この恋は無双

ぽめた

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十章

昔馴染みとの再会

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「サークス!やっと来たな!
 相変わらず若いなお前は!」

 城に着いてすぐにウィルの私室に通されて、開口一番にそんな事を言われれば、沈んでいた俺がつい明るい笑顔を睨んでしまっても仕方がないと思う。

「言うほどお前は老けたかよ?
 前に来たのはたった一年前だぞ」

 タリュスを探す途中、アズヴァルドにも一度訪れていた。

 魔獣への対策をして国を出ていたが、その後に支障が出ていないか気になった為だ。

「何を言う、もう二十七になるのだぞ。
 あんまりお前が変わらないから見た目で追い越してしまったではないか」

 呆れるウィルは確かに年相応の貫禄が滲み出てきていて、二十そこそこのままの俺の方が歳上だとわかる者はいないかもしれない。

「魔術師は年取るのが遅ぇんだって教えといただろうが」

 事実だが、俺に関してだけのいつもの嘘をつく。
 実際に老化の遅い魔術師でも、外見に出るのはせいぜい十年若くみえる程度の差だ。

 それからウィルとしばらく話をする。
 俺とルーナが指示していった、冒険者ギルドとの連携は上手く機能した事や、ウィルとメリルの結婚式の様子。
 子供はまだだが早く欲しいなと言うウィルに、こっちは二人目が出来たと告げてやると、澄んだ緑色の瞳をこれでもかと見開いていた。

「いつの間に!?」

「わかったのは最近だ。今六ヶ月になる」

「そうか……おめでとう」

「……おう」

 何のてらいもない祝福の言葉と笑顔に、俺も口端を上げる。

「と言うことはタリュス少年も兄になるのだな」

「まあ、そうだ」

「娘でも息子でもいいな。
 とはいえ幼い頃以来、私はあまり姉に会えていないからきょうだいというもの自体わからないが」

「相変わらず辺境から出てこねえのか」

「母君の療養先に着いていった先で恋人ができたらしくてな、さっさと継承権を放棄したよ。
 社交にも殆ど顔を見せずじまいだったから、領民すら元王女と知らずに並んで畑を耕しているそうだ」

「………幸せならいいんじゃねえの」

「そうだな。私もそれでいいと思っている。
 お前も同じだぞサークス。
 一年前は酷い顔をしていたが、今は心配なさそうで安心した」

「だから仕事ついでにそういう確認すんなって」

「おおそうだ、頼み事もあるのだった。
 ……禁書庫の奥の様子が妙なのだ」

 緩んでいたウィルの顔が険しくなる。

「妙ってのは」

「マルーセルの提案で、城の書庫を一般開放した日を設けたのだが、その中に魔術師もいたようでな。
 図書室の奥に魔力の歪みができている、危険な様子だから調査をさせて欲しいと言う者が数人いた」

「歪み……」

 俺は腕組みして思案する。

 禁書庫に張っている結界には、魔術師の目を逸らすための隠蔽魔術をかけてある。
 それすら突破して魔力が漏れでているのであれば、中の状態は良くない。

「わかった。鍵貸せ」

「危険な状態なら逃げるのだぞ」

「誰に言ってんだよ。
 あーでも一応人払いは頼む」

「わかった。
 一時間後には無人になるよう手配する」

 すぐにウィルの指示が下り、一時間後にはがらんとした書庫に一人で俺は佇んでいた。

 しんと静まり返る書庫の中に、張られた結界を確認して歩く俺の靴音だけが響く。

「外側に緩みはない、か」

 ぐるりと一周して呟いて、最後に残った最奥の扉の前で足を止める。
 棚の影に隠されるようにある重厚な小さな扉には、以前と変わらず鎖まで使って厳重に施錠されていた。
 ウィルから借りた黄金の鍵を錠前に差し込み解錠してから、俺は魔導銀ミスリルの杖を呼び出す。

 握る手に、僅かに力が籠る。

 魔道具である杖を介して魔術を振るうようになってから、やはり使用する際には発動時間に誤差がある。
 中の状況次第では、以前との感覚のずれが僅かでも命取りになりかねない。

 この奥に「いる」のはそれ程に危険な存在だ。

 ひとつ深呼吸をして、呟く。

「らしくねえな。白金の魔術師」

 珍しく怯える自身を嘲笑いながら、俺は静かに扉を開けた。

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