで違うぜ」
「えっ、そうなの!?」
「クロ……せめて違う文字ってくらい気付けよ……。まあいい、この本は今の文字が使われる前…………三百年くれえ前に書かれた魔法書だ」
魔法書。何らかの魔法の手解きが書かれている書で、読む事によって魔法を習得する事ができる。ただし、魔力が少なかったり、素質がなければいくら読んでも意味がない。
「読めんのか?」
「いや、完全には読めない。だが、この時代の文字は少し知っている。それに他にもこの時代の本や、この時代について詳しく書かれた本もあったから解読はできそうだ……。それにしても、こんな貴重な本を捨てたのはいったい何処の馬鹿だ? ワンワンが回収した本のほとんどが、同一人物の所有物じゃないか? まあ、今回はおかげで助かったけどな」
紙自体貴重であり、本は高級品だ。そして三百年前の魔法書となれば、下手をすれば現代では使い手のいない魔法が記されている可能性すらある。ジェノスはこの本を捨てた人物は大馬鹿者だと笑った。
「まだどんな魔法が書かれてるか分からねえが、相手の動きを止める魔法なんかあればワンワンに覚えさせる。攻撃系の魔法は覚えられるか分からねえが、俺達で試してみるか」
「私も魔法が使えんのか?」
期待の目を向けるナエに、顔を顰めるジェノス。別にナエが魔法を覚えて自分に使うのではと心配をしている訳ではない。ナエが使える可能性が低いと考えたのだ。ナエの魔力は12。それぐらいでは魔法が一回使えるかどうか怪しいところだ。
だが、ワンワンより年上といっても、まだ子供。魔法は誰もが使える訳ではないので憧れもあるだろう。さすがのジェノスも期待に満ちた目を向ける子供に対して大人げない事はしない。
「まあ……もしかすると使えるかもな」
「マジかよっ! よしっ、頑ばっ」
「だから静かにしろって言ってんだろ」
「はふひっ……(悪い……)」
再びジェノスに口を塞がれたナエ。さすがに今のは彼女も自分の否を認めたのだった。
「それにしてもジェノスさん凄いね。昔の文字も読めるなんて」
「ん? 別に大した事はねえ。【鑑定】を使うと、ステータスとかの情報が、文字で視界に現れんだ。だから必然的に文字は覚えないといけなくてな。そんで本を読んだりして、文字を覚えるついでに、色々と覚えていったんだ。まあ、今では好きで本は読んでいるがな」
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