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しおりを挟むブリジットはイェルガのその視線を受けてぞくり、と背筋に寒気がはしる。
「──……っ、?」
(何、今の感覚……?)
ぞわりとしたえも知れぬ感覚にブリジットが戸惑っていると、前方で教師の紹介を受けていたイェルガが口元に笑みを浮かべたままコツコツ、と靴音を鳴らして歩いて来る。
「ブ、ブリジット……!」
「え、なに、ティファ──」
背筋にはしった寒気に気を取られ、余所見をしていたブリジットは隣に座るティファの焦ったような声に反応して、ティファに視線を向ける。
だが、ブリジットの名前を呼んだティファはブリジットを見ている訳では無くて。
何故かブリジットの前方を見ていて。
何? と思いながらブリジットが視線を前に戻すと、そこには先程まで前方で紹介を受けていたイェルガがブリジットの目の前に居た。
「──侯爵令嬢、先日はありがとう」
「え……? ……っあ!」
イェルガにそう声を掛けられたブリジットは何の事だか分からなくて一瞬だけ眉を寄せたが、訳が分からない、といったブリジットの態度を予想していたのだろう。
イェルガは自分の懐からちらり、とあの日ミーブルの港町で外套の男性にニアが渡した名刺サイズのカードをブリジットにだけ見えるように見せた。
そこでやっとブリジットは、今回交換留学生としてやって来たイェルガがあの日ミーブルの港町で荒くれ者を倒してくれた外套の男性だと言う事に気付いて自分の口元を覆った。
「こ、こちらこそ先日はありがとうございました……! まさか貴方が交換留学生だとは……、気付かずに申し訳ございません」
「いえいえ。私も事情があって素顔を晒せませんでしたので……奇遇にも、こちらでお会い出来て良かったです。──もう一度、お会いしたいと思っておりましたので」
「え……」
何処か含みを持つようなイェルガの言葉にブリジットが引っ掛かりを持つ。
だが、イェルガはにっこりと笑顔を浮かべると「ではまた」と言い、ブリジットから離れて行ってしまった。
「ちょ、ちょっとちょっと……! ブリジット、いつの間にイェルガ様とお会いしたのよ……!?」
「イェルガ様って、ティファ……」
興奮したかのようにつんつん、とブリジットの服の袖を引っ張りながらティファに聞かれてブリジットは簡単に事情を説明する。
「侯爵家の用事で滞在した町で偶然お会いしていただけよ。ただそれだけ……」
「ええ、それって凄い運命みたいね……」
いいなぁ、と頬を染めて言うティファにブリジットはティファは容姿の良い男性にこんなに弱かったかしら、と苦笑した。
昼食時。
ブリジットはルーカスと食事の待ち合わせをしているため、いつものように中庭でルーカスの到着を待っていた。
バスケットを手に持ち、まだ来ないかなと渡り廊下の先に視線を向けると、その渡り廊下をブリジットの居る中庭に向かって歩いて来る人影が二つ。
「──あ」
「ノーズビート卿?」
「侯爵令嬢。また会いましたね」
「ええ。お食事ですか?」
前方からやって来たのは、今朝紹介された交換留学生のイェルガで。
彼の隣には同じ国の魔法士だろうか。赤毛で短髪の男性が一緒に居る。
「はい、友人と一緒に食事に行こうと思いまして。ああ、侯爵令嬢隣にいるのはリュリュドと言います。私と同じ魔法士です」
「あっ、申し遅れました。ブリジット・アルテンバークです、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願い致しますアルテンバーク嬢」
ブリジットの言葉に、イェルガの友人・リュリュドは自分の胸に手を当て軽く腰を折った。
「侯爵令嬢は、中庭で昼食を……?」
「ええ、そうなのです」
「そうですか。今日はお天気も良いですし、丁度良いですね」
「はい、そうなのです。お日様の下で食事をとるのはとても贅沢な気分になれてお勧めですよ」
「ははは、では私も今度は中庭で食べてみます」
「ええ、そうしてみてください。ですが、この学院の食事も美味しいですよ」
「本当ですか、それは楽しみです」
ブリジットとイェルガはにこやかに会話をした後、では、とイェルガが軽く頭を下げてブリジットの前から歩き去って行く。
そして、ブリジットがイェルガとリュリュドを見送っていると、背後から話しかけられた。
「──ブリジット? 今のは……、隣国の交換留学生か……?」
「あっ、ルーカス様」
イェルガ達が去って行った方向を見ながら歩いて来るルーカスにブリジットは振り向いた。
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