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「陛下。……タナ国の王族を連れ帰ったとお聞き致しました。……どうなさるおつもりですか?」

 しゃん、と背筋を伸ばして真っ直ぐヒドゥリオンの目を見て話すクリスタに、ヒドゥリオンはたじろぎクリスタから目を逸らした。

「どうするも、何も……。タナ国は我々に巻き込まれて滅びた……。唯一生き残った王女を保護する事に何ら問題は無いだろう……」
「そうですわね。保護するのであれば……」
「──何が言いたい」

 クリスタの言葉に何か引っかかりを覚えたのだろう。
 ヒドゥリオンは不愉快そうに眉を寄せて睨み付けるようにクリスタを見据える。

「私からわざわざ言葉にしなくとも、分かっておられると思うのですが」
「遠回りな言い回しをせずハッキリ物を言えばいいと言うのに……。王妃は嫌味ったらしくなって話し辛い」

 溜息を吐き出したヒドゥリオンは、前髪をかき上げてじろり、とクリスタを見る。
 そしてもう用は無いだろうとでも言うようにまるで犬や猫を追い払うかのように手のひらを扉に向けて何度か振った。

「私は疲れている……早く休みたい」
「それは大変失礼致しました。一先ず失礼致します、陛下。遅くなりましたがご無事のお戻り、ようございました」

 頭を下げて去って行くクリスタをヒドゥリオンは恨みがましい視線で見詰めた後、クリスタが完全に部屋から退出し吐き捨てるように呟いた。

「──可愛げの無い女だ……」

 クリスタが部屋を出て暫く時間が経ってから、ヒドゥリオンは自分の部屋を後にした。
 そしてその日一晩、ヒドゥリオンは自分の部屋に戻って来る事は無かった。



 翌日。
 城の中は国王ヒドゥリオンがとても美しい亡国の王女を連れ帰った噂が広まっていた。

 朝を迎え、身支度のために王妃の自室に訪れた見慣れた侍女達によってその事を聞いたクリスタは思わず自分の手のひらで顔を覆ってしまう。

「昨日、釘を刺しに陛下のお部屋に向かったけれど……既に遅かったのね」

 多くの人の目に触れていたのだろう。
 ヒドゥリオンが亡国の王女をとても心配し、やり過ぎではと思うほどそれはそれは手厚く持て成したらしい。

 その話が王妃クリスタの侍女達の耳に入って来てしまう程噂は広がっているらしく、亡国の王女の美しさであの国王陛下まで美貌の虜になっているのではないか、と面白おかしく話されているらしい。

(陛下は……ヒドゥリオンはその王女を一体どうするつもりなのかしら……。ずっと城に留め置くのは難しい事は分かっているはず……けれど、亡国とは言え王族を無下には出来ない……下手な対応をしてしまえば周辺諸国に付け入れられるわ)

 どう対処するのか悩み所だ、とクリスタが頭を悩ませている時。

 ヒドゥリオンは呑気に王女ソニアに与えた客室で共に朝を迎え、笑顔を交わし合いながら朝食を取っていた。
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