気付くのが遅すぎた

高瀬船

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「能、力ですか……?」

フィミリアが唖然としたままフレディに言葉を返すと、難しい表情をしたままフレディがこくりと頷き、青年から聞いた青年の能力の事。そして、その能力に付いて国王へと報告する事をフレデイが告げる。

あっさりとフレディから信じられない言葉達がつらつらと告げられて、フィミリアは勿論、母親のラティシアも、サーシャも混乱しているようで瞳を丸く見開いている。

「ちょ、ちょっと待って下さい、あなた……」

ラティシアが痛む頭を抑えるように自分の頭に手を当てながら小さく言葉を零す。
フレディは、あっさりと説明したがフレディが口にした事が本当の事なのであれば、この国の根本が覆ってしまうような気がする。

「ま、魔力とは……、それに、魔法、とは……それは……聖女様に秘められている浄化の力と同じ、いえ、それよりももっと強く、強大な物だと……思うのですが……青年が本当にそのような力を持っていたとしたら──……」

今でさえ、貴重な浄化の力を持つ聖女は国に監視され、全て管理されている。
浄化の力だけを持つ聖女でこれなのだ。
様々な奇跡を起こせる力を持った青年は、国に報告をされたらどうなるのか。
あの青年の生い立ちを思い出して、ラティシアは眉を顰める。

もし、国に報告してしまえば即座に青年を保護しに来るだろう。

不思議な力を持つ聖女ですら、いつ現れるのかが分かっていない。
そして、その不思議な力を持つ者は聖女しか居ない、とこの国では長年そう伝えられて来ていたのだ。

「ああ、言いたい事は分かる……。分かるのだが、我が領で保護した青年の不可思議な力は我々の判断には負えない……国王陛下へご報告と、対応方法を仰ぐしかないだろう……」
「で、ですがお父様……」

フレディの言葉に反応したのは、以外にもフィミリアで、フィミリア自身何故かは分からないが、あの青年をこのまま国に引き渡しても良いものだろうか、と言う気持ちが溢れて来る。

「あの青年、は……そもそもこの国の方なのかどうかも不明です……。先ずは、あの青年が何処から逃走して来たのか……色々と調べてから陛下へご報告した方が……」
「──ハーツウィル子爵……。恐れながら私もフィミリアの言葉に賛成です」

フィミリアの言葉の後に、恐る恐ると言った様子でサーシャが唇を開く。

「青年が、何故この国の言葉を話せるのか……、そして青年のその奇跡の力はどれ程の種類を使う事が出来るのか……、そして我々の国に本当に害意が無いのか……。せめてこちらだけでも確認してから国王陛下へご報告をした方が宜しいかと……」
「そう、だな……。そうなのだが……聖女様の件をご報告するする際に一緒にご報告をした方が良いと思ってだな……」
「あら、それならばあなた。聖女様についての報告を返すまでに青年の事をある程度お調べしておけば良いのです。陛下から聖女様についてのご連絡が返って来るにはまだ時間がありますもの。その間に、あの青年についてはゆっくりと考えましょう……」

ラティシアの言葉に、フレディも小さく頷く。

青年について、どう対応したら良いものか。
フレディは自分の家族達と、騎士であるサーシャの意見も確認出来た事に何度か頷くと、フィミリアへとそっと視線を向ける。

フィミリアが、珍しくあの青年を庇っていたように思える。
あれだけの大怪我をしていたのだから、青年を気にして、気遣ってそう言ったのだろう、と想像は出来るが見知らぬ男性である青年が同じ屋根の下で生活をするという事に嫌悪感を抱かないか、フレディはそれが心配でもあった。

フィミリアや、ラティシアがすぐにでも青年を国王陛下へ引き渡した方が良い、と言えばフレディは勿論直ぐにそうするつもりではあったが、そうでは無かった。

フレディは、フィミリアやラティシアへと視線を向けた後腰掛けていたソファから立ち上がると唇を開く。

「では、青年は暫くこのまま療養していてもらおう……。今、この部屋で話した青年の能力については他言無用で頼む」
「かしこまりました」

フレディの言葉に、フィミリアを始め室内に居た全員が頷いた事を確認すると、フレディはラティシアを連れてフィミリアの部屋を出て行った。





フィミリアと、侍女のミア、騎士のサーシャは、先程の話を聞いた後に、気分転換の為に庭園に散策に来ていた。

庭園にはフィミリア達以外に人の姿は無く、フィミリアは庭園に咲いている花を見つめながら先程青年から貰った硝子細工のような花束を思い出していた。

「──あの花束……とても軽くて、綺麗で、でもとても丈夫そうで簡単に壊れてしまいそうにないの。どうやってご用意したのかしら、と思ったのだけど……」
「奇跡の力が使えるのであれば、その力でフィミリアお嬢様にお作りしたのかもしれませんね」

フィミリアの言葉の後に、ミアが小さく言葉を続ける。
フィミリア自身も、そうでは無いだろうかと考えてはいた。
奇跡の力を複数使用する事が出来るのであれば、あのような花束を作る事も造作もない事なのだろう。

フィミリアがそう考え、目の前にある花に手を伸ばした時。
フィミリア達が居る場所では無い方向から足音が聞こえて来た。
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