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 苛立ちと、僅かな不快感が滲んだ声。
 ブリジットが声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには店の隅でぽつりと一人食事をしていたのだろう。
 旅装束姿の若い男が座っていた状態からガタリ、と席を立ち上がり荒くれ者の男達に体の向きを変えた。

「──あぁん!? 誰だおめぇ……!?」

 刃向かって来た男性に、荒くれ者のリーダー格の男が声を荒らげ叫ぶ。

「とりあえずねぇちゃんはこっち来いよ! 俺たちと──ぅっ!」

 ブリジットを諦めていなかった男達の内、一人がブリジットの腕を掴む寸前。
 隣に控えていた護衛が男の腕を叩き落とした。

「この方に触れるな──。あそこにいる男性の言う通りだ、さっさと出て行け」
「なっ、てめぇ……!」

 護衛の言葉に怒りでカッとなった男は腰に手を持って行き、長剣程の長さが無い片手で扱える長さの剣を抜こうとしたが、もう一人の護衛が背後から男の腕を抑えてぼそり、と男の耳元で声を掛ける。

「……それを抜いたら遊びでは済まなくなるぞ……。処刑台に登りたいか?」
「──っ」

 護衛の言葉に威圧され、男がたじろぐ。

 その間にリーダー格と男性がやり合う寸前にまでなっているようで。
 一人の男性を荒くれ者の男三人が囲んでいる。

「私の方は一人残ってくれればいいわ。あちらの男性を助けてあげて」
「かしこまりました、お嬢様」

 こそこそとブリジットと護衛がやり取りをし、護衛が男性の加勢に向かおうとした所で──。

「この生意気な野郎をやっちまえ!」
「へいっ!」

 荒くれ者達が攻撃を仕掛ける方が早く、その声が響いた瞬間、店内に悲鳴が響く。

 このままでは町の人達に怪我人が出てしまう、そう考えたブリジットはメイドのニアと加勢に向かおうとした護衛二人の内一人に指示を出した。

「──町の人達の避難を! ニア! 私は大丈夫だから町の人を店外に誘導して!」
「か、かしこまりましたお嬢様……!」

 ブリジットの傍に残った護衛が、腕を掴もうとした男を縄で拘束している間に自分も町の人達を外に誘導しようとしつつ、一人で居る男性に視線を向けた。
 あのような状態で助けに入ってくれた男性が無事であればいいのだが、と気遣うように見たブリジットはそこで驚愕に目を見開いた──。

「ぎゃあっ」
「うぅ……っ」

 いつの間に制圧していたのだろうか。
 男性の前には既に男二人が倒れ伏しており、残った一人が震えながら腰元の剣に手を伸ばした──。

「大人しくしろ」
「ぐぇっ」

 そこで、ブリジットの護衛が合流して男の背後から男を床に引き倒し、上から拘束する。

 護衛は荒くれ者を拘束した後、男性に視線を向けて口を開く。

「怪我は……? 勇気ある行動に感謝するが、無茶はしないでくれ」
「いやあ……どうにもこういった輩が嫌いなもので……。助けて頂き感謝します」
「助けも何も……既に貴殿がこの二人をやり込めていただろうに……」

 フードを被り、顔は良く見えないが若い男だと言う事は分かる。
 この国ではあまり見ないデザインの服装の上から外套を纏っているため、外国の者だろうか、と護衛が考えていると男性はぺこりと頭を下げた後に店の店主に声を掛けた。

「騒がしくしてしまってすまない、店主。店内の破損品はこちらに請求してくれ」
「──えっ、そんな、こちらこそ乱暴者達を捕らえて下さり感謝しかございませんよ。お客様にご迷惑を掛けてしまって申し訳ございません」
「いやいや、遠慮しないでくれ。……上手い料理だったよ、それじゃあまた」 

 男性はへらり、と口元を笑みの形に変えて店主に何かを渡した後、護衛に軽く頭を下げて店の出入口に向かって行ってしまう。

「ニーガン! 怪我は無い!?」

 男性と入れ替わるようにブリジットが護衛──ニーガンの下に駆け寄る。
 そして男性とすれ違う瞬間、男性はちらりとブリジットを盗み見た。
 視線を感じてブリジットもちらり、と男性の方へ視線だけを向ける。

 フードの奥で、黄緑色の瞳がキラリと一瞬だけ光ったような気がして。
 だが男性はフードを深く被り直してブリジットに軽く頭を下げてそのまま店を出て行ってしまった。
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