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しおりを挟む──ソニアを建国祭に出席させる。
その話を朝食の時間に直接ヒドゥリオンから聞かされたクリスタは流石に驚愕に目を見開いた。
何が起きても冷静にいられるよう、動揺してしまわないよう王妃として即位してから硬い表情ばかりを浮かべていたクリスタも流石に冷静な顔を保てなくなって、ヒドゥリオンを見詰めてしまう。
見慣れたクリスタの無表情が崩れ、何処か幼い、年相応の反応を見て。クリスタの正面に座っていたヒドゥリオンは口に含んでいたグラスの水がごきゅり、と変な音を立てて嚥下した。
ヒドゥリオンが少しだけ前のめりになり、クリスタに向かって口を開こうとしたが、ヒドゥリオンが何か言葉を発する前に動揺を見せたクリスタが直ぐに普段の無表情に戻ってしまう。
「今の言葉は、本気ですか陛下」
「──……」
いつもの無表情に戻ってしまったクリスタの態度を見て、前のめりになり掛けていたヒドゥリオンは何処かむすっと不貞腐れたように眉を寄せ、自分の体勢を元に戻す。
「陛下」
硬く、厳しいクリスタの声。
まるで責めているような硬いクリスタの声にヒドゥリオンは顔を背け、吐き捨てるように言葉を返した。
「嘘でこのような事を口走ると? 建国祭にソニアを出席させる。何か問題でもあるのか?」
「──っ、本当に何も問題が無いと、そう思っていらっしゃるのですか!?」
「ソニアは我が国の諍いに巻き込まれ、滅びた国の王族だ。我が国は彼女を正式に国の一員として迎え入れると言う意味合いで出席させるのだ!」
「それを、何故建国祭でなさるのか……! 建国祭には周辺諸国の王侯貴族が貴賓として招待されます! 他国の人間の前で、彼女を! 亡国の王女を正式に陛下自ら出席させる、と言う事が一体どう言う意味を成すのか……! 分からぬ陛下ではございませんでしょう!?」
クリスタの言葉にヒドゥリオンはぐっと言葉に詰まる。
そう、ヒドゥリオンも分かってはいるのだ。
建国祭のような大きい催しでソニアを出席させる、と言う事が国内の貴族にどう思われるか。
そして、建国祭に参加する友好国の王侯貴族達がソニアの立場をどう受け止めるか。
それによって王妃であるクリスタがどのような立場になってしまうのか──。
それが分からない訳では無い。
だが、国を滅ぼしてしまった国の王としてソニアの身の保証を考えてやらねばならない事も大事で。
そして何より。
「──ソニアが……」
気まずそうにクリスタから顔を逸らし、ぽつりと言葉を零したヒドゥリオンに、クリスタは「何ですか」と言葉を返す。
ヒドゥリオンは長い溜息を吐き出した後、グラスに入っていた水で喉を潤し、クリスタを正面から見据えた。
「ソニアが、建国祭に出てみたい、と言うのでな……。タナ国ではこのような大規模な催しは行われていなかったそうだ。……ソニアの家族を奪ったのは我が国だ。それならば、これからのソニアの人生を悔いの残らぬよう、幸せな人生を築いてやる責任が私にはある」
「──……っ」
それを言われてしまえば、今度は逆にクリスタが言葉に詰まってしまう。
確かに、国の諍いのせいでソニアの国は滅んでしまったのだ。
巻き込まれ、失わなくても良かった家族を、大切な人を失ったのはソニアだ。
けれど、建国祭だけは別だ。
建国祭でソニアを出席させ、ヒドゥリオンの近くに座らせると言う事は国内外にソニアを側妃として周知させるも同然の行為だ。
それを、今この時期に行ってしまうのだけは避けたい。
これ以上、王家の威信を王への不信感を貴族に抱かせてはならない。
「建国祭では無く、他の場では駄目なのですか……っ。建国祭では無く、その前に王家主催で大規模な夜会を開き、その場で王女を出席させるのではいけないのですか……」
クリスタの言葉に、流石にヒドゥリオンも思う所があるのだろう。
今までのように冷たくクリスタを切り捨てる事無く考えるような素振りを見せる。
「大規模な夜会か……。それならばソニアも喜ぶかもしれんな……。ソニアには私から話しておこう」
「──! ありがとうございます、陛下……っ」
ヒドゥリオンから許可が下りた事に、ほっとしてクリスタは表情を綻ばせる。
自然と笑みが零れてしまうのはいつぶりだろうか。
そのクリスタの安堵したような笑みを見たヒドゥリオンは、見惚れるようにクリスタを見詰めた。
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