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ルーシェがベルを鳴らすと、廊下からパタパタと早足で部屋へと向かって来る足音が聞こえて来る。
コンコン、とノックの音が聞こえてルーシェが「入って」と声を掛けると即座に扉が開き、見知った顔のナタリーが扉から姿を表した。

「お嬢様……!目が覚めましたか!」
「ナタリー。皆には随分心配を掛けちゃったわね」

見知った顔のナタリーが直ぐに駆け付けてくれた事に、ルーシェはほっとした表情を見せると、湯浴みをしたい事を伝え、体をさっと清めると新しい室内着に着替えてベッドに戻る。

熱が出たせいで長時間睡眠に時間を使い、ご飯も取っていなかった為、体がふらふらとしてしまうルーシェの体を支えながら、ナタリーはルーシェが眠っている間に起きた事を聞かせてくれた。

ルーシェは、高熱を出した後丸二日程眠ってしまったらしい。
時々目を覚ますが、意識も虚ろだった為ルーシェ本人はそれが夢だったのか、現実に起きていた事なのか分からなかった。
だが、熱を出してしまった日の翌日。

キアトから貰った手紙に記載されていた通り、翌日本当にハビリオン伯爵家に話をしに来てくれたらしい。
だが、ルーシェが体調を崩し会う事が出来ない事からルーシェの父親がキアトと面会し、暫くの間応接間で二人話し込んでいたらしい。

そして、その後キアトはルーシェの父親に許可を貰い、ルーシェの部屋に来た。

「──えっ、キアト様が……!?」

この部屋に入り、暫くルーシェの顔を見てから帰ったらしい。

それなら、夢だと思っていた事は現実にあった事なのだろうか。
薄らと意識に残る、キアトの声と言葉。
ルーシェの体調を心配して、そして自分の気持ちを素直に口にしていたように思える。

あんな風に口数多く語るキアトは珍しい。
だからこそ、ルーシェは自分の願望が見せた夢だったのだろう、と考えていたのだが。

もし、あの時キアトが本当に部屋に来ていて本当に自分に向かって話し掛けていたと言うのであれば。

「──……っ!」

ルーシェは、顔を真っ赤に染めると咄嗟に自分の頬を両手でぺたり、と覆った。

「お嬢様?……大変!お顔が真っ赤です……っまた熱が上がってしまいましたか……!?今すぐお医者様を──!」
「だっ、大丈夫よナタリー。何でもない、何でもないわ……っ」

ルーシェは緩く自分の首を横に振ると、けほけほと何度か咳き込んだ。

まだ熱が下がって間もない。
体調は回復仕切っていないのだ。

咳き込んだルーシェに、ナタリーは慌ててルーシェをベッドに入るよう手を貸す。

「一先ず、まだ体調が万全ではございません。旦那様にお嬢様が目が覚めた事を伝えて参りますので、少しお眠り下さいね。次に起きられた時に消化に良い食事をお持ち致します」
「──ええ、ありがとう、ナタリー……」

湯浴みをして、体力を消耗したからだろうか。
確かに大分疲れてしまった。
ルーシェは、うつらうつらとしながらナタリーにそう言葉を返すと、ゆっくりと瞳を閉じた。

(……目が覚めたら、キアト様にお会い出来なくてごめんなさい、とお手紙をお送りしよう……。寡黙な方が、あんな風に心配してご自分の気持ちを口にしてくれたのだもの……もしかしたら何か理由があったのかもしれないわ……)

あの赤子も、もしかしたら何か重大な理由があったのかもしれない。
そして、キアトは婚約者である自分にずっと赤子の存在を告白出来ず、キアト自身も長い間苦しんでいたのかもしれない。
先ずは、キアトの事情を聞こう。
赤子が居た事はとてもショックを受けたけれど、本当に何かやむにやまれぬ事情があったのかもしれないのだから。

と、ルーシェはそう考えてゆっくりと眠りに落ちて行く。

覚悟を決めたルーシェではあるが、そもそも赤子はキアトの子供では無い。
赤子の親がキアトである、と言う勘違いをし続けたままルーシェはそのまま眠りについた。









使用人のナタリーから、ルーシェが目を覚ましたと報告を受けて、ルーシェの父親は急ぎキアトに手紙を認めた。

まだ、体調が万全では無いのでもう数日時間を置けば会って話す事も可能になるだろう。
ルーシェの父親はそう考え、一週間後であれば会いに来ても大丈夫だ、と言う事を記載してキアトに送った。









「──ハビリオン伯爵から手紙が来た……!」

数日後、キアトはフェルマン伯爵邸の執務室でその件の手紙を手に掲げ、感極まった表情でそう小さく執務室で声を上げる。

キアトの兄が使用していた執務室兼、書斎のこの室内でキアトはいそいそと手紙を開封すると内容に目を通す。

「……良かった、ルーシェが回復して来ているのか……」

キアトがルーシェの部屋に見舞いに行った翌朝。
ルーシェが目を覚まし、会話も出来るようになって食事も取れるようになったらしい。

キアトは今すぐルーシェに会いに行きたい衝動に駆られるが、ぐっと耐える。
まだルーシェは病み上がりなのだ。
体力も回復仕切っていない。その状態で、キアトの、フェルマン伯爵家に起きている様々な事柄を説明してしまえば戸惑い、折角良くなって来ている体調がまた悪化してしまうかもしれない。

「──ハビリオン伯爵から提案されている通り、一週間後に改めてルーシェに会いに行こう……」

キアトはそう決めると、ハビリオン伯爵宛に教えてくれたお礼と、一週間後に改めて訪問する事を手紙に記載して送った。

ルーシェにも無理せず、体を大事にして欲しいと言う事を手紙に記載して、些か恥ずかしいが、早く会いたい、と遠回しに記載して送る。

早くルーシェと会って、今度こそ誤解を解こうと決めた翌日。
キアトの元に、生死不明だった兄、キラージが当日着ていた衣服を見つけた、と言う知らせが入り、キアトは事故現場に急いで向かう事になった。
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