この恋は無双

ぽめた

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九章

教え子に教わる③

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「いい人たちだね。サークのこと、本当に慕ってくれて」

 一日の作業を終えて室内の片付けをしながら、オレは唇の端に小さく笑みが浮かぶのを自覚して呟いた。

「ああ。結局半年近く世話になったな。
 会ってくるか?」

「……え、塔に今居るの」

「記憶にないか。
 銀のワトロンとカイルに銅のヨシュア。
 ジャネットも銅のままだが事務やってるな」

 丁度書類を纏めていたサークは、名簿をほらと差し出してくる。
 該当の頁を捲って記憶を辿ると、確かに全員と既に顔を合わせていた。

「そうか……この人たちも……オレ……」

 ずしりと胸の重石がさらに重みを増した。

 リヴリス達の与える罰はこうやって、理解する度にオレを刺してくる。
 遅効性の、達の悪い罪悪感という名の毒物を含んだその刃は、じわじわとオレの心を蝕むのだ。

 ワトロン、カイル、ヨシュア、ジャネット。
 四人の名簿と作った魔道具を確認しているうちに、唐突に気が付いた。

「そういえば……声かけてきた人達って、もしかして」

「あ?なんだあいつら。
 お前に会いに来てたのか」

「倉庫で探し物してたり、オレが一人でいると、声をかけられる事がたまにあって……
 そうだ、ルーナの事聞かれたんだ」

 年齢から推察するに、多分最初に声をかけてきたのはワトロンだ。
 後から残りの三人らしき人物にも、個人的な事を聞かれた気がする。

「イグニシオン先生のお…………奥さん。
 オレの母親が、どんな人かって。
 容姿とか性格とか簡単に教えたら、やたらにこにこしてたけど」

「……ほう。
 タリュス、最終調整用の訂正指示書あるか。
 四人分」

「あるけど……何するの」

「魔力増幅減らすだけだ」

「ちょっと、嫌がらせしないでよ」

 ちっと舌打ちするサークに名簿を返しながら片付けを終えて。
 オレ達は夕食を摂るために食堂へと移動した。








 今日も大人数が集まり賑わっている食堂で、夕食の乗ったトレイを持ち空席を探していたサークの足がぴたりと止まった。

「相席いいか」

 六人掛けのテーブルにいた四人に頭上から声をかけ、相手の返事も待たずにトレイを置いて椅子に座ったサークは、頬杖をついて笑顔を浮かべた。

 とても好意的ではない、完全に怒っている時の目付きをして。

「他にも席、空いてるだろ。なんで無理に」

「いーから座れ。
 構わねえよなワトロン」

「…………はひ」

 サークに対面に座られた彼の、口に運ぶ途中だったスプーンが空中で震えている。

 ひきつり笑顔で答えたのは、三十歳に届くかどうかの、灰色の髪をした男性だ。

「ワトロン……このひとが」

「ああ。
 カイル、ヨシュア、ジャネット。仕事の調子はどうだよ。
 あれこれ変えちまったから忙しいだろうと思ってたが、タリュスに声かける暇はあるみてえだな?」

 立ったままのオレの視線の先で、同じように固い笑顔で凍りつくのは、ワトロンより少し年上の三人。

「い、イグニシオン先生こそ、毎日お疲れ様でーす……」

「あああ新しい杖だいぶ慣れてきましたよ僕」

「先生の仕事はほんとーに無駄がなくてー決裁回すの楽でぇ助かってま………ごめんなさぁい」

 ジャネットが言い終わる前に、冷たいサークの視線に負けて全員が項垂れた。

「そのくらいにしなよ。
 別にこの人達悪くないだろ」

 呆れて溜め息をつきながら、オレも残ったサークの隣の席にトレイを置いて腰かける。

「俺に隠れてタリュスに何話しかけてんだ。
 用あんなら作業室に来い」

「だって仕事中に聞けないですよー……
 滅茶苦茶気になるのに、聞く暇もないじゃないですか。
 作業終わったらすぐ翡翠宮に二人で引っ込んじゃうし」

 むくれたように言うのは、茶色に近い金色の長い髪の女性。この人がジャネットか。

「こんな美形の、しかも大きい息子さんがいたなんて、昔ジャネットが言った通りだったんじゃないかって痛ててててつねらないで先生!」

「余計な口叩くのは変わってねえなカイル」

 サークの隣に居たので頬をつねられているのは、緑色が所々まじった黒髪をしている、一番歳かさにみえる男性。

「顔は似てるのに髪も瞳も先生とこんなに違うから、奥さんの容姿に近いのかなって思うじゃないですか。
 ちなみに俺の娘達は俺よりお嫁さんに似てまして、もうものっすごく可愛いんですよ」

 娘達、のあたりからほわっと顔を赤らめたのは、眼鏡をかけていて赤い髪色をした男性だ。

「そうかよ。
 娘達はヨシュアのゆるさに似てなきゃいいな」

「あのさ、この人達に助けられたんだろサーク。
 もうちょっとこう、感謝とか敬意とか払ったらどうなんだよ」

 四人の怯える様子が気の毒になってサークに注意すると、一応口をつぐんでくれた。

「お腹空いてるからそんなに怒りっぽいの?サーク。
 ほら、ご飯にしよう。ね?」

「赤ん坊かよ俺は……」

「なんなら食べさせてあげてもいいけど」

「…………自分で食う」

「そう?」

 あんまり四人が怯えた顔をしているので、和ませようとしたんだけど。

 大人しく匙を取るサークが、なんだか苦渋の決断をしたみたいにしかめられているのは何でだろう。



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