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しおりを挟む王女の言葉を聞き、ブリジットもはっとする。
ブリジットの友人、ティファ・シトニーはあんなに落ち着きの無い人間では無い。
まるで恋に狂い、溺れているような様子。
「──そう言えば……っ! 私の友人は落ち着いた子なのです。それなのに交換留学生の方達が来てからというもの、いつも彼らの事ばかりを口にしております……!」
「本当?」
ブリジットの言葉に王女はすっと瞳を細めて短く言葉を返す。
一瞬にしてぴりっとした緊張感がこの空間に漂い、ブリジットはごくりと喉を鳴らした。
「──あら、ごめんなさい。怖がらせてしまったわね。教えてくれてありがとう、アルテンバーク嬢。私もね、友人の公爵令嬢が近頃遊びに来てくれなくなってしまって……どうしてかしらと調べたら。アルテンバーク嬢のお友達と同じように学院の交換留学生に夢中になってしまっているみたいなの」
「ご友人の、公爵令嬢が……」
「──ええ」
王女と仲の良い公爵令嬢、と言えばアナスタシア・シャンブルク公爵令嬢だろう。
公爵令嬢には確か婚約者が居た筈だったが、大丈夫なのだろうか。
(そう言えば……さっきノーズビート卿とダンスを踊っていたような……)
ダンスフロアで、イェルガにうっとりと見惚れ、優雅にダンスを踊っていた姿を思い出す。
公爵令嬢の燃えるような真っ赤な髪色はとても目立つため、印象に残っていたブリジットはそろり、と王女に視線を向ける。
ブリジットですら気付いたと言う事は、公爵令嬢の友人である王女は確実に気付いているだろう。
王女はにっこりと笑みを深め、ブリジットに向かって言葉を続けた。
「他には、何かあるかしら? ほんの些細なことでもいいのよ……。何か違和感とか……」
「違和感……ですか……」
王女に問われ、ブリジットは他にも何かあっただろうか、と必死に思い出す。
ティファが夢中になってしまっている衝撃で他の事柄に対しては印象が薄くなってしまっている気もする。
ブリジットが考え始めて暫し。
その様子を隣で見詰めていたルーカスは、交換留学生達がブリジットの学年だけ一番始めに「魔法」を発動して見せた事を王女に告げようか、と考えて口を開きかけた時。
ブリジットが顔を上げて王女に向かって口を開いた。
「王女殿下……もしかしたら、気の所為かもしれない、些細な事でもよろしいでしょうか?」
「──! ええ、勿論よ。何でも構わないわ」
ブリジットの言葉に、王女は柔らかく笑みを浮かべてブリジットの発言を待つ。
王女の様子にほっとしたブリジットは、イェルガと会う度に、話す度に感じた違和感を口にした。
「交換留学生である……、イェルガ・ノーズビート卿なのですが。あの方とお話すると、背筋にぞわりとした変な感覚を覚える事が度々あるのです……。魔法士の方に、大変失礼な事を考えているとは思うのですが……」
ブリジットは縮こまるように肩をすぼめて申し訳なさそうに違和感を口にする。
交換留学生として招いた、言わばこの国の客だ。
そんな人物に対してこのような失礼な事を口にしてしまい、罰せられてしまわないか、とブリジットは緊張で変な汗をかくが、ブリジットの言葉を聞いた王女はひくり、と口端を引き攣らせてその場から勢い良く立ち上がった。
「──ありがとう、アルテンバーク嬢。とても有意義な時間だったわ。ラスフィールド卿も、時間を貰ってごめんなさいね。パーティーに戻ってちょうだい」
ここで失礼するわ、と王女はそれだけを口にして足早に部屋の扉へと歩いて行く。
先程までの王女の様子とは違い、どこか焦っているようにも見える。
ブリジットとルーカスが呆気に取られている間に王女は部屋の扉から外に出て、近場に居た護衛に声を掛ける。
「──陛下に会いに行くわ! お伝えして!」
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