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一章
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しおりを挟む白麗は、自分の主であるディオンが突入して来た騎士達に現状の説明と、地下倉庫についての指示をしている所を見詰めながら、リズリットから感じられるその気配にぶるり、と体を震わせる。
(主に、何とか気付いて貰えるような上手い説明が出来るかしら……。私達、あの方について多くを話せないから……ああ、どうしたら……っ)
「白麗、さん……? ど、どうしましたか? 大丈夫ですか?」
もしや、自分を守る為に白麗自身に何かあったのか、とオロオロし出してしまうリズリットに、白麗は「何でもないわ」と穏やかに声を掛けるとすりすりとリズリットに頬擦りする。
忙しなくバタバタと室内と、廊下へと往復するディオン以外の騎士に視線を向けていると、廊下の奥からリズリットを呼ぶ良く聞きなれた声が聞こえてきて、リズリットはぱっと表情を明るい物へ変えると白麗を肩に乗せたまま扉へと小走りで向かった。
「リズ! リズリット! 何処に居る!?」
「──ハウィンツお兄様!」
廊下を駆け足でぱたぱたと駆けて来るハウィンツを扉からひょこり、と顔を出したリズリットが兄の名前を安心したような声音で叫び、ハウィンツがリズリットの声に反応して駆ける速度を上げるとリズリットの元へとやって来た。
「ああ、リズリット! 何処にも怪我は無い? 擦り傷一つ付けていないね? ディオンに不埒な事もされていないね?」
がしっ、とハウィンツはリズリットの頬を自分の両手で掴むと、物凄い形相でそう聞いて来る。
「えっ、ええっ!?」
ハウィンツの最後の言葉に大袈裟に反応してしまったリズリットは、そのリズリットの反応に瞬時に目を据わらせたハウィンツに向かってぶんぶんと勢い良く首を横に振る。
「どっ、何処にも怪我はありませんし、ディオン様がそのような事なさる筈がありません……っ!」
「──怪我が無くて本当に良かったよ……。でも、ディオンの事に関しては同意出来ないな、そんな事をするような人間に見えない奴が一番危ないんだ」
「え、えぇ……?」
何処か確信を持ったような表情と声音でそう告げるハウィンツの声がディオンの耳にも届いていたのだろう。
先程まで部屋の奥で騎士達と話していたディオンがゆっくりとリズリット達に近付いて来ながら「心外だ」と言うように話し掛けて来る。
「──ハウィンツ……。リズリット嬢に根も葉もない事を聞かせないでくれ……全て信じてしまうような清らかな心を持っている女性だから信じてしまうだろう」
「……間違った事を言ってはいないような気がするがなぁ?」
何と言う事を話しているのだろうか。
先日から、ディオンのリズリット自身に対するイメージのような物が美化されているような気がして、リズリットは二人の会話に割って入りたい心境になったが、ぽんぽんと言い合いを続ける二人にどう口を挟めば良いのか分からずオロオロとしていると、唐突にリズリットの肩に居た白麗が声を上げた。
「主っ! 主、ちょっと良いかしら……! 最優先事項があるわよ!」
「──白麗、? どうしたんだ……?」
突然その場に響いた白麗の声に、ハウィンツはびくりと体を震わせるとそう言えばリズリットにはディオンが砦から呼び戻した白龍の精霊が居たのだった、と思い出す。
透過の術を使用しているのだろう。
その場に姿は見えないが、その声の存在感だけが凄まじく、ハウィンツはきょろ、と周囲を見回すとディオンに少し場所を変えないか、と提案した。
リリーナの自室のすぐ隣にある空き部屋に移動して来たリズリット、ハウィンツ、ディオンは扉をしっかりと閉めて各々ソファへと腰を下ろした。
白麗からの話しだ、と言う事で少しだけ時間を取ったが、鶺鴒の精霊が騎士を連れて地下倉庫に行っている。
その後を追う予定のディオンは、白麗に「少ししか時間を取れないぞ」と前置きしてから白麗に話を促した。
白麗は、リズリットの肩からぴょん、と飛び降りると翼を使って三人が座るソファの間にある硝子テーブルに降り立つ。
ハウィンツにも姿を見せる為に透過の術を解くと、先程自分が感じた感覚をディオンとハウィンツに向けて説明し始めた。
「──あのね、今まで気付かなかった、気付けなかったのだけど……。リズリットちゃんからある気配がしたの……。その気配は、さっきリズリットちゃんに向けてあの女の子が攻撃魔法を放った時に存在を膨らませたんだけど……。問題は、リズリットちゃん自身に向かって、私達精霊の魔法が悪用されかけた時に、"それ"が存在を表したのよ。……それまでは、私でさえもこんなに側に居ても気付けない程の徹底ぶりよ」
「──は、?」
白麗からあっさりと信じられない事を告げられて、どんな話しをされるのだ、と身構えていたディオンとハウィンツは突然白麗から齎された「重大な」話に呆気に取られる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……それ、は本当なのか……?」
信じられない、とでも言うように震える声でそう言葉を紡ぐディオンに、白麗はこくりと頷く。
「──ええ。間違い無いわ……。私が辛うじて感じられる程度だから、相当徹底されているわね」
白麗の言葉に、ディオンとハウィンツは青い顔でお互いに顔を見合わせた。
当の本人であるリズリットだけが、事の重大さに気付いておらず、きょとんとしていたが、公爵家の次男であり、騎士団長を務めるディオンや、時期伯爵家当主となるハウィンツは薄らとだが、その存在は聞いた事がある。
最上級精霊である白麗が、言葉を濁し、その存在の御名を口にしない事からリズリットに関わる存在が、最上級精霊達でもおいそれと御名を口にする事が出来ない相手だと知り、ぶるりと体を震わせる。
「──これ、は……陛下に報告する事柄が増えたな……」
ディオンの力無い呟きがぽつり、と落とされた。
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