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 イェルガがやって来た、と聞きブリジットとルーカスは邸の玄関に向かう前に当主である父親に使用人を送り、イェルガの訪問を知らせてから庭園に向かった。

 門番が言っていた通り、庭園のテーブルがあるスペースにはイェルガが居て。
 玄関の開いた音に反応したイェルガがぱっと嬉しそうに視線を寄越したが、ブリジットの隣にルーカスが居る事を確認してあからさまに落胆の色を濃くした。

「ノーズビート卿。お待たせしてしまい申し訳ございません」
「いえ。突然の訪問となってしまい、申し訳ございませんアルテンバーク嬢」

 ブリジットに声を掛けられ、イェルガはにこりと笑顔を浮かべ、返事をする。
 その後にルーカスはイェルガに向かって声を掛けた。

「ノーズビート卿、すまないが同席させて頂きます。ちょうどブリジットと過ごしていたんです……。屋外とは言え、婚約者と男性を二人で合わせたく無い」
「……構いませんよ。すぐにお話は済みますので」

 二人は笑顔のまま言葉を交わし、椅子に座る。
 ブリジットは軽く手を上げて使用人を呼び、お茶の用意をさせた。

 すぐにお茶の用意が済み、再び周囲に三人だけになるとルーカスが口火を切った。

「……それで。ノーズビート卿はブリジットにどんな御用で?」
「ええ……。アルテンバーク嬢に謝罪をさせて頂きたく、参りました」
「謝罪、ですか?」

 考えの読めないイェルガの言葉に、二人は眉を寄せてブリジットがイェルガに言葉を返す。

 すると、イェルガはブリジットに視線を向けた後申し訳なさそうに眉を下げて口を開いた。

「ええ。昨日はアルテンバーク嬢にとても失礼な事を……。私の身勝手な想いで、ご迷惑をお掛けしてしまった事を謝りたかったのです」

 イェルガの言葉に、ルーカスは疑念が膨らんで行く。

(どう言う事だ……? 今日のあの様子から、反省しているような素振りは無かった……。ブリジットに対して申し訳無いと言う気持ちは無い、だろう? 王女殿下に見付かった事に対し、深く後悔しているように見えただけだ……)

 何が目的だろうか、とルーカスがイェルガを注意深く眺めているとブリジットが笑顔で「気にしないで下さい」と言葉を返した。

「大事にはなっておりませんから、お気になさらず。ですが、謝罪は受け入れますわ。二度と、あのような事はなさらないで下さいね」
「ええ。寛大なお心でお許し頂きありがとうございます」

 ブリジットの言葉に、イェルガが一瞬だけ目を細めた。

(なるほど……。どこまでブリジットに話が伝わっているか確認したかったのか? 今のブリジットの言葉で、全て報告されていると悟っただろう……。どうするつもりだ……?)

 いっその事もう帰れ、とルーカスが考えているとイェルガはゆったりと紅茶のカップに口を付けた。

 まだ、話をするつもりらしい。
 話はすぐに終わると言っていたのだが、まだイェルガに帰宅する様子は見えない。

 ルーカスが訝しげり、ブリジットもイェルガの行動に不信感を抱いている。

 だが、二人からそのような感情を向けられていても当の本人であるイェルガは涼しげな顔をしていて。
 逆にこのような空気感を楽しんでいるような気配まである。
 ブリジットとルーカスはちらりとお互い顔を見合わせた。もう話が無いのであれば、席を立ってもいいだろうと判断したのだ。

「……では、ノーズビート卿。お話が無いようですので私たちはここで……。ルーカス様も、一緒に戻りましょう?」
「──ああ……。ノーズビート卿、ここで失礼致します」

 椅子から立ち上がり、イェルガにそう告げた二人はくるりと背中を向けて邸に戻るべく足を踏み出した。
 ブリジットの背中を見詰めていたイェルガは、にぃっと口端を持ち上げた。

「──そろそろ、効いてきましたかね」

 ぼそりと呟いたイェルガが椅子から立ち上がった。
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