この恋は無双

ぽめた

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六章

魔術師狩りと遭遇!

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 それから四日が過ぎて、私はごとごとと進む馬車の中でぐったりしていた。明るく差し込む朝日が寝不足の目に痛い。

「ジュリア、大丈夫……?」

「大丈夫じゃなぁい~。
 とうとう殿下が夢にまで出てきて……悪夢だったよ……」

「目の下、隈になってるね。
 隠してあげるからこっち向いて」

「うう、ありがとう……
 司祭様達、公式行事の時しか使わせてくれないから、お化粧道具持ってなくて」

「神託を受けた者は産まれたままの姿で、だもんね。
 でもジュリアの肌は綺麗だから必要ないわよ」

「そうかなあ、手入れはその分きちんとしなさいって言われてやってるからかな」

 気遣わしげなリュシールにお化粧をしてもらいながら、溜め息をつく。
 瞼を閉じた途端に、ライリー殿下の傲慢さ満点の笑顔が浮かんできて、慌てて首を振ってしまった。

「きゅ、急に動かないで」

「あっごめん、今嫌な残像が見えて」

「……特別に口紅もしてあげる。
 薄い色だけど、可愛い色なの」

「え、嬉しい」

「今は少しでも楽しい気持ちになってほしいもの。
 ジュリアが笑っていてくれたら私は嬉しいから」

「リュシール……」

 出会った頃から、彼女はいつもこんなふうに優しい。
 薄く微笑んで私に口紅を塗ってくれるリュシールが見とれてしまうほどに可愛らしくて、本当に私より聖女みたいだ。

「鏡、見てみて。どうかな」

「わ……凄い」

 手鏡に映る私は、すっかり隈も隠れて唇もつやつや。いつもより割増に可愛いように思えて嬉しくなる。

「ありがとうリュシール!元気出たかも」

「良かった。
 普段より綺麗にしてると思うと、気持ちが明るくなるよね」

「うん!」

 にっこり笑って手鏡を返す私に、ほっとしたようにリュシールも笑い返してくれた。
 お化粧道具をしまいながら、それにしてもと彼女は呟く。

「その寝不足の原因にも困ったものね。
 出発した日からずっと殿下につきまとわれて、疲れてるのよ」

「……そうね……」

 少し上向いた心がまた重くなって、私は盛大に溜め息をつく。

「いつも隣に並んできて話しかけてくるし、話す内容は自分語りだし自己中全開だから、それはおかしいって私が言い返せば面白い面白いってにやにやしてるし……新手の嫌がらせかな」

「気を引こうとしてると思うんだけど……」

「どうしてよ」

「んー……ジュリアが身分差も関係なく素直に反応するからかな。
 王宮にいたらそんな事をする人、いないでしょ?不敬罪で捕らえられるもの」

「行ったことがなくて良かった、そんな窮屈な所」

「ちょっと聞きたかったんだけど、殿下に興味を持たれて、嬉しいとかは思わないのね。
 殿下はお顔立ちが綺麗だし、頭もよくて優秀だって評判なのよ。この国の女性なら誰でも憧れるわ。
 私達、神にお仕えしているけど結婚は許されているから、もし本当に見初められたとしたら凄いことじゃない」

「丁重にお断りします。というか殴ってでも全力で逃げる」

「そんなに!?」

「王妃様なんて冗談じゃないわ。絶対なりたくない無理無理。
 昔は、教会と国の繋がりを強くするために嫁がされた聖女もいたそうだけど、今はそんなことしないんだって。
 それにね」

 ふふっと笑う私をリュシールは不思議そうに眺める。

「私、もっと素敵な人を知ってるの」

 性格に難がありまくりとはいえ、美形だ有能だと言われているらしいライリー殿下など、その人に比べたら大した事ないのだ。

「きっとリュシールも、彼に会ったら解るわ」

 その時、車輪の軋む音が振動と共に伝わってきて、突然馬車が止まった。

「どうしたのかな。休憩まではまだ早いよね」

「イリアスさん?」

 リュシールが窓を開けて御者台のイリアスに声をかける。
 彼は肩越しに振り返って一言告げた。

「どうやら魔術師狩りのお出ましみたいだぞ」

「……えっ」

「危ないから出るなよ。って、おい!」

 魔術師狩りを捜していたとはいえ、指名手配などされている人物が本当に現れたので、リュシールの表情が恐怖に強張った。
 対して私はイリアスの制止も聞かず、勢いよく馬車から飛び降りる。

 周囲を見回せば、辺りは街から遠く離れた街道だった。
 風避けの為に植えられた街路樹が、吹き付ける冬の冷たい風に枝を揺らしている。
 暖かい馬車から降りた身体をひやりとした風が撫でていき、ぶるりと背が震えたけれど構ってはいられない。

「ようやく現れたな!
 我々の仲間を襲う不届き者めが!」

 ライリー殿下の大きな声が人垣の向こうから聞こえる。
 私達の乗る馬車は魔術師団の後ろについていた為、対峙している人物の姿が見えない。

「イリアス早く!こっち!」

「待て!勝手に行くな!」

 声のする方へ、一団をぐるりと横から回り込むように駆け出す私の後ろから、イリアスが制止の声をかけながら追ってきてくれる。
 ちらりと振り返ればリュシールも一緒だ。
 イリアスが、馬車に置いておくより側にいた方が守りやすいと判断して連れてきたのかもしれない。

「危ないわよジュリア、戻って!」

 ……いや、私を心配して着いてきてくれたみたいだ。
 すぐ横では魔術師達が手配犯に向かって杖を構え、一触即発の状況だというのに。

 うん、こんないい友達は私が絶対に守ろう。

 同行をお願いした時から決めていたけれど、さらに決意を強くする。
 ぐっと誓いの拳を握った私は、居並ぶ魔術師団の先頭の列の端でざっと足を止めた。

「ランドールの主力魔術師って、あんた達で全員?」

 気だるげな、それでいて艶のある高めの男性の声が場に響いた。
 会話を普通にする程度の声量だというのに、甘い声は明瞭に耳朶を打った。

 私達の行く手を阻むように道を塞ぐのは、一人の青年。
 黒いロングコートにすらりとした細い体躯を包み、臆する事なく魔術師団を見つめる白い面は女性かと見間違う程の美貌。

 ーータリュス君だ。

 手配書の写真で見たより、本物の方がずっと綺麗だ。写真機で再現できずに、ドワーフの技術者も悔しがったかもしれない。
 彼の周囲の空気すらきらきらしている気がする。

 タリュス君の視線は魔術師団に向けられたまま。けれど彼がいると解った途端、走った為でなく頬が熱くなるのを自覚する。

「無論、我がランドール魔術師団の精鋭だ!
 降伏しろ魔術師狩り!我らの友の力を奪った貴様に手加減などせんぞ!」

 朗々と響くライリー殿下の声に合わせて、魔術師達の杖の先端に光が迸る。
 赤、青、緑、黄の光がバチバチと危険な音を放ち始めた。

 いけない、戦いになる前に話をしなきゃ!

「待って!」

 対峙する一同の間に、私は両手を広げて割って入った。

「馬っ鹿やめろ!」

「ジュリア!」

 飛び出した私をイリアスとリュシールが背後に庇う。
 こちらにタリュス君がゆっくりと視線を向けると、どくん、と鼓動が跳ねた。





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