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一章

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 この国の、国王陛下に報告する? 何やら自分に関わる事柄で? とリズリットが目を白黒とさせていると、ハウィンツがリズリットのソファまでやって来て、安心させるようにリズリットの肩をそっと自分の腕で抱き寄せた。

「大丈夫だ、リズリット。別に悪い事が起きている訳ではないから、不安を感じる必要は無い」
「──ああ、ハウィンツの言う通りだリズリット嬢。ここを引き上げたら陛下へ会いに行かなければいけなくなってしまったが……なに、街へ出掛ける予定が陛下の元へ出掛ける事に変更されてしまっただけだ」

 あっさりとなんて事無い、と言うような軽い口調で告げるディオンに、リズリットは目を剥く。
 この国の国王陛下に、「ちょっと会いに来た」と言うような軽い態度で会いに行く事は出来ない。

「ちょ、ちょっとお待ちを……っ! そんな、今日の今日で陛下と謁見する事など……っ」

 そんな事は不可能では無いか、不可能だと言って欲しいと言う気持ちを込めてリズリットは口にするが、ディオンはリズリットのその淡い希望をあっさりと打ち砕く。

「いや。精霊の事に関してはいつでも謁見出来る」
「──ディオンはな」

 ディオンの言葉の後に、ハウィンツがぽつりと言葉を付け足す。
 この国の国民、貴族であってもいくら精霊の事とは言え、国王陛下に直ぐ会う事など出来やしない。
 だが、目の前に居るディオン・フィアーレンはそのような緊急の拝謁も許されているらしいと知り、リズリットはソファの背もたれに力無く凭れる。

 ふらり、と体から力が抜けたリズリットにディオンはあわあわと慌てるとソファから立ち上がり、リズリットへと歩み寄るがリズリットは自分の額に手を当てたまま唇を開いた。

「──えっと、……陛下の元へ向かう事は分かりましたが……その、私は先程の白麗さんの言葉の殆どを理解しておりません……。今の私の状態は、それほどに大変な事になっているのですか……?」

 不安気に瞳を揺らし、そう問うてくるリズリットに、ディオンはリズリットの側までやって来るとリズリットの座るソファの足元に跪き、そっとリズリットの両手を握り締める。
 緊張にか細く震え、手が冷たくなってしまっているリズリットの手を温めようとディオンはぎゅっ、とリズリットの手を握り締めたままこくり、と頷き肯定する。

「──ああ。白麗が言っていたのは、恐らくこの国に数多存在する精霊を統べる者……王、とでも言うべきか……精霊王の気配を、リズリット嬢から感じた、と言っている」

 ディオンの言葉に、リズリットは今度こそふらりとソファに倒れ込んだ。





 白麗からとんでもない事実を知らされたリズリット、ハウィンツ、ディオンの三人は二手に別れる事にした。

 ディオンが突入して来た騎士達にハウィンツを残して行くから以後はハウィンツと共に行動し、精霊を惑わす薬を地下倉庫から押収したら王城へ運ぶように伝えておく。
 同時に、捕らえたロードチェンスの令嬢、リリーナとその両親、ロードチェンス子爵とその妻も王城へ連行してくるように伝え、ディオンはリズリットと共に一足早く王城へと向かい、国王であるウィリアムと会う事にした。

「ロードチェンス子爵邸の者達は使用人も含め、全て重要参考人として王城へ連れてくるようにして欲しい。捕らえた三人は、王城に着いたら近衛の指示に従ってくれ。恐らく貴族用の牢へと入れられる筈だ」
「分かった。じゃあ、俺は後は薬を押収したら終わり、だな?」
「ああ。鶺鴒は引き上げさせるから、漏れのないよう、全て押収してくれ。地下倉庫はここ……。そして鶺鴒が怪しい隠し通路があると言っていたのはここ、だ。もしかしたら隠し部屋があるかもしれん」
「分かった。その隠し通路の奥にあるかもしれない隠し部屋も確認しておく」
「ああ。頼んだ。被害に遭って居た精霊は、既に解放してある。もし協力してくれそうだったら近付いて来るだろう。そこはハウィンツに任せた」

 リズリットは、二人から少し離れた場所でそわそわと何処か落ち着かない気持ちで佇んでいる。

 先程、三人で話していた部屋を出て、子爵邸の庭先に場所を移している。
 お茶会の為に子爵邸を訪れていた令嬢達は、後日改めて呼び出し、今回の事件と繋がりが無いか調査と確認を行う予定らしい。

「じゃあ、ハウィンツ。また王城で」
「ああ。──リズリット! 後で俺も行くから安心してくれ」

 話が終わったのだろう。
 ハウィンツの元から離れ、リズリットの元へと向かって来るディオンの奥でハウィンツがリズリットに向けて声を上げ、手を振っている。

 リズリットはいつも通りのハウィンツの態度に安心し、ほわりと笑顔を浮かべると軽く手を振り返す。



「待たせてすまない、リズリット嬢。それでは向かおうか」
「は、はい。ディオン様」

 馬車で向かうのだろうか、とリズリットが馬車を探そうと視線を巡らせた所で、ディオンが白麗の名前を呼んだ。

「──白麗。急ぎだ、頼む」
「はいはいー。リズリットちゃんならおっけーよ」

 ディオンの言葉に、白麗が言葉を返すと白麗の体がふわり、と眩い光に包まれる。

 光に、リズリットは咄嗟に目を閉じてしまったが、光が収まって恐る恐る再びリズリットが瞼を持ち上げると、目の前には可愛らしい大きさだった白麗の体が、いつの間にか巨大な白龍の姿を取り戻しており、リズリットは呆気に取られた。
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