この恋は無双

ぽめた

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十章

登城

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 ウィルが無駄に分厚くなるまで認めた手紙に、城へ来い顔を出せここなら空いている、と執拗に書いて寄越した日にちと、マルーセルが会食の予定を入れた日時が同じなのは偶然だった。

 王妃付きの秘書をしているマルーセルが休日で外出すると言うことは、その日は公務もないのだろうから当たり前なのかもしれないが。

 マルーセルはルーナとタリュスにも会いたいし俺にもまた来て欲しいと騒いでいたが、俺は会ったばかりだしまあいいかと、今日はウィルの所へ顔を出す事にした。

 ルーナにはタリュスがついていれば心配ないからだ。
 精霊の力が使えなくとも、体術に優れているタリュスは強いから、そこいらの暴漢程度では相手にならない。
 自分以外の者がルーナを害する事を、許すはずもない。
 ……歪んだ理由ではあるのだが。
 だからタリュスは、ルーナの身に何かあれば必ず守るだろう。

 宿を先に出るルーナとタリュスを見送ってから、俺は賑やかな通りを歩いて城へと向かった。

 途中で見かけた服屋は、二人に服を買った店だなと思い出しながら。

 マルーセルの決めたレストランが高級店なので、見合う服を買う為、数日前に訪れたばかりだ。

 店員にやたらと容姿を誉めちぎられながら、二人分を靴から一式揃えたいと希望した。
 高い服ばかり勧められたのは閉口したが、確かによく似合っていたので結局は購入してしまった。

 タリュスは会計を気にしていたが、俺はそんな些細な事より、採寸したタリュスの身長が殆ど俺と変わらなくなっていた事の方が重要だった。

 差は拳を縦にひとつ分。
 たったそれだけ。

 居なくなった時より目線が近いはずだ。

「……まじで俺よりでかくなんのかもな」

 喧騒に紛れて独りごちる。

 昔からわかっていたはずなのに、成長し続けるタリュスを見ていると複雑な思いが胸に去来する。

 進み続けるタリュスと、止まったまま動けない俺。

 タリュスが俺の見た目より歳上になるのも、そう遠い話ではないかもしれない。

 厄介な時の精霊の魔術。ルーナが見つけてくれた、クロノスという名前の精霊である。

 なかなかこれという解除方法がいつまでも見つからない事に舌打ちが出た。

 契約に使われた懐中時計は今、俺が持ち歩いている。

 ウィルに呼び出されたのは、顔を出すついでに城を守らせている結界の調査を依頼された為でもある。
 場所が禁書庫なので、時間があればクロノスについても改めて調べようかと持ってきたのだ。

 呪いにも似た難解な、忌々しい魔術。

 一日でも早く解いてしまいたいと、昔から願ってきた。

 でなければ。
 この世界のすべてが、俺を残して進んでいってしまう。

 今生きている連中も老いて、いつかは居なくなる。俺だけを、永遠に若いまま取り残して。

 成長して老いたタリュスの姿は見たいと思うが、見送るなんざ真っ平だ。

 タリュスが死ぬなら、その一日前に俺は消えてやる。
 




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