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「魔力が、ない……!? 一体どう言う事だそれは……!?」

 クリスタの言葉にキシュートは驚きを隠せず、上擦った声を上げてしまう。
 だが、キシュートがこれ程驚くのも無理は無い。
 魔力が無くなってしまうなんて事象、今まで聞いた事も無いのだから。

「混乱するのも無理はないわ、キシュート兄さん。私もその時は信じたくなかった。けれど、本当に今の私は魔法が発動出来ないの」

 戸惑っているキシュートの目の前で、クリスタは小規模な氷魔法を発動しようとした。
 手のひらを上に向けて氷魔法で物体を造形しようと、魔力を練り上げ発動しようとする。
 けれど、クリスタの手のひらから僅かな光が発生した後、魔法が発動する事なくその光は直ぐに収まってしまう。

 その後もクリスタはもう一度同じ事を繰り返したが結果は同じで。

「──っ、もう良い……。もう、大丈夫だ」

 クリスタの手首を掴み、キシュートが魔法の発動を止めさせる。
 そして混乱し、戸惑った表情のままクリスタに目を向けた。

「何故こんな事になっている……? 魔法が発動出来なくなる、とは……何かの病気が原因か? 医者に魔力回路を調べさせた方が……!」
「キシュート兄さん、原因は分かっているの。だから回路を調べてもらう必要はないわ」
「原因が分かっているのか……!? それならば、再び魔法を発動出来るようになるかもしれない、原因は何だ!?」

 ぐっ、とクリスタに詰め寄るキシュートに、ギルフィードが悔しそうに答えた。

「──寵姫だ。あの、寵姫がクリスタ様の魔力を喰ったんだよ、キシュート……!」

 ギルフィードの言葉に、キシュートは目を見開きクリスタを見詰める。
 キシュートの視線を受けたクリスタは肯定するように唇を噛み締めた後、小さく頷いた。

「──そんな、事が? 人の、人間の魔力を喰う事が……? そんな事が可能なのか?」

 嘘だろう、と言うようにキシュートは動揺が隠せない。

 クリスタも、ギルフィードも大切な事を冗談めかして口にするような人間では無い。
 二人が口にした事は真実なのだ、と言う事が二人と長年付き合いのあるキシュートは分かってしまう。

 そしてクリスタやギルフィード達の護衛の姿を見ても二人が口にした事が本当なのだ、と言う事が分かり、キシュートは混乱する頭を押さえ「待ってくれ」と言いながら近場にあった岩に腰掛けた。

 信じられないし、信じたくない事だ。
 そんな事が出来てしまえば。人間の魔力を本当に喰らう事が出来てしまえば。
 人を無力化させる事だって出来てしまう。
 魔力を殆ど持たない平民と同等にまで成り下がってしまうと言う事だ。

 そんな事が自在に出来る人間がいるとしたら。
 キシュートやギルフィード達のように多くの魔力を持ち、魔法士である人間の脅威となる。

「そんな魔法を、あの寵姫は一体どこで……。そもそも魔力を喰らう魔法があるとは……」
「違うわ、キシュート兄さん。恐らく魔法ではなくて、魔術。あの寵姫は魔術を使用しているの」
「──魔術!? それはとっくの昔に滅びているだろう!?」

 クリスタの言葉にキシュートは益々驚き、声が裏返ってしまう。

 だからクリスタは、ギルフィードと話した魔術の事をキシュートに一つずつ説明して行く事にした。



 鬱蒼と茂げる森の中。
 昼間も陽の光が殆ど入らず薄暗い森だが、今は日も落ちて周囲に闇が迫っている。

 そんな中、キシュートはクリスタやギルフィードから説明された内容を聞いて、驚きに空いた口が塞がらなかった。
 そして、その後暫し頭を抱える。

「──嘘だろう……、タナ国が……滅亡したタナ国が魔術を継承している国だったとは……」

 キシュートは仕事柄様々な国に足を運ぶし、国の文化などにも精通している。
 そんなキシュートがこれ程驚いている事から、魔術と言うものは本当に遥か昔に滅びているのだ。
 魔術というものの詳細も多くは残されていない。
 それなのに、滅びたタナ国の王族は魔術を継承していた。それに飽き足らず城の城壁に魔術を施していたのだ。
 魔術と言うものが存在していた事は文献にも残っている事から知る人は居る。
 だが、その魔術を操る事が出来る人間が今の時代にいるとは、とキシュートは戸惑っていた。

「だが、実際魔術の力でタナ国の城は守られていたし、クリスタ様本人が魔術をその身に受けている。事実、だろう……?」

 ギルフィードの言葉にキシュートはゆるり、と首を縦に振る。
 認めるしかない、認めざるを得ない。

「……ならば、やはりあの最下層にはどうしても行かねばならないな……」
「……でも、かなり危険な場所なのでしょうキシュート兄さん。目立たないように動くため、護衛も少数でやって来たから……増援を呼んでからの方がいいんじゃないかしら?」
「……いや。強襲された事もあるし、タナ国の城は監視されている可能性が高いだろう? これ以上の長居は危険だ。……速やかに最下層を調べ、王都に戻ろう」
「うん、キシュートの言う通りだな。俺とキシュートが先陣を切ればその獣? も、どうにか殲滅出来るかもしれない」
「そうだな。クリスタは最下層手前の階段部分で待機してもらって……。殲滅が済んだら入ってもらおうか」

 ギルフィードとキシュートはトントンと話を進めて、最下層に向かう手筈を整え始めた。
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