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しおりを挟むブリジットはルーカスに説明した通り、町の外れにある丘に行くために町の中を歩いていた。
隣にはルーカス、そしてブリジットとルーカスから少し後ろを護衛三人とメイドのニアが着いて来る。
騎士の服ではなく、私服を身に纏っているルーカスだが、腰には長剣が下げてありブリジットの隣を、まるで守るかのように歩いている。
ルーカスがそのような行動を取るようになったのには訳があって。
それは、ブリジット達一行が邸を出て、町中を歩いている時だった。
食材の買い出しだろうか、昨日荒くれ者が暴れた店の店主とばったりと出会ったのだ。
そこで店主はブリジット達に何度も何度も感謝の言葉と、謝罪を口にしたのだが──。
それを聞いていたルーカスが「何があったんだ 」とブリジットに聞き、昨日起きた事を説明したらひゅっ、と息を飲んでいた。
また、いつもの小言が始まってしまうだろうかとブリジットは身構えたのだが、意外にもルーカスは危ない事をしないでくれとは言わず「無事で良かった」と小さく言葉を零しただけだった。
けれど、その報告を聞いてからルーカスは周囲を警戒するようになってしまって、そして今に至る。
「──ルーカス様。そんなに周囲を睨みつけて歩かないで下さい……。町の人達が怯えます……」
「っ! す、すまない……。だが、昨日のような輩がまだ居るかもしれない……。町中で突然襲われたら大変だろう?」
「この町は比較的治安も良く、町の人達も穏やかです。逆に町の人達を怖がらせてしまうので、せめて、その……眉間の皺だけでも……」
「……、ど、努力する」
ブリジットに言われ、そこで初めてルーカスは自分の眉間に皺が寄っている事に気付いたのだろう。
慌てて自分の眉間に指を持って行くと、皺をどうにかしようと一生懸命揉みこんでいる。
(これじゃあ、町の人達が怖がっちゃうわね……。さっさとルーカス様を丘に連れて行って、確認だけ済ませて邸に戻ろうかしら)
ちらちら、とブリジット達を遠巻きに見ている町の人達にブリジットは苦笑を浮かべてしまう。
昨日は気さくに話し掛けて来てくれていた町の人達が今はブリジットの隣に居るルーカスを見て「ひいっ」と小さく悲鳴を上げている。
(ルーカス様は背も高いから……威圧感があるのよね……。無表情になっている今は特に……)
やれやれ、とブリジットが考えていると、丘に向かう道中。
町並みから離れた小道を歩いている所で、前方から人が歩いて来ているのが見えてブリジットは「あら」と小さく声を上げた。
今向かっている丘は、この港町ミーブルを一望出来る場所だ。
海と、港町を広く見渡せる場所のため、観光客も多く訪れると聞く。
だからブリジットも、前からやって来る人影が観光客か何かだろうと思い、道を譲ろうと端に避けたのだが──。
「──あっ」
「……あ」
ブリジットも、前方から歩いて来る人影も。そしてブリジットの後ろにいる護衛達も小さく声を上げる。
この国では見慣れない、なが確かに見覚えのある外套。
それは昨日、荒くれ者達が暴れたあの店で勇敢にも声を出してくれた男性で。
「……また会いましたね」
「昨日はありがとうございました」
外套の男性は柔らかな声でブリジットに声を掛け、ブリジットも穏やかな笑みを浮かべて男性にお礼を告げる。
ブリジットの隣に居たルーカスは、穏やかに笑うブリジットの横顔を見て、胸にちりっとした痛みを感じた。
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