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一章
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しおりを挟む──場所は変わって、王都の王城にあるとある一室。
その一室で、ディオンとこの国の国王陛下は顔を突き合せていた。
ディオンがハウィンツと別れた後、銀狼の精霊を呼び出して向かった先はこの王城で、銀狼に乗って駆けて来るディオンの形相に、城の門番達は何事だ、と騒ぎつつディオンを中に入れる為門を開いた。
そうしてディオンは物凄い速度で国王陛下が居る場所にまでやって来ると、言葉の通り国王陛下の仕事部屋である執務室の扉を破壊して転がり込んだ。
物凄い爆発音が鳴り響き、執務室の中は一瞬緊張が走ったが、扉を破壊して転がり込んで来たのがディオンだと言う事を知り、中の人物達は今度は違う意味で緊張に包まれた。
あの、いつも冷静沈着で感情を顕にせず、礼儀正しいディオンがこのような暴挙に出るとは、と国王を含むその部屋に居た人間達は大慌てで緊急会議の準備を始めようとした。
だが、飛び込んで来たディオンが発した言葉により、執務室に居た政務官や政務官補佐達は退出を命じられ、執務室に残ったのは国王陛下と、この国の宰相、近衛騎士団の団長だけが残された。
他の者達が皆退出したのを見届けると、国王であるウィリアムは緊張を孕んだ重たい声音でディオンに向かって話し掛けた。
「──ディオン……血相を変えてやってきたと言う事は……北方の砦が破られた、と言う事か……?」
「何と……!」
「やはり、そうでしょう……」
ウィリアムの険しい表情に、宰相と近衛騎士団長は同意するように難しい顔をする。
ディオンが何かを話す前に、ウィリアムは執務机から立ち上がると、近衛騎士団長に「北方の地図を……!」と声を掛けて大テーブルの前へと移動して来る。
「北方に行ってもらっていたディオンの精霊──白麗から報せが入ったのだな? 破られたのはどの砦だ……? 一番外側か、それとも複数……? まさか、街への侵入を防ぐ防衛の要である砦では無かろうな……!?」
くわっ、と瞳を見開きどう対応をしようか、とウィリアムを始め眉を寄せて考え始める宰相と近衛騎士団長にディオンは躊躇いがちに声を掛けた。
「……陛下、申し訳ございません……白麗からは何も連絡が入っておりません……」
「──はぁ!?」
ディオンの言葉に驚きに目を見開いたウィリアムが語気を荒くして叫ぶ。
ディオンは若干たじろぎながら、突然扉をぶち破って姿を表した事を今更ながら謝罪する。
「も、申し訳ございません。急がねば、と思い先触れも出さずにこちらに参った事はお詫び致します」
「──いや、そうか……謝罪は大丈夫だ。ディオンには緊急時の訪問を許しておる……。白麗では無いと言う事は……その他の件で何か良く無い事が起きたのだな……?」
ウィリアムは一旦落ち着くように深呼吸をすると、前髪をかき上げてディオンに視線を向ける。
北方の砦は破られてはいないが、ディオンが緊急の訪問をする程の何かが起きたと言う事は分かる。
むしろ、戦争以外の不測の事態が起きたと言う事の方が国としては問題だ。
ディオンはウィリアムの言葉に重々しく頷くと、ゆっくりと唇を開いた。
「──はい。人間と、精霊の契約について……。このままでは精霊との契約が消滅する恐れがございますので、急ぎ国王陛下にお伝えしたく参りました……」
「──っ!」
ディオンの言葉に、ウィリアムとその側に居るこの国の宰相は青い顔をして、近衛騎士団長は驚愕に瞳を見開いた。
その三者三様の様子を見て、ディオンはやはりこの国の王族と重鎮は精霊と人間の契約について深く知識を得ている事を確信する。
(近衛騎士団長は、……知らなかったようだな……。俺も知らなかった事実だ……。公爵家の当主ならば知っている可能性もあるが、俺は公爵家の嫡男では無い……精霊と人間の契約については国の重要機密だろう……次男以降には知らされていなくても当然か)
ディオンの言葉にウィリアムと宰相は真っ青な表情のまま、「仔細を説明してくれ」とディオンに説明を求めた。
ディオンが精霊から聞いた話し、精霊からその話しを聞く事になった切っ掛け、ロードチェンス子爵家の令嬢の説明を全て終えると、ウィリアムを始め宰相と近衛騎士団長が額に手をやり項垂れる。
ウィリアムは、俯きながら弱々しい声音で呟いた。
「──何と、愚かな事を……」
「はい。陛下の仰る通りです。精霊の力を悪用してリズリット・マーブヒル嬢を襲うなど、あってはいけない事です」
「マーブヒル……、マーブヒル……。──ああ! あの出涸ら……っ」
ディオンの説明の中に出てきた名前の令嬢の顔が浮かんで来なかったのだろう、近衛騎士団長は考え込むように呟くと、思い出したかのようにリズリットに付けられた悪意ある渾名を口に出そうとして、ディオンから殺気の籠った視線を向けられ、ヒュッと息を飲んだ。
あまりにも愚かな行いに、宰相は溜息を吐き出すと近衛騎士団長に苦言を呈すように声を掛ける。
「──女性に対して、そのような悪しき渾名を付けるなど、この国の品位が損なわれますね。そして、騎士団長ともあろう方が陛下の御前でそのような下品な言葉で女性を貶めるような言葉を吐かぬように……」
「たっ、大変失礼致しました……っ」
部屋の全員から冷たい目を向けられて、近衛騎士団長は自分の発言をいたく反省し、縮こまった。
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