上 下
10 / 115

10

しおりを挟む

 ──ソニアを建国祭に出席させる。

 その話を朝食の時間に直接ヒドゥリオンから聞かされたクリスタは流石に驚愕に目を見開いた。

 何が起きても冷静にいられるよう、動揺してしまわないよう王妃として即位してから硬い表情ばかりを浮かべていたクリスタも流石に冷静な顔を保てなくなって、ヒドゥリオンを見詰めてしまう。

 見慣れたクリスタの無表情が崩れ、何処か幼い、年相応の反応を見て。クリスタの正面に座っていたヒドゥリオンは口に含んでいたグラスの水がごきゅり、と変な音を立てて嚥下した。
 ヒドゥリオンが少しだけ前のめりになり、クリスタに向かって口を開こうとしたが、ヒドゥリオンが何か言葉を発する前に動揺を見せたクリスタが直ぐに普段の無表情に戻ってしまう。

「今の言葉は、本気ですか陛下」
「──……」

 いつもの無表情に戻ってしまったクリスタの態度を見て、前のめりになり掛けていたヒドゥリオンは何処かむすっと不貞腐れたように眉を寄せ、自分の体勢を元に戻す。

「陛下」

 硬く、厳しいクリスタの声。
 まるで責めているような硬いクリスタの声にヒドゥリオンは顔を背け、吐き捨てるように言葉を返した。

「嘘でこのような事を口走ると? 建国祭にソニアを出席させる。何か問題でもあるのか?」
「──っ、本当に何も問題が無いと、そう思っていらっしゃるのですか!?」
「ソニアは我が国の諍いに巻き込まれ、滅びた国の王族だ。我が国は彼女を正式に国の一員として迎え入れると言う意味合いで出席させるのだ!」
「それを、何故建国祭でなさるのか……! 建国祭には周辺諸国の王侯貴族が貴賓として招待されます! 他国の人間の前で、彼女を! 亡国の王女を正式に陛下自ら出席させる、と言う事が一体どう言う意味を成すのか……! 分からぬ陛下ではございませんでしょう!?」

 クリスタの言葉にヒドゥリオンはぐっと言葉に詰まる。

 そう、ヒドゥリオンも分かってはいるのだ。
 建国祭のような大きい催しでソニアを出席させる、と言う事が国内の貴族にどう思われるか。
 そして、建国祭に参加する友好国の王侯貴族達がソニアの立場をどう受け止めるか。

 それによって王妃であるクリスタがどのような立場になってしまうのか──。
 それが分からない訳では無い。

 だが、国を滅ぼしてしまった国の王としてソニアの身の保証を考えてやらねばならない事も大事で。
 そして何より。

「──ソニアが……」

 気まずそうにクリスタから顔を逸らし、ぽつりと言葉を零したヒドゥリオンに、クリスタは「何ですか」と言葉を返す。
 ヒドゥリオンは長い溜息を吐き出した後、グラスに入っていた水で喉を潤し、クリスタを正面から見据えた。

「ソニアが、建国祭に出てみたい、と言うのでな……。タナ国ではこのような大規模な催しは行われていなかったそうだ。……ソニアの家族を奪ったのは我が国だ。それならば、これからのソニアの人生を悔いの残らぬよう、幸せな人生を築いてやる責任が私にはある」
「──……っ」

 それを言われてしまえば、今度は逆にクリスタが言葉に詰まってしまう。
 確かに、国の諍いのせいでソニアの国は滅んでしまったのだ。
 巻き込まれ、失わなくても良かった家族を、大切な人を失ったのはソニアだ。

 けれど、建国祭だけは別だ。
 建国祭でソニアを出席させ、ヒドゥリオンの近くに座らせると言う事は国内外にソニアをとして周知させるも同然の行為だ。
 それを、今この時期に行ってしまうのだけは避けたい。
 これ以上、王家の威信を王への不信感を貴族に抱かせてはならない。

「建国祭では無く、他の場では駄目なのですか……っ。建国祭では無く、その前に王家主催で大規模な夜会を開き、その場で王女を出席させるのではいけないのですか……」

 クリスタの言葉に、流石にヒドゥリオンも思う所があるのだろう。
 今までのように冷たくクリスタを切り捨てる事無く考えるような素振りを見せる。

「大規模な夜会か……。それならばソニアも喜ぶかもしれんな……。ソニアには私から話しておこう」
「──! ありがとうございます、陛下……っ」

 ヒドゥリオンから許可が下りた事に、ほっとしてクリスタは表情を綻ばせる。
 自然と笑みが零れてしまうのはいつぶりだろうか。
 そのクリスタの安堵したような笑みを見たヒドゥリオンは、見惚れるようにクリスタを見詰めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

処理中です...