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一章
アズヴァルド王城に着きました
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王都の目抜き通りを真っ直ぐに進むと、遠くに霞んでいた王城がその姿をはっきりと現した。
白壁の美しいお城にはいくつも尖塔がそびえていて、きれいに晴れた青空を悠々と大きな鳥が飛んでいる。
城を囲む堀に掛けられた大きな跳ね橋を渡りきり、僕達は数日間お世話になった荷馬車から降りた。
実は僕達が乗せてもらっていた荷馬車には、騎士さん達の荷物の他にマンティコアの首なんかも乗っていた。
中身が腐らないよう、保護の魔術をサークが施していたりする。
途中の街で調達した木箱に入れて、一応は見えないように布で包んではあったけど。
あまり気持ちの良いものでもないので、離れられてようやくほっとする。
「さて、我々が同行できるのはこのあたりまでだな。
楽しかったよ、イグニシオン殿、タリュス君。
君たちのお陰で無事に全員帰還できた。ありがとう」
城の大門が開くまでの間に、うーんと伸びをして体をほぐしていると、ブライアンさんが馬から降りて笑顔で別れの挨拶をしてくれる。
「しばらく滞在するのだろう?我らも城内の騎士団寮に居るものが多い。
何かあれば訪ねてくるがいい」
イムジスさんもにかりと笑って、バンバンとサークの肩を叩いた。
馬鹿力め……と唸るサークの声に被せるように、周りにいたヤノスさんやハリスト君、騎士さん達が口々に挨拶をしてくれた。
ああ、やっぱり寂しいな。
何日いるかわからないけど、機会があれば顔をだそう。
やがて大門が開ききると、門兵のおじさんが鎧を鳴らしながら二人出てくる。
「第六騎士団、只今帰投した。
陛下の客人をお連れしているので、案内を頼む」
ブライアンさんが声をかけると、門兵のおじさんは頷いて、こちらへと中に案内してくれる。
その後ろについてサークが歩きだしたので、僕は騎士さん達に手を降りながら後を追った。
城内に入ると空気は一変し、荘厳なものに変わる。
どこかひんやりとしていて、そこかしこに生けられた大きな花瓶の花が、互いを邪魔する事なく調和を保って芳香を放つ。
ホールになっている入口の正面には大きなステンドグラスの窓。
大理石の床はぴかぴかに磨きあげられ、土足で上がるのが躊躇われるくらいだ。
天井にも大きなシャンデリアが輝き、ステンドグラスからの陽光を受けてきらきらと輝いている。
他にも銀の甲冑や、美しい風景の絵が金の額縁に飾られていたりと、とにかくまばゆい空間に目が眩んだ。
「相変わらず派手だな。
権威とやらを保つためには装飾は必要らしいが」
ぽつりと呟くサークの声を遮るように、背後で扉が木の軋む重い音を立てながら閉じられた。
階段横の扉から、しずしずと二十代くらいの年齢だろう、きれいなメイドさんが現れて僕らの前で優雅に一礼する。
「ようこそおいで下さいました。わたくしはニファと申します。
王城に滞在なさる間のお世話をさせて頂きます」
優美な鳥が羽を広げるようにふわりと頭を下げてお辞儀をしてから、まっすぐに背を伸ばして僕達を見る。
紅茶色の髪を結い上げていて、黒に近い紺色の瞳をしたきりっとした顔立ちの美人なお姉さんだ。
「長旅でお疲れでしょう。こちらで陛下の御呼びがあるまでお休みくださいませ」
そしてしずしずと廊下を奥に向かって歩き始めた。
僕達は大人しくニファさんを追っていく。
しばらく行くと、ひとつの扉の前で立ち止まり中に通された。
中は落ち着いた調度品で整えられた応接室だ。
大きく解放された窓には白いレースのカーテンがかけられて、風にふわりと揺れた。その向こうからだろう、薔薇の香りが届いてくる。
目を凝らしてみると、美しい花々が咲き誇る中庭が見えた。
豪華な室内や庭園に気圧されている僕に構う事なく、落ち着いた様子でサークはソファーにどっかりと腰を下ろし、長い脚を組む。
うーん、態度が大きいのはどこに行っても変わらない。
ここまでくると、見習うべきなのかとさえ思えてくる。真似はできないけど。
僕はテーブルを挟んでサークの向かいのソファーに腰掛けた。
ふかふかすぎて腰が思い切り沈んでしまい、あわてて前のめりに座り直す。
荷馬車に揺られ続けたせいか、逆に豪華すぎて落ち着かない。
居心地悪い気分でいると、ニファさんが紅茶と焼き菓子を手際よく供してくれた。
「御用の際はこちらの呼び鈴を鳴らしてお呼びください。それではしばしお待ち下さいませ」
扉近くに置かれた小さな棚の上にある呼び鈴を示してから、またきれいなお辞儀と共に部屋を出ていった。
「あー……さすがに疲れたな。天気もいいし、昼寝でもするか」
紅茶をひとくち飲んでから、ひとつあくびをしたサークは、言いながらソファーにゆったりと長身を預ける。
悔しいけど、様になっていて格好いい。
僕はソファーが大きくて身体に合わず、背中をつけると足が浮いて落ち着かないから、自然と姿勢が前のめりになってしまう。
はぁ、早く身長伸びてくれないかなあ……
少しだけ憂鬱な気分になりながらも、淹れてもらった紅茶に口をつける。
あ、ローズティーだ。
ふわりと広がる薔薇の香りがとても優しくて、美味しい。
「昼寝って。いつ王様に呼ばれるかわからないのに寝てたらまずいでしょ?
おとなしくしてようよ」
「いーんだよ気を使わなくて。あっちの都合で待たされんだから、そんなに緊張してたら疲れるぞ。
王様ったって初対面でもねぇし、あいつの性格どんなだか覚えてんだろ?」
言われて、以前会った王様の事を思い出す。
五年前に僕がこの街の魔術師ギルドに来た時、別件でお会いしたんだった。
「んーと。ライオンみたいな豪快なお兄さん」
ひねり出した印象がそれだった。
まだ王位を継ぐ前だったけど、王子様というよりかは冒険者ギルドにいそうな、快活で声の大きいひとだったと思う。
「はっ、まあ遠くないな。
手紙の様子からすると、少しは落ち着いたかもしれねえが、あんま変わんねえだろ」
その時、ドアがトントンとノックされる。
かと思うと、次の瞬間ばあんと勢いよくドアが開かれた。
「待たせて済まないな!
久方ぶりだなサークス、タリュス君!」
大きな声と共にきらきらした塊が現れた。
いや違った、よく見たら豪華な衣装を身につけた男性だ。
声の主はなんと、話題の主であるアズヴァルド国王。
ニファさんみたいなメイドさんに呼ばれて王様のいる部屋に呼び出されると思っていたから、まさか直々に来てくれるとは思ってもいなかった。
「相変わらずうるせえな……
来てやったぞ雇い主」
だらけた姿勢を正しもせず、しかめ面でサークが応じるので僕の方が慌ててしまう。
僕は手にしていたカップをソーサーに戻し、反射的にぴしっと立ち上がってお辞儀をした。
「お、お久しぶりです国王様。わざわざお越しいただいて恐縮です」
すると、きょとんとした顔で王様が僕を見る。
あれ、変なこと言ったかな。
きちんとした言葉遣いって難しいから、何か間違えたかな。
王様はすたすたと部屋に入ってきて、どかりとサークの隣に無理やり座った。
その後ろで、ドアを閉めるメイドさんの姿がちらりと見える。
あ、やっぱり王様一人な訳じゃないんだ。
近くに使用人が控えているだろうし、不敬にならないように気をつけないと、いつ罰せられるかわからない。
「おいサークス。お前一体どんな教育をしてるんだ?
お前と暮らしてるのに、ちゃんとした良い子に育ったじゃないか。行儀見習いでも雇ったのか?」
「ふざけんな誰が雇うかそんなもん。つうか寄るな暑苦しい」
興味津々と言った体で顔を寄せる王様の肩をぐいぐい押し返すサーク。
うわわ、いつも通りすぎる。
「ちょ、サーク、ねえ失礼だよ、王様だよ?
もっと敬意とかそういうのちゃんとしないと!
不敬罪で首が飛んだらどうするのっ」
わたわたと僕が慌てていると、王様が笑いだした。からっとした嫌味のない笑い声。
「気にすることはないぞタリュス君。我々は友人同士なのだ、君も畏まらず接してくれ。
私のこともウィルと呼んで構わん」
そうしてにかりと笑う。
いいのかなあ、本当に……
ウィルフレード・ライア・アズヴァルド国王。
オレンジがかった黄金の髪はまるでライオンのたてがみの様に豪勢で、肩の上までの長さ。
健康的に日に焼けた肌に、好奇心旺盛に辺りを見つめる緑玉の瞳をしていて、野性味を感じる端正な顔立ち。
年齢は三十才に届くかどうかくらい。
服装は房飾りの装飾がついた衣裳に深紅のマントを羽織っていて、溌剌とした王様によく似合っている。
ソファーに身を寄せて座っている背の高い二人は、まるで獅子と黒豹みたいで対照的だなと思う。
「だとよ、いいから座れって。
城の奴らもこいつの性格に慣れてるから敬語でなくても平気だ」
「ああ、そうでなくてはサークスの首など二、三回はすでに飛んでいなければおかしい。いやもっとか?
私が子供の頃、噴水に叩き落とした時などは流石に臣下も黙ってはいられなかったようだが、お咎めなしだったのだからな」
「あれはお前が悪かったろ。俺は小生意気なクソガキに礼儀を教えただけだ」
「ちょっと……あんまり詳しく聞きたくないけど、昔からなにやってるのさ……
というか、そんなに昔からお知り合いなんだね」
なんというか、ほんとに仲が良いのが話していてわかる。
名前で呼ばれるのを嫌うサークが、ウィル様には許しているし。
前に来たときはもっと畏まった場で、他のお城のひともいたからかここまで距離感が近くなかったように思う。
「君が来る以前からの付き合いだからな。懐かしい話もしたいところだ。
そうだ君達、昼食は済ませたか?
私はこれからなのだ、今まで謁見の間にいたからな。
よければ共に食事をしよう。今回の仕事の報告も兼ねて」
「あー……そういや、腹へったな。そうするわ」
あっさりとサークが同意して、王様と食事会兼報告会をすることになった。
お城のご飯かあ。
楽しみだけど、テーブルマナーとか自信ないな。
どうしても感じてしまう、大人のサークとの経験値の差を恨みつつ、僕も頷いた。
白壁の美しいお城にはいくつも尖塔がそびえていて、きれいに晴れた青空を悠々と大きな鳥が飛んでいる。
城を囲む堀に掛けられた大きな跳ね橋を渡りきり、僕達は数日間お世話になった荷馬車から降りた。
実は僕達が乗せてもらっていた荷馬車には、騎士さん達の荷物の他にマンティコアの首なんかも乗っていた。
中身が腐らないよう、保護の魔術をサークが施していたりする。
途中の街で調達した木箱に入れて、一応は見えないように布で包んではあったけど。
あまり気持ちの良いものでもないので、離れられてようやくほっとする。
「さて、我々が同行できるのはこのあたりまでだな。
楽しかったよ、イグニシオン殿、タリュス君。
君たちのお陰で無事に全員帰還できた。ありがとう」
城の大門が開くまでの間に、うーんと伸びをして体をほぐしていると、ブライアンさんが馬から降りて笑顔で別れの挨拶をしてくれる。
「しばらく滞在するのだろう?我らも城内の騎士団寮に居るものが多い。
何かあれば訪ねてくるがいい」
イムジスさんもにかりと笑って、バンバンとサークの肩を叩いた。
馬鹿力め……と唸るサークの声に被せるように、周りにいたヤノスさんやハリスト君、騎士さん達が口々に挨拶をしてくれた。
ああ、やっぱり寂しいな。
何日いるかわからないけど、機会があれば顔をだそう。
やがて大門が開ききると、門兵のおじさんが鎧を鳴らしながら二人出てくる。
「第六騎士団、只今帰投した。
陛下の客人をお連れしているので、案内を頼む」
ブライアンさんが声をかけると、門兵のおじさんは頷いて、こちらへと中に案内してくれる。
その後ろについてサークが歩きだしたので、僕は騎士さん達に手を降りながら後を追った。
城内に入ると空気は一変し、荘厳なものに変わる。
どこかひんやりとしていて、そこかしこに生けられた大きな花瓶の花が、互いを邪魔する事なく調和を保って芳香を放つ。
ホールになっている入口の正面には大きなステンドグラスの窓。
大理石の床はぴかぴかに磨きあげられ、土足で上がるのが躊躇われるくらいだ。
天井にも大きなシャンデリアが輝き、ステンドグラスからの陽光を受けてきらきらと輝いている。
他にも銀の甲冑や、美しい風景の絵が金の額縁に飾られていたりと、とにかくまばゆい空間に目が眩んだ。
「相変わらず派手だな。
権威とやらを保つためには装飾は必要らしいが」
ぽつりと呟くサークの声を遮るように、背後で扉が木の軋む重い音を立てながら閉じられた。
階段横の扉から、しずしずと二十代くらいの年齢だろう、きれいなメイドさんが現れて僕らの前で優雅に一礼する。
「ようこそおいで下さいました。わたくしはニファと申します。
王城に滞在なさる間のお世話をさせて頂きます」
優美な鳥が羽を広げるようにふわりと頭を下げてお辞儀をしてから、まっすぐに背を伸ばして僕達を見る。
紅茶色の髪を結い上げていて、黒に近い紺色の瞳をしたきりっとした顔立ちの美人なお姉さんだ。
「長旅でお疲れでしょう。こちらで陛下の御呼びがあるまでお休みくださいませ」
そしてしずしずと廊下を奥に向かって歩き始めた。
僕達は大人しくニファさんを追っていく。
しばらく行くと、ひとつの扉の前で立ち止まり中に通された。
中は落ち着いた調度品で整えられた応接室だ。
大きく解放された窓には白いレースのカーテンがかけられて、風にふわりと揺れた。その向こうからだろう、薔薇の香りが届いてくる。
目を凝らしてみると、美しい花々が咲き誇る中庭が見えた。
豪華な室内や庭園に気圧されている僕に構う事なく、落ち着いた様子でサークはソファーにどっかりと腰を下ろし、長い脚を組む。
うーん、態度が大きいのはどこに行っても変わらない。
ここまでくると、見習うべきなのかとさえ思えてくる。真似はできないけど。
僕はテーブルを挟んでサークの向かいのソファーに腰掛けた。
ふかふかすぎて腰が思い切り沈んでしまい、あわてて前のめりに座り直す。
荷馬車に揺られ続けたせいか、逆に豪華すぎて落ち着かない。
居心地悪い気分でいると、ニファさんが紅茶と焼き菓子を手際よく供してくれた。
「御用の際はこちらの呼び鈴を鳴らしてお呼びください。それではしばしお待ち下さいませ」
扉近くに置かれた小さな棚の上にある呼び鈴を示してから、またきれいなお辞儀と共に部屋を出ていった。
「あー……さすがに疲れたな。天気もいいし、昼寝でもするか」
紅茶をひとくち飲んでから、ひとつあくびをしたサークは、言いながらソファーにゆったりと長身を預ける。
悔しいけど、様になっていて格好いい。
僕はソファーが大きくて身体に合わず、背中をつけると足が浮いて落ち着かないから、自然と姿勢が前のめりになってしまう。
はぁ、早く身長伸びてくれないかなあ……
少しだけ憂鬱な気分になりながらも、淹れてもらった紅茶に口をつける。
あ、ローズティーだ。
ふわりと広がる薔薇の香りがとても優しくて、美味しい。
「昼寝って。いつ王様に呼ばれるかわからないのに寝てたらまずいでしょ?
おとなしくしてようよ」
「いーんだよ気を使わなくて。あっちの都合で待たされんだから、そんなに緊張してたら疲れるぞ。
王様ったって初対面でもねぇし、あいつの性格どんなだか覚えてんだろ?」
言われて、以前会った王様の事を思い出す。
五年前に僕がこの街の魔術師ギルドに来た時、別件でお会いしたんだった。
「んーと。ライオンみたいな豪快なお兄さん」
ひねり出した印象がそれだった。
まだ王位を継ぐ前だったけど、王子様というよりかは冒険者ギルドにいそうな、快活で声の大きいひとだったと思う。
「はっ、まあ遠くないな。
手紙の様子からすると、少しは落ち着いたかもしれねえが、あんま変わんねえだろ」
その時、ドアがトントンとノックされる。
かと思うと、次の瞬間ばあんと勢いよくドアが開かれた。
「待たせて済まないな!
久方ぶりだなサークス、タリュス君!」
大きな声と共にきらきらした塊が現れた。
いや違った、よく見たら豪華な衣装を身につけた男性だ。
声の主はなんと、話題の主であるアズヴァルド国王。
ニファさんみたいなメイドさんに呼ばれて王様のいる部屋に呼び出されると思っていたから、まさか直々に来てくれるとは思ってもいなかった。
「相変わらずうるせえな……
来てやったぞ雇い主」
だらけた姿勢を正しもせず、しかめ面でサークが応じるので僕の方が慌ててしまう。
僕は手にしていたカップをソーサーに戻し、反射的にぴしっと立ち上がってお辞儀をした。
「お、お久しぶりです国王様。わざわざお越しいただいて恐縮です」
すると、きょとんとした顔で王様が僕を見る。
あれ、変なこと言ったかな。
きちんとした言葉遣いって難しいから、何か間違えたかな。
王様はすたすたと部屋に入ってきて、どかりとサークの隣に無理やり座った。
その後ろで、ドアを閉めるメイドさんの姿がちらりと見える。
あ、やっぱり王様一人な訳じゃないんだ。
近くに使用人が控えているだろうし、不敬にならないように気をつけないと、いつ罰せられるかわからない。
「おいサークス。お前一体どんな教育をしてるんだ?
お前と暮らしてるのに、ちゃんとした良い子に育ったじゃないか。行儀見習いでも雇ったのか?」
「ふざけんな誰が雇うかそんなもん。つうか寄るな暑苦しい」
興味津々と言った体で顔を寄せる王様の肩をぐいぐい押し返すサーク。
うわわ、いつも通りすぎる。
「ちょ、サーク、ねえ失礼だよ、王様だよ?
もっと敬意とかそういうのちゃんとしないと!
不敬罪で首が飛んだらどうするのっ」
わたわたと僕が慌てていると、王様が笑いだした。からっとした嫌味のない笑い声。
「気にすることはないぞタリュス君。我々は友人同士なのだ、君も畏まらず接してくれ。
私のこともウィルと呼んで構わん」
そうしてにかりと笑う。
いいのかなあ、本当に……
ウィルフレード・ライア・アズヴァルド国王。
オレンジがかった黄金の髪はまるでライオンのたてがみの様に豪勢で、肩の上までの長さ。
健康的に日に焼けた肌に、好奇心旺盛に辺りを見つめる緑玉の瞳をしていて、野性味を感じる端正な顔立ち。
年齢は三十才に届くかどうかくらい。
服装は房飾りの装飾がついた衣裳に深紅のマントを羽織っていて、溌剌とした王様によく似合っている。
ソファーに身を寄せて座っている背の高い二人は、まるで獅子と黒豹みたいで対照的だなと思う。
「だとよ、いいから座れって。
城の奴らもこいつの性格に慣れてるから敬語でなくても平気だ」
「ああ、そうでなくてはサークスの首など二、三回はすでに飛んでいなければおかしい。いやもっとか?
私が子供の頃、噴水に叩き落とした時などは流石に臣下も黙ってはいられなかったようだが、お咎めなしだったのだからな」
「あれはお前が悪かったろ。俺は小生意気なクソガキに礼儀を教えただけだ」
「ちょっと……あんまり詳しく聞きたくないけど、昔からなにやってるのさ……
というか、そんなに昔からお知り合いなんだね」
なんというか、ほんとに仲が良いのが話していてわかる。
名前で呼ばれるのを嫌うサークが、ウィル様には許しているし。
前に来たときはもっと畏まった場で、他のお城のひともいたからかここまで距離感が近くなかったように思う。
「君が来る以前からの付き合いだからな。懐かしい話もしたいところだ。
そうだ君達、昼食は済ませたか?
私はこれからなのだ、今まで謁見の間にいたからな。
よければ共に食事をしよう。今回の仕事の報告も兼ねて」
「あー……そういや、腹へったな。そうするわ」
あっさりとサークが同意して、王様と食事会兼報告会をすることになった。
お城のご飯かあ。
楽しみだけど、テーブルマナーとか自信ないな。
どうしても感じてしまう、大人のサークとの経験値の差を恨みつつ、僕も頷いた。
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